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世界大戦編 中編

「話し合いの後のこと」

 時は大戦一日目の夜に遡る。連合国軍の主戦力たちを交えた会合を終えた後のこと―――


 「行っちゃった……」


 美羽は何も無い空間を寂しそうに見つめて呟いた。その場にはついさっきまで人がいた。彼女の(一応は)生徒である皇雅と鬼族のアレン…二人は今しがた特別なアイテムを使ってワープしたのだ。

 ついさっきまでこの部屋で美羽と3年7組の生徒6人とアレンで、少し話をしていたのだ。部屋に残っているのは美羽と彼女の生徒である縁佳と曽根と米田だけだ。


 「甲斐田君はもう一人じゃない…学校の時と違って、君の周りにはちゃんと仲間がいっぱいいる。だから私は心配なんてしないよ。君に考えがあるなら、その通りにして欲しい。甲斐田君のやり方で魔人族を倒して、みんなを守って欲しい」


 ここにいない皇雅に囁くように言うと縁佳たちの方に目を向ける。縁佳も寂しげな目で夜空を眺めていた。


 「甲斐田ってこんな時でも協調性が無いよね。我が強いっていうか。あそこまでいくともう筋金入りね」


 縁佳に寄り添うように曽根が近づいてそんなことを言う。不満ごとを言ってる割にはどこかおかしそうに笑って見える。曽根に皇雅に対する敵意はもう無いように見える。縁佳もそれに気づいてくすりと笑う。


 「学校の時とは違う協調性の無さだけど、悪いことじゃないと思う。私たちじゃ甲斐田君の足手まといになるだけだと思うから、これで良かったのかも」

 「…………」


 弱音を言う縁佳に曽根は何も言えなかった。同じことを思っているからだろう。


 「甲斐田の前では強がっちゃったけど、今日戦った黒い翼の魔人族とまた戦うことになったら、私大丈夫かなって考えずにはいられないよ……」

 「うん……でも今度は勝てるって何となく思うんだ。みんなで戦えばって思うと」

 「珍しいね、縁佳がそんな漠然としたことを言うなんて」


 曽根が苦笑すると縁佳も小さく笑う。二人の会話に美羽と米田も加わる。


 「でも縁佳ちゃんの言う通りね、今度は私もあなたたちと一緒に戦うから。ここにいるみんなが揃えば大丈夫!」


 先生である美羽は縁佳たちを安心させるよう強気に言う。縁佳たちから不安の色が消えてきた。


 「ところで縁佳、今回も甲斐田のこと名前で呼べなかったわね。魔人族退けてからあいつがワープする前だって、本人の前ですごく呼びたそうにしてたけど」

 「~~~っ、それは……!」


 唐突に指摘された縁佳は赤面してうろたえる。


 「すごく、難しそうにしてるよね。甲斐田君のこと名前で呼ぶことに」

 「小夜ちゃんまで…!う、うう……」

 「そっか……縁佳ちゃんなりに甲斐田君との距離を縮めようとしてたんだね」


 美羽は嬉しそうに言う。優しく微笑むと縁佳の背に手をあてる。


 「ちょっと勇気が要るかもしれないけど、呼んでみたら良いと思う。次会ったら頑張ってみて?今の甲斐田君は以前とは違う、みんなのことも仲間として見てるところがあると思うんだ。みんな気付いてるでしょ?甲斐田君が前と変わってたって」


 三人とも頷いて答える。彼女たちの脳裏には以前のような険が無くなった皇雅が浮かぶ。


 「ということで縁佳、いちおう応援してあげる!あんな奴だけど縁佳はずっと前からあいつのこと気になってたもんね」

 「美紀ちゃん……?」

 「縁佳ならきっと私みたいにはならないわ。だから頑張って!

 というわけで私もそろそろ休むわ。美羽先生、明日からよろしくお願いします。絶対勝ちましょうね!」


 縁佳を励ますように言う曽根は、何かを払拭したがってる様子だった。縁佳と米田が何か言う前に美羽に挨拶を済ませると曽根は部屋から出て行った。


 「私みたいに……?」


 美羽と米田は曽根の言葉がどういう意味なのか分からないでいる。ただ縁佳は曽根の気持ちを何となく察していた。


 (美紀ちゃん、あなたも皇雅君のこと、まだ…………)



 部屋を出てしばらく歩くと曽根が使用している個室に着く。そこに入って緩い服装に着替えるとベッドに倒れ込む。


 「……………」


 先程縁佳に言ったことを思い返して物思いに耽り始める。


 (私は、どうなんだろう?もう終わったつもりでいたのだけど…………)


 ――

 ―――

 ――――



 桜津高校に入学した時、つまりはまだ一年生だった頃。彼...甲斐田皇雅と同じクラスになり、彼と話し始めてすぐに、「この人、イイかも」...って彼に興味と好感を抱いた。

 顔もけっこう良いし、勉強できるみたいだし、何よりその運動神経の良さにときめいた。

 一年生ながら陸上部エースとして活躍していた甲斐田の評判は、学年ですぐ有名になった。私は授業中もソフトボール部の練習の合間も、彼の姿をちらちら見ていた。

 ある時は甲斐田が出るレースに観に行ったりもした。あの時は縁佳と一緒に行ったんだっけ。二人で彼が凄く速く(同学年だけのレースだと彼がダントツ一位だった)走ってるの観て興奮してたっけ。

 時が経つにつれて甲斐田に対する好感度はさらに上がり、教室ではけっこう一人でいる彼に積極的に会話しにも行った。ソフトボール部の私も速く走ることは重要だとかいう理由で、走ることの助言をもらったり、成績優秀でもあった彼から勉強も教えてもらったりと距離を縮めていった。

 そして秋が終わる頃、私は思い切って甲斐田に告白した。


 (好きです!前から“イイなぁ” と思ってて、それで甲斐田に近づいていっぱい話して、レースも観に行ったりして。それでもっと好きになって…。だから、今度からは一緒に遊びに行ったりとかで二人の時間もっとつくりたいなぁって思って!私の恋人になってくれない、かな!?)



 なんとか噛むことなく言いたいこと、想っていたことを本人に全て伝えた。


 (んー?俺実はさぁ――)


 私の告白に対して甲斐田は、自分の趣味を話してくれた。だがそれはよりにもよって私があまり好かない...美少女がたくさん登場する深夜のアニメや小説モノだった。彼は、私が苦手としているタイプの人間…二次作品にドハマりのオタクの男だったのだ。しかもかなりディープ(素人目線)なオタクときている。



 (そんな俺だけど、それでも恋人になってほしいってまだ言える?曽根が俺のことまだ「イイかも」てまだ思ってくれてるなら、その告白喜んで受諾するけど、どうなんだ?)

 (え……と、ぉ………)



 甲斐田のその言葉に、私はすぐに返せないでいた。その反応だけで私の気持ちを察した彼は、ごめんと言って去って行った…。

 私はああいうアニメやライトノベル?に深くハマっている系の男は、無理だと考えている。

 あの時まさかよりにもよって、甲斐田がそっち系の男であるだなんて思ってもなかった。当然彼の確認に、すぐにうんとは言えなかった。

 こうして私の告白は失敗に終わった…けれどこれで終わりにはならなかった。


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