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#14 旅立ち

暫く走っていると車が急停止した。周囲は依然として真っ暗だ。

「此処に…本部があるんですか?」

「あぁ、そうだ。取り敢えず、此処で待ってろ。連絡を取ってくる」

そうして暫く待ってると先輩が戻って来た。そして…。

「あ、有栖さん?」

其処にいたのは_居ないはずであろう推理の召使こと有栖さんだった。

「(何で彼女が此処に居るの?_って思ったが…推理が言ってたな)」

俺はそう自分の疑問を払拭するように思い返した。

そういえば、連絡をする為に本部へ戻ってると昨日、推理が言っていたと。

「ん?何だ、顔見知りだったのか?紹介する気だったんだが」

「有栖さんは推理の召使なんですよ。先輩も知らなかったんですね」

「え、そうなのか?そうだったら言ってくれたら良かったのに」

「前に説明はしたと思うのですが…?」

「あれ、お前ってそんな口調だっ_」

「弘乙様には説明してませんでしたね。この馬鹿とは同期なんです」

「ゲホッゲホッ_馬鹿って言うなよ、お前」

「ー同期ってことは俺らの1歳上、なんですよね」

「説明足らずで申し訳ありません。残念ですがこの馬鹿との同期は事実です」

「俺の対するヘイトが高くないか…?」

そう突っ込む先輩の声を遮断すると有栖さんは続けた。

「まずは改めて自己紹介を。夜方有栖と申します」

「あ、はい。宜しくお願いします」

そう言うや否や有栖さんは停めてあった車に乗り込んでしまった。

「俺のことを無視するのは良いけど…勝手に乗るのは違うだろ!」

そんな先輩の悲鳴染みた声も華麗に無視される形となった。

「先輩って此・方・側・の女子に余り好かれてないんですね」

「別に何処でも変わんないさ。内面なんて所詮はそんなもんだよ?」

そう溜息を吐きながら先輩も車の中へと入った。

「話は聞きしました。推理様が御迷惑お掛けてして申し訳ありません」

「別に有栖さんが謝ることでは…俺が推理の信頼に値しなかっただけですし」

「瑛都、何も話してないの?」

「俺に対してはその喋り方なんだな。冷たい奴だ」

「当たり前のことを今更に語ってどうするの?やっぱり馬鹿なの?」

「鋭利な言葉を投げて俺のメンタルを傷付けてどうするんだ…」

「これくらいで駄目になる相手じゃないって分かって言ってるから」

腹立つ奴だな…そう愚痴を溢しながら運転する先輩だった。

「推理からの話は聞いてるんですか?」

「はい。其処の馬鹿と差し支えない話までは聞いています」

「何で俺に飛んで来るの?俺、関係なかったよね?」

「そう思うなら黙って傷を舐めてたら?鬱陶しい」

「辛辣だな、おい!」

「ー弘乙様へは推理様からお話すると伺ってたのですが…申し訳ありません」

「別に有栖さんの責任じゃないですよ。疑わないのは当然だと思いますし」

「…そうですか。瑛都、現場まで何分くらい掛かるの?」

「え、そういう流れになるの?…このままなら2、30分程度だと思うけど」

「随分とノロマなのね、この車体。買い換えたらどう?」

「…俺のライフはもう0だけど。それでも死体蹴りをするのか、お前は」

「0?それは瑛都のライフじゃなくて善意でしょう」

「普通にありますけどね!」

そう突っ込む宮乃先輩の声を当たり前のように無視する有栖さんだった。


暫く走った辺りで宮乃先輩が声を掛けた。

「弘乙。取り敢えず、着いたら時ように先に作戦を話しておく」

「まだ話してなかったの?随分と計画性のない頭なのね」

「この毒舌野郎は無視するぞ」

「あ、はい。それで作戦…ってのは?」

「お前は有栖と共に行動しろ。俺はこの車を停めて暫くは単独で動く」

「単独で動くって危険じゃ…」

「瑛都は狙撃は出来る癖に近接は私未満なの。ブレのある爆弾そのものね」

「何で皮肉を込めるんだよ。素直に褒めようという気はないのか?」

「褒める?そうして自惚れて戦死した仲間の枠に入りたいの?」

ジト目を向けた先輩に苦笑しつつも山道に出ていることに気が付いた。

「随分と市街地から離れてるんですね」

「あぁ。相手も馬鹿じゃないからな。それくらいの警戒はするさ」

別に大したことじゃないと。そんな風に肩を竦めた。


ー現場にて。

「そろそろ時間だな」

「何を言ってるんだ?まさか、ボケた。なんて言わせるんじゃないよな?」

「冗談に決まってるだろう。何を本気で言ってるんだ」

「お前がボケたら俺に面倒ごとが回ってくるんだ。当たり前だろう」

「…そうだったな」

隣に座って本を嗜む傑の隣で俺は煙草に火を点けた。

「ふん、その様子を見てるとお前に禁煙は無理そうだな」

「別に構わん。そろそろ辞・め・よ・う・と思ってるのは事実だがな」

「どれだけ頑張っても無理そうなのは目に見えてる_応援はしてるさ」

そう言うと席を立ち去って行った。

「随分と多忙な奴だな。彼奴も。少し休息を与えんと…過労死だな」

そう吐き捨てて煙草の味を嗜むが殆どしない辺り本当に禁煙するべきだろう。

「彼奴も…良く割り切ったものだな。それとも…賭けたのか?」

前者なら策士だろうし後者ならギャンブラーだ。

「老木の俺には分からない話題だし結末は若者に任せるべきだな」

俺が何を言おうが結末は決まっている。

「さて、どう選択するんだ?未来を担う若者は」

無駄に寒い山奥で俺は溜息を吐いた。ー今日は冷えそうだ。


「此処で降りろ」

「手荒な運転、お疲れ様。お陰で気分が悪くなるところだった」

「最後の最後まで皮肉を述べなくて良いんだけどな」

先輩が車を停めると俺と有栖は降り先輩は再び車を走らせた。

深夜なのもあって少し肌寒く感じ体を震わせた。

「大丈夫ですか?弘乙様。寒ければ防寒具をお貸ししますが…」

「まだ、其処までは寒くないし大丈夫だとは思う」

寒いけど有栖さんが平然としてるのに俺が借りるのは釈然とするので断った。

「(有栖さんは気にしないだろうけど…男子としてのプライドが廃れる)」

そうして荷物を背負うと俺と有栖さんは歩き出した。

「意外に思われましたか?」

「え?」

いきなりそう話題を振られて思わず本音を出してしまった。

「彼奴に口調が悪くなってしまうのは昔からなんです」

「昔からってことは…幼馴染だったりするんですか?」

「流石に分かりますよね。そうです、私と彼奴は幼馴染なんです」

「薄々そうだろうなとは思っていました」

言葉で痛ぶられても先輩は嫌そうな感じじゃなかったし。

「(先輩がそういう性癖の可能性もあったけど流石にないしな)」

もし、そうだったら距離を置いていたから良かったまである。

「元々は私が此方側の仕事をしていました」

「そうなんですか?」

「はい。ある事件で大怪我を負った際にバレたんです」

「それで…先輩は手伝うようになったんですか?」

「私には黙ってましたけどね。それで、大喧嘩になりました」

「それだけ、先輩が大事だったってことですよね」

「彼奴には死んでも言えませんが…そうですね。大事な存在です」

「推理もそんな感じ…なんですかね」

「推理様の気持ちの代弁は出来ませんが…きっとそうだと思いますよ」

そう有栖さんは笑みを溢した。

「どうせなら、私の過去も話しましょう。瑛都は言わなそうですし」


私と瑛都の出会いは2歳の時でした。

どう出会ったのかは覚えてませんが普段から遊ぶ仲でした。

そのお陰もあって私たちの両親も仲良くなり家族で遊ぶ仲となりました。

幼少期の私は本当に人見知りで普段から彼の後ろに隠れていたそうです。

だから、幼稚園でも私は彼以外とは遊ばず親も心配したそうです。

それから小学校に入って私たちは仲良くなりました。

小学校も中学校も何時も私は彼の傍に居ました。

そんなある日、私の人生は変わってしまいました。両親が殺されたのです。

理由なんて知らないですし当時の私は泣き叫ぶばかりでした。

そして、その時に出会ったのが刃さん達でした。

そうして私は刃さん達に引き取られる形で中学校を生活しました。

彼には引っ越したと嘘を言って。そんなこと、彼に通じる訳もなく

「何で引っ越したのに住所も両親にも会えないのか」

そう私は幾度なく聞かれました。だから、私は全てを喋ってしまいました。

其処から、彼の生活も変わり学校を休むようになりました。

最初こそ体調を崩してるのだと、そう思ってましたが実際は_。

それから彼は自分の人生を蔑ろにして活動を始めたんです。


「…じゃあ、宮乃先輩がこの活動をしてるのって_」

「恐らく私と私の両親に対する罪滅ぼしだと思います」

宮乃司という男は。自分の人生を賭けてまで自分を助けるのだと。

「私は彼に幾度なく辞めるように言いました」

瑛都が背負う必要はないと。自分の人生を生きて欲しいと。

「(だから…有栖さんは敢えて辛辣に当たってるのか)」

そうしたら…嫌になって辞めてくれるかもしれないと。

でも、彼はそんなことで辞めるような人じゃなかった。

その時、既に彼という人格は完成されていた。

自分の好きなように生きる人生ではない方の人生を選ん


「…私は選択を間違えました。それも取り返しの出来ない大きな過ちを」

「…でも、それで宮乃先輩は嫌なことを言ってないですよね」

「え?」

「俺が宮乃先輩の発言を代弁出来る要素なんて1つもないですけど_」

きっと先輩は今の人生でも楽しんでると思う。

どんな仕事も運動も勉強も。楽しく出来なきゃ長続きなんて絶対に出来ない。

それは、俺の人生の経験上で揺るがない事実でもあった。

大事な師匠が亡くなっても辛い仕事を請け負っても先輩は続けている。

それが縛りなのかもしれないし違うのかもしれない。でも_。

「先輩は楽しんで…少なくとも理由を持って続けてると思います」

「そう、かもしれないですね」

「はい。唯、先輩が縛られてるのなら…解放するのは有栖さん自身です」

その言葉に有栖さんは小さく頷くのだった。

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