「う、うあああああ……!」
「ごめんなさい……私はまた、間に合わなかった………」
縁佳は決壊したかのように泣き、藤原は堂丸の手を握ったまま謝罪している。曽根も悲しみと悔しさが混ざった表情をしている。
「……………」
堂丸の姿を最後に目に焼き付けてから、敵の方に目を向ける。俺たちの前には八俣が二本の刀を構えて立っていて、バルガと対面していた。彼がこうして立ちはだかっていたお陰で堂丸の言葉を聞くことができた。
≪ガンナーの異世界人がようやく死んだか。奴には気の毒だが、爆発で受けたダメージはもう治りかけている。無駄に命を散らす形にさせてしまったな≫
バルガの体からは先程受けた大火傷が見られない、ほぼ完治してやがる。「超高速再生」によって、堂丸の捨て身の爆発で受けたダメージをほとんど無かったことにしやがった……。
「堂丸があれだけの攻撃を、自分の命を使ってまで与えたダメージを……嘘、でしょ」
曽根が絶望寄りの声音で呟く。縁佳や藤原によって深手の傷を治してもらった戦士たちも暗い表情だ。
「無駄に命を散らした、そうか?俺はそうは思わない。堂丸勇也は己の役目を最後まで立派に務めてくれた。そのお陰で俺がこうしていられるのだからな」
“限定超強化”
切り札である「限定強化」の先、「超強化」を発動した八俣の能力値が百倍以上まで跳ね上がる。
「―――――」
さらに魔石の強化薬を摂取したことでその数十倍強化される。ヴェルドよりも高い能力値になった…!
≪ククククク、まさかあの時と同じ異世界人とこうしてまた戦うことになるとは。それにあの時よりもずっと強くなっているではないか!お前なら、俺を愉しませてくれそうだ!≫
「相変わらず闘争のことしか考えていない狂人が…!言っておくが俺はだらだらと戦う気はない、短期決戦でいくぞ!」
≪ハハハハハ、来い!!≫
レースカーのような音を出して、八俣は超スピードを発揮してバルガへと突っ込んでいった。
“閃光斬”
“螺旋刺し”
左右それぞれ異なる属性魔力の刀撃でバルガに斬りかかった。攻撃を防がれても休むことなく次の技に移った。
“龍巻”
“斬首刃”
“疾風迅雷”
二刀流で繰り出す八俣独特の剣技、本来であればどの技も魔人族をも葬れるものだ。
≪ハハハハハァ!!≫
“滅魔剣撃”
しかし相手はこの世界の頂点に位置しようとしている魔神バルガ。奴が繰り出す剣撃もまた、世界最強と言って良いレベルだ。甲高い音を鳴らしながら二人の仕合いが続く。
「………!」
≪フッ。俺の滅び属性を纏った魔剣と、普通の属性魔力を纏っただけのお前の二振りの刀とじゃあ勝負は決したもの。このままだとお前の武器は消えて無くなるぞ≫
バルガが魔剣を振るう度に八俣の刀が削れていくように見える。滅びの魔力にやられていき、このままだと刀が消滅してしまう。
「そうだろうな……滅亡の力に対抗するには、聖なる力が必要だ。
なら、その力を発揮するまでだ――」
そう言った直後、八俣と彼が持つ刀から神々しい光が発生した……!
≪まさか、お前も……!?≫
「そうだ。ここにきてようやく俺にもこの属性を手にした。お前を斬る為に開花してくれたのかもな……!」
クィンが見せた同じ光…「聖属性」。八俣もそれに覚醒したようだ。その属性魔力を刀に纏わせると刀は光り輝き大きな刀へと変化を遂げた。
“
ズババン! ≪グオオオオ!?≫
聖なる光を放つ刀による斬撃は、バルガに大きなダメージを与えた。
「はぁ―――!」
そこから八俣による猛撃が始まる。滅び属性を纏った魔剣に当てても刀が削られることはなく、バルガと互角に戦えている。
「………やはりこの出力ではお前を殺せないか」
突如八俣はバルガから距離をとり、俺たちの近くまで下がる。藤原が「回復」をしようとしたが八俣がそれを止める。
「俺に“回復”は
八俣は俺たちを見て短く笑う。
「マリス、クィン、同じ異世界召喚された後輩たち。これまでの日々、楽しかったぞ。皆、鍛えがいがあった。誰かフミル国王に伝えてほしい。これからは俺無しでも立派な国王として振舞うようにと。それと…ラインハルツ王国をもっと良い国へ発展してくれ、とな」
八俣のその言葉はまるで……いや、確実に今生の別れのそれだ。マリスやクィンはどういうつもりかと動揺している。俺を支えているアレンと藤原は何かを知っているらしく、動じていなかった。八俣の発言、アレンたちの反応で俺は察する。
「まさか、あんたは……」
「甲斐田、俺もお前の復活までの時間稼ぎを全うする。お前は一人じゃない。仲間たちと共に奴を討て。
まぁ、その前に俺が奴を斬って終わるかもしれないがな。
後は任せたぞ 後輩」
そう言ってからバルガの方へ向き直り、懐から何かを取り出す仕草をして、その数秒後、八俣の存在感・魔力がこれまでとは比べ物にならないくらい大きく膨れ上がった。
「何だ!?また薬を摂取したのか?二本、三本、いや……それ以上の数の薬を……!?」
驚愕する中八俣の戦力がさらに倍増していく。この分だと強化の反動ですぐに死ぬぞ!?
「待てよ八俣!俺はもう少しで復活する!だから俺と一緒に奴を……!」
俺が呼び止めようとすると八俣は背中越しで、
「倭で良い。そう呼んでくれ」
そう答えると、眩い光を纏った体で駆けていった。
「ワタルがね、あの力を発揮した時は一人で戦わせてほしいって、ここに来る前からそう言ってた」
アレンが静かな声でそれを教えてくれる。藤原もその事情を知っているようだ。
「止めようにも止められなかったの。八俣さんの命はどのみち……今日で尽きるって言っていたから……」
「ワタル………」
マリスは八俣…倭の覚悟を汲み取ったのか、もう動じていなかった。駆けていく倭の姿から目を離さなかった。
「そうか………あんたは、ここを自分の死に場所と決めたんだな。そして、俺の為にもその命を使ってくれるんだな……」
倭の覚悟を俺も分かった気がした。だから俺は彼の覚悟を無駄にしないよう、「次」に備えるのだった――