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2章31 運命の誕生パーティー ①

 ――5月14日、快晴。


「いよいよ、今日ね……」


鏡の前で、私は自分の姿を見つめた。今日の私の服装は、とても招待客の装いには見えなかった。

長い髪の毛は邪魔にならないように、後ろでひとまとめに結んでいる。

長いドレスでは無く、膝丈のワンピースドレスで余計な装飾は一切ついていない。履いている靴も、おしゃれ用ではなくバレエシューズだ。


これらは、全て今日の誕生会のために自分で用意したものだった。

アンディとザカリーを招いているし、誕生日の会場は屋外で噴水がある中庭。

万全を期してはあるが、万一リオンの魔力暴走で火災が発生した場合は火を消しに奔走しなければならない。

その為には動きやすさが最優先だ。


「さすがに……お呼ばれのドレスとしては貧弱ね」


けれど、リオンはもう私には興味を持っていないのだから構うことは無いだろう。

今日を無事に乗り切れれば、私は両親にリオンから婚約解消を求められていることを報告するつもりだ。

リオンも誕生パーティーが終わった後に両親に相談することになっている。


時計を見ると、そろそろ出発の時間だ。


「行きましょう」


私は自室を後にした――



「まぁ! ユニス! 一体、その姿は何!?」


「ユニス、今日はリオンの誕生パーティなのだろう? 何故、そんな普段着で行くのだ?」


見送りに出てきた両親が私の姿に驚き、以前から考えておいた作り話をすることにした。


「はい。今日はリオンの誕生パーティーで、ちょっとしたレクリエーションが行われるのです。それで動きやすい姿で参加することにしました」


「そうだったのか……それなら仕方ないが……」


「綺麗に着飾って参加できればよいのに」


少し悲しげな両親の姿に申し訳ない気がする。けれど誕生会が終われば、もっと両親を悲しませる話しをしなくてはならない。

こみ上げてくる罪悪感を無理に押し殺し、私は笑顔を作った。


「それでは、お父様。お母様、リオンの誕生パーティーに行ってきます」


「ええ、行ってらっしゃい」

「楽しんでくるといい」


馬車に乗り込み、両親に見送られながら私はリオンの屋敷へ向かった――



****



 馬車に乗って、およそ30分後。私はリオンの屋敷に到着した。


パーティー会場に指定した中庭へ行ってみると、既にSS2クラスの生徒たちが大勢立食テーブルを囲むように集まっていた。

女子生徒たちは、まるでダンスパーティーにでも参加するかのようなドレスを着ているし、男子生徒たちはタキシード姿をしている。


そして、その中でも一番派手なドレスを着ていたのはロザリンだった。彼女のドレスは真っ赤で、不吉な予感がしてしまう。


するとロザリンが私に気付き、態とらしくおおきな声を出した。


「あら、イヤね〜何だか1人場違いな姿をしている人が来ているわ」


「本当だ、見窄らしい格好だ」


「何で、あんな姿で来たのかしら……」


SS2クラスの生徒たちが一斉に白い目を向けてくるも、私は構うこと無くリオンの姿を探した。


リオンは一体何処にいるのだろう? 


「体調に異変をきたしていなければいいけど……」


ハイランド家の中庭はとても広く、SSクラスの生徒たちがあちこちに固まっているので、なかなか見つけることが出来ない。


ひょっとすると今日の主役のリオンは、後から姿を現すのだろうか?


そんな事を考えていると、背後から声をかけられた。


「ユニスッ!」


振り向くと、いつもとは違うスーツ姿のアンディとザカリーが噴水の近くに立っていた。

私は2人の元へ行くと、早速お礼を述べた。


「アンディ、ザカリー。今日はリオンの誕生パーティーに来てくれてありがとう」


するとアンディが笑った。


「変なの。今日はリオンの誕生日なのに、ユニスがお礼を言うなんて」


「そうかしら? でも2人が来てくれたことはとても心強いことだから」


「それより、ユニス。今日はリオンの誕生会なのに……」


ザカリーが途中で言いかけ、アンディに肘でこづかれて口を閉ざす。


「誕生会にふさわしくない格好でしょう? 自分でも分かってるわ。でも、今日はこの姿が一番いいのよ」


「え? どういうことなんだ?」


ザカリーが首を傾げる。


「もしかしてユニスのその姿と、僕たちを呼んだことに何か関係があるのかい?」


アンディが尋ねてきた直後。



一斉に拍手が聞こえ、私達は振り向いた。

するとタキシード姿のリオンとロザリンがSS2クラスの生徒たちに囲まれている様子が目に入った――








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