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2章30 関わるつもりはなかったのに

「おはよう! ユニス! 体調はもう大丈夫なの!?」


教室へ入るなり、エイダが駆け寄って来た。


「ええ。もう大丈夫よ」


「良かった……心配したのよ。昨日はSS1クラスのアンディが教室に現れて、騒ぎになったのよ」


「え? アンディが?」


そんな話、昨日会ったときには聞かされなかった。


「ユニスが学校へ来ているか気になって来たらしいんだけど……とても素敵な人だったわ。SSクラスなのに、私達をバカにした態度を取ることも無かったの」


「そうだったのね」


顔を赤らめたエイダは何処か興奮気味だ。

やっぱりこの世界のヒーローだけのことはあり、人の心を引き付ける魅力があるのだろう。


そこへ授業開始を告げる鐘が鳴り響き、エイダとのおしゃべりは終わった――



****


――放課後



 今日は帰りも馬車が迎えに来てくれることになっている。

学園内に併設された馬車の待機場所へ向かって歩いていると、アンディがこちらへ向かって駆けつけてきた。


「ユニスッ! 待って!」


「アンディ……」


その場で待っているとアンディが笑顔で駆け寄り、すぐに話しかけてきた。


「良かった、帰る前にユニスに会えた。具合はもう大丈夫なの?」


「ええ、もうすっかり良くなったわ」


「それは良かった。今日リオンからユニスが登校してきたことと、誕生パーティーの話を聞いたよ。僕とザカリーを招いてくれるって」


「え? リオンから直接話を聞いたの?」


リオンからは、朝の話でアンディとザカリーを招待する許可は貰っている。


「そうだよ、今日は合同授業があったからね。でも驚いたよ、リオンから僕たちに話しかけてくるなんて初めてのことだったから」


「ええ、明日にでも2人には話しをしようと思っていたのよ」


私から近い内に話に行こうと思っていたので、手間が省けた。


「でも、ユニスの話した通りだった。リオン、僕たちが参加することを反対しなかったんだね。僕たちSSクラスは、合同で授業を受けることが多いんだけど……2つのクラスはあまり仲が良くないんだ」


アンディの口調が重い。


「そうだったのね……」


やはり、SS2クラスは自分たちよりも優れている1クラスの生徒たちに劣等感を抱いているのだろう。


「誕生パーティーは5月14日の10時からで、場所はリオンの屋敷の中庭でいいんだよね」


「そうよ。私が誕生パーティーの場所は中庭がいいとお願いしたの」


「リオンの誕生パーティーに参加するなら、何かプレゼントを考えなくちゃな……リオンは何が好きなんだろう?」


「誕生プレゼント? そんな、私が無理を言って2人に誕生パーティに招くのに、プレゼントまで用意させるわけにはいかないわ。私が2人の代りにプレゼントを用意するから大丈夫よ」


すると、アンディが真面目な顔になる。


「それは駄目だよ。確かにユニスに言われてリオンの誕生パーティーに参加するけど、お祝いしたい気持ちは、あるんだから。ザカリーもそのつもりでいるよ」


「そう……なの?」


やはり、2人は良い人たちだ。


「ユニスはいつも何をあげているの?」


「特に毎年決まっていないわ。あ、でも文房具が多いかも……昨年は本をあげたわ」


「文房具か、本か……。ザカリーと相談して決めようかな。それじゃ、もう行くね。帰るところなのに、呼び止めてごめん。またね、ユニス」


「ええ、またね」


アンディは笑顔で手を振ると、去っていく。


「……ヒーローたちとは関わるつもりは無かったのに……」


思わず本音が口をついて出てしまう。

私はゲーム中では、名前すらないモブキャラ。ヒロインと関わるシーンすら出てこない。


「それにしても他のことは良く覚えているのに、何故ヒロインの名前が思い出せないのかしら……?」


それだけがどうしても謎だった。


だけど私がリオンに関わることも、もうすぐ終わる。

今のリオンはゲームとは違った人生を進んでいる。両親との仲も良く、母親は元気。クラスメイトの仲も良好で人気者。


誕生パーティが終われば、私はこのゲームの舞台から退くだけ。


「大丈夫、誕生パーティーの事件は必ず防いでみせるわ」



――この時の私は、眼の前に迫る誕生パーティーの事件を回避することしか考えていなかった。


これから起こる出来事も……。


何故、ヒロインの名前が思い出せないのか。

何故、リオンは頑なにヒロインから拒絶されていたのかも――




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