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「ククククク…!まぁ余興にしては楽しめた方か。人族のたくさんの悲鳴と絶叫、血と死を見ることが出来た。兵士団長とやらが無様に敗北した様を見せつけられた民どもの絶望した面もケッサクだった…!」
回想を終えたザイートはまた愉快そうに笑う。そうしているうちにラインハルツ王国付近に着地する。陸地に立ったところでわざと戦気と魔力、そして瘴気を思い切り噴き出して存在感を引き出す。
その数分後にザイートを連合国軍が取り囲んだ。その中心にラインハルツの兵士団長ラインハート改め、八俣倭(日本人)もいた。
「一目見ただけで分かった。そこの黒髪のお前が同胞を討った兵士だな?」
「やれやれ、まさか魔人族のトップが出向いてくるとは…。それとどの魔人族のことを言ってるのか分からないが、昨日ここに来た魔人族は俺が全員斬ってやったぞ、ザイート」
「んん?お前、は……………………そうか、そういうことだったのか!
クククハハハハハ!!まさか百年以上前に我らを滅ぼしたあの忌々しい異世界人がいたなんて!お前の顔もよぉく憶えているぞ!!」
ザイートは倭を目にした途端全てを理解した。そして強敵と会えた嬉しさとも、かつて自分たちを滅亡寸前まで追い込んだ怨敵に対する憎しみともつかないような哄笑を上げた。
「クロックが殺されたのも納得がいった。あの時よりもさらに力をつけたようだなァ?これは愉しめそうだ……!」
「お前みたいな奴をも殺す為につけた力だ。そしてそれは間違いじゃなかった。お前は俺がここで終わらせる!!」
そしてザイートと倭による一騎打ちが始まった。連合国軍の誰もが二人の戦いに手を出せずにいた。マリスも固唾を呑むばかりで一歩も動くことが出来ないでいた。
「はぁ……はぁ………っ」
「グァハハハハハ……!」
倭が切り札である「限定超強化」を発動して本気を出す。それを見たザイートも本気でいこうと「限定進化」を発動しようとした、
その時だった――――
「ん?.........おいおい、マジかよ」
「……?」
ザイートは力を突然霧散させて別の方に意識を集中させた。倭は油断なく剣を構えて警戒している。
「……………悪い癖が出ちまった。俺のホームからこんな濃密な戦気が感じ取れてることにも気付かないで戦ってた。しかも同胞の戦気が大勢消失しているだと?
この戦気………ああそうか、奴が入り込んでるのかァ…!」
独り言を終えるとザイートは倭に背を向けた。その態度にさしもの倭も戸惑いを見せる。
「悪いなァ、お前とはまた今度だ。我がホームに異物が紛れ込んでやがる。それも、俺がずっと殺したいと思っているメインの対戦相手がな…!命拾いしたな、またいずれ―――」
それだけ言い残すとザイートはラインハルツ領域を、デルス大陸を発った。
「ったく、何がまた今度だ。出来れば二度とご免だ、あんな化け物」
強化状態を解除した直後、倭は息を荒げてその場に座り込んだ。その彼をマリスたちが心配そうに介抱する。
「奴が俺との戦いを放棄してまで別件を優先した理由………おそらく甲斐田の奴だな。そういえばあいつは今単独で魔人族の本拠地に強襲を仕掛けたんだってな。ぶっ飛んだ奴だ」
疲れた様子の倭だがどこか面白そうに笑う。そして空を見上げて皇雅に言葉をかける。
(悪い、あの化け物をどうにか出来るのはお前だけだ。この世界の為に、ザイートを討ってくれ…!)
「――土足で人ん家に上がり込んでんじゃねーぞ!!ベロニカを殺させはしねー。それ以上の好き勝手は許さん、待ってろぉ!
カイダコウガぁ!!」
*
「何なのこの男は……!?屍族として蘇った駒たちの一人一人の戦力が、最上級の屍族や魔物と同等、いえそれ以上なのよ!?」
場所は再び魔人族の本拠地……ベロニカの個室。
大量のモニターがある部屋、床に幾何学模様が何重にも巻かれた術式に手をついたまま、ベロニカは冷や汗を流しながらモニターに映っている亜空間の中の様子を見ていた。オリジナルの召喚魔術で呼び出した駒たちによって蹂躙されてズタボロになって無様に這いつくばる皇雅の姿を、始めはそう予想していた。
だが現実はその予想が大きく覆された。蹂躙されているのはその逆…召喚兵たちであり、皇雅の規格外の武術・魔法攻撃によって何度も殺されていく様を見て、ベロニカは大いに戦慄する。
しかし召喚兵たちが殺される度に憎悪と戦力が増すようになっている以上、いずれはこちら側に勝機が訪れることだろうと高を括り、召喚魔術の質をさらに上げる。
「私自身も余力はたっぷり残っている。焦ることはない...いずれ精神をすり減らしきって憔悴しきった彼を無力化させるのは容易なのよ…!」
そのはずだ、と自身に言い聞かせて召喚魔術に集中する。
(けど何なの、この凄く嫌な感じは?払拭できない…何か、マズい予感が……)
ベロニカが抱く漠然とした悪い予感は、その約十分後…皇雅が全ての屍兵を10回以上ずつ殺したあたりで的中することになる―――