「僕も和也はワンマン過ぎると思っていたんだ」
さすが腹黒。知ってて教えんとは。たとえ親友相手でも勝つためには
「実際、早見様のクラスは
「うん、だけど清涼院さんのクラスには負けてしまったよね?」
勝利か、そんなに勝利が欲しいのか。いやしんぼめ!
「正直、清涼院さんが出ないなら僕らの優勝は固いって思っていたんだけど」
まあ、早見もけっこう活躍していたし、こやつんとこの他のメンバーも頑張っていたしな。それに比べて清涼院派閥の男子はパッとしない。私が出場しないと知って誰もが我が陣営の敗北を予想していただろう。
「早見様の仰る通りですわね」
「ならどうして和也や僕らは負けたんだろう?」
早見が疑問に思うのも無理なかろう。粗忽と迂闊は清涼院四天王の中でも最弱。我がクラスの面汚しよ。
滝川早見両雄に震え上がるヤツらはさながら狼を前にした羊。羊が狼に勝てる道理はない。だけど、羊の群れを指揮しても勝ちを収める手段が兵法。一頭の狼が率いれば羊の群れも狼の群れに勝るのだ。
うーん、しかしいくら私が聖女のように清らかな心の持ち主でも手札を全部バラすのはちょっとなぁ。かと言って慈母のごとく心の広い私が迷える羊達を見放すのは外聞が悪い。あっ、こいつら迷える狼どもだった。
「早見様はとても面倒見の良い素晴らしい指導者ですわ」
「えっ、ああ、うん、ありがとう」
なに嬉しそうにはにかんでんねん。嫌味のリップサービスに決まっとるやろが。
「ですが、その面倒見の良さが仇となっておられるのですわ」
「教え方が下手ってこと?」
「いいえ、その逆ですわ」
早見は人当たりが良く、教え方も上手いと評判だ。だが、迂闊君からの情報で早見の指導法の穴はもう分かっている。
「早見様は一から十まで全て指示をされておられるのではありませんか?」
「うーん、どうかな?……言われてみるとそうなのかも」
少し考え込んだが、早見にも心当たりがあったようだ。
「全て教えられ学び、逐一指示を受けて練習する。それでは本当の力は身につけられませんわ」
勉強においては分かった気になるだけ、自ら力を伸ばす努力をしない。短期的には良いが、早見のやり方では指示待ち人間ばかりになってまう。
それに自分で考えないから不測の事態にも指示を受けるまで行動できなくなる。体育祭でも予定外の事態に早見から指示をもらおうとしていた生徒がいたらしい。
「滝川様、早見様、お二人に共通しているのは他人を信用していないということですわ」
滝川は他人の能力を信じられないから己でトップを走ろうとする。早見は他人に任せられないから自分で全て指示を出す。
これでは人は育つまい。
その点、私は粗忽君と迂闊君を信じて全てを任せた。えっ、丸投げだっただけじゃないかって?
失礼な。私はあの二人の自主性を重んじたのよ。部下が自分で考え、自分の意思で動く。人の上に立つ者はそう仕向けるように上手く立ち回らねばならない。
「トップは部下に仕事を任せ失敗すれば代わりに責任を負い、成功すれば褒めねばなりません」
責任は上に、功績は下によ。
えっ、負けたら許さんと二人をさんざん脅してたじゃないかって?
あれは愛の鞭よ。
「滝川様も早見様も将来それぞれの会社を背負って立たれるのです。滝川グループも早見グループもご自分の差配だけで経営できるほど小さい企業なのですか?」
「清涼院さんの言う通り、これは耳が痛いなぁ」
「ああ、己の不明を恥じるばかりだ」
ふぅ、なんとか言いくるめたわ。これで来年の体育祭も頂きね。粗忽君、迂闊君、来年も絶対優勝よ。負けたら全責任取ってもらうからね。
責任は上の者が取るんじゃないのかって?
いいのよ、私は別に経営者じゃないもん。
「清涼院、俺はお前を見直したぞ」
「そんな大したものではありませんわ」
「いやいや、清涼院さんの見識には僕も脱帽だよ」
「うふふ、全てお兄様の受け売りですわ」
謙遜、謙遜、褒められるって気持ちええのぉ。もっと褒めて褒めて。
「教えられたからと実践できるものでもあるまい」
「和也の言う通り清涼院さんが凄いんだよ」
「そんな、私なんて」
いやぁ、それほどでもありますけどぉ。ドヤッ。
「これは清涼院から学ぶべきものが多そうだ」
「そうだね。幸いここは
「だな」
ん?
「清涼院の手腕を実際に披露してもらおう」
「いやぁ、会長からお願いされていた件をどうしようか悩んでいたけど」
「適任の清涼院がいて助かったな」
なんだなんだ? いったい何の話をしている?
「会長もそれで良いですよね?」
「そうだね」
そこにヒョイッと登場したのは六年生の現会長さん。
「本当は滝川君か早見君に次期菊花会
ま、まさか!?
「いえいえ、僕らよりも清涼院さんの方が適任ですよ」
キサマァァァ余計なこと言うなぁぁぁ!
「うん、さっきの話を聞いて清涼院さんを推してもいいと思ったよ」
「か、会長、少しお待ちを!」
いやや、いやや!
ぜったいいやや!
役員なんてメンド―なのやりとーない。下手したら来年は会長まで押し付けられるじゃん。
えっ、みんな会長になりたがるんじゃないのかって?
ふつうは大抜擢に浮かれまくるとこなんでしょうね。
でもね、清涼院グループは日本有数の大企業よ。人脈なんて向こうからやってくんの。そんな私に会長職なんて1ミリもメリットがない。
「私にそのような大任は荷が勝ち過ぎますわ」
「大丈夫だ清涼院、お前ならできる!」
「そうそう、僕達も手伝うからさ」
うおぉぉぉ!
こいつらぁ!
滝川家早見家の両グループも清涼院家に並ぶ日本のトップグループ。こいつらも会長職につく名誉なんて不要。ただただ面倒いだけ。
「滝川様や早見様のようなカリスマのあるリーダーこそ菊花会には必要……」
「俺は清涼院の統率力と指導力を信じているぞ!」
「いやぁ、清涼院さんってホントすごいなぁ」
白々しいんだよテメェら。面倒ごと全部私に押し付けるつもりなんやろーが。
「それに清涼院さんは今年は体育祭にも出場せず裏方をしっかりこなしていました」
「確かに彼女の真面目な仕事ぶりと責任感の強さは次期会長にふさわしいですね」
腹黒眼鏡の口車に乗せられないでください会長!
「ここはやはり役員の件は清涼院さんにお願いしましょう」
会長の決定に口の端を釣り上げた早見の眼鏡がキラリと光る。
くっ、やられた!
早見、