「どうしてなんだ、清涼院!」
ハァ……またですか?
「滝川様、騒々しいですわよ」
私は努めて平静を装いながら乱入してきた滝川を
せっかく存在消してひっそりとお茶を楽しんでいたのに。滝川のせいでみんなの視線集めちゃったじゃないのさ。
さっきまで白熱した議論を交わしていた六年生も息を潜めて私と滝川の成り行きを見守ってる。五年生の関心も誰が会長になるかから滝川へと移っちまったよ。
いやん、みんなそんなに私を見ないで。えっ、見てるのは滝川で私じゃないって?
「とにかく落ち着いてお茶でもお召し上がりくださいませ」
「むっ、これは和紅茶か。茶請けに和三盆プリンとは面白い」
お茶とスイーツをゆかりんがすかさず用意すると、滝川の目がキランと光った。滝川にはスイーツを提供しておけば間違いない。こいつの扱い方がだんだん分かってきたぞ。
「上品な甘さが卵の風味を損なわず、それが優しい味わいながら芳醇で厚みのある味わいに仕上げている」
相変わらずの食レポぶりやの。
「それが爽やかな和紅茶と互いに引き立て合い、素晴らしい調和を生んでいる」
「ちなみに使われているのは烏骨鶏卵で、
「ほう、烏骨鶏卵か、それで……」
一つ頷き瀧川は感心して、余計な一言をポツリ。
「さすが食の清涼院だ」
誰が食の清涼院やねん。
風評被害は止めてよね。
まったくもう、周囲からも食の清涼院、食の清涼院って囁く声が聞こえてくるじゃん。
まずい……私のせいで清涼院家が食いしん坊一家にされてまう。なんとしても仁の清涼院を根づかせねば。
私は慈母のごとき女、私は慈母のごとき女、私は慈母のごとき女……
「それでいったい何ですの?」
カップを置くと滝川はかなり思い詰めた表情を私に向けてきた。うーん、聞いてやる義理はないんだが仕方あるまい。
なんせ私は慈しみ深き慈母のごとき女ですからね。さあ滝川よ、この愛深き私になんなりと告白なさい。
「教えてくれ清涼院」
「私にお答えできる事でしたら」
にこっと慈母スマイル。
そんな私はまさに聖女。
「なぜ俺は負けた」
「……まさか体育祭の話ですの?」
「そうだ」
おい、それ先週の話しやないかい!
まさかお前ずっと悩んどったんか!
「だっておかしいだろ」
「何がでございます?」
あたしゃ何も不正はしとらんぞ。
はっ! まさか粗忽と迂闊め、私の知らぬところで不正を!?
妨害工作に審判買収、その他あれやこれやと裏工作。それが発覚し私も関与を疑われ、釈明謝罪会見で記者達から吊るし上げ。
記者A『あなたが指示を出していたんじゃないんですか?』
麗子『そのような事実はございません』
記者B『体育祭で粗忽迂闊の二人を脅していたとの目撃証言もあるんですよ』
麗子『記憶にございません』
これじゃまるで汚職政治家か悪徳企業の社長じゃない。
いぃぃやぁぁぁぁぁ!!
やべぇよやべぇよ、私の清らかな聖女のイメージが壊れちゃうじゃないのさ。まずい、これはなんとしても隠蔽よ!
「俺は全ての出場競技で一位だった。それなのに気づけば清涼院の陣営が優勝していた。瑞樹の陣営にも負けた。俺の何がいけなかったんだ?」
あー、こいつ自分の敗因がまだ理解できてなかったんか。なーんだ、そんなことか。焦って損した。
「どうしてもお知りになりたいですか?」
「ああ、教えてくれ清涼院」
滝川は真っ直ぐ私に真剣な眼差しを向けてくる。うーん、どーしよーかなー。教えてあげよーかなー?
「それが滝川様にとって耳に痛いお話であっても?」
「受け入れるべきことなら素直に聞こう」
本当やな? 怒ったりせんな?
「後で恨んで報復などしないと誓ってくださいますか?」
「無論だ」
「滝川様は
「勝つのはいけないことなのか?」
意味が分からんと滝川が首を捻る。こいつ、こんなんで大企業のリーダーになって社員を引っ張っていけるんかね?
「ご自分が目立ちたいだけなら構いません。ですが、体育祭は一個人の勝利だけでチーム全体の勝利とはならないのがお分かりになりません?」
「だが、俺が勝てば多くの点が入るんだから勝ちやすくなるんじゃないか?」
「滝川様、野球でプロの首位打者を一人だけ入れた小学生のチームとプロの二軍で固めたチームで試合をしたとして、どちらが勝つと思われますか?」
首位打者一人がバンバンホームランを打っても勝ち目はないのは自明の理だ。
「それに滝川様のようなワンマンプレーだと、他の者は滝川様に任せれば良いと依存してしまいます」
「俺がみなの成長を妨げていたのか」
うーむ、と滝川が唸りながら考え込む。
納得できなかったかな?
だけど文句は聞かんぞ?
「なるほど、確かに俺は独りよがりだったのかもしれん。清涼院の話は理解できた」
素直か!
意外だコイツ。もっと反抗してくると思ったのに。
「だが、それでも一つだけ分からない点がある」
おっと、やっぱり難癖つけてくるか?
「瑞樹はクラスメートを鍛えていたと聞いた」
「そうですわね」
「瑞樹の陣営はチームワーク重視だったはず。だが、それでも清涼院には及ばなかったのはなぜだ?」
「それは僕もぜひ聞きたいな」
突然、横から割り込んできた、にこやかに微笑む一人の美少年。
「僕も混ぜてもらって良いかい?」
出たな