何だか、以前の自分に戻った気がする―――
今目の前にいる敵全ては、俺が嫌悪してやまなかった、死んでほしいとも思ったことがあるような奴らだった。
そいつらと戦っているうちに(実際は俺の一方的な蹂躙だが)、半年前の自分が戻ってきたようだった。あの、殺伐とした人格がまた戻ってきたのだ。今以上に他人を嫌い、敵としか見られない。そんな自分に戻ってきたのだ…!
他人は皆敵……全員が俺を攻撃・排除しようとする敵なんだと、思い込んでいる自分。
去年の…学校で起きた俺がクラスで完全に孤立するきっかけとなった事件と同じ、あれと同じ様に俺は他人には攻撃されるんだって思い込んでいる。
今も同じだ、目に映る奴らは他人…敵だ。しかも全員明確な敵意と憎悪、殺意も向けてきている。
俺はこいつらに理不尽をはたらいたことも悪いこともしなかったのに、俺だけがこうして攻撃されようとしている。排除されようとしている。殺されようとしている。
自分たちが死んだのは…あんな化け物どもに殺されたのは他でもない自分たちのせいだというのに……。自分たちの失態と怠慢を全て棚に上げて、全部俺のせいだと理不尽な非難をしてきやがる……。
そんな奴らと相対した俺の中から、躊躇いも良心も消えたのだった―――
「「「「「死ね甲斐田ああああああああああ!!!」」」」」
ひとまず闘技場内にいる元クラスメイトどもとドラグニアの王族ども、サントの冒険者どもとハーベスタンの貴族どもを全員返り討ちにしたが、最初と同じく全員変わらず元気よく俺を殺そうとかかってくる。
「おい、元クラスメイトども。テメーらにはまだ言ってなかったな、改めて言ってやるよ。
テメーらがモンストールどもに殺されたのは全部テメーら自身の責任だ!」
かつて高園たちに言い放った言葉を、こいつらにも聞かせてやる。その間にもきっちり返り討ちにしていく。
魔力の刃が混じった竜巻に大西を放り投げてズタズタにする。
「ぎぱがあああああああああああ!!!」
「テメーらが血の滲むような鍛錬をやっていればモンストール如きに殺されることなんてなかったはずだ。異世界召喚の恩恵をもらってたんだからな。Sランクの敵だろうとテメーらだったら本当は勝てたはずだったんだ」
片上を重力で縛り付けて日本刀で首と胴体を分断させる。
「いだあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!てめえ”え”え”え”え”え”!!!」
「なのにテメーらは無様に敗れて殺された。どうせテメーらは平凡レベルの鍛錬すらちゃんとやってなかったんだろ?異世界召喚の恩恵にすっかり浮かれて努力することを放棄したんだろ?」
安藤が魔法攻撃と「魔力光線」をやたら撃ってくるがその全てを反射させて自爆させる。
「いゃああああああ!?どうして効かないのよおぉおおお…!!」
「そんなだったからあの時テメーらには惨たらしい死という最悪の結末が訪れたんだ!テメーら自身がそうさせたんだ!」
カドゥラ元国王に対しては暗黒魔法による精神汚染攻撃を仕掛けた。テメーの国は滅んだだの、生き残った国民たちはテメーのことを恨んでいると、中にはもう忘れていることなど、こいつが最も嫌がる言葉を脳に刻み込んでから、首の骨を砕いて殺した。
「そんなはずない......そんなはずはない!!でたらめ―を”......ば...」
「こ、のおおおお―――ガッッ っひ……っ」
たまたま近くにいた陰湿女の鈴木がナイフを持って殺そうとしてきたので後頭部を掴んで、即席でつくった強酸の水溜まりに叩きつけて押し付けて沈める。
「がごぼげろどろぼぼっぼおぼぼごぼぼげらおぎょぼ......!!」
その間攻撃してきた早川や柿本を重力で潰して炎と雷で丸焦げにしてからバラバラに細かく斬り裂いた。
「「熱い痛い熱い痛い熱い痛い痛い痛い痛いいだい”いだい”いだい”......!!」」
「あの日モンストールどもに殺された主な原因は、テメーらの普段の怠惰な日々のせいだ!テメーら自身で切り抜けるべきだった修羅場をテメーら自身で潰しただけだろうが!」
ハーベスタンでちょっかいかけてきた豚体型の貴族冒険者の体の部位を「魔力弾」で一つ一つ撃ち抜き、最後は頭を吹き飛ばした。
「テメーは関係ねーんだよ、すっこんでろクソ雑魚」
「ぶぎょお”お”お”お”お”!!!ぐ、ぞがあああ―――っぺべ………」
大声上げて突進してきた須藤をカウンターで顔面を潰してから、がら空きになった背中に剣を何本も突き刺して絶命させた。
「ごっっぷぅ……クソ、がぁ……!」
「それをテメーらは揃いもそろって……俺が助けなかった?見殺しにしたせい?馬鹿馬鹿しい!俺みたいに死んでからぶっ飛んだ恩恵を得た後でもなぁ、俺は日々鍛錬してたぞ?だからSランクモンストールの群れだろうが魔人族だろうが獣人族だろうが全部に勝利して生き残ってきた。自分に責任をもって行動したからこうしていられてんだよ。
分かるか?全部テメーら自業自得で殺されたんだよ馬鹿どもが!テメーらの自己責任だ!!」
数瞬の沈黙。しかし返ってくる言葉は……
「「うるせぇエエエエエエ!!」」
「「責任とか知るかぁアアアアア!!」」
「「助けにこなかった甲斐田が悪いだろうがよぉオオオオオオ!!」」
俺が悪い、責任転嫁ばかりの汚いものばかりだった。
「はぁ……死んで脳まで腐ったか。もういいや。言って分かるような連中じゃねーって元々分かってたし」
俺の脳が、感情が氷点下まで下がっていく気がした。ここからはただこいつらを殺すことに徹してやる。
―――
――――
―――――
全員それなりに過激なやり方で殺したのだが、折れるどころか怒りや憎しみをさらに増大させて蘇ってくる。そして馬鹿の一つ覚えみたいに殺してやるだの俺を貶める言葉をぶつけてくる。
俺は呆れながらもどこか嗜虐心が芽生えていくのを感じながら、三回目の蹂躙へと移った。
それから五回目、七回目、十回目と連中を返り討ちに、しかもわざと残酷に殺していったところで変化が生じた。
サントのクソ冒険者どもとハーベスタンの貴族連中の姿が消えていた。残ってるのは元クラスメイトどもとカドゥラ元国王とマルス元王子となっていた。
「数が減った……?いつまで続くかって思ってたけど、この召喚魔術にもどこか突破口があるみたいだな。よし、引き続きこいつらを返り討ちにしていくか」
そう思って連中を迎え撃つ。心なしか連中の勢いが少し小さくなってる気がする。気にせず「魔力光線」を撃ちまくる。撃ち損じた奴らの一人に飛びかかって武術で滅多打ちにしていく。
「ん……?俺は今見ての通り隙だらけだぜ?後ろから刺す絶好のチャンスだろうが。来いよ、殺し放題だぜ?」
マルスに乗りかかって執拗に殴りながら、後ろを向いて大西や須藤らを挑発する。
「う...う、おおおおおおおお!!」
「い、言われなくても、ぶち殺してやらぁあああああああ!!」
少し躊躇いを見せていたが叫び声とともに武器を構えて突進してくる。大西が俺の脳天目がけて剣を横薙ぎに振るおうとする。しかし大地魔法でガチガチに硬化した俺の体に衝突した瞬間、奴の剣がボキリと折れた。青い顔して折れた剣を見る大西にマルスを投げつけた後、「身体武装硬化」で左腕を大砲に変えるとそこから焼夷弾を撃ち放ってまとめて灰にした。
(……なんか、勢い弱くなってね?何だよ、テメーらのしょうもない憎悪はやっぱりこの程度か)
呆れのため息を吐くと、今度は俺から攻撃に出た―――