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「まだ赦せてねーんだ」2

 (俺は今、この状況を……こいつらを何度も殺しているこの狂った状況やこいつらの恐怖している顔を見るのを、愉しんでいるのか?どうしてそんな……)


 自分でも戸惑ってしまっている。でも実際俺はこの状況が楽しくて仕方がないのだ。

 ふと後ろを見れば、マルスが俺から距離を大きく取ろうとしている…あれは逃亡してるな。カドゥラも同様に逃げようとしている。馬鹿かよ、逃げ場が無いってテメーらが言ったくせによ?

 「瞬神速」で二人とも捕らえて同時に地面に叩きつける。叩きつけた先に重力魔法がかかった沼をつくって完全に縛る。そして死ぬまで全力で拳の雨あられを浴びせた。

 「「ひ...ひいいいいいいいいい”い”い”い”い”やああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”...!!!」」


 ………やっぱりそうだ、心がスッとしてくる。もう何度も見てきたこいつらの死、飽きているはずなのに何故か口角が勝手に上がってくる。大西や須藤、山本や片上といったかつてのクラスのカースト上位の男子どもが苦しんでいる様を見ることに娯楽を感じてさえいる。

 俺が狂人となってしまったのか?確かに人と比べておかしいところが元々あったかもしれない。でもアレンやカミラ、他の鬼族たち、クィンやミーシャ、藤原に高園といった守ってやりたい奴らのこともちゃんと考えられるから狂ったとは言えない。


 “王毒”


 躊躇うことなく最強最悪の毒を放つ。文字通り闘技場内が阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。体が溶けたり痺れたりするのは序の口。全身から血が噴き出す毒、痛覚・神経が超過敏になり肌を外気にあてるだけで激痛が走る猛毒、精神崩壊をきたす幻覚を見るようになる劇毒。奴らの肌が爛れていく......やがて毒は肉を焼き、骨にまで到達。かつて経験したことないだろう毒による激痛が、奴らを容赦なく苦しめて殺していく。


「「「「「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」」」」」

「「「「「痛い”い”い”い”い”い”苦しい”い”い”い”い”!!!」」」」」


 元クラスメイト全員が血と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら助けを求めてのたうち回っている。マルスとカドゥラにしても王の威厳など微塵も感じられない様だ。


 「ご、ごめんなさい……!」

 「も”、もう”……赦じで、ぇえ……!!」


 早川や山崎の謝罪や赦しを乞う言葉を聞いて眉を顰める。ごめん?赦して?何言ってんだか、赦すも何も俺はこいつらに何を―――


 「―――っ!ああそうか。やっと分かった。さっきから楽しいって感じてる理由が。どこからこの気持ちが湧いてきてるのかが」


 そう言いながら俺に縋ろうとしてくる安藤や柴田を蹴り飛ばす。そしてこの気持ちの答えを導き出す―――



 「俺はこいつらのことをまだ赦せてねーんだ」



 そう考えると全部に納得がいく。生前はこいつらに除け者にされたり排除しようとされたり、異世界では弱い俺を好機とみて虐げられたり見下されたり、そして見捨てられたんだ。

 ゾンビになって復活して、自分のこの力に気付いた直後…あの時の俺はこんな考えも生じてたんだった。

 この元クラスメイトどもと国王と王子への復讐を…。

 ただこの考えはしばらくしたら消えてしまった。わざわざこいつらのところへ行って殺す…そんなめんどくさいことする気にはなれなかった。第一こいつらには見捨てられはしたが殺されはしなかったからな。洞窟でアレンと初めての会話で復讐のことを聞かれた時も、めんどくさいを理由に復讐で出向くことを辞めた(*19話参照)。

 ただ……赦すかどうかってなると話は変わる。

 半年前にドラグニアでこいつらと再会したあの日…あの時の俺の中に、ずっと前に消えたはずの憎悪が再燃していたんだ。

 学校で受けた嫌がらせや排斥行為とこの世界で受けた虐めと生贄扱いの出来事がフラッシュバックされて、どうしようもない憤怒と憎しみ、そして殺意があの時の俺の中に発生していたんだ。クィンとミーシャがあの場にいて俺を諫めてなかったら俺がこいつら全員を殺していたかもしれなかった。

 そうだ、本当はこうしたかったんだ!あの時こいつらと再会した時、こいつらがふざけた言動と態度をとったからある程度痛めつけてやったけど、本当はあんな程度で済ませたくなかったんだ。

 手足をぶった切ってやりたかった、腹に風穴を空けてやりたかった、全身の骨や内臓を壊してやりたかった、人としての尊厳を完全に踏みにじってやりたかった、首を刎ねてこいつら全員の命を終わらせてやりたかった……!!

 俺が受けた痛み、屈辱、苦しみ、恐怖を何倍にも返してやりたかったんだ。

 ドラグニアで行った報復はあんなものでは足りなかった。本当は満足できてなかったんだ。

 今になってようやく気付いた、気付くことができた。同時に胸のつかえが、喉に刺さったままの小骨がとれた気分にもなれた。


 「そうだ、そうだよ。テメーらのこと赦せていない。死んだのはテメーら自身のせいだって言ってんのに俺のせいにしやがって。勝手に俺を憎みやがって。死んで少しは反省したかと思ったらちっとも変ってねー。死んでなおも、テメーらは自分勝手にも程がある……」


 ギロリと睨みつけると全員顔を青くさせて硬直する。蛇に睨まれた蛙とはこのことか。


 「俺はテメーらのことが赦せねー。さっきの言動といい下らない責任転嫁といい、テメーらがこんなにも最低のクズのままだから、こうして平気で殺しまくれるんだろうな!!」



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