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「死にたくない」

 裏返った声で叫びながら、中西は魔法杖から「極大魔力光線」を三つ同時に撃ち放った。その威力は魔人族が放つそれと同等だ。


 「ほう、その戦気の上がりよう……魔石による強化か。俺たち魔人族程ではないが大したステータスの上がりようだな」


 中西の「魔力光線」を魔法攻撃で難無く破りながらヴェルドは魔石で強化したことを見抜く。


 「あああアアア!!」


 “聖水砲”


 続いて「聖水」を含んだ水魔法を撃ち放つ。藤原と同じ中西も「聖水」をつくることができる。回復薬だけでなくああやって魔法攻撃に「聖水」を含めることもできていたのか。


 「あれは……くらうとマズいか」

 ≪ほう?“聖水”をつくれる奴がいたか≫


 ヴェルドが舌打ちしながら滅魔法を撃つ一方でバルガは感心したように呟く。「聖水」は聖魔法に限りなく近いと言って良い。それに対をなす滅魔法。魔力が高い方が制するのだろう。

 今回はヴェルドの方が圧倒的だ、滅魔法で中西の「聖水」魔法が消されてしまう。


 “聖水光砲”


 構うことなく中西は魔力を全力で熾しながら「聖水」を含んだ光魔法を連続で撃つ。彼女に続いて堂丸も大筒からレーザー砲を撃って応戦する。それは全てはヴェルドの滅魔法によって全て消されていった。


 「う、ううウウウウウ……!!」


 中西は血走った眼でさらに魔力を熾して力を発揮しようとする。だがそこで彼女は突然血を吐いた。魔石の過剰摂取によるダメージのせいだろう。


 「晴美!魔石の強化を止めて!そのままだと死んでしまうわ!!」

 「うルさい!だったらあんたたちも魔石で強くなりなさいよ!美紀、私を盾で守ってよ!!」


 いつの間にかこの戦場に合流してきた曽根と堂丸に罵声を浴びせてからも、中西はさらに高威力の魔法攻撃と「魔力光線」を撃ちまくった。


 「ふん、魔石の力に蝕まれているな。下等な人族如きが耐えられるものじゃない。無様だな」

 「うるさい、黙レェエエエエエ!!」


 ヴェルドの挑発に激怒しながら「極大魔力光線」を撃つが滅魔法にあっさり破られ、滅属性の魔力が中西の右腕を襲った。


 「あ……ああアアアア”ア”ア”!!」


 皮膚が消失して無惨な右腕と化してしまい絶叫する。さらに魔石の反動ダメージによって血を吐く。


 「ごふ……!甲斐田ぁ、あんたがこの化け物たち殺してよぉ!いちばん強いんでしょ!!だったらあんたが全部終わらせてよぉ!!」


 今度は俺に矛先を向けて怒鳴ってくる。


 「ったく、言われなくてもやろうとしてるだろうが……っ」


 毒づきながらバルガの魔力の大波を破るべく魔法攻撃の出力を上げるが未だ破れずにいる。バルガは余裕そうに笑ったままだ。中西は再びヴェルドへの攻撃に集中する。


 「……!このままだと、晴美さんが死んでしまう…!」


 ヴェルドの槍で吹っ飛ばされていた縁佳とクィンが無事戻ってきた。二人とも中西の惨状を目にして痛ましそうな目をする。


 「うあああアアア!!」


 中西はとうとう発狂しながら魔法攻撃や「魔力光線」をヴェルドに向かってデタラメに撃ち出した。縁佳たちは攻撃に巻き込まれないよう中西から離れざるを得なくなった。曽根が離れる寸前に中西に防御結界を張っていたがそれでヴェルドの攻撃を防ぐのは困難だろう。

 中西から離れたところで縁佳たちもそれぞれ攻撃を撃ち放って応戦するが、ヴェルドはそれら全てを魔槍と魔法攻撃で破ってみせた。その応戦がしばらく続いたところで、ヴェルドが大きく動きに出る。


 「……面倒になってきたな。一気に終わらせるか――」

 「……!!おいお前ら!すぐにそこから離れろぉ!!」


 ヴェルドが大きな魔力と力を解放する気配を察した俺は、縁佳たちにそう指示を出した。同時に俺も魔力を全力で熾して、バルガの魔力攻撃をようやく破る。そしてヴェルドのところへ駆けつける。


 ≪おいカイダよ、俺との戦いの最中だろうが。放棄するつもりか?≫

 「うるせーよ!テメーの都合なんて知るか!」


 つまらなそうに声をかけるバルガに怒鳴りながら、どす黒い魔力を魔槍に纏わせて大技を繰り出そうとしているヴェルド目がけて駆ける。

 しかし、遅かった……



 魔人族槍術奥義 “悪魔の槍”


 それは先程みせた魔剣の大技の槍バージョンってところか。どす黒い魔槍から繰り出されるのは黒い稲妻、黒い氷、黒い炎といった様々な属性の槍撃だ。


 “破真空拒突はしんくうきょとつ


  ヴェルド本体と槍による攻撃波に、嵐と斥力系重力の魔力を乗せた諸手突きを打ちまくって、縁佳たちの直撃を避けさせる。


 「ぐはっ、邪魔を……!」


 怒りの目を向けるヴェルドを蹴りでぶっ飛ばして、槍による爆心地を見る。そこは空間が削り取られたかのように地面がごっそり無くなっていた。あそこにいたら死は免れてなかっただろう。


 「はぁ、はぁ、はぁ………っ」

 「……!……!!」

 「た、助かったのね………」

 「し、死んだかと思ったぜ……っ」


 縁佳たちはどうにか五体無事でいる。俺の指示にいち早く反応したクィンがみんなを連れたお陰でギリギリで回避できたようだ。

 ただし全員が無事……ということにはならなかった……。


 「……。………。こ、あ………………」


 爆心地の近くには中西が倒れていた。彼女の体あちこちには槍による深く抉れた傷がありそこから夥しい量の血が流れている。あれはどう見ても致命傷だ。


 「……!は、晴美さん……っ」

 「うそ………そんな……!」

 「っぐ……!」


 縁佳たちはすぐさま中西のところに駆けつけるが、どうすることもできないと悟るとただ悔しげに呻くだけだった。

 槍による傷もそうだが、過剰に摂取した魔石の強化を長時間続けたせいでその反動ダメージが何より致命的だった。中西の体は魔石によって完全に壊れてしまっている。


 「ミワの回復魔術でも、助かることはもう……」

 「そうだな…」


 クィンの言う通り、中西晴美はもう助からないだろう。無言のまま俺も縁佳たちのところに行って、中西を見下ろす。血を流し過ぎたせいで痛みを感じなくなったのか、苦しむ様子はなく、虚空をぼんやりと見つめている。


 「………やだ」


 やがて中西の口から擦れた声が漏れる。さらに目からは血涙が流れ出てきた。今となっては泣いているようにも見える。


 「こんなの、やだ………助け、て……………。

 美羽、先生………私を治し、て……………」


 ここにはいない藤原に助けを求める。続いて消え入るような声のまま縁佳たちクラスの連中の名前も呟いていく。

 そして……


 「―――死にたくない」


 その言葉を最期に、中西晴美が二度と言葉を発するとはなかった。

 彼女は死んだ。

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