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第22話 決勝戦 VSカグヤ 後編……?

 ──そして、互いにギアのエネルギーが戻って数十秒後。

 先程と似たような攻防が繰り広げられていた。


「”アクセル・アクション”!! 【ファイアボール】!! “ファイアボール・ガトリング!!”」

「【インパクト】!! ”クイック・ラビット”!! からの、”ラビット・バスター”!!」

「くうっ?!」


 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:11分20秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:495 → 463

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE:10 → 0/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)


 VS


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:300 → 202

 rank:1

 スロット1:ファイアボール (残りE: 10 → 0/10)

 スロット2:────

 ==============


 再度、互いの【インパクト】と【ファイアボール】がそれぞれ尽きて、距離を取って待機の時間となる。

 ここまでの攻防は、特に特筆すべき点は無かった。

 強いていうなら、カグヤの射撃精度はやはり高かったというべきか?


 先程の攻防から、カグヤはハクトの避ける場所の癖を見抜いたのか、先読みして際どい位置にギアを撃ち込むようになっていた。

 それに対して、ハクトは持ち前の反射神経でギリギリのところを回避し続ける。それでも一発は当たってしまったが、殆ど回避に成功だ。

 ただ回避に【インパクト】を多用する頻度も高くなったため、攻撃に回すエネルギーが少なくなったので、ダメージは先程より与えられてはいない。


 しかし、カグヤ相手なら十分の成果だ。

 結局のところ、ハクトの大幅なリードには変わらない。


 けれど、この状況になっても、やはりカグヤはスロット2のギアを公開しない。


『ハクト選手依然リードの状態! しかしカグヤ選手、いまだにスロット2のギアを開かなーい! 一体どういう作戦なのでしょうか! それとも使えないだけなのでしょうか?』

『……まさか、”ブーツが壊れたか”? HPグローブつけてるなら、ブーツへの破損もフォームギア時の変形部分を除いて、防いでくれる筈だから……通路の移動の際に何かあったか?』

『もし本当にそうだったら、どうします? ブーツが壊れていた場合って、試合やり直します?』

『……いや。残念ながら、その場合でも試合は続行だ。嫌ならリタイアだな。故障は持ち主の整備不良責任だ。試合開始直前までに言うならともかく、始まった後じゃもう言い訳は聞かない』

『なるほど。もしそうなら、残念な結果ですが勝負は非常! 冷たい風雅さんの言うとおり、試合は続けましょう!』

『ねえ、忘れた頃に俺をサラッとディスって来るの辞めてくれない!?』


 実況と解説のそのアナウンスの言葉に、観客席のキテツ達もその可能性があったかと今気づいて驚いていた。


「マジかよ! ブーツが壊れることなんてあり得るのか!? いや確かにデカいハンマーで不良達が壊してはいたけど! けど、ギアが発動出来ない状態ってあり得るのか?」

「うーん……絶対あり得ない、と言う話では無いとは思うよ? あまり聞く頻度は少ないけど、ゼロじゃない筈だし。ブーツ自体じゃなく、メモリーカードの異常っていうのも考えられるかもしれないしね」

「マジか……いやでも、もしそうなら納得だな。それなら卯月がスロット2のギアをここまで発動しない事に納得だぜ。絶対発動する機会あった筈だし」

「だね。残念だけど、その可能性が高そうだ。でもイナバ君、残念だけど解説の彼の言う通り、君は気にせず戦って……イナバ君?」


「……………………」


 アリスが疑問を浮かべる様にハクトに問いかけるが、ハクトは黙ったままカグヤの方を見つめていた。

 途中でパーカーのフードを深く被り、彼の表情も見えなくなっていた。




 ────実際の所、ハクトはカグヤの今の状態について、ある程度見当は既に付いていた。

 最初に感じた違和感、それが暫く戦っていくにつれて、はっきりとした確信に至っていた。


 ……しかしカグヤの意図はともかく、アリスの言う通り、これは試合だ。

 彼女の事情は置いておいて、試合に集中して勝つことだけを考えるべき。それは正しい。

 だからハクトは、ただこのまま試合に勝つことだけを考えようと────



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ────ハクト選手!! お前は大会に勝ちたいだけなのか!? 


 ────勝ちにこだわるなとは言わないが、せめて自他共に楽しめるような戦いをしろ!


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ────ああ、駄目だな。


 やっぱ、楽しく出来ないと。




 ☆★☆



「……ハクト君!!」


 ギアリチャージの為に待機しているハクトの様子がおかしい事に気づいたのか、カグヤが離れた位置から声を掛ける。

 恐らく、アナウンスの内容を聞いてしまい、試合に迷いが生じてしまったのだろうと感じて。


「気にしないで!! 言う通り、これは試合! 例え全力を私が出せなかったとしても、ハクト君が全力を出さない理由にはならないわ! だから、あなたの全力を私にぶつけて頂戴!!」





「やだ」




「……へ?」


 それに対するハクトの返事は一言。

 プイッと顔を背ける動作と共に放たれたそれは、会場中にどよめきを生じさせた。


『は、ハクト選手まさかの拒否ー!?』

「はあ!? 白兎、何言ってんだよ!?」

「イナバ君、彼女が本気出せないからって拗ねちゃったのかい!?」

「うん」

「うんって!?」


 アリスの指摘を否定せずに、小さくコクリと返事をするハクト。

 さっきまでの彼とは違い、まるで駄々を捏ねる子供の様な有様だった。


『ハクト選手、気持ちは俺も分かる。けど、さっきも言った様にこれは試合で、仕方がない事だ。不満はあるだろうけど、やるからには全力で……』

「そ、そうよハクト君! 私はあなたの全力が見たいの!! 私のギアが片方使えない事はしょうがない事だから、あなたは気にせず戦って……」



「────ギアが”使えない”んじゃなくて、”使わない”だけでしょ。そっちが完全に手を抜いてるだけでしょうが、カグヤぁ!!」



「っ?!!」

『はあっ!?』



 ハクトのキレ気味のその指摘に、カグヤはハッキリと動揺。

 風雅もマイク越しに驚きの声が入っていた。


『あー……』

「はあ!? 手加減!? いや、確かにギア二つ使わないなとは思ったけど!!」

「確かに、ハンデの意味で二つ目のギアを封印してたなら納得だけど……それを抜きにしてもさっきまでの攻防、あれだけでも十分レベルは高いね」


 アリスはハクトの言葉に、納得と共に自身の感想を述べていた。

 先程までの試合だけでも、ソロトーナメントの決勝としては十分ハイレベルだった。

 その状態で、ハクト側がやや優勢の状態で進んでいた為、ここでカグヤがギアを二つ使っていたなら、確かに逆転してもおかしくない話だと思った。


「そもそも、最初から違和感はあった。いくら何でも今日初めたばかりの俺が、カグヤにここまで戦えてるのかって」


 ハクトは静かに、自分の考えていたことを喋り始める。

 この試合でのカグヤの行動の違和感について、一つ一つ指摘していく。


「一つ目。カグヤは今日、俺にマテリアル・ブーツの事について、いろいろ教えてくれた。この時点で、ある程度の初心者じゃない事は確信出来ていた」

「……まあ、それは少しはやってないと、ハクト君に教える事は出来ないじゃない? でもそれくらいの差ならあってもおかしくな──」

「二つ目」


 カグヤの言い訳を遮る様に、ハクトが食い気味に次の言葉を言う。


「”ヒートライン”」

「っ!?」


「え? 白兎、何それ?」


 そのハクトの言葉に、カグヤはまた動揺した。

 キテツ達は聞いた事ない様な言葉で、何故彼女が動揺したのか直ぐには理解出来なかったが……


「カグヤの登録ギアの”二つ目”だよね? さっきの準決勝、カグヤは【ファイアボール】を二積みしてたけど、あれキテツのやった事と同じ事してたよね? 登録ギアの片方だけを二積みにする裏技」

「ハクト君、何でそのギアを知ってるの!? あ、まさかエントリー画面覗き見てたわね、エッチ!!」

「覗き見たって言うか、目の前でエントリー作業されたから見えちゃっただけだよ。と言うかそれなら、カグヤだって俺の見たじゃん」

「しょ、初心者にエントリー方法教える為だから、仕方ないし……」


 カグヤの茶化す様な指摘に対し、ハクトはマジレスで返す。

 それに対し、カグヤは震え声で言い訳をする。


「話を戻すけど、カグヤがこの試合で二つ目のギアを使わないのって、それが理由だよね? 決勝で本来のギア構成に戻したけど、やっぱり使わない事にしたとか?」

「……あら? その理由だとちょっと早計すぎないかしら? ギアは種類によっては、発動条件が厳しいものもあるわ。偶々発動タイミングが揃わなくて、使えなかっただけじゃないかしら? それなら手加減って訳じゃなく、ただのギア構成ミスなだけになるんじゃない?」

「……まー、確かに。その実例はさっきあったから可能性は0じゃないね」


 ハクトの指摘に粗が出始めたからか、カグヤが比較的嬉しそうに反論を返す。

 それに対しては、ハクトも強く否定しない。

 先程の3位決定戦の時、キテツがギア構成をミスって殆どギアを自分から使えない状態に陥っていた。

 そのことを考えると、カグヤの指摘も十分あり得る内容。だが……


「けどカグヤ。”君、そんなミスしない”でしょ」

「ハクト君、私への評価が高いのは嬉しいけど、そこまで根拠無しに思われても……」

「3つ目、これが君が本気を出さない大本命。あえて質問形式にするけど……」


 ハクトはそう前置きして、カグヤの本当の理由を指摘する。




「────カグヤ。”君、最高ランク何”?」



「────」


 ……その言葉にカグヤは一瞬言葉が詰まる。

 だが、何もなかったかの様に直ぐに調子を取り戻して、ハクトの問いに答え初めていた。


「……やだもう、ハクト君。試合前に言ったじゃない。私もランク2経験者だって。そりゃあ、ハクト君ランク1だから差はあるにはあるけれど。でもハクト君、確かランク2の不良長男さんとチーム戦とはいえ、さっき戦って勝ってたじゃない? だから、ハクト君に手加減なんてする理由は……」

「そうだね。ランク2経験者ではあるんだろう。でも、”それ以上の可能性は否定してないよね”?」


『お、おい!? ハクト選手、それ以上ってまさか……!?』


 ハクトの言葉で思い至ったのか、解説の風雅が動揺した声を出す。

 もしそうなら、この大会初心者大会とはもはや言い切れず……


「……屁理屈よ。人の揚げ足を取る様なこと、嫌われちゃうわよ」

「そう。認めないなら、じゃあ嫌われる事前提でこれを言うしかなくなるけど」

「……何かしら?」



「────この間カグヤと出会った時、カグヤが施設外でギアを使って俺を踏みつけた事をおまわりさんに言う」



『どシンプルに脅迫だー!!? って言うか、言ってる内容ってまさか……』

「そ。確か”特定ランク以上”じゃないと、施設外でギアは発動自体出来ないんじゃなかったっけ? 父さんに聞いたよ。なのに低ランクで、施設外でギアを使ったって事は、何らかの違法を使ってるって事になるけど、おまわりさんに知られたら大変じゃない?」


 何らかの違法。例えば、”アンリミテッド・カード”が思い当たるが、そんなものを使ってるとバレたら、流石に警察のご厄介になる恐れもあるだろう。

 ……まあ、カグヤが使っていたなら、だけど。


「……ハクト君。そこまで分かっていて、今まで素知らぬ振りしてたなら、あなた意外と性格悪くないかしら?」

「それならお互い様だね。少なくとも、本気を出すといいながら、明らかに手を抜く方も同じぐらいに思うけど?」

「……そうね。ちなみにだけど、さっきのおまわりさんに言うって脅迫、私には通用しないわよ」

「……何で?」



「────何故なら、既におまわりさんにバレていて、その時のメモリーカード没収済みだからよっ!!」


「すでに捕まってたのぉ!?」



 カグヤの大声でカミングアウトした言葉に、ここまで冷静に指摘したいたハクトが、逆に驚かされていた。

 いや、既におまわりさんに没収済みかい。


「そうよ!! ハクト君にぶつかったあの日、一旦病院行ってから後日謝罪の日を決めてから別れたじゃない? その時、道端でおまわりさんに会って、あの時のことを遠くから見てたって言うのよ! だからその時、補導されたのよ!! ペナルティで一時メモリーカード剥奪で!!」

『とんでもない事やらかしてましたねー、カグヤ選手。ちなみに、高ランクで街中でギアを発動出来たとしても、一般人にそれで傷を付けたらこの様にペナルティが発生しますので、皆様ご注意くださーい』

『多分、ギアを直接ぶち当てたんじゃなくて、間接的に使った扱いになったとかなら、罪は軽くなったんだろうなあ……』


 今回は比較的軽めでしたが、場合によっては普通に刑務所でーす。と実況のカラーは付け加えていた。

 カグヤ、割とやばいことをしてしまっていたようだ。

 指摘したハクトも、あれ、下手したら大事になってた? っと、ちょっと冷や汗をかいていた。


「……そう。だから私は、新しいメモリーカードで1からやり直し。だから私はランク1なの。だから初心者って事で……ダメ?」

「ダーメ。そっちこそ屁理屈じゃん」


「────そうね。でも、だからってどうすればいいのよ」


 観念したのか、カグヤは開き直ってハクトに問い返す。

 ハクトの指摘は全て正しい。

 カグヤはハクトの言葉を否定せず、その上で自分はどうすれば良かったのか問い直す。


「私と違って、今日始めたばかりのあなたに対して、本気で戦えって? 上級者が初心者をボッコボコにしろって? 出来るわけないじゃない、新しく初めて楽しさを覚えたばかりの人に対して!! それで苦い思い出になって、せっかくのマテリアル・ブーツから離れたら悲しいじゃない! そうでしょ!」

「そうだね。じゃあついでに言わせてもらうね。────そんなこと言うなら、初めから初心者大会なんかに出るな!!」


 ぐうの音も出ない正論だった。

 ぶっちゃけ手加減するくらいなら、初心者大会に乱入したカグヤの責任で迷惑な話ではある。


「何よ!! 確かに私も悪いけど、それじゃあ”そこの二人”はどうなのよ! ぶっちゃけアリス君もキテツ君ランク2経験者じゃない!! と言うかそれ以外にも絶対ランク2経験者結構参加してるじゃない!! 私だけが怒られる所以は無いわ!!」


「こっちに話が飛び火しやがった!?」

「まあ、それを言われたら僕達も強くは言えないけどさ……」

『薄々思ってたけど、やっぱランク2経験者この大会に参加しまくってたんかい!! お前ら初心者大会って言葉知ってる!? 初心者狩りの大会じゃねーんだぞ!?』


 逆ギレのようなカグヤの言葉に、アリスもキテツも巻き込まれ始める。

 それを聞いて、風雅が順当にツッコミを入れる。

 プロとして、未経験者の加入を喜ぶ立場としては、彼らのやってる事は否定しなくてはならないからだ。


「ぶっちゃけアリス君達は何で参加したの!? 私はハクト君が参加するから、様子見と実際試合形式で戦ってみたかったから参加したけど、そっちの二人はどうなのよ! アリス君はちょっと聞いたけど!」

「いやー。さっきも言ったように、僕はとある人から、イナバ君と会えるかもしれないって理由で勧められたから、それで来ただけだから……」

「オレは別に、ただ食堂で”骨つきステーキ 450g”が食えるって聞いたから、それを食べるついでに腹ごなしの運動をしに来ただけで」


「アリスはともかく、キテツそんな理由で参加してたの!?」


 途中から静かに聞いていたハクトだったが、キテツの参戦理由に思わずツッコミを入れてしまっていた。

 まさか、カグヤも頼んでいたあのとんでもメニュー目当てに来ていたとは……


「あれ確か3000円もしてなかったっけ!? たっかいでしょ、よくあんなの食べに来たね!?」

「何だよ、3000円で450gって結構コスパたけーぞ!! あと、食堂程度でそんなの食べられるって聞くと、逆に気にならねえ?」


 キテツの返事に対して、ハクトは少し頭を抱えた。

 まさかそんな理由で、ついでとばかりに大会に参加していたとは……

 と言うか、そんな理由で準決勝格上のキテツと戦う事になったの? っと、ハクトは思った。


「とにかく! 話を戻すけど、私は大会に参加してしまったけれど、元々これは初心者大会! だったら、私も初心者の範囲内の実力で戦うのはおかしくないのよ! ハクト君の今の実力なら、十分優勝してもおかしくないわ!」

「でも、他の参加者達は俺に本気を出していた!!」

「っ!!」


 カグヤが本気を出さない言い訳に対して、ハクトはそう反論した。

 アリスは、ハクトが無意識にメタ的な動きをしてたとしても、十分効率的な戦い方をしていた。

 キテツは、ハクト個人に対するギア構成を考えて、その戦術をぶつけて来た。

 不良長男ですらそうだ、彼に出来る戦法は卑怯な手段も含め、全力でハクトをブチ倒そうと襲いかかって来た。


「例えスロットが制限された状態だとしても、その範囲内での全力はみんなぶつけて来ていた! カグヤ、君は使えるギアを使わないばかりか、技術も本気を出していないでしょう!!」

「だから私も本気を出せって!? 初心者狩りを喜んでやれる訳ないじゃ無い!」

「じゃあカグヤは、今の状態で楽しいって言える!?」

「それは……」


 ……十分楽しいよ、とカグヤは言うつもりだった。

 ギア一個しか使ってないとはいえ、ハクトとの戦いはここまでだけでも十分楽しめた。

 だからハクトの指摘は違うんだよ、と言うつもりで……



「────俺は楽しく無い!!」

「っ!?」



 そう、カグヤの返事を聞く前に、ハクトが答えた。

 ……違ったのだ。カグヤが楽しいかどうかの前に、ハクト自身が楽しめていない可能性をカグヤはその言葉で初めて気づいた。


「俺だって、元々カグヤに対してこんな事言うつもりは無かった! 試合に対してどう臨むかは、個人の自由だし! 本気を出さないって判断をしたんなら、試合に挑む姿勢が既にそっちは負けてると言えるから、勝つだけなら俺は文句なかった! でも……」


 ハクトはここで、彼の本音を吐露した。

 彼にとって、マテリアル・ブーツに対するスタンスを、今はっきりと明言した。


「勝ち負けより、楽しむことを優先したい!! それに倣うなら、やっぱり今カグヤが本気を出さない事が心残りだ!! 態々決勝戦で戦う際に、本来のギア構成にして来たんなら、それを俺に使って見たかったんじゃ無いの!? だったら使いなよ、君がやってみたいと思った事全部!! ギアも、技も、戦術も!!」




「────俺も、君の全力を見てみたいから!!」



 ……紛れもない、今のハクトの本音がカグヤに響く。

 その言葉に、カグヤは湧き上がる興奮と、嬉しさと、喜びと────僅かな”苛立ち”。


『……ハクト選手、言いますねー。どっかの解説が、注意した影響じゃないですか、あれ?』

『あ、やっぱ俺のせいか……思った以上に聞いちゃってたかあの言葉、そのせいでとんでもねー方向に……でもまあ、あれはあれで、いい影響になったかな?』


「……いいの? 本当に、本気で、やっちゃって」

「覚悟の上さ。これでこっちが負けたとしても、文句は言わないし、君の凄さを実感したい」


 最後に確認するようなカグヤの問いかけに、ハクトはしっかり了承する。

 それを聞いたカグヤは、そう、とゆっくり頷いて……


「……分かったわ、ハクト君。じゃあ、その前に私も言わせてもらうね。ハクト君もさっき言ってきたから、おあいこね」




「────”調子に乗るんじゃないわよ、白ウサギ”」


「──っ!!」



 カグヤの口調が、荒くなる。

 敢えてハクトと呼ばず、白ウサギと彼の事を呼んだ。

 さっきまでの様子とは違い、はっきりと、敵意に満ちた視線だった。


「あーあ。やっちゃった、やっちゃったわね……せっかく自重してたってのに、その抑えが壊れちゃった。壊れちゃったわね……ハクト君のせいよ、こうなっちゃったの」


 大袈裟な手振り、身振りで自身の感情を表すカグヤ。

 少なくとも、楽しい試合をしましょう、と誘うように言っていた彼女とは、同一人物には見えない態度だった。


「二重人格……って訳でもなさそうだね。そこまで変わってないし、単純にバトルジャンキー的な側面を出してなかっただけかな?」

「そうよ。一応、私も初心者大会でそこまで大暴れするほど、空気が読めない訳じゃ無かったから。けどね……壊したからには、責任を取ってもらうから」


 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:9分50秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:463

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE:0 → 10/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)


 VS


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:202

 rank:1

 スロット1:ファイアボール (残りE: 0 → 10/10)

 スロット2:────

 ==============


「HP250差、ね……”ハンデにもなりゃしないわね”」


 電光掲示板の表示を確認したカグヤは、そう呟く。

 互いにスロット1のエネルギーもリチャージが完了した。

 覚悟しなさい、ハクト君。っと、カグヤは言葉を続ける。


「あなたは、私の全力が見たいと言うけれど……”試合になると思っているその傲慢さ、粉々に叩き壊してあげるから”────心、折れないでね?」


 その言葉とともに、カグヤは右足を大きく後ろに横向きに振りかぶる。

 来る、と、会場中が静けさにつつまれた瞬間────


「────開け」


 宣言の直前の言葉が、ギア種類じゃ、無い。

 彼女のイメージを、より具体的に固める言葉。



「────”火球・紅扇子べにせんす”!!」



 振り上げたカグヤの足から、【ファイアボール】が発動された。

 スロット2のギアではなく、またスロット1のギア。

 その情報だけなら、いまだに本気を出してくれていないと言えるだろう。


 ────但し、その【ファイアボール】が”10発分、しかも扇状”に飛んで来なければ。



『わあっ』

『──は?』

「……へ?」

「っなあ!!?」


 実況、解説、キテツ、アリスの言葉が重なる。

 実況は驚き、解説とキテツは呆けて、アリスは何が起こったのか理解したのか驚愕の声を上げる。

 彼ら以外の会場中の観客は、キテツ達と同様に、何が起こったのか直ぐには理解出来なかった。


 その攻撃に反応出来ていたのは、覚悟をしていたハクトだけ。

 しかし、分かっていても逃げ場が無い!!


「跳ね上げろ! 【インパクト】ぉ!!」


 横方向は完全に封鎖された。ならば、上しかない。

 咄嗟に【インパクト】で自身を真上に打ち上げ、何とか10発分の【ファイアボール】を回避する。

 後は着地後、接近すれば……



「────”跳んだわね”?」



 ……その単純な、事実確認のような言葉にハクトはゾクッと寒気が走る。



「これがお望みの2つ目のギア……覚悟なさい」


 その言葉とともに、カグヤは大きく右足を上げる。

 足先までピンと伸ばし、振り上げた直線軌道上に一筋の赤い”線ライン”が引かれる。

 その線は、跳んだハクトの真下を通って行った。

 5cmあるかどうかの線……それが、直後には”5m”に拡張される!!



「迸ほとばしれ────【ヒートライン】ッ!!」



 振り上げた右足を、勢いよく地面に踵から落とす。

 まるで、火打の着火作業のように放たれたそれは、地面の線に触れた箇所から……炎が湧き上がって行く!!

 線上を伝い、高速で横幅、高さ5mの巨大な炎がハクトに向かって迫っていく!!


「なあっ!!?」


 ハクトがその場から避けたくなっても、既にギアの使用権は使用済み。

 着地のルーティーンまでハクトは何も出来ない!


「う、わああああぁぁァァアアアアァァアァ!!?」


 自由落下中のハクトは、なす術もなく────炎に、飲み込まれた。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:463 → 251

 ==============


 これまでに稼いだHP差が、殆どなくなった瞬間だった。


 ……今までの戦いは、ほんの遊び。


 ここからが、本当のカグヤ戦の始まりなのだ────



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