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「彼らは出会っていた」

 あれは2ヵ月程前のことだったか。魔人族との決戦に向けて修行を積んでいた頃。アレンや竜人族の戦士たちからそれぞれの流派の武術を習得した俺は、修行の仕上げとしてこの世界を周る旅をしていた。瘴気が充満している地底や無人の島・洞窟、モンストールが棲息している危険地帯など主に踏み込んではいけないところを転々と移りながら武者修行の旅をしていた。


 「む?お前は……?」

 「こんなところに人?それにその恰好……侍?」


 そんなある日、デルス大陸にある地下深くの洞窟にて、俺は袴衣装...昔の時代でよく見たであろう武士の格好をした男と遭遇した。武士みたいな服装に黒い髪、さらには肌の色もアジア人に近い。まるで日本人じゃねーか。


 「ここは人が容易に入れるような場所ではないんだがなぁ。お前、相当の手練れだな」

 「まあな。そういうあんたこそただ者じゃねーな。というか、武士の恰好だと?この世界で、俺たち異世界召喚された人間以外の奴が?」


 得体の知れないこの男に躊躇なく「鑑定」で見破った。すると―――


 「―――“ヤマタワタル”?日本名だと!?年齢...んだこりゃ。職業が侍...って、テメーまさか、俺と同じ日本から!?」


 謎の男のステータスは驚愕せざるを得ない内容だった。そして俺の言葉に今度はヤマタという男が驚愕した。


 「お前、俺の正体を...!?おいおいおい......マジかよ?」


 お互いあまりの衝撃の出来事にしばし呆然とする。やがて俺から口を開いた。


 「俺がテメーのステータスを見破ったのは、“鑑定”という固有技能のお陰だ。偽装してもこいつは全てを見破る。テメーにとっては予想外だったみたいだが」

 「なるほどな......まさかこんな形で俺の正体がバレるとは。世界にはそんな固有技能もあったのか…。まあいい、こうなったらお前には全て明かそう。まず俺の名前だが、文字はこうだ」


 腰に差してある刀―日本刀を抜いて壁に斬りかかる。そこには刀傷で書いた文字が刻まれてあった。


 ――八俣やまた わたる。それがこの男の本名だ。


 「俺がこの世界に来たのは、今から約110前といったところか。この大陸にあるラインハルツ王国の召喚魔術士たちによって呼び出された俺と、同じように召喚された仲間たちは、当時の魔人族たちとの戦争に身を投じた。当初の俺の見た目は今のお前と...救世団の彼らと近いくらいだった」

 「あの異世界召喚は今の俺たちのが第二世代だってのは知っている。テメー……あんたのような“初代”異世界召喚組は皆もう寿命で死んだと思ってたけど……まさかこうしてまだ生きてる奴と会うなんて。しかも見たところまだ齢40半ばの見た目じゃねーか。しかもその時の年齢だって、見た目と一致しない年だ。あんたはいったい...?」

 「……………そうか、お前も俺と同じ、日本から召喚された者だったか」


 この男は言わば俺や藤原、高園たちの「先輩」だ。テメー呼びもお前呼びも失礼だな。まあタメ口で話させてもらうけど。で、八俣の言葉通りだとするなら彼の年齢は少なくとも100歳を超えていることになる。だが目の前にいる彼の見た目は年不相応に若い。若過ぎる。

 なんせ彼の実年齢は170歳なのだ!特殊技能が関係しているというのなら納得がいく。ただしその固有技能については靄がかかっていて覗けない。


 「“肉体全盛期化” これが若い状態でいられている理由だ。当時の異世界召喚には召喚された者たちにそれぞれ“特典”が与えられることになっていた。俺の場合がこの特殊技能だ。召喚される直前の俺は病で床に臥していた死にかけの爺だったからありがたかったが」


 俺たちの時と違って八俣は死が近いジジイだった頃に異世界に召喚さたらしく、その際に若返り&病気完治という特典がついたということか。つーか、この手の展開って普通、俺たちみたいな学生か若い奴が召喚されるのがお約束だろうに、まさかのお爺ちゃんが異世界召喚されるとか、斬新過ぎるわ!!


 「ん...?というよりあんたのその武器って“日本刀”だよな?それを持ってこの世界に来たってのか?いったい何時代の人間なんだ...?」


 刀を見て気付いた。それは俺にしか造れない武器のはずだ。そういう固有技能があるなら納得いくが、まずそれはない。「武装化」系の技能はザイートのものだったからだ。奴以外であの技能を持つ生物はいないはずだ。その日本刀があるってことは、考えられるのは...こいつが元の世界から持ち込んだってことになる。

 さっきの切れ味からして、本物であることに違いない。そんなものを現代の世界に持ち込めば銃刀法何やらで職質確定だ。ならばこいつは俺が生きていた時代の人間じゃない...?


 「俺が元の世界…日の本で生きていた時代か?およそ...慶長10年だったか?戦がようやく一息ついて安らかに逝くかって時に、こんな世界に呼ばれたものだから、参ったよ当時は」


 慶長...徳川将軍の時代!?まじかよそんな大昔の時代の人間だったのかよ!?元の世界とこの世界の時間って平行じゃなかったのか?


 「全員、あんたと同じ時代から来た人間だったのか?」

 「いや、全員ほとんど別の時代から呼ばれたそうだ。俺の時代から数百年後から、逆にさらに昔の時代からも来た者もいた。時系列がバラバラだったらしい。当時の召喚魔術はどこか不完全なところがあったそうだったからな。今の時代…ちょうどお前たちが召喚された際は同じ時空・同じ時代から呼び出せるくらいに進歩していたみたいだが」


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