目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

「まだ赦せてねーんだ」

 「はぁ、はぁ......!そんな、嘘でしょう!?こんな、あり得ないことが……っっ」


 ベロニカはやや錯乱状態に陥り、息も乱す。恐怖に近い感情を抱きながらモニターに映っているものを呆然と見つめる。

 この召喚魔術で蘇った屍兵は、五回以上も殺されて復活すると、魔人族でも手を焼く程の戦力を持つようにつくられている。

 そんな屍兵が全部で50もいる。その規模の戦力はベロニカ本人でさえ相手するのは厳しいとされる。

 にもかかわらず皇雅は、屍兵たちを十回以上も平然と殺し続けている。しかも彼に疲労の様子は微塵も見られない。

 さらには皇雅が屍兵たちを十回ずつ殺したところで、ベロニカにとって予想外の変化が起こる。50人はいた屍兵が数体、ベロニカの命令無しに消滅したのだ。その消滅した屍兵たちから伝わってきた感情は......純粋な「恐怖」だった。


 憎しみと殺意以外の感情など持ち合わせていないはずの屍兵たちが恐怖を抱くなど考えたこともなかったし、それが原因でこの世から消滅したなど信じられなかった。

 それ程までにあの「カイダコウガ」というイレギュラーの異世界人が規格外の化け物だということかと、ベロニカは考えるようになる。

 ここでベロニカはようやく皇雅のステータスを暴こうという思考に至った。皇雅などが持つ固有技能「鑑定」以外で相手のステータスを知る手段は基本無いとされているが、ベロニカだけはそれを可能とさせている。

 「魔眼」…目に超高魔力を込めることで、疑似的に「鑑定」を実現させる。この方法はベロニカ程の魔力を以て初めて可能となる。

 「魔眼」を発動したベロニカは皇雅のステータスを暴いた。その瞬間……彼女はそれを見てしまったことを酷く後悔した。


 「な...!?何なのこのステータスは!?こんなの、私はもちろん、ネルギガルドも……ヴェルド様ですら敵わない…!

 こちら側の陣営で彼とまともに戦えるのは、おそらくザイート様しか………」


 あまりにも規格外で次元が違い過ぎる皇雅の存在に、ベロニカは青褪めて呆然としてしまった。

 その後の彼女はどうしていいか分からず、皇雅が屍兵たちを惨殺していく様をただ震えながら見ていたのだった……。



                  *


 十五回、二十回、三十回とさらに皆殺しの周回を繰り返していくうちに、元クラスメイトどもとドラグニアの王親子の様子が明らかに変わった。連中の顔が、怒りや憎しみから恐怖へと変化していった。

 あれだけ殺すだの憎いだの唱えていた奴らだが、その勢いはすっかり無くなっていた。殺しても連中の能力値は大して伸びなくなっていった。俺に対する憎悪や殺意が弱くなっているからなのか。


 「おい、何怖がってんだよ。ベロニカに一方的に召喚されたとはいえこの殺し合いはテメーらから仕掛けてきたんだぞ。俺が悪いってんだろ 俺が憎いんだろ 俺を殺したいんだろ?

 さっさとかかってこいよ、この自己中ども!」


 一方的なまくし立てに対しても連中は最初の時みたいな言い返しをしてこない。怒鳴ることも突っ込んでくるこもしない。俺が歩を進めると誰もが一歩ずつ後ずさっていった。


 「何だそれ?つまんない奴らだなホント。数十回殺されたくらいで復讐心を簡単にかき消しやがって、なぁ?」


 心底見下した気分でそう言いながら、山本の髪を掴んで頭蓋に膝蹴りをくらわして顔面を粉々に砕いてやった。


 「あ”あ”あ”!や、べてぇ......!」

 「やめて?止めてほしかったら抵抗しろよ。何されるがままになってんだよ山本、なぁ」


 潰れた山本を雑に放り投げて元クラスメイトどもを睨みつけると全員竦み上がる反応を見せる。


 「さぁ、次は誰が相手だ?誰が俺を殺しにかかるんだ?憎い憎いこの俺を……」


 そう問いかけてこっちから近づいてやるが、連中は相変わらず向かってくるどころか引き下がるだけだ。埒が明かないので俺が飛び出して攻撃に出る。

 須藤の両腕・両脚をぶった切ってから渾身の正拳突きで心臓を打ち抜いた。


 「ぶごばがぁ......もう、いや......だぁ」

 「あ?嫌だと?あれだけ殺す殺すって息巻いてたクソイキりの須藤はどこいった?」


 ガンと顎を蹴って雑に吹っ飛ばす。ここでようやく大西が声を上げながら斬りにかかってくる。嵐・雷電・水の魔力を同時に発生させながら日本刀を振るって大西をサイコロステーキ状に切り刻んだ。雷の刃・風の刃・水の刃・日本刀の4連撃できれいに斬り刻んだ。

 その凄惨な光景を見た残りの元クラスメイトどもはすっかり萎縮しきっていた。殺す程力を増すとはなんだったのか、もう話にならない。



 「お、おい……甲斐田、お前何がそんなに、おかしいんだよ……!?」

 「は……?俺が、笑っている?」


 それは片上による突然の指摘だった。奴に言われて俺は自分の頬や口角に触れてみる。確かに……俺はさっきから笑っている。今だってそうだ。

 いや顔だけじゃない、少し前から感じている心から沸き上がるこの感情にも、今さら気付いた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?