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「異世界ゾンビ 参戦」

 鬼族の仮里では、里にいる全鬼戦士が魔人族軍との迎撃戦の準備をしていた。昨日と同じ、里の周りを強力な大地魔法による要塞を思わせる壁と柵で囲んみ、敵による中への侵入を完全に防いでいる。里から離れたところには砦がいくつもそばだっており、前衛・中衛の役目を務める戦士たちが既に待機している。


 「今日も絶対に里を守って、モンストールも魔人族も殲滅させてやる」

 「ああ。コウガがいなくても俺たちだけで敵を返り討ちに、いや全員ぶっ殺す!」

 「というかその敵の大半を、コウガが今一人で相手しているんだよね」

 「いくらコウガでも、今回ばかりは心配なんだけど…」

 「そうね、アレンとカミラも同じ気持ちだと思う。でも………」


 旅の仲間だった鬼戦士たちは敵を全て殲滅せんと意気込む者、皇雅の身を案じる者は半々だった。そんな中、スーロンが心配ないと強気に笑ってみせる。


 「アレンもカミラもコウガを信じてるって言ってた。だったら私たちもアレンと、アレンが信じると言ったコウガを信じましょう!」


 スーロンの言葉に皆が笑顔で同意した。


 「……………感じるわ。ここから遠いところから、とてつもない魔力が動いてる」

 「じゃあ、コウガはもう始めてるんだ。魔人族の本拠地への攻撃を」


 後衛……里の内部での防衛を務めているアレンは、ルマンドが感知した内容を聞いてそう判断する。


 「正直私は今も不安に思ってます。残る魔人族の中には竜人族を滅亡寸前まで追い込んだ者、ダンクさんを殺害した者、まだ見ぬ“序列”級の魔人族、そして族長のザイート……どれも世界を滅ぼし得る化け物がばかりです。そんなのが同じ場所に集っているとなると、さすがのコウガでも簡単には……」


 カミラは憂いを湛えた目で皇雅の心配を告白する。しかし次の瞬間には憂いの感情を払拭させる。


 「ですが、アレンとルマンドが信じて見送ったのですから、私も信じようと思います。戦士である身のあなたたちなら私とは違う気付きがあるんだと思います。私はその気付きを信じてみようと思います!コウガはきっと大丈夫。理屈とか軍略とか関係無く、私は私の気持ちのままにコウガを信じたいです!」


 カミラの決意にアレンとルマンドは嬉しそうに微笑む。


 「うん、理屈とかじゃなくて、コウガは大丈夫だって信じる。そしてコウガは私たちのことも信じてくれてる。私たちだけでも魔人族軍からこの里を守りきれるって」

 「コウガも私たちの為に一人で戦いに行ってる。だから私たちも同じ。コウガの信頼に応える為に私たちもここで戦う」


 二人とも皇雅を信じると決意する。皇雅の為にもここで魔人族と戦って勝利することを誓っている。


 (私はコウガが好き。とてもすごく好き……!コウガなら誰が相手だろうと勝ってみせる、そう信じられる。私はこの気持ちのままにコウガを信じ切る。だからみんなでコウガを見送った。そしてコウガもこの里を守ってくれって言った。私たちはその約束を絶対に守る!そしてまた会って笑い合って、一緒に……!)


最後のところでアレンは頬をピンク色に染めて少し身じろぎする。そんなアレンの意を察したルマンドとカミラは微笑ましく見ていた。そしてしばらくしてから全員の目の色が戦士のそれへと変えた。


 「来い魔人族軍!そして復讐も忘れない、必ず討ってみせる!!」



                *


 時間は戻って、朝時刻―――


 場所は大海にポツンと存在する名も無い小さな島。おそらくアルマー大陸とベーサ大陸を挟んだ海域に、俺は今いる。この海域で血眼になって捜索した結果、ついにお目当ての場所へと辿り着いた。 


 魔人族の本拠地にな……!


 「っ!?おい、空に何かいるぞ?」

 「馬鹿な……我らの感知包囲網に触れることなくここまで来たというのか!?」

 「おい、お前は何者だ!?」


 島にいる魔人族の数人が空中にいる俺に気付いて敵意を向けてくる。奴らの数は10……いや15、それくらいか。さらにはモンストールも陸・空・海合わせて万の規模はある。おそらくこれから移動して途中で各大陸に別れていく……って流れだったのか。

 さて、俺が何者かって話だけど……



 「テメーらを滅ぼしにきた異世界ゾンビだ!!」


 俺は凄絶な笑みを浮かべて大声で答えてやる。その直後に右手から水属性の魔力、左手から大地属性の魔力を全開で熾す。


 「さすがに数が多過ぎる。だからここは始めに、大規模大量殺戮攻撃を撃たせてもらうぜ」


 水と大地二つに重力属性も混ぜ合わせた複合魔法を放つ。直後、島が、俺たちがいる海域が激しく震えだす。


 “超激震マグニチュード


 まずは辺りに大地震を起こす。陸地と海にいた魔人族とモンストールどもに甚大なエネルギー攻撃と揺れと震動の衝撃が襲い掛かる。これだけでも千くらいの敵の討伐に成功する。魔人族はまだ一人も死んでいないがもちろんこれで終わりになどさせない。

 大地震が起こっている中、水魔法を解放して海にある水を意のままに操る。やがて大地震の影響によって海底が大きく持ち上がる。その動きは元の世界のとは比べ物にならない。それによって海面にも異変が生じる。大きな波がどんどん形成されていく。

 島の陸地では「地震」が発生するが、海の場合それは「海震」に変わる。

 こんなところで大地震が起こったら何が起こるのか。答えは簡単だ―――


 「「「「「………………っっ!?!?」」」」」


 数秒後、魔人族がいる小さな島の両側から、巨大な大波が襲い掛かる。大波の大きさは空を覆う規模。大陸と海、そして空をも飲み込む大波の悪魔が現れた。


 “津波ツナミ


 現代世界で多くの人・生物を脅かした大災害の一つ、「津波」をこの大海で発生させた。大波には俺の水属性の魔力が付与されている。水の巨壁が無慈悲に敵を海と島ごとを飲み込む。空にいるモンストールどもも例外なく大波に飲まれて姿を消す。


 ドドドドドドドドドドドド………………ッッッ


 大滝による瀑布を幾条にも重ねたような爆音が数十秒にわたって響き渡る。音が止むと同時に大波の侵食にも終わりが訪れる。

 視界が晴れた先に見えた景色は、海面に浮かぶ数千もの屍だった。体が引き裂かれて無惨な死体がいくつもある。モンストールは全滅していて、魔人族も数人死んでいた。そして島だったそこはもはや島とは呼べるものではなくなり、真っ平な陸が広がっているだけだった。


 「う……おぉ…!」

 「ま、さか………こん、な……っ」


 陸地には魔人族の生き残りが数人いる。最初と比べて半分程度残っている。

 すかさずに、さらなる大規模大量殺戮攻撃を仕掛けた!


 “悪食あくじき


 「過剰略奪オーバードーズ」に暗黒魔法を掛け合わせたオリジナル技。化け物の顔した闇色の触手が無数に発生して、「津波」から生き残った魔人族全員に襲い掛かる。


 「ぎゃ、あ”あ”あ”!?」

 「クソ、なんだこれはあああああ…………」

 「があああ”あ”あ”あ”あ”!!」


 「限定進化」していようが関係無い。全てを喰らいつくして経験値と命をも奪う、俺だけが使える大技だ。


 「馬鹿、な……!あれだけいた同胞を、一瞬で……!?そもそもお前はどうやって、魔人族のホームを―――」


 ズバン!


 「悪食」からも生き残ったリーダーっぽい魔人族の首を日本刀で刎ねて殺害、死体を燃やし尽くした。


 「前座にもならないテメーらに時間を使うつもりは無い。これで終わりだ」


 無慈悲に告げる一方でここにどうやって辿り着いたかについて少し思い返す。

 昨日滅亡したイード王国にて拾ったザイートの魔力の残滓を拾った。それを利用して奴らの動きを逆探知してやった。

 半年間の修行の末に固有技能「気配感知」に「追跡」が追加されたことで、特定の人物の細かな移動の軌跡を明らかにできるようになり、特定の人物・生物が住んでいる場所も明らかにすることができるようになったのだ。

 この能力があれば魔人族どもの本拠地が分かると確信した俺は昨日の夜にザイートの魔力の残滓からその日のうちの奴の移動履歴を探ってみた。その結果、奴がこの辺りから出てきたという答えを導き出したのだ。


 「ふーん、この辺りには魔人族どもの気配や魔力、戦気を遮断する結界が張られてたのか。だからこの百数年間、誰も魔人族の本拠地の在り処に辿り着けなかったんだな。奴らより強い魔力をもった上で感知魔術を使わないと追跡できない。俺だからここに辿り着くことができた」


 若干の自画自賛を呟きながらこの島に大きな穴を空ける。それこそこの地の底まで通ずる程の深く大きな穴を。これで魔人族の本拠地への道ができた。あとはこの先へ落ちるだけ……!


 「さぁ、今度は俺が侵攻する番だ。魔人族全員ぶっ殺してやる!!」

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