『はーい、と言うわけで二回戦全試合終了ー!! お疲れ様でしたー! 次は三回戦兼、準決勝!! ここからは1試合ずつやって行くから、みなさん注目してくださいねー!! それじゃあ、それまで少しだけ休憩ー!』
実況のアナウンスが響いた後、マイクのスイッチがOFFになる。
一仕事終えたカラーはふうっと一息ついた後……
「……アァ~~~~」
「酷い鳴き声出すなあオイ」
淑女が出さないようなダミ声を吐き出していた。
一応、ここは観客席からある程度見える位置なのだが。声は紛れても、盛大に仰け反っている体制は丸見えだ。
だがしかし、こう言う裏表あるキャラだと言う事は隠れたファンも観客も分かっているため、大して本人にはダメージ無かったりする。
「いやー、クッッッソつまんなかったわねー」
「お前それ絶対マイクに乗せんじゃねーぞ。実況にあるまじき発言だからな」
カラーのぶっちゃけた発言に、風雅は顔を向けないまま注意する。
もっと怒ってもいいものだが、カラーのこの態度自体は過去に何度も見ていた為、風雅は半ば諦めている。
「っで、何がつまんなかったんだよ?」
「ムーンラビットの試合よ、試合。思った以上に一方的になってつまんなかったわ」
「ああ、お前が対戦相手弄ったあれか」
「マジック連合、もう少し見応えのある試合してくれると思ってたのに。期待外れもいいところだったわー」
隠すことなく正直な感想を言い放つカラー。
対戦を調整したのは彼女自身なのに、酷い言われようだった。
「そう言うなよ。あれはどっちかって言うとムーンラビットの戦いが上手かったと褒めるべきじゃ無いか?」
「ムーンラビットが勝つのは予想出来てたわよ。私はもう少し見応えのある試合をして欲しかったの! そのためにわざわざフィールドにブロック配置する回に試合組んで上げたのに、ちっともマジック連合活用出来て無かったわね!」
カラーの予測では、マジック連合がブロックを遮蔽物として活用し、マジックの操作技術で壁裏越しに攻め続けてくる事を想定していたらしい。
ムーンラビットはカグヤを除き、殆どが接近戦主体の技構成だ。
壁裏からの遠距離攻撃をし続ければ、勝てないにしてもまだ手強い相手になってくれた筈だった。
それが蓋を開けてみれば、開幕【ヒートライン】2発食らってるというボケナス具合。
この時点でカラーは自分の想定を下回った事を察していた。
「ちいっ。立ち振る舞いからある程度只者じゃ無いと想定していたから、Rank差も考慮してちょうど良い相手だと思ったのに、ギアの知識全然無いじゃ無い! 一回戦の時の時のように敵一人に対しての4人がかりの集中攻撃なら、まだ試合になってたわよ!」
「あんま爪噛むなよー」
苛立ちが収まっていないカラーを余所に、風雅は軽く流す。
カラーの裏の顔のヒステリック気味な部分は慣れた相手だ。
それに、確かにあの試合の結果に関して、随分あっさり決まったなとは風雅も思っている事だった。
「ブロックの使用に関してだが、どちらかと言うとムーンラビットの方が活用していたな。特にハクトとキテツ少年だ」
「まあねー。ジャイアントスイングでの追加ダメージだったり、地上での壁を利用した貫通砲撃だったりと、普通に対応してたわねー」
「ハクト選手の最初の敵チーム分断も中々上手かったな。あれで各個撃破の体制をして、かつ隙が会ったらリチャージしたカグヤ選手の【ヒートライン】でなぎ払いで止め。良い戦術の組み立て方だ」
風雅はムーンラビットのチームに対して、素直に称賛を溢していた。
元々気になっているチームという面もあるが、それを抜きにしてもチームとしてよく纏っている。
今回の試合がチームとして初試合とは思えないくらいの綺麗な連携だった。
「しかも、気付いてるかしら風雅」
「ん? 何がだ」
「……ムーンラビットチーム、あの子達”新ギア”も”新技”も一切使ってないって事に。ソロ・トーナメント期間で使った範囲内でしか試合で使ってなかったわよ」
「あー、それは思った」
風雅は試合を思い返してみると、確かにムーンラビットが使ったギアはそれぞれ2つずつ。実質Rank1の状態で全員戦っていた。
ある程度メモリーカードの練度でギアのちょっとした強化は受けている差はあるが……それを差し引いても、ほぼ同じ土台でムーンラビットとマジック連合の対決はムーンラビットが圧勝していたという事になる。
こう考えると、マジック連合本当ボロ負けだな、と風雅は思った。
「”新ギア”も”新技”も使って無かったって事は、敢えてそうしていたか、逆にソロ・トーナメントから成長してないか……」
「さあ? 成長してないかどうかは分からないけど、ギア全部使ってない時点で実力まだ全部発揮出来ていないのは確かね」
「違いないな。これはこの分だと、次の試合もあっさり決着付くかあ?」
風雅はそう予想を立てる。
が……
「……けど、次の試合はそうとは限らないわ」
その言葉をカラーは否定し、次のムーンラビットの対戦相手の表を差し出してくる。
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<ストーリー・ハイウェイカップ>
3回戦 第二試合
チーム:ムーンラビット
VS
チーム:レディ・オブ・シャークマンズ
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「これは……」
「次の対戦相手。例のムーンラビットと因縁のあるチームよ」
「あの不良達のチームか……けど例の動画を見た感じ、ハクト少年達に負けて無かったか?」
風雅は例の騒動の映像を思い返す。
確かにハクト達のHPを大分削っていたが……途中参加のアリスは実質ノーダメージ。
相手を拘束する戦法も、二人がかりで一人を封殺するのでは余った相手に隙を晒してしまう。現にキテツにそれをやられていた。
ハクト選手の【インパクト】による敵味方強制移動も、盤面支配として中々だ。
極め付けは、別の映像でカグヤ一人にボコボコにされている3人組。
どう考えても、フルメンバーのムーンラビットに対して勝てる要素は感じられなかった。
「そりゃあ、あの3兄弟だけじゃボロ負けなのは私も分かってるわよ。で・も……”彼女”がいるなら、話は変わるじゃない?」
そう言って、カラーはレディ・オブ・シャークマンズのメンバーの一人を指差した。
灰崎姫乃、プレイヤーネーム:ヒメノ選手。
ソロ・トーナメントの際、3位決定戦でキテツと戦った選手だ。
「フルメンバーじゃ無かったのは、お互い様だったという事よ」
「あの子か。確かにあの子変わった戦い方するけど……一人加わるだけで、そこまで影響するか?」
「あら、仮にも風雅ともあろうお方が随分軽率ね? 雪女選手が一人加わったらどうなるかって思ったら、影響甚大じゃない?」
「……それ、いろんな意味で不適切な例えだろ。まさかヒメノ選手が、雪女選手並みだって?」
「彼女のギア捌きは中々よ? 正直、あなたも目をつけていたんじゃないかしら」
「まあ、それ自体は認める。ムーンラビット以外で、成長が楽しみな選手ではあったしな」
「あの子なら、3回戦用の新しいフィールドも活かしてくれるでしょう。どうなるか見ものね」
そこで風雅、ふとある事を思い出す。
キテツ選手が(誤って)ラッキースケベしてしまった件についてだ。
「そういえばカラー。お前確か、ソロ・トーナメントの時ヒメノ選手に何らかのフォローします、とか言ってなかったか? あれ結局どうなった?」
「あー、あれ。もうとっくにフォローし終わってるわよ。ある程度の粗品は上げたわ、在庫処理も兼ねて」
「在庫処理? お前一体何上げた? 賞味期限間近の饅頭とかか?」
「んー、多分もう少しすれば分かるわよ」
「?」
カラーの言った事を疑問に思ったが、休憩時間ももう少しで終わる為、追求は辞めた風雅だった。
もうすぐ、3回戦第一試合が開始される。その後は、第二試合のムーンラビットの試合だ……
☆★☆
「よい、ショッと!!」
ブロックの上から飛び上がったMr.パルクールがそう掛け声を上げる。
脚力を強化しているのか、普通の人間のジャンプ力では届かない4,5m程の高さまで跳べている。
「スロット4!! 【落雷】っショ!!」
ゴロゴロッ ピシャアアアアンッ!!
「ぐあああああっ!!?」
空中にいるMr.パルクールの靴裏から、雷が落ちてくる。
それが地上の対戦相手にヒットして、決着の一撃となった。
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バトル・フィニッシュ!
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『3回戦第一試合終了ー!! 勝者はチーム:キャット・タワーズ!! Mr.パルクール率いるチームが勝利でーす!!』
「よっシャア!! 決勝進出!! お前ら最後まで気を抜くな!」
「「「おう!」」」
「……勝ったのは、朝の時話したあの人達のチームか」
決勝戦行きのチームが片方決まった中、その様子を離れた位置から見ていたハクト達。
ムーンラビットのファンと自称して話していたが、この試合を見ただけでも大分実力が高い事が目に見えた。
「思った以上に実力が高そうだね。そもそも”ブロックの上を簡単に飛び移りまくってる”移動力が凄い」
「ええ、名前の通り猫のように跳び移りまくる軽やかさ。私たちより年上の大人なのもあるけど、基礎的な運動力はかなり高いわよあれ」
「しかも彼ら、全員Rank2じゃ無いかい? 使ったギア数と電光掲示板見るに」
「あとさー、残りHP的に割と余裕で勝ってたよな? てことはかなり手強いって事じゃねーの?」
Mr.パルクール達はチャラそうな外見とは裏腹に、手堅い強さを持ったチームだった。
全員Rank2なのもそうだが、試合を見ている限りとくに危なげなく勝った印象。
ハクト達も2回戦で圧勝していたが、それをキャット・タワーズは3回戦でもやっていた状態だ。
「決勝に上がれたら、油断出来るチームじゃ無いという事は確かだね」
「まあ、とは言ってもまさに決勝に上がれてからの話ね。先に目の前の試合をなんとかしないと」
よっと、カグヤがその場から立ち去りながらそう呟く。
向かう先は、次の試合の選手の入場口。
ハクト達も彼女の後ろについて行く。
『さあ! というわけで、3回戦第二試合がもうすぐ開幕です! 次の試合の対戦は、ムーンラビット対、レディ・オブ・シャークマンズ!! この試合に勝ったチームが、決勝のキャット・タワーズと対決する事になります!』
移動中のハクト達に、カラーのアナウンスの声が聞こえてくる。
対戦相手はチーム名からはよく分からないが……
「シャークマンズ……まさか、例の不良達のチームじゃないよね? 確か鮫田兄弟って言ってたし、サメって」
「うーん、あり得そうね……確か長男さんRank2だったし、あの率いている女の子も確かRank2だと思うし」
私たちと同じ、初心者大会出禁メンバーだし、とカグヤは続けた。
あの時のカラーのアナウンスから考えると、ヒメノという彼女も初心者ではなさそうだ。
「見たところ、この大会Rank2がメンバーにいるだけでも大分強いから、残ってても不思議じゃ無いのよね」
「……という事は、全員Rank2の僕達ってかなり強いんじゃないかい?」
「そりゃあそうだろ。もし対戦相手が不良達なら、内二人はRank1。想像的にはこっちが上だぜ。……正直、俺はあんまり戦いたくないけど」
「あの子いるもんね、ヒメノって人……」
項垂れているキテツに対して、ハクトはどうどう、と背中を撫でる。
戦力的にはこちらが勝っていても、キテツがこの様子だと少し不安が残る。
本人は、まあとりあえずなるようになれだ、と開き直っているようだが……開き切れているかは微妙だった。
『それでは改めまして、もう一度フィールドの説明に入りますね! 三回戦に入ってから、ブロックの配置が変わっております! 今度は、”2段重ね”のブロックが登場ですよー!!』
カラーから追加のアナウンスが聞こえてきて、ムーンラビットはその言葉にそうだったと気づく。
Mr.パルクールの試合を見ていたから知っていたが、フィールドがまた少し変わっていた。
2回戦の時は1個のブロックが均等に並んでいたが、3回戦は二段重ねのブロックが登場し、それを囲むように4つの一段ブロックが並んでいる。
ちょっとした山のように並べられたブロックの形状が、あちこちに立ち並んでいる状態だった。
二段のため計5m程の高さ。梯子も無いため、周囲の一段ブロックが無ければ流石に直接は登れない高さになっていた。
「そこそこの高所が出来たわね。何か活かせないかしら……」
「カグヤがあそこに立って、【ファイアボール】とか【ヒートライン】放ちまくるのは?」
「うーん、ちょっと微妙ね。【ファイアボール】はともかく、【ヒートライン】が実は性質上……」
「オーッホッホッホ!! やってきましたわね、ムーンラビット!」
そうこう話しているうちに、ハクト達は試合場所の開始位置まで来ていた。
向かい側から、高笑いが聞こえてくる。
「ちいっ! やっぱりテメェ等か!!」
「宣言どおり、手加減など致しませんので覚悟なさいまし!」
そこには鮫田三兄弟と、ヒメノがこちらを見据えて立っていた。
やる気は十分のようだ。
「やっぱりあの不良チームだったか……」
「マジかあ〜……」
「ウラシマ君、ドンマイ」
やる気をなくしたように項垂れるキテツをアリスが慰めていると、アナウンスは待ってくれずに続いて行く。
『さあムーンラビットと、レディ・オブ・シャークマンズ!! 双方出揃いました! お互い準備はよろしいですか!?』
「すいません、ちょっと待ってくれると……」
「それでは! バトルスタートです!!」
「待ってくれねえ!?」
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バトル・スタート!
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キテツの訴えを無視し、無情にもバトル開始が宣言された。
こうして、因縁の不良兄弟+ヒメノのチームとの対決が開始されたのだった……
<ムーンラビット>
★因幡白兎(イナバハクト)
主人公。ムーンラビットメンバー。
白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。
サメチームにメンバーが一人追加されたけど、一度勝った相手だから負けるつもりは無い。
けれど、兄の教え通りに油断もしない。
★卯月輝夜(ウヅキカグヤ)
ヒロイン。
ハクトをマテリアルブーツに誘った張本人。
ムーンラビットリーダー。
今回のフィールドに、ちょっと懸念事項。
★有栖流斗(アリスリュウト)
ムーンラビットメンバー。
剣使いの優男。
浦島くん大変だねえ、と他人事。
★浦島亀鉄(ウラシマキテツ)
ムーンラビットメンバー。
目立ちたがり屋のパワータイプ。
準決勝の対戦相手が憂鬱。
<実況・解説>
★風雅ふうが
マテリアルブーツのプロ選手兼、大会の実況者。
よくカラーと組まされている。
カラー無着者やってるなあとは思っているが、止めても止まらない事が分かってるので放置している。なんやかんやで、試合が盛り上がるならどうなるかちょっと楽しんでいる。
★カラー
マテリアルブーツの解説者。ついでに、ギア開発会社の社長もやっている。
次のマッチアップは、かなりテコ入れしたとのことで自身あり。
<レディ・オブ・シャークマンズ>
★灰崎姫乃ハイザキヒメノ
レディ・オブ・シャークマンズの本当のリーダー。
自称お嬢様。性格はしっかりもので、礼儀正しい。
絶対ウラシマキテツはボッコボコにしてやると決意中。
★鮫田長男さめだちょうなん
不良三兄弟の長男。ヒメノに頭が上がらない。
とうとう来たリベンジマッチ、姐さんと共に復讐してやる!
<キャット・タワーズ>
★猫山飛尾ねこやまとびお
通称、Mr.パルクール。パルクール集団のリーダー。
先に決勝進出を決め、ムーンラビットの試合を楽しみに見ている。