目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

「屍兵戦決着」

 ――そう思ったことを口に出した、直後だった。

 燃え続けていた怒りや憎悪、殺意の感情が薄まっていくのを感じる…。さっきまで自分の中で蟠っていたはずのこの黒い感情も、消えようとしている…。

 あれ?さっきまでブチ切れかけてたんだけど……急に燃え尽きてしまったな。


 「……………ふう。なんかもういいや。テメーらのことこれで本当にどうでもよくなってきた。さっきまで散々殺しまくったし、しかもかなり残酷に。

 もう飽きた」


 顔から感情が抜け落ちてくのを感じる。全身を脱力させて隙をさらす。そんな俺を見ても誰も襲ってこようとはしなかった。もはや戦いどころではなくなった。


 『な……!?お前たち、何を突っ立ったままでいるの!?敵は隙だらけなのよ、全員で囲って殺すのよ!!』


 闘技場内にベロニカの焦燥が混じった怒声が響く。術者である彼女の命令を聞いても誰も動こうとはしなかった。全員俺を見る目の色が憎しみから恐怖へとすっかり変わってしまっている。


 「まぁ、自分を見つめ直す良い機会にはなったかな。あと危なくもあった。どこか間違えていたら俺はあの怒りと憎悪に飲み込まれていたかもだから」


 達観した様子で独り言を呟いてしまう。続いて両腕を再び武装硬化させるとそれを見た元クラスメイトどもは泣き声をあげたり逃げ出そうとしたり土下座しようとしたりする。


 「ひいいいいいい!!!」

 「ご、めんな、さい...!!」

 「もう赦してえええええええええ!!」

 「もう殺すなんて言わない!復讐なんて考えてません!二度と甲斐田様に悪意も殺意も持ちません、服従します!赦してくださいぃ!!」

 「我が悪かった、間違っていた!お主を許可無くこの世界に呼びだして不遇を強いて死なせたこと、本当に反省している!お主に罪を償うチャンスをくれ...下さい!だからこれ以上殺さないでくれ、苦しめないでくれぇ!!」


 俺を殺そうと何度も蘇ってきたはずの連中が必死になって赦しを乞うている。大西たちはもちろん、カドゥラですらも国王のプライドを完全に捨てて俺に土下座している様だ。それを見ても俺は何も思わなくなった。

 というか殺戮する気はもうないし、武装したのはそんなことが目的じゃないし。


 「ちょっと前にクソ冒険者とクソ貴族が蘇ることなく消滅しただろ?あれを術者本人(=ベロニカ)がやったとは思えない。消えたのはあいつらの意思で消えたんじゃないかって思ってる。

 テメーらがここから消えたい、解放されたいって念じながら次に死ねば、テメーらも消滅できるんじゃねーかって思うんだ」


 俺がそう説明すると全員パニックになるのを止めて黙り込む。


 「い、言われてみれば……」

 「残ってるの俺たちだけじゃねーか」

 「消えたいって思いながら死ねばこの地獄はもう終わるのね…!?」


 元クラスメイトどもが口々に感想を言って段々安堵した雰囲気を見せる。当然それを見ているベロニカが怒った様子で命令を飛ばすが誰もそれに従う気は起こさなかった。


 「な、なぁ甲斐田、様…。俺たちはもう消えたいんだ。次死ねばもう終わるんだろ?だったら最後はよぉ………さっきのようなえぐい殺し方じゃなくて、楽に死なせてくれよ!銃で心臓か脳を撃ち抜くとか刀で首を刎ねるとかデカい光線であっという間に消滅させるとかさ!」


 大西がすっかりへりくだって媚びた態度で、俺にそんな頼みごとをしてくる。学校や異世界の最初の頃のような敵意に満ちた態度はどこにもない。この男がさらに小さくて弱く見えてしまう。それでも一応ましにはなったか。


 「俺が介錯して良いならそうするぜ。誰から消える?」


 そう尋ねるとカドゥラとマルスが前に出てくる。終わるとは言ってもこれからまた死ぬことになるのだから恐怖が顔に出ている。


 「わしとマルスから頼む。ひと思いに…そしてマルスを苦しめることなく終わらせてくれ」

 「父上と共に逝かせてくれ…」


 二人とも覚悟はできてる様子だ。二人を直線上に並ばせて奴らの頭に拳を合わせる。するとカドゥラがまた口を開く。


 「最後に確認させてくれ。ドラグニア王国はどうなったのだ?妻は…シャルネは生きているのか?」

 「ザイートの奴に滅ぼされてもう無い。あそこには旧ドラグニア領地ができていて後に小国になるそうだ。そこをお姫さん……テメーの娘が統治するそうだぞ。あと王妃さんは生きている。病は藤原の回復で完治しているけど体は弱いままだ」

 「そう、か……。それにミーシャが…」

 「彼女は今や連合国軍の参謀を務めている。的確な指示を出して優れた軍略を練ってもいる。テメーら思うようなハズレ者の彼女はもういない、優秀な軍略家だ」


 俺がそう言うと二人は俯いて何も言わなくなった。顔を上げさせてから二人の頭目がけて渾身の正拳突きを打ち込んで頭部を消失させた…即死だ。

 ただ…俺の頭の中にマルスの声が入ってきたのを感じる。「母上とミーシャ、そして領地を守って欲しい」、と。

 倒れた首無し死体を炎で消失させてから数秒経っても二人が蘇ることはもうなかった。それを確認すると次に移る。元クラスメイト……今は20人しかいない。先に消えたのは井上と宇川と江島と木戸と久野と瀬戸と津村と村瀬と和田か。


 「五人ずつ消してやる。好きな者同士で組め。一分待つ」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?