親愛なる助手へ
君が今、この手紙を読んでるってことは大体は済んだかな?
其処まで犠牲を出さない計画だったけど…。どう?成功してる?
成功してたら万々歳だし出てたら…その時は傑さん辺りに訴えててよ。
じゃあ、紙の無駄だし早速だけど内容に移るよ。
どうせなら君と私が今の関係性になった話からしようかな。
私と君がちゃんと出会ったのは寂しい放課後だった。覚えてるかな?
私の予想通り教室で小説を読んでいた彼に声を掛けた。
「探偵を御要望のようだね」
その言葉に彼は困惑したような表情を浮かべると栞を挟み本を閉じた。
「どうやら、その言葉は俺に向けられた発言のようだな」
警戒心を見せつつ彼は答えた。当然と言えば当然だし想定済みだった。
何しろ、関係性はこれまでを見ても皆無だった。
「君以外に言ってないように見えるんだけどね。弘乙くん」
「…見えないけど。後、名前で呼ぶのは止めてくれないか?霧切さん」
冷徹な声に私は少し悩んだ。何しろ、私は今から頼み事をしないといけない。
さて、どう話題を振って行くべきか。そう思い悩んでいると声が返ってきた。
「それにしても俺の名前を覚えてるなんてな。興味なんてないと思ってた」
「私は探偵だからね。同じクラスの顔と名前は全て暗記してるのは当然のこと」
探偵、ね…。そう呆れながら栞を挟むと私の方を見た。話はしてくれるらしい。
「様子を見る限り…信じてないね。君も心外だなぁ」
「…自称で探偵を名乗るのも流行るものなんだな。最近は意外なことばかりだ」
君は私を何だと思ってるの?そう呆れながら私は彼の前の席に座った。
「探偵小説読んでる辺り、好きなんでしょ?探偵は」
「そうだな。最も…小説が好きであって君は好きじゃない」
「それはそれは…随分と心にないことを言ってくれるんだね。別に良いけどさ」
ちょっとは傷付いたけどね!まぁ、初対面でこの塩対応だし仕方ないけどさ。
「それで、俺に何の用なんだ?霧切さん」
「…最初に戻るけど、君は探偵を要望してるんでしょ?」
「どうしてそんな結論に至ったんだ?」
その問いに推理だよと私は嘯く。勿論、信用性はないだろうけど構わない。
「俺は暇じゃないんだ。それが例え霧切さんであっても付き合う時間はない」
「…弘乙くん。今日は探偵小説の本を3冊持って来てるでしょ?」
どうせなら実践した方が早いと思い簡単な推理をすることにした。
そも様子に気付いたのか彼も興味を示したらしい。よしよし。
「今、読んでたのは19世紀後半に発表された『四つの署名』でしょ?」
「…そうだな。じゃあ、何に掲載される形で発表された?」
そう切り返してくるけどそんなの私にとって朝飯前のこと。
『リピンコット・マガジン』と即答すると彼も少し唸った様子を見せた。
「勿論。で、後の2冊は最近になって発売されてる探偵小説だよね?」
「そうだ。最も…雰囲気に惹かれただけで変な趣味はない」
恐らく表紙絵に対して言っているんだろうけど私も其処に趣味はない。
「私も片方は読んだよ。探偵に推理させたら駄目ってタイトルの方をね」
「…斬新だよな。タイトルで探偵なのに推理することを否定させるって」
その後も色々な人の情報を披露してあげると彼はやっと折れてくれた。
「…どうやら、自称探偵じゃないようだな」
「じゃあ、自称探偵って言ったことを撤回してくれる?」
取り敢えずは汚名返上をしないとね。私は本物の探偵なんだしさ。
「別に其処に拘る理由はないと思うけど…撤回はするよ」
「うんうん。それで良いんだよ。それで最初に戻るけど…君の要望は?」
探偵たるもの、困ってる彼を助けるのが筋だろう。そう思っていたけど…
「…要望は特にない。敢えて言えば探偵なら未然に事件を解決するべきだと思う」
と彼は要望を話すこともなくあっさり引いてしまった。
「じゃあ、飲んであげるし私の要望を聞いてくれるかな?」
そう私が依・頼・を飲んだことを言うと
「探偵なのに等価交換を求めるんだな。まぁ…聞くだけ聞くけどさ」
と私の欲していた言葉を言ってくれた。
「うん。やっぱり、君は私に相応しいね。よし、決めた。私の助手になってよ」
そう私がずっと本題に出したかった話題を出した途端、彼は怪訝な顔を見せた。
「助手って…何を言ってるんだ?」
「私は探偵だよ?その相方…相棒と言えば助手に決まってるでしょ?」
当たり前のことを言ったつもりなんだけどなぁ。と思っていると
「俺に彼氏役を選ぶなんてな。流石にその選択は止めるべきだと思うぞ」
「別に彼氏役を要望してる訳じゃないんだけど…って待ってよ!」
私がどうこ言う前に彼は荷物をまとめると何時の間にか消えていた。
「何で居なくなるの…」
私の説明が悪かったんだろうけど…。助手になって貰わないと困るのに。
そう悩んだ挙句、彼を尾行することにした。事件の香りもするしね。
彼を見付けるのは案外、簡単だった。
何しろ色々な場所に寄り道するのだ。コンビニだったり本屋だったり…。
そうしてすっかり暗くなっ夜道を歩いていると突然、彼が走り出した。
その様子を見て私が少し歩く速度を上げるとお婆さんと彼の荷物があった。
「(何で荷物を置いて走って行ったんだろう…?)」
何かがあったのは間違いないとして…何が起きたのか。
そう思っているとお婆さんが彼の荷物を持ち出そうとした。
「(…どういうこと?)」
傍から見れば立派な窃盗罪だ。でも、懸念点もあった。
私が此処で出てお婆さんを現行犯逮捕しようと思えば出来る。
でも、お婆さんが彼の身内なら冤罪になってしまう。
冤罪だけは絶対にあってはならない。そうなったら、探偵として失格だ。
取り敢えず、証拠としてスマホカメラに映像として収めた。
「(でも…身内なら何で置いて行くんだろう?)」
夜にお婆さん1人にさせるなんて危険なのに…ってことは_。
「お婆さん。それ、貴方の物じゃないでしょ?」
「えっ?」
お婆さんが驚いた表情をしながら此方を見た。
「…何者、なんだい?アンタは」
声を多少、震わせながらお婆さんはそう質問してきた。
「名前は名乗れないんだけどね。名乗るなら探偵…だよ」
そう私が名乗った時、彼が走って戻ってきた。
「おい、婆さん。俺を騙したな、って…霧切さん?」
「よっ!また会ったね。あ、もう鞄は取り戻してるし感謝してよ?」
私はお婆さんの手から奪った鞄を彼に見せつけてやった。
「もう警察は呼んでるし、勘弁してよね。お婆ちゃん」
「容赦ねぇな、お前。まぁ、当たり前っちゃ当たり前だけどな」
そうして遠くから鳴り響くサイレンを聴きながらその場を後にした。
「まさか、霧切さんに本当に助けられるなんてな」
私は持っていた鞄を彼に手渡すと満更でもないように
「あくまで私は君の要望に応じただけだよ」
そう返した。何故って?そんなの私の欲している答えの為に決まっている。
「それで、私は君の要望に応えてあげたけど…君はどうするつもり?」
「…はぁ。分かった、助手になるよ。助けてくれたお礼としてな」
ようやくだ。頑張った、私!と自分を褒めながらも笑みを溢したのだった。
そうして私と君は探偵と助手の関係性になった。どう、思い出した?
まぁ、私の助手をしている君は全部、覚えてるだろうけど。
それとも覚えてなかったりするのかな?…気にしないでおこう。
最初は余り乗り気じゃなかったのは覚えてるよ。お陰で随分と苦労したよ。
あれから、私と君は探偵と助手として色々なことをしたよね。
君が何処まで覚えているのかは分からないけど、本当に楽しかったんだ。
どうせなら具体的な例を挙げて欲しい?うーん、そうだなぁ。
じゃあ、やっぱり放課後映画だね。君は映画に興味なさそうだったけど。
まぁ、流石に直帰のことだし…覚えてる、よね?