ザイートとの死闘を制したことで俺の戦いは一旦終える。ひとまず鬼族の里へ帰ろう。今日も魔人族軍が里に攻め込んでいるはずだ。「序列」級の奴がもしいたらまずいだろう。俺が行かなければならない。
まずここがどこなのかだけど...ジャンプして上空から大陸の形を確認したところ、知らない孤島だった。地図も方角も無い以上ここがどの大陸の近くなのかも分からない。さっきまではベーサ大陸にいたと思うのだけど……。
「自分の足使って直接帰るしかねーな」
そう思って「瞬神速」を発動しようとしたのだが、脚が思うように動いてくれない。うーん、やっぱり後遺症みたいなのが残ってるのか?リミッターを二十万、それ以上のレベルまで解除したその反動はやっぱり深刻で、まだ全速力では走れない。
仕方なくワープアイテム…「瞬間テレポート」を使おうとしたが……無い。さっきの戦いで落としたか壊れて無くなったかだな…。
鬼族の里はベーサ大陸にある。元いた場所に行けば良いだけ……そう考えて嵐魔法と重力魔法を器用に発動して飛び続けた結果、何とかベーサ大陸に着いた。
見覚えある道を辿って里へ向かおうとしたその時、岸地帯に覚えのある気配を感じ取る。その気配は俺に気付いたのかこっちにだんだん近づいてくる―――
「皇雅君…!!」
「高園……?」
覚えのある気配の正体は元クラスメイトの高園縁佳だった。戦闘和服には泥がついており戦いを経たようには見える。しかしこの付近で大戦は起こっていないはずだ。何でここにいる?あと何で名前呼び?
そう言おうとしたけどその前に高園が俺に抱きついてきた…!
「は?あ………?」
「良かった!戻ってきてくれて!一人で魔人族の本拠地に攻め入って、いちばん強い魔人と戦いにいったって聞いて。ずっと心配だった。
さっきもそうだった、皇雅君消えそうになってた。ミーシャ様に教えてもらって近くにいて……どうしていいか分からずで、とにかく魔人族から守らなきゃっておもって必死に狙撃してて、そしたらいつの間にかまた戦いにいってて―――」
胸と肩の間に顔をうずめながら早口で色々まくし立ててくる。マシンガントークのように言うものだからリアクションに困ってしまう。ただ分かったことがある。カウンター合戦に敗れて復活にいそしんでいた間、ザイートを見えない何かが襲っていたことがあった。あれは高園による「見えない狙撃」だったんだ。彼女のお陰で奴は少しの間彼女による狙撃に気を取られ、俺に復活の時間ができたんだ。
「落ち着け。ここ最近でいちばん喋ってるぞお前。とにかくお前のお陰であの時に対して礼を言う、マジで助かった」
「はい………でもお礼を言うのは私の方。魔人族の族長を倒してくれたんだよね?いちばん強い敵を皇雅君が討伐してくれたんだよね?」
だから何で名前呼び?
「ミーシャ様から聞いたよ………体を何度もバラバラにされたり消されたりしながらも諦めずに必死に戦い続けてくれたこと。皇雅君がそうしてくれたから私は、みんなは、世界は救われました……!
本当にありがとう!」
再三にわたって礼を言ってくる高園に率直な疑問をかける。
「あの時……俺が復活するまでの間お前がザイートの気を引かせてくれたけど……そもそもどうしてお前が駆けつけていたんだ?今もサント王国に魔人族軍が襲撃してるんだろ?なのにお前は勝ち目が最も薄いザイートのところに来た。どうしてだ?」
質問を終えると高園は何故か頬を赤くさせて少し黙る。やがて口を開く。
「………皇雅君が、とても強い皇雅君が心配だったから」
沈黙。
「……………えーと、それだけ?」
「あ、あの………皇雅君って私たちクラス全員が束になっても敵わないくらい、この世界でいちばんってくらい強い人でしょ?そんな皇雅君って、誰かを頼るってことが無くなっているって気がしたの」
頼る……。
「皇雅君、私の勘違いだったらごめんなさい。でも聞かせてほしいの、皇雅君は今の皇雅君になって以降、誰かを頼ったことってあったの?」
「そりゃお前………頼るって具体的には?今日はアレンたちに里のことは任せたって言ってここに来てるんだけど、それは頼ってるってことにはならないか?」
「確かに里を守るってことでアレンさんたちに頼った…ことにはなってると思う。でも、皇雅君自身の戦いはどう?結果的には皇雅君が勝ってここにいるけど……魔人族と戦うにおいては誰も頼らなかったんじゃないかな?」
「それはまぁ。ザイートとまともに戦えたのは俺くらいしかマジでいなかったわけだったし」
何が言いたいんだ?
「うん……そうだよね。二人の戦いには私や美羽先生、アレンさんたちですら入れなかったんだと思う。ううん実際そうだった。あの魔人族に近づいてすぐ、私は倒れそうになった。直接相対したわけでもなかったのに、全身を刃物で刺されたような錯覚に陥った」
そうだったのか。奴のプレッシャーだけで高園レベルの戦士でもそうなってたのか。
「私……悔しく思ってるの。私にもっと戦える力があったら………皇雅君に頼ってもらえるだけの力があればって。皇雅君の味方に、皇雅君と並べるだけの力を持つ人がいたらな…って。それが私だったらなぁ……って」
「………頼ってほしかったのか?ザイートと戦う際、俺がお前を?」
「うん……。皇雅君の力になりたいって思ってた。でも皇雅君のレベルは私には遠すぎて……並べなかった。美羽先生もクィンさんも同じ気持ちだったと思う。皇雅君の戦いに行っても足手まといになるだけだって。アレンさんもここに連れて来なかった理由も同じだったんだよね?彼女を連れてきたら殺されるかもしれないって」
「そうだな。誰も連れて行けなかった。奴に真っ先に殺されるって分かってたから。そうなるとお前の言う通り、俺は奴と戦うにおいては誰も頼れなかったんだな」
「だから……悔しかったの。もっと戦える力があったら皇雅君と一緒に魔人族と戦えたのにって。危ない場面をもっと減らせていたのに……って考えてしまう……」
ああ、高園が言いたいことがやっと分かった気がする。強い強い俺(自画自賛)は今や何でもできると言っても良い完璧な存在になっていた。そんな自分が続いていくうちに、困難な壁にぶち当たった時に俺は誰かを頼るということが知らないうちにできなくなっていたんだ。この力のお陰で何でもできるようになったが故に。
高園はそんな俺を心配していた。もし俺にとって想定外のことが襲ってきたら。そしてその場に頼る人がいなかったら……。彼女はそれを恐れていた。
だからあの時、俺の戦いに来ていたんだ……。
「お前凄いな。よくそんな考えにいきついたもんだ」
「ううん私だけじゃないよ。美羽先生もクィンさんもミーシャ様も同じ気持ちだった。それとアレンさんもきっと同じ気持ちじゃないかなって思う」
「アレンも……」
言われて少し思い返す。今朝鬼族の旅仲間たちとカミラに事情を伝えて里を出ようとした時、みんなは激励の言葉をかけてくれてたけど……あれが全部じゃなかったら、一緒に戦いたいって思っていたのなら……。
「また一つ、学んだことある。一人でやってやろうって気持ちが先走ってた。ずっとそうだった」
部活の陸上レースの時だってそうだった時期があった。個人種目は自分一人の力で勝利を勝ち取るものだ。試合本番は確かにそうだ。しかしそれまでの過程はどうだ?速く走る為の指導をしてくれる者、タイム計測や補給など身の回りのあれこれをしてくれるマネージャー、そういうのがあってこそ俺は速くなれたし全国大会への出場権も勝ち取れたんだ。
頼ることで得る力もあるってことだ……。
ゾンビになってこんなチート級の力を得から、そのことをすっかり忘れてしまってたのかもな……。
「ま、あの時は頼らせてもらったよ。ザイートの気を引いてくれてありがとう」
「………!う、うん!力になれて良かったです……!」
改めて礼を言うと高園はまた頬を赤らめて嬉しそうに笑んだ。
「さて……俺は今から鬼族の里に帰る、急いでだ。そろそろ思い切り走れそうだしな。それとお姫さんにやってほしいことがある。今から言うことを彼女に伝えてほしい」
そうしてミーシャへの伝言を高園に託す。分かったと了承して同じく急いでサント王国付近の戦場へ戻ろうとする高園に、もう一つ言っておかなければならないことを言う。
「あとな……魔人族との戦いはまだ終わらないと思う。ザイートは確かにこの手で殺して、魔人族軍の総大将はもういなくなった。
けど……黒幕はまだ存在している」
「………!!」
高園は不安に満ちた表情をしていたがすぐに自分の行くべきところへ向かった。彼女に嵐魔法で加速付与をさせてやったのち、俺も里へ駆けていった。