特別な学科で入った私は、2年生からは卒業まで固定クラスになることに。縁佳とまたクラスになれたことに喜んでいたが、同時に気まずいなぁ…って気持ちにもなった。理由は単純、甲斐田もまた私たちと同じ学科だったため、また同じ...しかも卒業までずっと同じクラスになってしまった。
フラれた男(というか私がドタキャンしたみたいな?)と同じクラスになって平気でいられる程、私は強くなかった。告白する前の時みたいにまた会話なんてする気にはなれなかった。
だから私は今度は積極的に甲斐田を避けることにした。それからしばらくすると大西や安藤、須藤たちによって甲斐田はクラスから孤立するようになった。さらに彼に陰湿な嫌がらせ...イジメと言っていい行為も受けるようになった。
けどそれもすぐ終わった。甲斐田自身による制裁で大西たちに危害を加えた。それを堂丸や晴美を中心とした、甲斐田をよく思ってなかった人たちが咎めて、甲斐田はさらに孤立してクラスでの居場所を失っていった。縁佳はみんなと和解させようと甲斐田への説得を試みたけど、あろうことか彼はその縁佳の手を振り払ったのだ。優しい彼女の救済を、彼は無碍にしたのだ。
ほら、やっぱりだ。あんなオタクが好きそうなものばかりに傾倒している男なんかロクな性格していない。彼に対する想いは完全に醒めてしまい何とも思わなくなった。完全に孤立してクラスの居場所や味方を失っていく彼を、私はただ見ているだけだった。だけど大西たちと違って積極的に彼をハブる行為はしなかった。そんなことをしても自分の価値を下げるだけだって分かってたし。縁佳を悲しませたくもなかったし。
それから時間が進み、今年の夏になった頃に、私たちはこの世界に召喚された。甲斐田程のスペックならさぞ凄いステータスなんだろうなぁと思ってたら、その予想は外れ、クラス最下位のレベルのハズレ者とまで言われるくらい弱かった。その後大西たちにリンチされてるところを見ても、私は嗤うことも助けようとも思わずにただ見てるだけだった。ただの傍観者としてしか振舞わなかった。
最初の実戦訓練の最後に甲斐田だけが取り残されてモンストールと一緒に地底へ落ちていく時だって、私は自分が無事に逃げ切れたことに安堵しただけで、彼のことなんか頭に無かった。
でも……後になって申し訳ない気持ちにはなった。縁佳が悲しみ苦しんでいるのをずっと見てきたのだから。
それにオタク趣味だからといって甲斐田を軽蔑したことは間違いだったと、昔の自分を戒めたりもした。私にも、非はあったんだって……。
―――って思っていた時期もあったけど、甲斐田のことまた嫌いになったりもした!クラスメイトたちを見殺しにしたって本人が言ったのだから!
サント王国で彼と再会したこと(後に一度死んだってことに気付いた)に少し喜んだのも束の間、彼の口からクラスのみんなを助けないで見殺しにしたと聞いた。私たちよりも凄く強いのに、その力使ってみんなを助けようとしなかったのだ。
それを聞いた時は私も堂丸や晴美と同じ気持ちに駆られた。仲間たちをわざと死なせたのだから。でも甲斐田も私たちのことを赦さないって言ってた。私たちも彼のことを見捨てたのだから…。
その後も、せっかく再会したけど私たちと甲斐田との溝は深まるばかりで、もう分かり合えないって諦めていた。でも縁佳と美羽先生は諦めることなく、彼に近づいて和解を求めた。その頑張りのお陰で少しは関係が修復された。
あの時の私はまだ甲斐田のこと赦せてはなかったけど、魔人族から縁佳や美羽先生を守ってくれたことには感謝していた。それに縁佳と少しは仲良く出来てるところも見れて嬉しくも思った。
それから半年経った今日……甲斐田は私たちクラスのみんなも助けてくれた。サントで再会したばかりの頃のような刺々しさは抜けていて、私たちに向ける目にも敵意は無くなっていた。
はっきりとした仲直りはしてないけど、私も甲斐田との溝は少しは埋まったんじゃないかって思ってる。
クラスだけでの話し合いだって、何だか一年生の時と同じ関係に戻った気がした。晴美だけとはまだ軋轢があるけど、少なくとも以前よりは関係は良くなってると思う。
(なんか、よく分からなくなってきたなぁ。クラスメイトたちを見殺しにした事実は残ってるけど、それでも私も甲斐田とまた………)
曽根はしばらくモヤモヤしたままベッドに仰向けになっていた。
異世界召喚組の為に用意された泊まり部屋の一つ、美羽もまた何かを思っていた。
(甲斐田以外のクラス全員と一緒に明日は魔人族軍と戦う…。敵は今日よりも少なくなってると思うけど、主戦力の数はまだまだ残ってる…。“序列”持ちの魔人族と戦うことだって十分にあり得る。
やっぱり私のこの回復魔術が必要になってくる…。たとえ私の命を削ることになっても……やるしかない!みんなを死なせない為にも!)
別の部屋では縁佳が弓矢と狙撃銃の点検を行っていた。米田も同室していて寝るまで彼女の部屋にお邪魔するつもりだ。
「やっぱり、怖くなってきたな……。中西さんの気持ち、分かる気もする」
「うん…私も同じだよ。晴美さんの気持ちも正しいって思う。とても強い敵だったから。しかもその敵とまた戦うことになると思う……」
米田の呟きに縁佳も同意する。魔人族ジースのことを思い返すと今でも指先が震える。皇雅が来てくれなかったら彼女は今ここにいなかったと考えられる。
「でも、甲斐田く……皇雅君も必死なんだと思う。元の世界に帰りたいって強く想ってるって改めて分かった。だから私も皇雅君と同じくらい必死に戦おうって思う」
指先の震えを止めると目に希望の火を灯す。縁佳の意思にふれた米田はどこか尊敬する目で見ていた。
「それと……私は皇雅君のこと心配にも思ってる」
「心配?あんなにも強い甲斐田君が?」
「うん、強いからこそ心配なの。皇雅君にとって頼れる人があまりいないんじゃないかって」
皇雅にはアレンを含む鬼族がいてそれなりに仲間がいるということは分かっているしかしそれでも仲間の数は自分たちと比べて少ない。頼る数が少ない。
(それ以前に、皇雅君は誰かに頼ったりするのかな?とても強いから頼る必要が無いって考えていたとしたら………)
縁佳は再び皇雅のことを気に掛けるのだった。
*
夜が更けて、明けて日が昇る。夜戦は一切無く、夜の見張りをしていた兵たちは次の戦いに備えて眠りにつく。それと同時に十分に休みを摂った兵士たちが大戦の準備を始めていく。クラスメイトたちや美羽、クィンもその中にいた。
兵士団が全員集まり、今日の布陣を伝えようとしたミーシャが、異変に気付いた。
「………!水晶玉が、何かを感知している?」
銀色の水晶玉が赤く点滅している。ミーシャは今も数々の水晶玉を遠くに飛ばすことで魔人族軍の動向を見張っている。その内の一つが異様な魔力の波長を感じ取ったのだ。
「………!!す、凄い魔力!魔人族……それも“序列”級のもの、いえそれ以上!?」
思わず声を上げるミーシャに兵士たちもざわめく。
「この強過ぎる魔力……覚えが――――っ!この魔力は、コウガさんの……!?」
ミーシャの言葉に美羽と縁佳とクィンもミーシャに注目する。その数秒後、遠方の監視・感知班の数名が速報を飛ばす。
『ベーサ大陸とアルマー大陸の間に位置する小さな島付近で、大規模な水魔法を確認!島一つを簡単に滅ぼす力……!大規模な戦いを確認!』
銀色の水晶玉がさらに赤く輝く。強い魔力を感知するほど輝きを増すその水晶玉を見るに、魔力を発生させている何かはとても強大な存在であることが分かる。そしてその正体が皇雅であることを、ミーシャは確信した。
「現地の映像をどうにか………これは、島に魔人族が!それもかなりの数……!」
ミーシャの解説を聞いた誰もが緊張していく。これから戦う魔人族が大勢いると聞いたから当然だ。
「複数の魔人族に対して攻撃している……?それをやっているのがコウガさんってことは………」
ミーシャの解説からクィンは何かを推測する。そしてすぐに驚愕の事態が起きていることに気付いて声に出してしまう。
「まさか………コウガさんは今、単独で魔人族の本拠地に強襲している!?」
「「………!!」」
クィンが気付いたことをそのまま言うと美羽と縁佳は激しく動揺する。
「そんな………皇雅君、たった一人で魔人族と……!?」
「甲斐田君、まさか君は………」
二人とも皇雅の身を案じていた。