――士別れて三日なれば、即ち更に
ご存じ三国志の英雄が一人、知勇に優れし呉の武将
上記の故事成語や呂蒙を知らない人でも『男子三日会わざれば刮目して見よ』なら聞いたことがあるんじゃないかな。
呂蒙はもともと力こそパワーの血気盛んな脳筋だったんだけど、敬愛する主君の孫権から「本くらい読めよ俺の部下にバカはイラン」と
呂蒙は『呉下の阿蒙』と呼ばれるような読み書きもできない武勇一点張りのおバカちゃんだった。それが覚醒してスーパー呂蒙へと大変身。矛を取れば剛力無双、弁をもっては学者を言い負かす。最後には三国志で有名な大英雄関羽を倒して引導を渡したっていうんだから凄いよね。
三国志演義の関羽は忠義に篤く高潔な人物として扱われているから好きな人も多いんじゃないかな。まあ、呂蒙よりも関羽の方が有名で人気があるよね。だけど、驕りたかぶった関羽より、身を改め研鑽を積んだ呂蒙の方こそ人は見習うべきであると私は思う。
こんなふうに覚醒すると人とは変われば変わるものである。
まあ、何が言いたいかつーと滝川が覚醒した。
なんとヤツはスーパー滝川になったのである。
別に髪が逆だったりパツ金になったりしたわけではないぞ。さすがにヤツがそんな危険なマネをしたら全力で止める。
だが、見た目に変化が無くとも滝川は確実に成長した。
いや、外見も変化したか。身長は伸びたし、顔つきも引き締まり、よりイケメンになり外見も君ジャスヒーローに向かって成長しつつはあるぞ。滝川ファンの楓ちゃんが最近キャーキャー騒がしいんじゃ。今日見た滝川のカッコいいとこを逐一報告しにきよる。
「楓さん、毎日のように滝川様の話題ばかりしなくてもよろしいのではなくって?」
ホント止めて欲しい。
「そんな遠慮なさらずとも」
「遠慮などしておりませんわよ?」
にこにこ笑う楓ちゃんに悪意はない。心底、私のためを思っているんだろう。でもな楓ちゃん、君が滝川を大好きだからって他の人も同じと思わんでくれ。
「うふふ、麗子様ったら恥ずかしがって」
「いったい何をおっしゃっているの?」
なんだいったい。どうして滝川以外の話題を要求したら照れていることになるんだ。まったくもってワケワカメ。
だけど、私が小首を傾げていたら、楓ちゃんが分かっておりますと訳知り顔でニマニマ笑いやがる。本格的に意味が分からない。
「麗子様と滝川様はお付き合いされておられるのですから」
なんじゃそりゃあ!?
「ふふふ、私は麗子様は滝川様が一番お似合いだってずっと思っていました」
「くっ、麗子様は早見様と結ばれると信じておりましたのに」
楓ちゃんの勘違いに椿ちゃんが悔しそうにしてる。けど、私は滝川とも早見とも付き合ってもなければ婚約もしてないし、する予定もないからね。
「一体全体どうしてそんな話になっていますの!?」
「えっ、だって麗子様は修学旅行で滝川様から告白されましたよね?」
「はい?」
いつの間に私は滝川から告られてたねん?
「最終日の夜、ホテルのラウンジで滝川様に呼び出されたじゃありませんか」
あの時のことかぁぁぁ!
「二人っきりでとても良いムードだったと噂になっておりますわ」
やっちまったぁぁぁぁぁぁ!!!
考えて見れば、私だって勘違いしてたじゃん。あれを見れば誰だって誤解するよな。
「あれは間違いなく告白シーンだったと目撃した人から噂で広まっているんです」
ええまあ告白されましたとも。お前なんて嫌いだってな。
「二人っきりのラウンジで愛の告白なんて素敵ですわ」
素敵要素まったく無かったがな。ええ、そりゃもうミジンコほどもありはせんかったわ。
どうやら恐くて誰も本人に事実を確認できず憶測ばかりが先行し、学園中に私と滝川はデキてるゥゥゥとデマが広がっているらしい。
楓ちゃんと椿ちゃんにはきちんと説明しておいた。川床行方不明の謝罪に呼び出されたんだと。
二人ともなんか不満そうにしてたが。違うからな。絶対違うからな。私は滝川とラブラブなんかじゃねぇからな。
そこんとこハッキリさせとかんと。滝川と茉莉ちゃんが出会っちまったんだ。これで私が滝川と間違って婚約なんてことになったら断罪イベントまっしぐらじゃねぇか。
なんとしても滝川との婚約だけは阻止よ!
とまあ、こんな感じで絶世の美少女である私と噂になるくらい滝川は大人びた美少年へと成長しちょるんよ。くっ、滝川のくせに生意気だ。
だが、問題は見た目の変化ではない。覚醒したスーパー滝川は中身も急速に大人びてきている。それはもう恐るべきスピードで。
まさに男子三日会わざれば刮目して見よである。
どうやら修学旅行の体験がヤツを一足飛びに大人へと押し上げてしまったらしい。それを私は修学旅行から帰ってすぐの体育祭で思い知らされることとなった。