魔人族本拠地――
「クロックとリュドル………“序列”を持つ同胞が二人も死んだ、か」
「たかが人族相手に、彼ら二人とも……。正直侮っていました、100年以上前の時の連中と同じレベルだと考えない方が良いかと」
大部屋にてザイートがふんぞり返って呟く。そんな彼にベロニカが意見を述べる。
「クロックさんと、リュドルが殺された!?人族の連合国軍ごときにそんなことができることなど...!」
「リュドルはともかく、“序列4位”のクロックさんまで落とされるとは、あいつらに何があるっていうんだ?」
同部屋にはザイートとベロニカの他に「序列」持ちの魔人族が二人いる。二人とも信じられないという様子で声を震わせる。
黒のロングヘアの褐色肌の女性が「序列8位」アオザ、灰色の髪で同じく褐色肌
の男性が「序列9位」のリトムだ。二人は実の姉弟関係だ。
「クロックが向かったのはラインハルツ王国でした。そこの兵士団は大国の中でいちばんレベルが高いと評されていますが、それでもクロックにとっては取るに足らないものだったはず。あそこに何かがいると見て間違いないでしょう」
「考えられるとすればカイダコウガの奴が偶然そこにいた…だな。奴と同レベルの人族がまだいるとは考えにくい」
ザイートがぶっきらぼうに言う。続いてモニターに映っている一人の魔人族に声をかける。
「どうしたネルギガルド?不機嫌じゃねーか」
『どうしたもこうしたも……!あなたの命令を遂行できなかったし、話題のカイダコウガには虚仮にされたし、散々よ!』
「お前のところに奴が現れたのか?ジース、お前も確か奴に退けられたって聞いたが?」
『は、はい…。異世界からきたガキどものうち一人に止めを刺そうとしたところに目の前に突然現れて、進化していた私を圧倒してきました。私も命令を遂行出来ずに終わり、申し訳ございません!』
「その謝罪もう三度目だぞ。聞き飽きたからもういい」
もう一つのモニターに映っているジースが首を垂らして必死に謝罪するが、ザイートは雑にあしらう。
「で、お前のところには鬼族が突然現れたんだったな」
『ああ。奴らも皆殺しにしようと思ったが力を消耗し過ぎた。竜人族の戦士どもも百年前よりもさらに強くなっていた。奴らの力を計り間違えてしまったせいでサラマンドラ王国を滅ぼすには至らなかった』
三つ目のモニターに映っているヴェルドが悔しそうに返答するのを聞いてザイートはふむと思案する。
「カイダと鬼族の奴ら、色んなところへ瞬間移動する魔術か何かを持ってるってわけか。だからお前たちの侵攻がほとんど同じタイミングで止められたって話か。奴が短時間でお前たち全員に接触出来たのも納得がいく」
「ザイート様、これからいかがいたしましょうか?」
ベロニカが問いかけるとザイートはしばらく考えたのち、無感情に答える。
「ここにいない“序列”持ちの同胞ども、お前らはそこで引き続き休息をとってろ。ネルギガルドもその傷浅くはないだろう」
『ぬ………まあそうね。休ませてもらうわ』
『俺もまだ回復に時間を要する。従おう』
『承知しました………』
三人とも了解を示すと、ザイートは突然くつくつと笑い出す。
「カイダコウガばかりだと思っていたが、奴以外にも骨のある奴がいるやもしれない。クロックを殺したそいつ、ラインハルツ王国か。ならば明日は俺がそこへ行って遊んでやろう。今度はもっとこの力を振るえそうだ………!」
皇雅と同じレベルの力を持つ敵がいることを想像して愉快そうに笑うザイートを誰もが注目する。しばらくしたのちモニターとの通信が切れる。ベロニカは愉快そうに笑うザイートを愛おしそうに眺めていた。
「………鬼族どもめ。明日は俺が奴らの里へ攻め入って滅ぼしてやろうか」
通信を終えたヴェルドはアルマー大陸にある小さな村で体を休めている。その地にいた人間は全て彼に殺されてしまっており、誰も何も無い。
「しかし……父上はああも好戦的な性格だっただろうか?百年程前のあの人はどちらかと言えば戦いよりも研究を好む性格だったはずだが……」
先ほどまで話していたザイートについて思案する。百数年前…先代の魔人族族長のナンバー2として仕えていた頃のザイートは、戦いに対してさして興味が薄く、むしろ何かの研究に熱心な男だった。自身や同胞たちの強化、他の魔族の生体についてなど様々な分野の研究に常に没頭していた。
初代異世界召喚組に敗れて地底に追いやられた後、ザイートが現族長となりヴェルドたちを率いるようになったが、その当時も「機を待つ」と言って安易に地上へ出ようとはしなかった。
「………変わったのは、魔石を完全摂取した五十年程前だったか。いやもっと前か…?それにしても、今の父上は昔とはまるで、別人だ………」
「はぁ~~~~~。胴にもらったこの傷、思ったより深いわねぇ。ようやく血が止まったわ。進化していた状態でくらってたらもっと早く癒えていたのに」
オリバー大陸にある小さな町にて、ネルギガルドもヴェルドと同じく体を癒していた。この町も人も何もかもが滅んでいる。そのネルギガルドもまた、ザイートについて少し思案していた。
「そういえば先代の族長様が討たれるまでのザイート様…ザイートちゃんって、今のような性格じゃなかったはずよねぇ?百数年前の戦いで敗れて、どうにか生き残ったあたしたちを率いて地底で過ごすようになってから数年後、今のザイートちゃんになったかしら。今さらだけど、どうして突然人が変わったようになったのかしら…。
というより今のザイートちゃんって、あの方と似てるのよねぇ」
ネルギガルドはある人物を思い出す。
先代魔人族の長……名はバルガ。「魔神」の異名を持つ彼はネルギガルドですら畏れを抱く程だった。彼は生粋の戦闘好きで、常に誰かと…何かと戦い争うことを欲していた。いわゆる戦闘狂である。
「あたしも血や暴力は好きだけど、あの人には及ばないわね。でも今のザイートちゃんは、まるであの人の生き写しのような―――」
ヴェルドやネルギガルドが思案する中、本拠地にいるザイートは明日を待ち焦がれていた。
「明日はもっと暴れてやろうか。いずれにしろもうすぐこの世界を俺の理想のものにしてやる……!」
*
そして翌朝―――連合国軍も魔人族軍もそれぞれ準備を整える。
魔人族の本拠地の地上にある名も無き島にて、魔人族十数人と多くのモンストール……屍族が集っていた。
「今日はザイート様からの合図が出次第ここを発って各々の担当された大陸へ向かうとのこと。屍族どもは海を渡って同胞たちに追い付け。各大陸には魔物どもが控えている。合流次第一気に攻め込むことになってる」
隊長各の魔人族が仲間たちに説明する。それからザイートの合図を待っていた彼らだったが―――
「っ!?おい、空に何かいるぞ?」
「馬鹿な……我らの感知包囲網に触れることなくここまで来たというのか!?」
「おい、お前は何者だ!?」
魔人族たちが口々に叫ぶ中、空に現れた者………その「少年」は―――
「テメーらを滅ぼしにきた異世界ゾンビだ!!」
俺、甲斐田皇雅は大胆不敵に笑って叫び、魔人族の本拠地に奇襲を仕掛けた!!