皇雅が訪れた名も無き島の地底にある魔人族本拠地。この場にいる魔人族全員が地上の異変を感じ取っていた。
「何なの……?途轍もない魔力を含んだ魔法攻撃が放たれたのを感じた。同胞たちではない。全く違う色の魔力だったわ」
この場にいる魔人族を統率しているのは「序列3位」のベロニカだ。族長であるザイートは朝になるとホームを出て地上へと発った。理由は「序列4位」クロックを討伐した強者と戦う為、だ。彼が不在の中、本拠地内では現在ベロニカが全ての権限を握っている。
「アオザ、リトム。予定より早く進めるわ。地上の異変の確認、そしてサント王国への侵攻。同胞たちの戦気が感じられなくなったのもおかしいわね」
ベロニカの近くに控えている二人の魔人族……「序列8位」のアオザと「序列9位」のリトムに指示を飛ばすと、二人は了解と応えて頷く。
「第二波としてお前たちに屍族を率いさせてまずはベーサ大陸を完全に滅ぼして支配する。そこから北のアルマー大陸、さらには東のオリバー大陸へと軍を進めて順に潰す。南のデルス大陸にはザイート様が向かわれているから放っておいて構わない。今日で人族も魔族も全て滅亡させる。ザイート様が敵との戦いを愉しんでおられる間に私たちがこの世界を魔人族のものにさせておく。そうすればザイート様はきっと喜んでくれる……!」
彼女自身にとっては神として崇めているザイート様を想いながら今日の動向を呟くベロニカに、アオザとリトムは微かに汗を垂らす。しかしベロニカの策略は合理的なものでもあった。昨日の大戦では両軍とも消耗している。しかし総合的な戦力としては魔人族軍の方がまだ優勢であると見抜いている。「序列」持ちの魔人族とまともに戦える人族の兵士や冒険者がごく僅かしかいないこともベロニカは気付いていた。
他の魔族も同じで、竜人族も亜人族も主戦力が多く欠いてしまっていることは昨日のヴェルドとネルギガルドによる活躍で知っている。唯一鬼族の動向だけが不明瞭ではあるものの、どちらにしろ今が進軍させる好機と見ている。
数分後、出陣の準備を終えたアオザとリトムは開けた地帯へ移動する。そこには計1000はいる
「さて、まずは地上の異変を確かめに―――」
アオザがそう呟いた瞬間、
“
どこからともなく背筋が凍るような声が響いた、そう二人は感じ取った直後、咄嗟に「魔力防障壁」を展開した―――
*
下へ下へと落ちていき、やがて瘴気が漂う地底へと着く。この瘴気がある以上モンストールはもちろん、魔人族もいることは確実だ。しかもその濃度が今まで訪れた地底と比べると段違いだ。間違いなくここには強大な力を持つ敵が大勢いやがる。
「………………あそこに、複数の気配がいる」
「気配感知」に導かれるままに進むと案の定「それ」は見つかった。無数のモンストールに、魔人族が二人。黒のロングヘアの褐色肌の女と灰色の髪で同じく褐色肌の男。あいつらは地上にいた奴らとは違う。おそらく「序列」級だ。
「まあいい。まずはさっきと同じ、大規模大量殺戮の攻撃で雑魚どもを殲滅する―――」
敵勢力がいる場を見据えると地面に両手をついて、今度は最強の毒を含んだ大波を発生させて、全ての敵を飲み込み毒に冒させる。
「な、何―――!?」
「く、全員防御しろォ!!」
「序列」級らしき魔人族二人が咄嗟に「魔力防障壁」を展開して防御態勢に入ったが、モンストールどもは対応しきれず、
「「「「「―――ガギャアァ!!?」」」」」
一匹残らず「王毒」の大波に飲まれていった。
―――
――――
―――――
約10秒にわたって「王毒」の大波が侵食するが突然弾けて消える。それをやったのは当然「序列」級の魔人族二人だった。見ればあの二人以外のモンストール全てが毒に溶かされたり全身の血が抜けていたり色が変色していたりと、見るも無惨な死骸へと果てていた。
「は.........は?」
「1000はいたはずの屍族が一瞬で......全て死んだ、ですって!?」
突然過ぎる事態だったのか、二人とも頭がまともに働かず理解が追いつかない様子だ。
「何事……………こ、これは!?」
そこに魔人族がもう一人現れる。セミショートの紫色髪で、あの二人よりは薄い褐色の肌、碧眼で黒い眼窩のグラマーな女だ。そして彼女からも「序列」級の気配がする。
目ざとく俺を見つけた紫色髪の魔人族は驚愕に目を見開いた。
「お、前は、まさか……半屍族のイレギュラー……!?」
俺を見てそんな呼び方をしてくる。魔人族間では俺のことをそう呼んでるのか。まあいい、とりあえずは自己紹介の必要は無いみたいだけど、一応名乗ってやろう。
「お邪魔しまーす、魔人族の皆さん。甲斐田皇雅、異世界召喚された人間(?)だ!」
不敵に笑いながら名乗ると三人の魔人族が一斉に警戒して戦闘態勢に入る。
「カイ、ダ……………やっぱりそう、お前がザイート様が警戒しておられる半屍族のイレギュラー……!」
紫色髪の魔人族が微かに汗を滲ませて話しかけてくる。
「半屍族ね……俺はそれを“ゾンビ”って呼んでるんだけどな。えーと……ベロニカっていうのかテメーは」
「………!」
名前を当てられた様子のベロニカは微かに動揺する。その一方で彼女のステータスを「鑑定」してみる。
ベロニカ 123才 魔人族 レベル475
職業 呪術師
体力 6023000
攻撃 800300
防御 3780000
魔力 9590000
魔防 8101000
速さ 5090000
固有技能 超能力 召喚魔術 幻術レベル5(MAX) 全属性魔法レベルⅩ
魔力光線全属性使用可 魔力防障壁 瞬神速 気配感知(+追跡) 瘴気耐性
夜目 限定進化
能力値はほぼ全てが数百万、魔力に至っては昨日遭遇した「序列」の奴らよりもずっと高い。藤原やルマンドと同じ、魔法攻撃に特化した魔人族らしい。あと「超能力」……これも少し気になるな。
残りの二人は……ああ、特筆すべきところは無し。実力はサント王国で戦った女……ジースとかいった奴よりもだいぶ下だし、変わった特殊技能も無いし。
「ベロニカさんとやら。テメーと同じかそれ以上に強い魔人族はもういないのか?それこそテメーらの親玉であるあいつはよぉ。というか俺がここに来たのはあの野郎に用があって―――」
「あの野郎、ですって……?お前如きがザイート様をそんなふうに呼ぶな……!」
俺の言葉を遮ったベロニカが怒りの表情を見せる。
「人族から外れて、そのくせ屍族にも分類されず、私たちと同類ですらもない、何にも属されない“
「―――――」
無言で突っ立つ中ベロニカは指を鳴らす。その直後両側の崖の上から複数の魔人族が現れる。全員地上にいた連中と同程度、魔人族の中の下っ端ってところか。
“重力暗黒魔法”
俺の足が地面に縫い付けられたかのように縛られる。ベロニカが俺自身と俺の足場周りに超強力な重力をかけたのだ。加えて闇属性の魔力を混ぜて俺の体力と魔力も同時に減少させている。普通の兵士とかだったらこれだけでゲームオーバーだったろうな。
「地上にいた同胞たちを消したのはお前の仕業だったようね。実力は連合国軍のどの主戦力よりもずっと上……油断はしてられないわね。
私の魔法攻撃で拘束している間に、やってしまいなさい」
ベロニカの言葉を受けた複数の魔人族が一斉に俺目がけて飛び降りる。
「半端者が……魔人族より劣等な種族が粋がるな!」
「魔人族のホームにたった一人で乗り込んでくるとはとんだ自殺願望だな!」
口々に罵りながら武器や魔法攻撃を放って攻撃してくる。そんな中俺にとっては非常にゆったりとした時間を過ごさせてもらった。「複眼」で動体視力を馬鹿みたいに発達させた俺の目は全てを見通す。
(脳のリミッター2000%解除)
ベロニカの魔法攻撃で体が動かせないと思い込んでいる魔人族どもは慢心した様子で襲い掛かってくる。そんな間抜けどもに俺は若干の怒りを灯した目を向けた。
「 あくびが出るなぁ?温いんだよ 雑魚ども 」
―――
――――
―――――
バラバラになったのは俺の体ではなく、複数いた魔人族全員の体だった。
「は……?」
「え……?」
「な……?」
襲ってきた魔人族全員を殺した先には三人の呆けた顔があった。ベロニカも残りの二人も何が起きたのかが分からないといった様子だ。
「うぎゃあああああ!?」
「な、んだどおおおおお!?」
「ど、どうなっでぇええ……っ」
バラバラにしたくらいじゃまだ死なない魔人族どもは激痛に苦しんでいる。こいつらが言いたいこと、当ててやろう。「どうやって拘束を解いた」「マジでいったい何をしたのか」「“限定進化”まで発動した俺たちがこんな一瞬で、あり得ない」……ってところかな。
残念ながらテメーらが一回限りの進化でどれだけ強くなろうが、「脳のリミッター解除」で無限に強くなれる俺の足元にも及ばない。というかリミッターを外さなくても今のは楽勝だった。ただ…ちょおっとばかりキレていたからつい力を解放してしまった。
未だに苦しんでいる雑魚の魔人族どもに無慈悲に止めを刺して全滅させる。そして三人…特にベロニカに殺意を込めた視線を飛ばす。
「 誰が、ハズレ者だって? 」