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「聖剣」

 鬼族の仮里にある施療院で、傷の治療と体力と魔力の回復を受けているアレンたちは、唐突に「その戦気」を感知出来るようになった。


 「………!これが、コウガの戦気……凄い、大きな力…!」

 「うん、大きいけど怖くない。魔人族とは違う感じ……!」

 「私も、魔力なら分かるよ。これが甲斐田君が放っていた力だったんだね」


 アレン・ルマンド・美羽は皇雅の戦気・魔力を初めて感知することが出来、その大きさに圧倒された。


 「………でも待って。どうして当然コウガを感知出来るようになったの?」

 「分からないわ……甲斐田君が今戦っている敵と関係あるのかも」


 しかし次の瞬間、三人とも血相を変える。


 「え………コウガ!?」

 「コウガの気配が急に小さくなった…!?」

 「甲斐田君、無事なの…!?」


 アレンたちは皇が危機に陥っていることを悟り、こうしてはいられないとばかりに施療院を出る。


 「………っ!」

 「ルマンド!」


 ルマンドは額を押さえたまま地面に膝をついてしまう。彼女はまだ戦いはおろか遠くへの移動すら困難な状態だった。


 「………今の私じゃあ何も出来ないわね。アレン、ミワ。行くのでしょう?コウガを助けてあげて。ベロニカの見張りなら出来るから、ここは任せて大丈夫だから…!」


 ルマンドの身を心配する二人だったが彼女の強い意思を感じ取るとそれに頷いて応えるのだった。


 「急いだ方が良いな。非常にマズい予感がする。アレンと藤原、そして俺で行くぞ」


 三人のもとに倭が駆け寄る。バルガとまともに戦えるのはこの三人しかいないことは明白だった。


 「敵の大将首はサント王国にある。甲斐田と共に敵を討つぞ」

 「うん!「はい!」


 倭の言葉にアレンと美羽は強く応えて、嵐魔法を駆使してサント王国へ急行した。



                  *


 ―――――

 ――――

 ―――


 (死んで、たまる、、か、、、!!)


 ―――ドクン!


 「……。………!」


 完全に事切れる寸前で、緊急の「回復」で脳と体の完全崩壊を防ぐ。次いで「超生命体力」による強い生命力で即死を回避。雷電魔法で心臓をマッサージして心肺も蘇生させた。


 (まさに首の皮一枚繋がった……ってやつだな)


 何とか生きてはいる。がしかし……体を動かせるまでには回復できていない。今までの体が崩壊する程のリミッター解除と同じ、完全に回復しきるまで戦えない。


 ≪呆気ない幕切れになったのは惜しいが、愉しめたぞ≫


 滅びの魔力を纏った魔剣を構えたバルガが俺の頭にそれを振り下ろそうとしてやがる。くそ、絶体絶命に変わりはねぇな……!


 ―――ズドドドドドドドドド……ッ


 魔剣を上に翳した体勢のバルガを、見えない何かが大量に撃ち抜く音がした。実際奴の体から血がたくさん出ている。見えない弾……縁佳の狙撃か。


 (皇雅君は死なせない、絶対に!!)


 縁佳のそんな声が聞こえた気がした。


 ≪ほう?俺に勘付かれることなく狙撃したか。それにこの威力……流石は異世界人。ジースを討っただけはある≫


 しかしザイートが持っていた固有技能「超高速再生」によって、撃たれた箇所からの出血がすぐに止まる。縁佳はさらに「見えない狙撃」を放つが、バルガに被弾する寸前で矢が消滅するのを感じた。


 「………!」


 遠くで縁佳が悔しそうにしている気がする。続いて俺たちのところに誰かが数人駆けつけてきた。


 「これは……!」

 「窮地以外の言葉が見つからねーな………」

 「反則じゃない、こんな戦気……っ」


 カブリアスとアンスリール、マリスが救援に来てくれた。全員「限定進化」、さらに魔石の強化薬で最大限のパワーアップを遂げている。


 「甲斐田……!」


 少し遅れて堂丸も来た。中西程じゃないが魔石でギリギリのところまで強化を遂げている。あいつ、今の俺を見てかなり焦ってるな…。当然か、こんなにも強い(自慢)俺がこうなってるのだからな……。


 ≪全員、魔石でさらなる強化を遂げているな。“序列”を持った同胞に匹敵しているな。どれ、俺を愉しませる闘争をさせてみろ≫


 バルガの呼びかけに応えるように、カブリアスたちは力を全解放して奴を殺しにかかった。


 大地魔法 “地殻絶牢結界マントルバリヤー


 俺の周りの地面が隆起したかと思うとそれらがドーム状に俺を囲んだ。内部は魔力が練られた「絶牢」の「魔力防障壁」となっている。


 「曽根、か……」

 「甲斐田、死んでないよね……!?」


 倒れている俺を曽根が慎重に起こして無事を聞いてくる。


 「あんたが、こんなになるなんて………何なのよあのラスボス……っ」

 「は………お前の口から、ゲームやアニメの用語が出てくるなんてな……」


 俺の体を支えている曽根の手は震えている。俺が重いからじゃない、バルガに対する恐怖からだろう。そんな恐怖を紛らわすべく茶々を入れてやると、彼女は申し訳なさそうにする。


 「………そういえば、あんたに告白した時、私はあんたがアニメとかが好きって言って、私はそれに引いてしまったんだっけ……。今更だけど、勝手に幻滅してしまってごめんなさい」

 「本当に今さらだな。つーか今この状況でそれを言うか?」

 「あ、あんたが茶化してくるからでしょ?それより大丈夫なの?私の回復薬飲む?」

 「助かる……戦えるようになるまではまだ時間がかかる…。お前らで時間を稼いでほしいんだけど…………」


 ちらと外を見ると、


 「おおおおおおお!!」

 ≪ハハハハハーーァ!≫


 ザン……! 「ぐぉおお…!」


 完全な龍となったカブリアスだがその巨龍体が魔剣でぶった斬られてしまう。


 「らああああああ!!」

 ≪大した雷ではないな――≫


 ドスッッ 「ご、がは……ッ」


 雷の精霊と化したアンスリールだが魔槍に串刺しにされてしまう。

 そんなアンスリールをマリスが救って退避するがバルガの追撃で重傷を負う。


 “魔法剣”――“大嵐閃”


 バルガの背後を、この時まで気配を隠していたクィンが嵐属性の「魔法剣」で一閃する。


 ≪ヌッ……中々の一太刀だったぞ!≫


 ガキィイン!「っくぅ……!」


 振り向きざまの魔剣の一撃をどうにか耐える。俺がかけたバフは解けていなかった。ゾンビじゃなくなっても一度付与させたものは消えないらしい。俺のバフがけと魔石の強化を得た今のクィンは、縁佳たちにも引けをとらない強さを発揮している。


 「今度は私が、コウガさんを助ける番!彼が復活するまで、彼の身は私が守ります!!」


 カッッッ


 クィンの声に応えるかのように、彼女が持つ剣から眩い光が生じた。あれは光属性……とは違う。それよりも強い属性で、神々しさすら感じさせる―――


 ≪その光、お前……“聖属性”を覚醒させたのか!?≫


 バルガが初めて焦りを含んだ声を発した。そうか、あの光が「聖魔法」だったのか。たった今クィンがそれを会得したんだ。


 「これが聖属性……温かい光………」


 クィンは自身の剣を見つめた後、そこに強い聖属性の魔力を込めると、バルガに新しい「魔法剣」による剣技を繰り出した。


 聖剣 “魔人殺し”


 ≪ヌグゥウウウ!!これは危険だな……!≫


 バルガは咄嗟に魔剣で聖剣の一太刀を防ぐ。聖なる光と滅亡の闇が拮抗する。属性の力は互角だが……


 ≪力は俺の方が圧倒的に上だ。残念だったな≫


 ザシュ! 「あ、う………っ」

 「クィン……!」


 単純な力ではバルガがずっと上だった。クィンの肩部分が深く斬り裂かれて血しぶきが舞った。斬られた箇所が消滅しようとしている。彼女は咄嗟に聖属性の魔力を傷口に当てて消滅効果を流し去った。


 「ぐ……私では敵いませんか。コウガさんが来るまでまだ時間を稼がないと……っ」


 「――その役目、次は俺がやります」

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