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第6話 ムーンラビット初試合!

「ダイリ隊長! “こちらの世界”の戦いは楽勝ですね」

「うむ。そうだな」


 フードを被った軍団の内、二人がそう会話する。

 今日のチーム大会に参加して、先程1回戦を難なく突破したチームだった。

 既に2回戦の戦闘開始のブザーはなっていたが、それなのに悠長に会話を続けているのは余裕が感じられた。


 しかし会話の内容がもし他人に聞こえていたら、何かがおかしい話をしている、と思われるだろう。


「隊長から、この世界の戦闘力を測ってこいと言われた時はどうしようかと思いましたが……直ぐ近くに、こんな闘技場みたいな出し物があって、しかも簡単に参加出来るなんてびっくりですね」

「ああ。ブーツとギアとやらの技術は驚いたが……こうもあっさり我々にも手に入れることが出来て、簡単に扱えるとは。まるで我らに力を簡単に差し出しているようにも思えたぞ」

「突貫とはいえ、調査した甲斐はありましたね。【ファイアボール】とかいうやつは、事前に大量入手して起きました。しかも最近、このギアは凄く強いと話題になっているそうです」

「入手タイミングが良かったな。ククク……まるで運命が我らに味方してくれているようではないか!」


 フードの軍団達は、そう笑い声を上げる。

 自分達は、仮にも“軍”の所属だ。

 そのプライドと経験はあるとは言え、一回戦の時もあっさり勝利した結果から、拍子抜けだった。


 こちらの世界の“軍”と言えそうなものはまだ出会っていないが、闘技場みたいな場所でこの程度のレベルなら、それほど強くはないだろうと評価を下していた。


「しかも、今度の相手はなんだ? 白いウサギのような服を着た男ではないか。まるでこれから戦う戦士とは思えぬ装いだな」

「しかも、女を連れておりますよ。本当に戦いに来てるんですかね」

「ま、我らの世界にも強い能力を持った女性はいたが……そんな雰囲気では無いな。先程と同様に、さっさと終わらせるか」


 そうマジック連合4人が固まっていると、遠く離れた位置から例の女が、少し走ってから思いっきり片足を振り上げている様子が見えた。

 他の男3人は姿が見えない、恐らく既に移動したのだろう。


「む、ダイリ隊長。何か向こうが撃って来そうですよ。女一人で向かって来ますが、バカなんでしょうかね向こう」

「慌てるな。せいぜい先ほどの試合の時のように、水球など撃ってくる程度だろう。寧ろ警戒すべきは、消えた他の男3人だ。側面から襲われないように注意しろ!」

「了解……あれ? ダイリ隊長、あの女の方から何も飛んでこないですね? なんか足元に変な赤い道っぽいのが引かれましたけど」

「ん? なん……」


 ──直後、マジック連合4人が炎に包まれた。


「「「「ぎゃあああああああッ?!!」」」」


 数秒後、炎の壁が消えた。

 マジック連合達は混乱したまま、しかし何とか状況整理しようと会話する。


「い、一体何が……!?」

「ダイリ隊長! 今のは向こうの女が撃った攻撃では!?」

「バカを言うな!? 攻撃の規模が違いすぎるだろう、一人で使える火力では無いはずだ!!」


 このマジック連合、致命的な勘違いをしていた。

 ギアは火力、効果も含め千差万別。

 そしてマジック連合が知っているのは【ファイアボール】を基準とした、それ程度の前後のギアで、それくらいしか見たこと無かったと言う事を。


「くそ、何かカラクリがある筈だ!! あの火力を出せた、何か特殊な方法が! ……そうだ、他の男3人! 近くにいるか!? あいつらが何か仕掛けたのかもしれん!」

「いいえ、見つかりません! あ、そう言えばダイリ隊長! 直前に足元に赤い道みたいなのが引かれていませんでしたか! ほら、今のこの足元みたいに!」

「ああ成る程! 確かにそんな赤い道が……」


 ──直後、マジック連合4人がまた炎に包まれたのは言うまでも無い。


「「「「ぎゃああああああああああッ?!!」」」」


 ☆★☆


「──嘘でしょ? 【ヒートライン】2回とも全員に当たったわよ。1発目も挨拶がわりのつもりだったのに……」


 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:14分20秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:1000

 rank:2

 スロット1:バランサー (残りE:-)

 スロット2:────

 スロット3:────

 スロット4:────


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:1000

 rank:2

 スロット1:────

 スロット2:ヒートライン  (残りE: 2 → 0/2 残りCT: 3/3)

 スロット3:────

 スロット4:────


 プレイヤー3:アリス

 残HP:1000

 rank:2

 スロット1:────

 スロット2:────

 スロット3:────

 スロット4:────


 プレイヤー4:キテツ

 残HP:1000

 rank:2

 スロット1:────

 スロット2:────

 スロット3:────

 スロット4:────


 VS


 プレイヤー5:ダイリ隊長

 残HP:1000 → 750 → 520

 rank:1


 プレイヤー6:アイン

 残HP:1000 → 719 → 512

 rank:1


 プレイヤー7:ツヴァイ

 残HP:1000 → 721 → 510

 rank:1


 プレイヤー8:ドライ

 残HP:1000 → 720 → 509

 rank:1


 ==============



 カグヤは自分で作ったこの成果に、逆に驚いていた。

 確かに【ヒートライン】は強い。ソロ・トーナメントでもハクト戦で使用したが、本来は対複数人用の範囲攻撃のギアだ。

 だから今回の状況のような相手チームが固まっているような場所に打ち込むと、非常にダメージ効率が良い。良いのだが……


 正直、相手へ牽制も崩しもしていない状態で撃つこれは、そこまで回避が難しい攻撃では無かった。

 特に今回は、発動者が隠れてもいない堂々とした真正面での撃ち方で。

 だから試しに、相手の陣形を崩せたらいいな程度の、軽い気持ちで撃っただけなのだが……


 まさかこんなあっさり決まるとは思ってもいなかった。

 しかも二回も。


「1発目は効果知らなかったとしても、2発目も避けるそぶりも無かったわよね。固まってて何やってたんだろ、向こう」


 1発目を撃った後、流石に散開でもして逃げ出すかと思ったら、寧ろより固まって周囲を警戒しだしていた。撃った張本人であるカグヤを無視して。

 だからふと、試しに2発目を撃ったのだがまさかの二つ目もクリーンヒット。

 相手チームのHPが全員半分になってしまった。なんで? 


 流石に何かの作戦かしら? っと、逆にカグヤは警戒して少し足が止まる。

 まさかカグヤが放った攻撃では無く、隠れたハクト達の攻撃だと思って警戒しだしていたとは流石にカグヤも気付かなかった。


 ……それはともかく、これからどうするかカグヤは考える。

 今回のフィールドは、ソロ・トーナメントの時と比べて、2倍近くの広さがある。

 この距離だと、【ヒートライン】を除いて相手チームに攻撃が届くギアをカグヤは持っていなかった。【ファイアボール】を使うにしてももう少し近づくか、“アクセル・スピン”で飛距離を伸ばさないと届かない。


 だからカグヤは、相手チームに近づいたほうがいいと冷静に考えるが……


「……まあいっか。【ヒートライン】回復するまで大人しく待ってましょう」


 カグヤは敢えて、この場で待機を選択。

 既にハクト達が、大回りで相手に攻め込んでいる最中。

 無理して自分が行動するより、頼れる前衛に任せるのもチームの形の一つだと、カグヤは考えた。


 それに、元々好きに動いていいとハクト達に先程頼んだばかり。

 カグヤが動くのは、ハクト達の動きを見てからでも遅くはない筈と判断した。

 敵がカグヤを狙ってくるなら、それはそれで良し。恐らくその背後からハクト達がせめてくれる筈。どちらにしても、問題は無かった。


「さあ……楽しくなって来たわね!」


 ハクト達はどう動くか。

 カグヤはそう、ワクワクを隠しきれない声で呟いた。



 ☆★☆


「く、くそう! 一体なんだってんだ!?」

「ダイリ隊長! やはりあの女の攻撃では!?」

「信じられん……が、このままこの場にいるのも不味いか! 全員、あそこに隠れろ!!」

「「「了解!!」」」


 ダイリ隊長の指示で、今更だがブロックの壁裏に隠れる事にしたフード4人組。

 少し待機して、3回目の炎の攻撃が湧いてこない事に一安心する。


「ダイリ隊長! ここからどう致しますか?」

「まだ男3人の姿が見えていない! 奴らの姿が見えたら、一気に集中攻撃だ! 最初に見えた相手が一人なら【ファイアボール】、二人以上なら【バースト・ファイアボール】を使え!!」


 ダイリ隊長は、そうあらかじめ行動の指示を出す。

 自分たちの強みは、敵一人に対しての4人がかりの集中攻撃だ。

 これを繰り返して、相手チームを一人ずつ倒していけば容易い、そう考えていた。


「もし、男3人が姿を表さなかったらどう致しますか?」

「その可能性は低いが……もし暫く待って出てこなかったら、まずはあそこの女を狙うぞ! 念の為、壁に隠れ続けるように移動して近づけ!」


 ダイリ隊長は、直接あの女に見えるように姿を見せなければ、ひとまず大丈夫だと判断。

 ある程度近づけたなら、自分たちには“ある技術”がある。

 それを使えば、一方的にあの女を攻撃し続けられる自信があった。


 だからまずは、他の男3人……まだ姿が見えない、不気味なメンバーを警戒していた。


「横を注意しろ。背後もだ、大きく回り込んでくるかもしれんからな。この壁の真後ろに既にいるかもしれんから注意しろ」

「了解。まだ近くにはいないようですが……」


 ダイリ隊長が自分たちが隠れているブロックを中心として、周囲を警戒する。

 ブロックが複数あるとは言え、規則正しく並んでいる状態なら視界は十分良い。


 横方面、OK。

 背後、問題無し。

 ブロックの反対側を覗き込む。……まだ誰もいない。


「全方面、良しです!」

「そうか……いや待て!? このブロックの上は!?」

「っは!? 確認します!」


 隠れているブロックの高さは、2.5m程。登ってやれないことも無い高さ。

 部下の一人がよっとよじ登るように、伸ばした腕を縮ませてブロックの上側を覗き込むと……誰もいない。


「誰もいません! 他のブロックの上にもです!」

「そ、そうか……いや、本当にどこにいるんだ? どこからくるんだ?」


 部下の報告に、ダイリ隊長は安心するとともに、逆に疑問を深める。

 本当に相手が近づいてくる様子は無い。一体どこから? 


 横も、後ろも、反対側も、壁の上も確認した。じゃあ何処に……


 ──そう思っている彼らの、“空”から何かが降ってくる。


 ズドォンッ!! 


「うごぁあっ?!」

「……は?」


 ダイリ隊長は、一体何が起こったのか一瞬よく分からなかった。

 空から降って来た何かが、ダイリ隊長自身にぶち当たった。

 その何かとは、白いウサギの格好をした……


「“ラビット・スタンプ”。次」

「──っ敵だぁ!?」

「ダイリ隊長ぉ!?」

「何処からやって来た!?」


 ハクトの姿を確認した後、部下達は大混乱した。

 一瞬の内に、ダイリ隊長が潰されてしまったのだから。


 そしてその混乱を見逃すハクトでは無かった。


「と、とにかく離れろ! 距離を取って攻撃を……」

「【インパクト】!!」

「グフううううっ────?!」

「ア、アインーっ!?」


 比較的立て直しが早かった一人を、まず通常の【インパクト】で蹴り飛ばしたハクト。

 その方向は、マジック連合から見てカグヤのいる場所を真正面と捉えると、フィールドの右方向へ。


「だ、ダイリ隊長から離れろ! 【ファイアー」

「“クイック・ラビット”!!」

「ぐガァ?!」

「からの、【インパクト】!!」

「ツ、ツヴァイーっ!?」


 攻撃を行おうとした二人目を、得意技で発動を無効化。

 そこからは先程と同様に、【インパクト】で離れた所に蹴り飛ばす。

 今度は、先程と反対側のフィールドの左方向へ。


「く、くそお!」


 3人目は背中が見えるのも構わず、ハクトからとにかく距離を取ろうとそこから走り出した。

 とにかく接近されては、あの変なギアで吹っ飛ばされる。

 攻撃の邪魔されない距離で、一方的にギアを発動せねば、と。


「逃げるの手伝おっか?」

「んなあ!?」

「はい、【インパクト】!!」

「グヘえええ────?!」

「ド、ドライーっ!?」


 しかし、逃げ出した3人目はハクトに簡単に回り込まれ、一人目二人目同様蹴り飛ばされてしまっていた。

 方角は、フィールドの真正面へ。


 これでマジック連合は3人別々の方角へ飛ばされてしまった。

 飛ばされていないダイリ隊長も含めると、全員バラバラだ。


「さてと。あとはあなただけだね」

「き、貴様よくも部下達を……!」


 スタンプの影響から立て直したダイリ隊長が、ハクトに向き直る。

 苦味を感じるような表情だったが、すぐに不適の笑みに変わっていた。


「ふっ。しかし部下達を吹っ飛ばしたのはある意味失敗だったな! 我らは全員遠距離攻撃のギアを持っている! 貴様が吹っ飛ばした3方向から、部下達は貴様を狙い澄ますだろう! この集中砲火、簡単に対処出来ると思うな!」

「……まあ確かに。バラバラの方向から撃ちまくって襲われながら、目の前のあなたに集中するのは難しいかもしれないけど」

「ほう、分かっているではないか」

「けどさ。そっちも分かってる?」

「む?」


「俺が吹っ飛ばした方向に、意味が無かったと思ってる? ……これはチーム戦でしょ」

「っは!?」


 そう、ハクトが蹴り飛ばした方向は3方向。

 それぞれの先には……


 ☆★☆


「さすがイナバ君。事前打ち合わせピッタリだね」


 フィールドの右側。

 そこのブロックの影からアリスが姿を現した。

 ハクトが一人目を飛ばす【インパクト】を発動した瞬間に合わせ、落下地点に出て来たのだ。


 吹っ飛ばされているフードの対戦相手はまだ気づけていない様子。

 今の内に全力で攻撃を叩き込む準備をしないと。


「スロット1、【ロング・ソード】起動。スロット2、【ショート・ソード】起動」


 ==============

 プレイヤー2:アリス

 スロット1:ロング・ソード (残りE:3/3 ★適応中★)

 スロット2:ショート・ソード (残りE:3/3 ★適応中★)

 ==============


 左足に【ロング・ソード】、右足に【ショート・ソード】を展開しておく。

 正直アリスは"フォーム・クイックチェンジ”で事前展開しておく必要性はあまり無いが、吹っ飛んでくる相手のタイミングを合わせる為、やりやすい方を選択していた。


 敵がもうすぐ接近する。

 タイミングを見計らって、左足を振り抜く! 


「まずは、“ロング・エッジ”!!」

「ぐうっ!? 貴様は!?」


 吹っ飛んできた敵を切り上げるように、長剣で切ったアリス。

 相手の吹っ飛んできた衝撃を殺すため、敢えて一撃の重さに込めた方の技を使っていた。


 しかし、衝撃が止まって一瞬空中に浮かんだ敵には、もう遠慮する事は無い。


「右足、“二連斬”!! 二連続!」

「ぐがあっ?!」


 右足の短剣で、遠慮無く連続切りを喰らわしていく。

 まだ宙に浮いたままだった相手のHPはどんどん減っていった。


「く、くそう! 【ファイアボール】!!」

「“ディフェンス・エッジ”! 悪いね!」

「なあ?!」


 地面に落ちたアインが転がりながらアリスから距離をとり、火球を放つ。

 その攻撃をアリスはなんて事ないように切り捨てる。

 まさか火球が切り捨てられるとは思わなかったアインは驚愕の声を出していた。


「まだまだいくよ! “ロング・エッジ”!! もう一度、“ロング・エッジ”!!」

「ぐっ、がっ!?」


 距離を取ろうとしたアイン相手にアリスは一瞬で接近して、長剣で斬りつける。

 斬り付けられたアインはまた距離を取ろうとして、再度近づかれたアリスに切りつけられる。


 そしてまたアインは逃げ出そうとする。

 それがアリスの狙いとは知らずに。


 アインが逃げ出そうとした方角は、先程マジック連合が固まっていた場所……


 ==============

 プレイヤー6:アイン

 残HP:512 → → → 210

 rank:1

 ==============


 ☆★☆


「よっしゃあ! オレの番だぜ!!」


 フィールドの左側。

 今度はそちらのブロックの影から、キテツが姿を現した。


 二人目のフードが吹っ飛んできたのに合わせて、ギアを準備する。


「装着1、【メタルボディ】! 装着2、【パワー・バフ】開始!」


 ==============

 プレイヤー4:キテツ

 スロット1:メタルボディ (残りE:3/3 ★適応中★)

 スロット2:パワー・バフ (残りE:3/3 ★適応中★)

 ==============


 2種類の肉体強化ギアを展開する。

 鋼鉄のような体と、それを支える強靭な筋力を身につけた。

 例え素手であっても、その肉体から放たれるパンチは強大になる! 


「全力! “鉄拳”!」

「げへえ?!」


 おらあ! っと掛け声を出しながら振り抜かれるパンチ。

 吹っ飛んできたツヴァイは背中越しにダメージを受け、口から唾が飛び出す。

 そして、まだツヴァイの体は地面に落ち切っていない! 


「まだまだ! “鉄拳”! “鉄拳”! また“鉄拳”!」

「ぐっ、げっ、ばあ!?」


 相手の体が落ち切る前に、更にパンチを連打する。

 アッパーカットを連打するように、拳をしたから救い上げるように放つ事で、相手を地面に落とさず連続攻撃だ。


「ぜえーいっ!!」

「ぐはあ!」


 フィニッシュブローとばかりに、最後に一番力を込めて拳を振り抜く。

 殴られた相手はそこそこ吹っ飛び、やや離れた位置に倒れる。


「あ、しまった。調子に乗って中途半端に吹っ飛ばしちまった。こっちの攻撃届かねえのに」

「き、貴様あ! 【ファイアボール】!!」


 うっかりうっかり、と手を頭に添える亀鉄を他所に、倒れたツヴァイが立ち上がり、キテツに向かって仕返しとばかりに攻撃する。

 火球はそのままキテツに向かって飛ばされ、確実にヒットする……


「っぶ!?」

「フフフ……」

「あっちー……やっぱちょっと熱いな、直接当たると」

「っ!?」


 が、ヒットしたキテツは多少痛がるように立ち振る舞うが、実際はそれほどダメージがないように見える。

 メタルボディ適応中は防御力もアップする。例え炎であってもある程度ダメージの軽減が可能だった。


「さ、て、と……」

「ファ、【ファイアボール】!! 【ファイアボール】!!」


 ツヴァイは慌てたように火球を連発するが、キテツにヒットし続けても本人はそれほど聞いていない。


 どころか、キテツは火球を食いながらもツヴァイに向かって走り出して来た!! 

 キテツを止めることも出来ず、ツヴァイは一気に距離を詰められる。


「つーかまーえた♪」

「っ!?」

「“陸亀大車輪”!! おおおあああっ!!」

「なあああああああ?!!」


 ガンッ! ガンッ!! 


 両足を掴まれたツヴァイは、そのままキテツにジャイアントスイングされ始める。

 しかも、すぐ近くにブロックがあるため、回転の半径上そこにツヴァイの頭がガンガン当たる。

 回転し続ければし続けるほど、頭を壁にぶつけて大ダメージだ!! 


「ぐうぅ!! ならば、このまま【ファイア……」

「ぶっ飛べええええええ!!」

「ああああああああ?!!」


 しかしキテツは、ある程度回転速度が加わるとそのままツヴァイを投げ飛ばす。

 そのせいで、回転中に反撃しようとしたツヴァイの思惑は崩れてしまった。


 ツヴァイが投げ飛ばされた方角は、先程マジック連合が固まっていた場所……



 ==============

 プレイヤー7:ツヴァイ

 残HP:510 → → → 205

 rank:1

 ==============



 ☆★☆



「なるほど、ハクト君そういう事ね。分かったわ」


 フィールドの真正面。

 開始の位置からそれほど動いていないカグヤが、吹っ飛んでいる3人目のドライを見てそう頷いた。


 ハクトの狙いは分かった。相手の陣形をバラバラにして、それぞれの方角にいる仲間に各個撃破してもらおうという事なのだろう。

 先程も、カグヤから見て左右の方向に対戦相手が一人ずつ吹っ飛んでいたのが見えていたので、大体合っている筈だ。


 つまり、カグヤは今吹っ飛んできている相手を倒せばいいわけだ。


「そうと分かれば、遠慮は要らないわ! マジック! 【ファイアボール】!」


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 スロット1:ファイアボール(残りE:10/10)

 スロット2:ヒートライン(残りCT:1/3)

 ==============


 やることが分かったカグヤは、片足を吹っ飛んできているドライに向かって構える。

 体勢が崩れている相手からの反撃の心配もない、出せる全力を注ぎ込む! 


「“ファイアボール・ガトリング”!! 全弾発射!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴウッ!!! 


「ぐああああああああ!?」


 落下してくる相手に対して、【ファイアボール】10発全て綺麗に叩き込む。

 ハクトに使った上位技の火球シリーズもあったが、回避される心配のない相手なら、ただ相手に向かって真っ直ぐ連打するガトリングで十分だった。


 全ての攻撃を叩き込まれた相手は、300越えのダメージを喰らっただろう。

 そのまま相手は地面に落下したが、すかさず体制を整えてカグヤに向き直った。


「貴様あ!! 【ファイアボール】!! 【ファイアボール】!! 【ファイアボール】!!!」

「おっとと」


 ドライがギアを連発して、カグヤに火球を連発して放って来たが、連射速度も先程のカグヤの攻撃に比べればお粗末だった。

 カグヤは落ち着いて、1発ずつその場でステップして回避し続ける。


「当たらないわね!」

「……」ニヤッ

「あと……」

「?」


「──折角“戻ってくる火球”を放ったんだから、気付かれないようにもう少し撃ち続けるべきだったわね」

「んな!?」


 カグヤは顔をドライの方を向いたまま、その場でステップを続けて“彼女の後ろから”襲ってくる火球を回避し続けた。

【ファイアボール】は、カグヤもよく使うメインギアの一つ。ドライが放った火球に何か仕掛けがある事はひと目見て違和感に気付いていた。

 カグヤが躱しても一切慌てないようがない分、恐らく攻撃が終わってない事はすぐに予想が付いた。


 カグヤも戻ってくる火球を習得したのは、ハクト戦の途中だった。

 恐らく火球の操作技術という点では、目の前の相手は少し前のカグヤより上だったのだろう。

 そういう意味では、強敵になり得た相手だ。

 まあ、だからと言って今負けるという話では無いが。


「っぐ、うお!?」

「はーい、自分で放った攻撃は自分で処理してねー。それで持ってー……」


 戻って来た火球が、そのまま発動者のドライまでやって来た。

 既にコントロールを受け付ける状態では無い、その火球をあたふたと回避するドライ。

 そしてそんな隙だらけの内に、カグヤは走り出して接近する。そして……


「“アクセル・アクション”!! “卯月流・朝月”!! 吹っ飛びなさい!」

「グゲえ!?」


 加速した体制で、腕で相手の顎を撃ち貫く。

 そしてそのままの勢いで、相手を吹っ飛ばした! っと言っても、1、2m程でしか無いが。


 しかし、カグヤにとってはそれで十分だった。

 今の攻防で、ある程度時間は経った。


 ドライが撃ち飛ばされた方角は、先程マジック連合が固まっていた場所……


 ==============

 プレイヤー8:ドライ

 残HP:509 → → → 175

 rank:1

 ==============


 ☆★☆


「……というわけで、他の3人を俺は気にする必要は無くなったわけだ。後はお前だけだね」

「抜かせ! その減らず口、叩いてくれるわ!」


 ダイリ隊長が吠えると、すかさず自身の片足を上げる。

 その足先はハクトに照準が定まっている。


「(後、【インパクト】は4発か……)」

「【ファイアボール】、三連!!」


 自身の残りギアのエネルギーを確認していると、ダイリ隊長が火球を3連放ってくる。

 一列に並んだそれは、当たれば結構なダメージになるだろう。


「よっと」

「ちい! 躱したか!」


 まあ、当たればの話であれば。

【ファイアボール】自体は、カグヤ戦で散々経験して来ていた。

 あの時に比べたら、攻撃の密度と精度も薄く怖さが足りないと言わざるを得ない。


 この分なら、ギアを使わずとも問題無く回避出来た。


「ならば、これならどうだ!!」


 そう言い放ったダイリ隊長は、再度火球を3発放つ。

 しかし今度は、横一列で拡散するように。しかし途中で軌道を変え、ハクトに向かうように。

 軌道を変える、上級テクだ! 


「ごめん、それ見覚えある」

「なあ!?」


 が、結局ハクトに簡単に回避された。

 カグヤの“火球・紅葉”の技に似ていた。が、結局その技の劣化版でしかなかった。

 操作技術は凄いと認めるが、カグヤを見た後だとどうも驚きが沸かないのが正直な感想だった。


 この分だと、ギア無しでほぼ対処出来るかな? そうハクトが考え始めた所だった。


「ぐおお!! ならば、これならどうだあ! 【バースト・ファイアボール】!!」

「ん!?」


【ファイアボール】、ではある。が、バースト、と名のついている初見のギア。

 これには流石に、ハクトも警戒し直した。


 ダイリ隊長が放ったそれは、通常の【ファイアボール】より、サイズが、デカい!! 


「大玉転がしのサイズ!?」


 ハクトが一瞬連想したのはそれだった。

 ハクトの身長越えのとても大きな火球だ。

 ハクトは知らなかったが、【バースト・ファイアボール】は効果分類:範囲攻撃のギアだった。


 ==========================

 プレイヤー5:ダイリ隊長

<スロット2>

 ギア名:バースト・ファイアボール

 GP:2   最大E:5   最大 CT:3

 ギア種類:マジック

 効果分類:範囲攻撃

 系統分類:火

 効果:射程3マス以内の1マス範囲に、大きな火球を放つ。

 ==========================


 本来複数人を巻き添えに出来る大火球に、流石に体勢を捻るだけで回避、などは最早出来ない状態だった。


「はっはあ!! くらえええ!!」


 放った大火球は、そのまま……ハクトのいた場所にヒットして爆発した。

 ドゴウッ! っと爆破の衝撃が辺りに広がった! 


「はーっはっはっはぁっ!! 調子に乗るからだ、我らの力を思い知ったか!」


「そうだね。油断しちゃダメだった事は確かだったよ」


 そのような声が“真上”から聞こえて来て、ダイリ隊長はバッと顔を上げた。

 そこには、当たったはずのハクトが空中に跳んでいた。


 ギリギリのところで、【インパクト】で空中に回避していたのだ。


「だからこれは、教えてくれたお返しね! “ラビット・スタンプ!! ”」

「ぬうおおおお!?」


 空中で【インパクト】を放って、空を蹴って急速落下するハクト。

 最初に食らった攻撃と全く同じだと気付いたダイリ隊長は、今度は見えてる状態だったからか、ギリギリで回避した。


 慌てたが、気付いていなかった最初とは違い、姿が見えていたなら回避は容易。


「っは、残念だったな! 声を掛けなかったら避けられなかったものを!」

「じゃあ、次はこっちで」

「あ?」


 ダイリ隊長は今度はこちらの番だ、そう言おうとしていたが……

 まだ、ハクトの攻撃は終わっていなかったことに気付いていなかった。

 両足を伸ばし切ったハクトは、片足をダイリ隊長の方に向ける。

 ダイリ隊長の背後には、大きなブロック、つまり“壁”が。


「“ラビット・バスター”あああ!!」

「グボおあああああああッ?!!」


 スタンプが空中から放たれる最高火力技なら、こちらは地上で放てる高火力技。

 寧ろ条件さえ整えば、隙の少ない技として地上ではこっちの方が便利だろう。

 相手の鳩尾越しに、人20mは吹っ飛ばせる衝撃が逃さずダイリ隊長に襲い掛かる!! 


 ==============

 プレイヤー5:ダイリ隊長

 残HP:520 → → → 195

 rank:1

 ==============


 残りの【インパクト】を全て注ぎ込んで、ダイリ隊長に大ダメージを与えたハクト。

 攻撃が終わった直後、ハクトはすかさず距離を取る。


「き……貴様あ、許さんぞ……!!」

「そっか。じゃあ退散退散っと」

「あ?」


 ダイリ隊長の憎しみから湧くような声に対して、ハクトは素直にその場から逃げ出した。

 もうハクトに攻撃に回せるギアのエネルギーは無かった。

 なので逃げるのは当然ともいえるが、あまりにもあっさり引いていったためダイリ隊長は一瞬ポカンとする。


「ぐううっ!!」

「おっと。ここまで戻って来たか。じゃあ僕もこれで失礼」

「は!? 逃げてった!?」

「アイン!?」


 そう呆けていると、フィールドの右側からアインが押し込まれて来た。

 押し込んでいた張本人であるアリスは、相手がここまで戻っていた事を確認するとすかさず走り去っていった。


「ぐはあ!!?」

「ツヴァイ!?」


 今度は、フィールドの左側からツヴァイが吹っ飛んで来ていた。

 離れた位置に投げ飛ばしたキテツの姿が見えるが、ツヴァイが落下したのを見ると何処かに逃げていった。


「グゲえ!?」

「ドライ!?」


 フィールドの前側から、最後の部下であるドライの声が聞こえて来た。

 見ると、カグヤに突き飛ばされて転ばされている様子が見えた。


 分からない、一体相手は何故急に逃げていった。なぜ……


 そうダイリ隊長が思っていると、ふと気づく。

 この位置は、最初の位置関係と殆ど同じだと言うことに……! 

 つまり……


「リチャージ完了!! これで止め!」


「しまったあ!? 総員、たい……」


「迸れ!! 【ヒートライン】!!」


「ぐ、ぐがあああああああああぁあああっ?!!」


 ==============

 プレイヤー5:ダイリ隊長

 残HP:195 → 0


 プレイヤー6:アイン

 残HP:190 → 0


 プレイヤー7:ツヴァイ

 残HP:198 → 0

 rank:1


 プレイヤー8:ドライ

 残HP:175 → 0

 ==============


 一度分断した敵を、ある程度削った後、また元の位置に固める。

 事前打ち合わせもしていないこの行動を、ハクト達は無意識に連携してやって見せていた。


 ==========

 バトル・フィニッシュ! 

 ==========


 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:13分15秒

 ==============


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 マジック連合 全メンバー全滅! 


 よって勝者 ムーン・ラビット! 

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 こうして、試合時間2分も掛からず、チーム:ムーン・ラビットの初陣は最高のスタートダッシュを決めた。



 ★因幡白兎(イナバハクト)


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。


 初のチーム戦で、サポート能力で大暴れ。

盤面支配能力は強い。


 ★卯月輝夜(ウヅキカグヤ)


 ヒロイン。

 ハクトをマテリアルブーツに誘った張本人。

 ムーンラビットリーダー。


 これが【ヒートライン】の力!!っと言いたいように、範囲攻撃である意味をしっかり分からせた。

 沢山当たってスッキリ。



 ★有栖流斗(アリスリュウト)


 ムーンラビットメンバー。

 剣使いの優男。


 本人曰く、今回は楽勝だったね、との事。

 まだまだ精神的に余裕。


 ★浦島亀鉄(ウラシマキテツ)


 ムーンラビットメンバー。

 目立ちたがり屋のパワータイプ。


 相手が弱くて、あんまり目立てなくてちょっと不満。

 次の試合は、活躍してやるー!



 ★チーム:マジック連合

 思った以上にボッコボコ。

 ベストメンバーで無いにしろ、油断しすぎた。

 カラーさんガッカリ。


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