「さあ、やって来たわよチーム大会! 大会名、<ストーリー・スカイスクレーパーカップ>!! 私達のチームデビュー戦よ!」
ギア・ショップに通った次の日。
ハクト達は、待ち合わせ場所だった次の大会の施設の前に集まっていた。
以前のソロ・トーナメント大会より、施設が少し大きい場所だった。
朝10:00に集まったが、既に何人か観客らしき人が入っていっており、結構大きめの大会らしい。
「ちょっと緊張してくるね。みんな準備は大丈夫かい?」
「準備って言っても、昨日ギア・ショップに寄っただけで、連携とか殆ど出来てないんだけど……」
「あ、オレあれからいくつか新ギア普通に買ったから、手札は十分だぜー」
「まあ、連携に関しては作戦があるから大丈夫でしょう。キテツ君も、試合に合わせてギア付け変えてくれるなら助かるわ」
とりあえず、まずは施設に入りましょう。話はそれからね。
そう言って、カグヤは施設の入り口に向かい始めた。
ハクト達もそれについて行き、初めての施設の中に入っていった。
「はー……おっきい場所。カグヤ、一応今日の大会も初心者用ではあるんだよね?」
「そうよ。チーム戦用の初心者大会。でもマテリアル・ブーツって比較的チーム戦が主流だから、どうしてもこっちのこうが規模が大きくなっちゃうのよね」
「観客もいっぱいいるだろうな、この分だと。よっし、目立つチャンスだぜ!」
「とりあえず、受付の場所は……あ、あそこかい?」
アリスが指を指した方向には、施設の受付台がある場所。そのうちの一部に大会参加者用の受付と書かれている場所があった。
既に何十人か結構並んでいる。恐らく他のチームの参加者達だろう。
「それじゃあ、私達も並びましょうか」
「あ。オレちょっと先に飲み物買ってきたいんだけど、いいか?」
「そう? まあ最低代表一人いればいいから、別にいいわよ。ハクト君達はどうする?」
「俺は一緒に並ぶよ。特にやることもないし」
「あ、ウラシマ君。レモンジュースあったら買ってきて、ペットボトルの。ハイお金」
「お前サラッと人の事パシリにしたな……まあいいけど。一応聞くけど、白兎達は何かいるか?」
「俺はいいや。水持ってきてるし、待合室で多分自販機あると思うし」
「私も今は喉渇いてないからいいわ」
「了解。じゃあ行ってくる」
そう言って、キテツはアリスからお金を受け取って何処かの自販機を探しに行った。
残った3人は、素直に受付の列に並ぼうとする。
「結構並んでるから、列結構グネグネだ。ちょっと最後尾が分かりづらいな……」
「最後尾は……あ、あの人の所じゃないかい?」
「多分そうかも。……すみません、この列大会の受付の列で合ってますか?」
「ん? ああ、そうっショ」
カグヤが最後尾らしき人に確認の為声をかけたら、そんな返事がやってきた。
見た目は180cmは超えていそうな成人男性。ちょっとチャラチャラとした
服装をしており、雰囲気もそれに近い空気を発している。
「お、なんショなんショ?」
「他の参加者ッショ。ここは初めてか?」
「結構時間かかるッショ、この列」
チームメンバーらしき人達も一緒におり、同じ雰囲気の男性が4人前に固まっていた。
各々が言葉を発しながら、ハクト達の方に視線を向けてきた。
高校生になったばかりのハクト達にとっては、背が頭ひとつ分高い成人男性の集団に見られてるというだけで、少し萎縮してしまいそうだ。
「お前ら、圧が凄いっショ。少しは落ち着けって。……悪いな、怖がらせて」
「あ、いえ……ありがとうございます」
話しかけたリーダーらしき人物が、チームメイトに注意をして謝ってきた。
見た目より、話しやすい人物なのかも。そう思ってると……
「……ん? 君ら何処かで……見覚えが……」
「はい?」
「……ナンパですか?」
続けて溢れたリーダーらしき人物のその言葉に、ナンパの常套句? っと思ったハクトが警戒して、カグヤの前にさりげなく割り込んだ。
警戒して集中するために、ウサギパーカーのフードも被り出す。
「いや、そうじゃなくて……ああーッ?!」
「っ!?」
「なんショ!?」
「なんショ!?」
「なんショ!?」
突然リーダー格が大声を上げ、ハクト達はビクッとして、彼のチームメイトも驚き出す。
周りの参加者達もなんだなんだ、と視線を向け始めたが、リーダー格の人がし、失礼……っと頭を下げて、気にしないようにさせていた。
ハクトを見た瞬間に、何かに気付いたようだったが……
「ちょ、ちょいと聞くけど……もしかして、ハクト選手? この間のソロ・トーナメントの参加者の」
「そ、そうですけど……」
「やっぱりッショ!」
こっそり聞くように、屈んで小さな声で質問してきたリーダー格の人。
それにハイと答えると、リーダー格の人は改めてハクトに向き直り……
「──動画を見てファンになりました! 握手してください!」
そう言って、お辞儀と共に握手を求めてきた。
「……って、ええ!?」
「おいおい、まさかハクト選手ッショか?」
「あの空中移動の?」
「スッゲー、生じゃん!」
「あの空中移動の動画を見て、スッゲー憧れたッショ! ここで出会えて光栄だ! スッゲー嬉しい!」
「あ、その、どうも」
狼狽えながらも、ハクトは差し出された手を握手して答えた。
ありがとうッショ、と言いながらリーダー格の人はニッコリお礼を言った。
「俺は猫山飛尾! プレイヤーネーム:Mr.パルクール! よろしくお願いするッショ」
「あ、うん。イナバハクトです、よろしく」
「いやー、まさかこんなところで君に出会うとは、本当驚きッショ!」
握手を解いた後も、興奮が止まないように声を出しているリーダー格の人改め、Mr.パルクールさん。
まさか年上そうな人物が自分のファンだったとは、流石に予想外だったハクトだった。
「へー、人気だね。イナバ君」
「そりゃあ、ハクト君だもの。人気になるのもおかしくないわ」
うんうん、とよく分からない後方理解者ヅラをしているカグヤ達。
ハクトは予想外な状況すぎて、どのような対応をしたらいいかよく分からないようだった。
しかしとりあえず、思ったより悪そうな人たちでは無さそうだと理解は出来た。
「……ところで、Mr.パルクール。Mr.パルクール……こっちも何か聞き覚えがありそうな名ね。何処だったかしら……」
「お! 俺たちは、“パルクール集団”!! “チーム:キャット・タワーズ”ッショ!!」
「パルクール集団……ああ! 私知ってるかも! mootube〈ムーチューブ〉でパルクールの動画流してる集団ね!! なんか最近のオススメ動画に出てたわ!」
「おお! という事は、俺たちの動画を見た事が!?」
「あはは……ゴメンなさい。オススメ動画のタイトルしか見た事なかったです」
「ガクウッ! ショぉー……」
カグヤが聞き覚えのあるチーム、と思ったら、本当に名前だけしか知らないようで肩はずしをくらってしまったMr.パルクール。
それはともかく、相手方も思ったより有名人のようだ。
たまたま撮られた動画で有名になったハクトだったが、Mr.パルクール達はちゃんと自分たちで動画を編集して、キチンと投稿して有名になったしっかり者の集団のようだ。
カグヤの言葉にガクリと項垂れてしまったようだったが、まあいいっショ、と顔を上げた。
「こっちの知名度なんて、今は関係無いっショ! 今回はハクト選手に会えただけで幸運だし! けど気が向いたら動画見てくれたら嬉しいッショ! 最近新しい動画も投稿したし!」
「はい、俺も後で見させてもらいます。……それはそれとして、ここにいるという事はあなた達も今日の大会参加者なんですよね? チーム戦の」
「そうッショ! 俺たち、基本的にパルクール専門のチームなんだけど、マテリアル・ブーツの大会にも最近顔出すようになったんだ! というわけで、まだまだブーツの方は未熟だけど、もし試合で当たったらよろしくッショ!」
「はい、その時はよろしくお願い致します」
Mr.パルクールの言葉に、礼儀正しく受け応えるハクト。
最初の印象とは違って、思った以上に話しやすい人だった。
これなら今日の大会も楽しめそうだな、とハクトは思い……
「──ッチィ! もう大分並んでんじゃねーか! 結構時間かかりそうだぜ……」
「兄ちゃん、仕方ないよぉ」
「“あの人”は確か、後から来るから先にならんどけって言ってたよねぇ」
っと、ハクト達の後ろに新しい人たちが並んできた。
後から来た参加者だろうが、何故か聞き覚えのある声にハクト達はふと後ろを振り返ると……
「……っげ」
「うっわあ……」
「あれ、また君達かい?」
「……はぁっ?! てめぇらは!?」
……そこには、凄く見覚えの合った不良3人組……鮫田三兄弟がいた。
☆★☆
「……うおーい。レモンジュース見当たらねーぞ。いや、缶のはあるけど、ペットボトルタイプがねえ。ったく、後探してないのどこだっけなあ……」
キテツは自動販売機の前に立って、そう呟いていた。
その手には自分の目的だった緑茶のペットボトルを持って、グビッと一口飲む。
どうしたもんかなー、とキテツはボヤく。
今の場所で探した自動販売機は二ヶ所目だった。
しかしそのどちらにも、アリスの希望の品は置いていなかった。
一応アリスもあったらでいいとは言っていたが、あの時の列から考えるとまだ時間はあるだろう。
まあ暇つぶしがわりにもう少し探してもいいかな、とキテツは思っていた。
これで次も見つからなかったら売店でも覗いてみるか、と計画を立てる。
それでもダメだったら、その時は帰ろう。
「ま、ゆっくりでいっか。急いでいるわけでもないし、何か向こうで状況変わったら、スマホに連絡くるだろう。さーてと、後は二階かな……」
そう呟きながら、キテツは階段を上がっていく。
まさか今まさに、ハクト達側でトラブル発生状況とは知らずに。
☆★☆
「──なんでテメェらがこんな所にいやがんだ!?」
「「そうだ、そうだ!!」」
「それはこっちのセリフ!! またお前達か!」
「ここまで来ると、変な縁があるわね……」
不良兄弟達と互いに認識すると、当然のごとく一式触発しかける状況となった。
ブーツは今履いてなくとも、互いに相手がすぐに動いても対応出来るよう構え始める。
「あー……知り合いッショ?」
「悪い意味で、ですね。ちょっと以前絡まれた経験がありまして」
Mr.パルクールの質問に対し、視線を不良達から逸らさず簡潔に説明したハクト。
前回ソロ・トーナメント大会の時の騒動は記憶に新しい。
大会後、カグヤには決勝戦の直前にまた不良兄弟が彼女に絡んでいた事をハクト達は聞いていた。
やはりこいつらは油断出来ない。何してくるか分かったもんじゃない。
「君達、結局以前の施設で処分はされなかったのかい? 僕はちゃんとスタッフさんに報告したし、まさかあれだけやってペナルティ0なんて事は……」
「ああそうだよ!! 俺達暫くあの施設“出禁”だよ! これで満足か!」
「あ、流石に逃げきれなかったんだ。それは安心したよ。……けど、また僕達に絡みにくるのは頂けないな」
「好きで絡みに来たわけじゃねーよ!! テメェらなんかもう顔も見たくなかったわぁッ!!」
切れるように鮫田長男がそう叫ぶ。
どうやらハクト戦、カグヤ戦と経験した結果かなり懲りていたようだ。
しかし、偶然とはいえこうしてまた顔を合わせてしまった。
鮫田長男も苛立ちを隠そうとせず、こちらを睨み付けてくる。
「チィっ! こうなれば仕方ねえ、今度こそ前回のリベンジを……」
「「に、兄ちゃんまたやるの!? 俺達もう嫌だよ!? 特にそこの女にボコボコにされたばかりじゃないか!」」
「悪いが弟達よ!! あのまま舐められっぱなしで終わって溜まるか! あれから新ギアだって手に入れてんだ! 勝つまで止められるか!」
「うわっちゃー……そのガッツだけは認めてあげてもいいけれど、めんどくさいわね」
カグヤは鮫田長男に対して、呆れとある意味尊敬していた。
あれほどボコボコにしたにも関わらず、再度挑んでこようとする勇気だけは認める。
しかしそれはそれとして、カグヤは再度絡まれるのは非常にめんどくさかった。
こうならないようにコテンパンにしたつもりだったのだが、鮫田長男にしては逆効果だったようだ……
「おいおい。ここは大会の受付の列っショ。何が合ったかよく知らないが、大人しくして欲しいッショ」
「あぁっ!? おっさんは黙ってろ、そっちは関係ねえだろが!! 邪魔すんならあんたらもボコってやろうか!?」
「はー、思った以上に狂犬ッショ……ハクト選手、大変そうだなあ」
Mr.パルクールが大人の対応しようとしたら、そっちにまで牙を向け始めた鮫田長男。
殺気を向けられたMr.パルクールは、しかし大人の余裕か軽く流して、ハクト達が苦労してただろう出来事に思考を伸ばす。
その余裕そうな態度が癪に障ったのか、より鮫田長男の怒りが溜まっていそうで。
流石に見かねたハクトが声を掛ける。
「……いい加減にしなよ。この列に並んでるって事は、そっちも今日の大会参加者なんでしょ。今度は試合で相手してあげるから、それまで待ってなよ」
「あぁ!? 試合なんて待つまでもねえ、今この場でやってやるよ!」
「兄ちゃん、それは不味いって!? この間、“あの人”に怒られたばかりだし!」
「それにもう来るよあの人! こんな場面見られたら……」
「──見られたら。なんですの?」
「「「っ?!」」」
その聞こえた声に、不良兄弟はビクッと肩を震わせる。
ハクト達は、その声を出した人物の方に視線を向けると……
「……あれ? あなたは」
「……お久しぶりですわ。カグヤ選手。この間の試合以来ですわね」
ソロトーナメントでカグヤと争った、ヒメノ選手がそこに立っていた。
☆★☆
「レモンジュースペットボトル見つかんねえええー!! もうグレープフルーツペットボトルでいいかなあ!? ダメ!? ダメだよなあ! もうこの際全部探してみようかな、ふふふ逆に楽しくなってきたなあ!」
☆★☆
「……で、これはどういうわけですの?」
ヒメノがそう質問する。
腰に手を当てて、いかにもご立腹、と言った感じだ。
その質問に、カグヤはちょっと悩みながら答えようとする。
「えっと、これわね……」
「いいえ。そちらに聞いているわけではありませんの」
が、その返事を遮ってヒメノは、鮫田長男に対して向き直る。
「あなた方に聞いてるんですの、鮫田バカ3兄弟」
「いや、これはぁ、その……」
そう問いかけられた鮫田長男は、先程までの態度を一転させてかなり狼狽えていた。
弟二人も必死に彼女から目線を逸らそうとしている。
「言い訳があるなら、おっしゃいなさいな」
「これは、その。あ、アイツらが絡んで来て……」
「……本当に? ワタクシの目を見てもう一度言えます?」
「いや、その。……へへえ……」
「へえ、凄い。彼等をちょっと声を掛けただけで、そこまで大人しくさせるなんて」
「……もしかして、知り合い?」
ただ静かに、鮫田兄弟に問い詰め続けるヒメノに対して、アリスがその光景を見て感心する。
ふと、元から知人の可能性に思い至ったハクトがそう質問した。
「まあ、そうですわね。一応、この喧嘩っ早い馬鹿どもは、“私のチームメイトですの”」
「え、そうなの!? 意外ね!」
ハクト達に向き直ったヒメノは、そう説明する。
カグヤは、彼女のお嬢様的なイメージに合わないチームメイトに驚いていた。
「あと、聞きましたわ。今回の事だけでなく、前回のソロ・トーナメントの最中、この3人があなた達に対して問題を起こした事……」
そう言ったあと、ヒメノはハクト達に向かって……頭を下げた。
「ウチの三馬鹿が大変ご迷惑をかけたそうで。ワタクシが手綱を握っていなかったばかりに……大変申し訳ありませんでしたわ」
「え、あ、はい。えっと……」
「ほら、あなた達も頭を下げなさいな!!」
「グエェっ!?」
「「へ、へい!」」
ヒメノが誤ったあと、鮫田長男達に対しても無理やり頭を下げさせて、誤らせようとする。
まるで親が子供に謝るよう、躾けているようだ。
「な、何で俺が……」
「アアン?」
「す、すいませんでした……」
「えっと……ヒメノ選手、だったっけ。本当にその不良兄弟とチームメイトなの?」
「ええ、恥ずかしながらそうですの。全く、私が目を離したばっかりに……」
「はい質問! そのメンバーでチーム組んだ切っ掛けって何なのでしょうか! 正直あなたと一緒にチーム組む理由が無いと思うのだけれど!」
「単純に、同じ高校の生徒だからですわ。ちょっと学校で関わりがあって……」
「同じ高校?」
お嬢様のような態度のわりには、不良兄弟とチームメイトだったり、かと思えば礼儀正しかったりと、ヒメノに対してのイメージがコロコロ変わる印象だった。
更に、同じ高校? そのセリフにハクト達は揃って疑問符を上げた。
どう考えても、お嬢様口調の少女と不良達が一緒に学校通うなんて、あまり想像出来ないが……
「まあ、ワタクシもマテリアル・ブーツの大会などに出たくて、数合わせの為に彼らに頼んでいる節があるのですけれど……他の参加者にご迷惑掛けていたのは大変申し訳ありませんでしたわ」
「はあ、それはどうも……」
「こいつらには、ワタクシからキッチリ説教致しますので、今後同じような事は起こらせないようにしますわ。後、それはそれとして今日の試合は……」
「──ただいまー! いやー、やっとレモンジュース見つけたぜ!」
ヒメノが言葉を続けようとした時、そのような声が聞こえてくる。
丁度キテツが戻ってきたようだ。
──あれ? 確かキテツって彼女に……
……以前のソロ・トーナメント3位決定戦。
その時の光景を、ハクトとアリスは今思い出していた。
そっと、ヒメノの方に視線を向けると……
「────────」
「「っ!」」
感情の抜け落ちたような表情で、キテツを見ていた。
あまりにも無表情と言えるそれにハクトとアリスはビクッと驚く。
「──彼、あなた達のチームメイトですの?」
「ん? そうよ、ウラシマキテツ君。私のチームメイト!」
「卯月、誰と話して……ッゲ!?」
当時は不良達と戦っていたカグヤは直ぐには気付かない。正直に同じチームと話した。
後からやってきたキテツは、会話している相手がこの間自分がしでかしてしまった相手だと、今気づく。
「……別に、前言は撤回致しませんわ。内の馬鹿どもがあなた達に迷惑をかけたのは事実。謝ったのも本心です」
ですが……と、言葉を続ける。
「──それはそれとして。今日の試合、手は抜かずに全力で行きますので。覚悟なさって下さいまし。……特に、そこの男」
「ん? ……ええ! 分かったわ!」
無表情のまま、けれど殺意が少しだけ感じ取られるその宣言を放つ。
カグヤも多少違和感を感じていたが、試合自体は本気で戦う事を素直に了承していた。
側から聞いていたキテツは、冷や汗をかけながら……
「……す、すんませんっしたああああああああッ!!!」
咄嗟に90度のお辞儀をヒメノに対してした。
事情を把握出来てないカグヤは、突然のキテツの行動の意味が分からない。
「ふふふ、謝らなくて結構ですわ。……許すつもり、一切ありませんので。──泣く準備をしていて下さいましね」
笑った表情に変わり、しかし言ってる事は一切笑えず。
ただ静かに、ハクト達のチーム……もとい、キテツに対してそう言い切ったヒメノだった。
「……おーい。ハクト選手達、そろそろ受付の番。準備しといた方がいいッショ」
Mr.パルクールが話が纏まった丁度直後に、そう声を掛けてきた。
こうして、波乱の予感を滲ませながら、受付の準備を終わらせて行った……