「ねえ、春これ見て? 可愛くない? 春のお母さんに似合いそう」
お母さんからのメッセージを受けて、アタシとつくしは街の小さい雑貨屋さんに移動した。
贈り物を決めるとかそういうわけではないけど、なんとなくつくしが行きたいって言い始めてアタシもそれに乗っかった感じ。
贈り物を選ぶ練習みたいなところ……かもしれない。
どういう意味なのか、自分で言っときながらわからないんだけどね……贈り物を選ぶ練習って……。
「春のお母さんはクールな雰囲気だもんね。ブルー系の色すごい似合うだろうし、本人も好きそう」
「うーん……。確かに似合うのは似合うんだろうけど……どうなんだろ? あんまりお母さんブルー色の私物持ってる印象無いな」
アタシが言うと、つくしは横で「へー」と意外そうにしながら、
「じゃあ、どんな色の私物持ってた? 濃い緑とか?」
「……濃い緑……もあんまりかな。黒系が多かった」
「あー、黒系かぁ~。そう言われてみれば、だね。そこ盲点だったよ」
うんうんと頷きながら納得して、黒色のペン立てを手に取るつくし。
「あ……。それなんかお母さんっぽいかも」
「お、本当に? 何となく黒色だったらこれかなって直感的に選んだんだけど」
「事務仕事とかする時に重宝しそう。お母さん、事務系の仕事してるし」
アタシが小さい時からお母さんは事務系仕事一筋だ。
詳しくどんなことをしてるのかはわからないけど、役所の準正規職員として働いてる。
「えぇ~! ならぴったりじゃん! これもうさっそく買っていいんじゃ――」
と、つくしが興奮気味になってるところで店員さんにジロッと見られてしまった。
声が大き過ぎたみたい。
すみません、と謝って、コソコソッとやり取りを続ける。
「どうする春……? これ、もうここで買っちゃう……?」
買っちゃうって、それはつまりお母さんへの贈り物をもうここで決めちゃうってことだろうか。
いや、まあそれはそうなのか。
わかっておきながらアタシはつくしに問いかけた。そういうことなのか、と。
つくしは頷いて、「ちょっと早いけどね」と苦笑い。
そう。ちょっとまだ早い気もする。
うーん、と軽く宙を見上げて考え、アタシは申し訳ない思いを抱えながら答えを出した。
「もう少しだけ……考えない? せっかくお母さんに渡すんだし、じっくり選んでもいいと思う。時間もあるから」
お金をもう少し持ってたらこれも買って他のモノも、なんてできてただろうけど、高校生のアタシたちにそんな財力は無い。
じっくり選んだ一つを贈りたかった。
お祝いでも何でもなく、ただ年末年始休みとして帰省するだけだけど。
「うん。わかった。春がそう言うならそうしよ。やっぱりここは私よりも春の意見を取り入れた方が喜んでもらえそうだしね」
「……ん。ありがと、つくし。せっかく選んでくれたのに」
「いいのいいの。こうして電車使って遠出して来てるんだし、幸いここは私たちの住んでるとこよりも結構都会だし? まだ時間は全然あるから、色々お店回ろうよ」
つくしが言って、アタシは頷いた。
そう。
ここはアタシたちの住んでる町じゃない。
電車を使ってわざわざ来た都会の街だ。
スマホで調べたらお店なんていくらでも出てくる。
時間もまだ昼の三時だし、今日は土曜日。
明日は日曜で、たとえ夜が遅くなったとしてもあまり問題にはならない。
テストも終わったし。
「よーし、そういうわけで。一応黒系の色が良いってことは把握したから、それ目安にして見ていこっか」
仕切り直すようにしてつくしが言ってくれるけど、アタシはそれに対して微妙な反応をし、小さく首を横に振る。
「……えっと、別にそこは違う気もしてて……」
「ありゃ?」
つくしはガクッと肩を落としながら首を傾げる。
その拍子に髪の毛がサラサラと流れた。綺麗。
「あの、黒が好きっていうのはね、結局アタシの推測でしかなくて……無難な色だから黒系が多かっただけかもしれないし、地味だったら誰にも何も言われないからとか、そういう実用性の面で黒を選んでたのかなとか、そういう想像もしたり……する。うん」
言い終わった瞬間に思った。
すごく面倒なこと言ってるな自分、って。
でも、つくしは嫌そうな顔をせずにアタシと一緒に悩んでくれる。
「あー、なるほどねぇ。そう言われるとそんな感じで色を選んでそうな雰囲気も確かにあるかも。春のお母さん」
「うん。面倒なこと言って本当にごめん。面倒だったらハッキリ言ってもらって大丈夫だから……」
「もー、何を今さら。別に面倒じゃないし、そもそも面倒だって言うんならそこは春の勘違い」
言われて、アタシは遠慮がちに首を傾げる。
勘違いってどういうこと、と。
「人間同士だもん。色々思いはこう、なんていうか交差するし、それによって面倒くさいなー、みたいなことは起こるものなんだよ」
「……かな?」
「うんうん。そういうものそういうもの。私はその辺色々あって最近割り切れたので怖いもの無しです。どんとこい」
胸に手を当てて言うつくし。
確かに色々あった。
あり過ぎるくらいだし、そのあったことすべてが解決したわけじゃない。
問題として残り続けてるけど、それでも、とアタシたちは前を向いてる。
その中でつくしは学んだということなんだろう。
頼もしいな。
安堵からか、アタシは少し笑みを漏らしてしまった。
つくしが首を傾げる。私、面白いこと言ったかな? と。
こっちは手を横に振ってから返す。
「何も言ってないよ。面白いじゃなくて、さすがつくしだな、と思って」
「えー? 何それ? なんかバカにされてる感じがしますよー……?」
ジト目で言ってくるつくしに対し、アタシは「そんなことないよ」と返して、
「これはアタシの本音。色々考えててすごいよ。アタシはうだうだ悩むだけで終わるし」
「むふふっ。確かにそれ言えてる。春は色々悩むだけ悩んで、悩み疲れて終わってそう」
唐突にすっごいバカにされた。
正直その通りで何も言い返せないところだけど、それだとつまらないかなと思って、アタシはわざとムッとした表情でつくしを見やる。
そしたら、つくしは吹き出すようにして笑った。
笑ったところでまた――
「ごほんっ!」
こうやって店員さんに注意される。
再度謝って、からかうようにしてつくしを見ながらクスクス笑った。
つくしは不服そうにしながら、仕返しとばかりにアタシの腕を抱いてくる。
「……!」
密着されると未だにアタシがうろたえることを知ってるから。
本当に性悪だなぁ、と思いつつ、二人並んで店から出た。
出た直後に、つくしはアタシのことをジッと見つめて、
「相変わらず可愛いなぁ、私の春は」
なんて言ってくる。
そのセリフも色々反則。
アタシはつくしに腕を抱かれたまま、一人で顔を手で抑えながら歩きだすのだった。