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「お前のことが好きだ」

 憔悴したクィンに代わって時間稼ぎの役目を買って出たそいつは………


 「ドウマル、さん」

 「甲斐田の奴が復活すれば、あの敵大将に勝てる可能性がグンと上がるんですよね?だったら今度は俺があいつの為に時間を稼いでやりますよ!」


 「あいつ………」


 堂丸が、俺のことを嫌っているだろうあの堂丸勇也が、俺の復活の為に時間稼ぎを買って出たってのか……!?


 「ダメよ…堂丸一人じゃあの魔王は無理よ……」


 曽根が震える声でそう言う。彼女の言う通り、あいつがどれだけ奮起しても力に限度がある。それ以前にバルガとの戦力差があり過ぎてる……!


 「クィンさん、もう少しだけあいつを引き付けてもらえますか?その間にデカい一撃の準備をするんで」

 「分かりました……私たちでどうにか時間を稼ぎましょう」

 「いや、クィンさんは次だけで良いんで。あとは俺がやってやりますよ!」

 「ドウマルさん、あなたはいったい何を―――」

 「ほら、敵が剣を振るおうとしてますよ!お願いします!」


 堂丸に急かされたことで奴の真意が聞けないまま、クィンは聖属性の魔力を纏った「魔法剣」で再度バルガと斬り結ぶ。力では負けてしまう為、技術を駆使してどうにか対抗している。しかし魔石強化によるリスクがのしかかってくる分、長期戦は無理だ。


 「……。………。……………」


 一方の堂丸は集中して魔力を熾し続けていた。熾した魔力は武器の大筒に込めていく。言葉通りデカい一撃をくらわせるつもりか。あわよくばバルガを殺す気なのか?


 「……!………!」


 次第に堂丸の魔力が強まっていく。「限定強化」に加えて魔石の強化薬も摂取したことで能力値は初期値の百倍以上上昇している。


 「そろそろ、か……行くぜぇ!!」


 溜まりに溜まった魔力によって赤く光りだした大筒を構えると、クィンに合図を飛ばした。


 ≪む?ガンナーの異世界人が何かしようとしているな……≫


 バルガはここで初めて堂丸に注意を向ける。同時に大筒の砲口からから莫大な魔力を含んだ魔法攻撃を撃ち放つ。


 “大炎槍”

 “炎光砲”


 炎と光が合わさった強力な魔力砲撃を繰り出す。バルガはそれらを滅魔法で簡単に打ち消していく。


 ≪力を溜めていたようだったが、それでもこの程度か≫


 爆煙を発生させながらバルガは拍子抜けした反応を見せる。クィンも離れたところから聖属性を含んだ魔法攻撃を放つが、魔力の強さがはるか上であるバルガの滅魔法に破られるだけだった。


 “大炎光大槌だいえんこうおおづち


 爆煙の中から大槌を構えた堂丸が、クィンの聖魔法に気を取られていたバルガの隙を完全に突いた。あの大槌はさっきまでの大筒を変形させたものか。縁佳の狙撃武器と同じ変形武器か。


 ゴッッッ ≪フム、百数年前の異世界人どもと同じレベルか。この世界にきてまだ半年と少ししか経っていないのによくこのレベルまで辿り着けたものだ≫


 大槌を頭にくらいながらもバルガは平然と喋っていた。そして次の瞬間――


 ≪しかしこの俺を湧き立たせるには至らないな――≫


 ドシュウ! 「お”……ご………っ」


 「あああ……!」


 バルガが魔槍で堂丸の胴体を刺し貫いたのを見て曽根が絶望を含んだ声を漏らす。遠くで縁佳も声を漏らしている気がした。


 「が、ふぁ………」

 ≪この槍に貫かれても即死しないとは、大幅に強化したお陰か≫

 「お、おうよ………!即死しない為に、こうして強化を重ねがけしてんだよ……!」


 ゴウッと堂丸の体から途轍もない魔力が発生した。奴の戦力がさらに大きくなっていく。


 「まさか、魔石をさらに摂取したのか?それじゃあ中西と同じ目に………」


 あのパワーアップからして薬をさらに二つ程摂取したようだ。魔力が100万の桁まで上昇している。


 ガシッ ≪む………?≫

 「ここまで体張ったんだ、絶対に逃がさねぇ………!!」


 バルガを空いている腕で掴んで拘束する。その間に武器を再び大筒に変形してそこに莫大な魔力を込める。というかあの量…大筒の耐久度を上回ってるぞ?暴発させるつもりか?


 「テメェからしたら、俺は……虫けらみたいな存在なんだろうがな………ぐぅう!この距離で、俺の全ての力をぶつけたら……さすがに、効くよなぁ!?」


 血反吐を出しながら堂丸は強気に笑ってみせる。


 「………まさかあいつ、自分の命を使ってでも足止めする気か!?」

 「え……!?何するつもりなの、堂丸……!!」


 俺の推測発言に曽根が顔を青ざめさせる。堂丸が熾し続けている魔力からただならぬものを感じたことでそれが本当であることを悟りだす。


 「どうして、あんたがこんなところで命を使うなんて………!」


 曽根の言う通り、何でお前が命を懸ける必要があるんだ?俺が復活するまでの時間稼ぎの為にどうしてお前は槍に刺し貫かれてんだ?

 本当に嫌いな俺の為に、お前はその命を散らそうとしてるのか……?


 「甲斐田……お前を助けることは、高園を助けることになるって……思ってんだ!お前が復活して、この魔人野郎を倒せたら、高園が無事に助かるってことだろ……?

 だから俺のこれは、お前の為じゃねぇ!

 大好きな、高園縁佳の為だぁ!!」


 “魔力大爆発”――砲撃


 そう言い切った堂丸は、この世界では自決技として用いられている大技…「魔力爆発」を使用した……。


 「お、おおおおおおおお………」

 ≪ぬぉお!?これは、大筒を利用した爆撃―――≫


 カッッッッッ ド―――――ッ


 強い光が発生した後、いくつものダイナマイトを耳元で一斉に爆破したような音が発生した。曽根は俺たちはもちろん、咄嗟にクィンと倒れている戦士たちにも結界を展開して爆発の余波から守った。


 「そんな………堂丸、あんたは…!」


 曽根は発生し続けている爆発を凝視したまま泣いている。これだけの爆発、その前にもバルガによってくらった致命傷、さらには堂丸自身の命を燃やした超絶パワーアップの反動。

 堂丸勇也は死ぬことを覚悟してバルガに立ち向かったのだ……。


 ≪ぐぬぅううう……!“魔力爆発”か。なるほど、このバルガを追い込むには自分の命を投げ出すしかないと判断したか……。悪くない手段だったぞ、異世界人よ…≫


 爆煙から全身に大火傷を負ったバルガが出てくる。さすがの奴も深手を負ったようだ。


 「曽根、あいつのところに行ってやれ。縁佳たちも駆け寄ってるみたいだ……」

 「分かった、少し離れるね……」


 結界を解いて曽根は煙の方へ駆け出していく。やがて煙が晴れて、そこには炭のように黒く焦げきった堂丸が倒れていた。


 「―――やっと着いた……が、まさかこうなっていたとは………」


 近くからそんな声がしたかと思うと、八俣倭が俺の傍まで歩いてきていた。すぐ隣にはアレンがいて、俺の体を起こしてくれる。


 「もしかしてもう一人来てる……?」

 「ああ。藤原美羽も連れてきた。今血相変えて堂丸のところへ行っている」


 「堂丸君……!なんてことを……っ」


 美羽はすぐさま「回復」…それも時間を巻き戻す方のそれを発動しようとしたが堂丸が掠れた声で止める。


 「その、力……は、あの魔人野郎の戦い、に……とって、おいて下さい………」

 「何言ってるの!?私がいる以上生徒を死なせることは絶対にさせたくない!

 させたく、なかったのに………っ」


 中西の死には気付いていたようで、その分も含めて藤原は悲痛な声を漏らす。


 「先生の、回復魔術、でも………俺は助からないっすよ……。だから、魔力を温存して、下さい………」


 消え入るような声で回復を拒む。そうすれば死は確実だというのに、あいつは力の温存を優先させた。


 「堂丸君、堂丸君……!」

 「あーあ………高園たちと、一緒に……生き残りたかったなぁ……。高園の為って言ったけど………本当は甲斐田の為でもあったんだ………ほんのちょっぴりだけ、ど……」


 アレンに肩を貸してもらいながら俺も堂丸のところへ近づく。無言のままあいつの言葉を聞いている。


 「こんな形になるん、だけど……聞いてくれ。

 高園、俺は……お前のことが好きだ、大好きだ………」

 「………!」


 縁佳は大粒の涙を流して嗚咽を手で抑える。


 「返事は、要らねぇぜ………お前に好きって気持ちをただ、伝えたかっただけだから、な……」


 堂丸の生命反応がだんだん薄くなっていく。あと数秒……


 「高園……縁佳、生き、残れ……よ。

 曽根……甲斐田」


 堂丸は最後に俺に目を向けた。


 「縁佳のこと、守れ……よ」


 俺たちに全てを託した堂丸は、微笑んだ顔をつくったまま……


 ――――――


 その命を終えた……。

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