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第24話 白ウサギの夢

『ハクト選手! カグヤ選手から距離を取るように逃げ続けております!! 最初のバトル開始直後とは違って、一方的に追い詰められている状態だー!!』

『あのカグヤ選手、一体いくつ技持ってるんだ!? 既に自前、【ファイアボール】のバリエーションだけでも十分出したのに、さっきの発言から察すると、まだストックあるだろ!?』

『……これもう、得意技を電光掲示板に表示した方が良さそうですね。ここまでのバトルで使った、各自の技を名称だけでも纏めておきますねー』

『は? そんなのこの場で出来るのか? あれフォーマット通りにデータ入力して、ただ表示させているだけだろ』

『舐めないで下さい。私はカラフルカンパニーの”社長”よ! それくらい朝飯前!』

『……社長だからって、技術に明るいとは限らないと思うんだけど。ていうか、何の会社なのそもそも?』

『さっきからマジレスうるさいですねー。ちょいちょいちょいっと。ほら、完成ー』



 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:5分50秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:156

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE:0 → 10/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)


 <自前能力>

 ラビット・シリーズ

 得意技1:ラビット・スタンプ

 得意技2:クイック・ラビット

 得意技3:ラビット・バスター


 VS


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:202

 rank:1

 スロット1:ファイアボール (残りE: 0 → 10/10)

 スロット2:ヒートライン  (残りE: 0 → 2/2)


 <自前能力>

 その他・シリーズ

 得意技1:ファイアボール・ガトリング

 得意技2:アクセル・アクション


 火球・シリーズ

 得意技1:火球・紅扇子

 得意技2:火球・赫虹


 卯月流・シリーズ

 得意技1:卯月流・月外し

 得意技2:卯月流・三日月狩り

 得意技3:卯月流・夕月

 ==============


『これは酷い。ハクト選手、HP、ギアの攻撃力どころか、技数まで圧倒的に負けております。ちなみに小ジャンプやボレーシュートなど、細かい差分は一纏めで括らせてもらっておりまーす』

『これもう得意技、実質全部ギア扱いでもいいくらいの性能だろ、どれも!! というか派生作りすぎだろあいつら!? ここから更に増える可能性あるんだろ、どんだけ初級ギアしゃぶり尽くす気!?』

『特にカグヤ選手、火球シリーズの初見技を混ぜて行くと宣言した直後ですしねー』

『あっれ、今日ランク1大会だったよなー? 俺、いつの間にプロの高ランク大会の解説に来てたかなー?』

『ついにボケてしまいましたか……車の免許返納、して来ます?』

『まだ俺20代前半だわ!! ちゃんと分かってるっつーの! そっちこそ何歳だよおい!!』

『女性に年齢聞くなんて、乙女心分かっていませんねー。まあ答えますけど……ちなみに私は1500飛んで17歳です。キャハ♪』

『誤魔化すスケールがデケエ!? 騙すならもうちょい上手くやってくんない!?』

『そんな! 私の旦那なら、そうだったんだーっていつも言ってくれるのに! オヨヨ……』

『それ適当に往なされてる!! 聞き流されてるよそれ!』


「あのっ! すいません、イナバ君達の試合動き始めたので、また実況と解説に戻ってもらってもいいですか!?」

「おおい!? もう新しい技発動してるぞ卯月!!」


 また漫才に走り出した風雅とカラーを正気に戻し、試合に注目させる。

 ハクトとカグヤの試合は、更に激化する────



 ☆★☆



「リチャージ完了! 早速行くわよ! ────染まれ! “火球・紅葉こうよう”!!」

「紅扇子……じゃ無い!! 全部曲がる球!?」


 追いかけ続けていたカグヤが、早速戻って来た【ファイアボール】を使って、新技を使う。

 曲がる球を解禁したからと言わんばかりに、10発もの火球を扇状に撃ったと思ったら、今度はそれが収束するようにハクトに向かって飛んでくる。


 ……いや、よく見たら1,2発足りない気がする。


 一瞬の違和感だったが、ハクトはその感覚を逃さず認識する。

 正確な球数は認識しきれなかったが、微妙に先程より足りない感じだった。


 多分カグヤは派手に技を見せて、ちょっとだけこっそり隠し持っていると。

 しかし、そのことを対処する前に、まずは目の前の状況を乗り越える事が最優先だ! 


「落ち着け……全部俺に向かって曲がって来ているけど、逆に言えば横に逃げやすくなってる!」


 ハクトは派手な印象に誤魔化されず、冷静にカグヤの放った得意技の特徴を整理する。

 結局は全てただの火球、ただ軌道が変わっているだけ。

 なら、どんな技にも回避手段は十分にある、と! 


「よっと! よし、回避!」


 ハクトはギアを使わず、自前の走力で横に逃げて、”火球・紅葉”を回避する。


【インパクト】でジャンプは基本的にダメだ。小ジャンプでも、カグヤにさっきみたいに狙われるだろう。

 基本的にギリギリまで、地上をキープして横方向メインに回避。どうしても無理な時か、カグヤのエネルギーが尽きる時まで封印だ! 


 そう基本方針を組み立てていると、当然カグヤの次の手が既に迫っていた! 


「マジック! 【ヒートライン】!!」

「やっぱり来たね、ヒートライ……って、危なあっ!?」


 回避直後のハクトに対し、【ヒートライン】を撃ってくることは予想出来ていた。

 しかし、それがハクトのいる位置ではなく、ハクトより横、つまり”回避先より少し先”の位置を狙って放たれていた。


 ゴウッ!! 


 ハクトはギリギリ立ち止まる事が出来、そんな彼の目の前に火柱が走り去っていった。

 あのまま回避のスピードに乗って、そのまま走り去ろうとしたら、自分からあの炎に突っ込むことになっていただろう。

 カグヤの先読みの精度も高くなり、それを前提に回避しなくてはならなくなった。


 そして更に、足を止めたハクトに対し、カグヤは手心加える気は一切無い。


「迸ほとばしれ、【ヒートライン】ッ!!」」

「っく、おお! 【インパクト】!!」


 ギアの連続発動、しかも本命とばかりに、イメージを固める方の宣言だ。

 急に静止したハクトには、自分の足で逃げるには一手遅い。

 素直にギアを発動して、自分の目の前の空間を蹴るようにして、ハクト視点で真後ろに飛んで逃げた。


「”アクセル・アクション”!! マジック、【ファイアボール】!!」

「っ!! 間に合え間に合え!!」


 次から次へと、息をつく間も無くカグヤの猛攻が続いてくる。

 予想通り、カグヤはエネルギーを節約して取っておいた【ファイアボール】を撃って来ていた。

 しかも加速撃ちかつ、カーブ撃ちしたかどうか分からない状態。

 軌道が読みづらいし、裏をかいて真っ直ぐかもしれない。考えなきゃいけない事が多すぎる! 


 そもそも、まだ地面に足がついていないなら、躱すも何も無い! 

 ハクトは必死に足を地面側に伸ばし、リセットルーティンを満たそうと必死に祈り……


「っ!! 間に合った! 跳ね上げろ【インパクト】!!」


 ギリギリ片足が地面に付き、ここぞとばかりに自身の体を打ち上げる。

 ハクトのいた場所を火球が通り過ぎて行き、ハクト自身はカグヤに向かって飛んでいく。


 まだカグヤのエネルギーは1つくらい残っているかもしれない。

 しかし、だとしてもそれ以外のエネルギーは尽きた筈の為、1発被弾覚悟でも攻めるしかない! 

 そう判断しての、距離を詰める大ジャンプだった。


「自由落下! “ラビット・スタンプ”!!」


 ハクトは牽制を兼ねての得意技を放った。

 自由落下だと速度は出ずに、どうせ躱されるだろうから、あくまで着地の隙を少しだけ減らす為だけに使う。

 それに、上手く行けば飛んできた【ファイアボール】を蹴ってダメージを少し減らせるかもしれない。

 本番は、着地後の攻防が想定だったが……


「ようこそ!! お祭り準備してるわよ! ────照らしなさい! ”火球・赤提灯あかちょうちん”!!」

「っ! 撃たない!?」

『【ファイアボール】を撃たずに、放つ直前のブーツ裏で待機状態!?』


 予想を外し、カグヤは逃走も迎撃もせずに、片足の裏に【ファイアボール】をくっ付けた状態のまま、ハクトに向かってその足を向けていた。

 そして、落下して来たハクトがカグヤを踏みつけようとした直前、残った片足でステップを踏み、ギリギリ回避、そして……


「灯りに、直接触るのは厳禁よ!!」

「うあっつ!?」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:156 → 126

 ==============


 カグヤの靴裏の火球を、直接当てられてしまったハクト。

 想定していたとはいえ、1発の被弾をまずしてしまった。

 しかし、ここまでなら想定内ではある。あった。


 想定外なのは……


「──火球が、まだ消えない!?」

「そりゃあそうでしょう! 明かりが直ぐ消えると照明には使えないでしょ!」

『うっそだろ!? エネルギー1発分だけで複数回分使う気か!?』


 カグヤの靴裏の【ファイアボール】が、まだ消えていなかった事。

 本来【ファイアボール】みたいな遠距離攻撃は、近接されると殆ど当てづらい事が弱点になる筈だった。

 それをカグヤは、工夫で接近戦用の技を、用意周到に準備していたのだ。

 しかもエネルギー効率も良く、一石二鳥。


「ほら! もう一回喰らいなさい!」

「もういらない!! “クイック・ラビット”!!」

「あー!?」


 カグヤがもう一回ハクトにぶつけようと足を伸ばしてくると、ハクトは次は食らうかとばかりに、彼女の火球の付いた足に対して蹴りを放つ。

 火球の支えとなる足を蹴り飛ばされたせいで、明後日の方向に足が伸び、カグヤは体勢を崩す。


「もう一回! “クイック・ラビット”!!」

「軸足!? うきゃう!!」


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:191 → 182 → 171

 ==============


 ハクトはその隙を見逃さず、残った彼女の足も薙ぎ払うように蹴りを放つ。

 ハクトは、冷静に”赤提灯”のデメリットを見抜いていた。

 足裏に【ファイアボール】を待機させている都合上、カグヤは片足立ちを強いられている、つまり”歩く事が出来ない”。


 だから今の蹴りが2回とも上手くいったのだ。

 さっきまでとは違い、カグヤは攻撃を捌く技術が上手く使えなくなっていたから。

 また、クリーンヒットしたわけでは無いとはいえ、強力な蹴りをカグヤの足にぶつけまくったから、多少のダメージは入った! 


「このまま……」

「発射ファイアッ!!」

「あっぶ!?」


 ただでは起きないとばかりに、カグヤは地面に倒れ込んだまま、待機状態だった火球をハクトに向かって放って来た! 

 あれ近接攻撃に使った後、そのまま使えるのか! 便利すぎる! 

 そんな感想が沸く中、ハクトはギリギリその火球を回避したが、その間にカグヤは転がってハクトと少し距離をとり、立ち上がり始めていた。


「っく! 逃さないよ!!」

「奇遇ね、私もよ!」


 さすがに【ファイアボール】のエネルギーは尽きたとハクトは思いたかった。

 ここで逃したら、ダメージを与える機会がまた無くなる。

 なんとしてでも、少しでも攻撃を当てたかった。


 ──けど、何を使う? 


 ハクトは一瞬思考を巡らせる。

 “クイック・ラビット”素撃ちではダメだ。大勢の崩れていないカグヤだと回避される。

 “ラビット・バスター”も、この位置だと壁まで遠く、ダメージはそこまで期待できない。何より、せっかく詰めた距離がまた遠くなる。

 “ラビット・スタンプ”、論外。地上じゃ使えないし、ここでジャンプしても自由落下じゃ避けられる。

 通常のキック。これしか選べないが、ダメージ効率が少なすぎる。


 ……ここに来て、ハクトの技のレパートリーの少なさがあらわになってしまった形だ。

 もちろん【インパクト】オンリーにしては十分すぎる筈だが、カグヤ相手だとマテリアル・ブーツの経験の差がはっきりと感じてしまう部分だ。


 一瞬の戸惑いを、カグヤは見逃さない。


「”アクセル・アクション”!! “卯月流・朝月あさづき”っ!!」

「へぐうぅ!?」


【ファイアボール】以外にも使えるとばかりに、”アクセル・アクション”を使用してからの体術の新技。

 カグヤは片手を猫の手のような形にして、それを瞬間的にハクトの顔にぶち当てて来た。

 もう片方の手は当てる手の肘に支えにしており、加速の勢いも全て余さずハクトに伝えていた。


 ダメージは、それ程では無い。

 しかし頭に喰らったことで、確実にハクトが今ので怯んだ形になってしまった。


「”卯月流・月外し”!!」

「ぐうぅッ!?」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:126 → 100

 ==============


 ハクトのその隙を逃さず、腕に組みついてダメージを与えるカグヤ。

 多少ハクトは堪える事は出来たのか、ジャストHPが100の状態までしかダメージはいかなかった。

 しかしこのままだと、追加ダメージを与えられるのは時間の問題だろう。


「ほら、このまま終わるのかしら! それなら終わらせてあげる!!」

「あああぁぁァ──────っ!! 跳ね、上げろっ! 【インパクト】ォッ!!」

「っ?!! なっ!?」


 腕に絡み付いたカグヤを外さず、……ハクトは、そのまま【インパクト】を発動して跳び上がる。

 しっかり技を決めていたカグヤは離れるタイミングを逃してしまい、そのままハクトと一緒に飛び上がってしまった状態になった。


 二人纏めての飛び上がりなので、高さは5m程しかいかない。

 しかし、カグヤの隙を作るには十分すぎる状態だった。


「離れ、ろォ────っ!!」

「キャ、キャアアアあぁあぁああああ────ー!?」


 腕に絡み付いたままのカグヤを、空中で腕ごとぶん投げるように振り飛ばすハクト。

 驚きで体勢を崩していたカグヤは堪えきれず、そのままぶん投げられて少し離れた位置に落とされる。


 しかし、なんとか突き放したハクト側も体勢を崩した状態で、地面に落下してしまった。


「キャうっ!?」

「ぐえっ!?」


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:171 → 165

 ==============


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:100 → 95

 ==============


 両者、ほぼ同時に地面に落ちた状態。ただし、先に立ち上がったのはカグヤだった。


「く、うう! はあっはあっ……っく!」


 呻き声を上げながらカグヤは立ち上がった。しかし、先程迄とは一転し、ハクトから距離を取るように逃げ始めた。


「な! 待、て……ぐう!? ハアっハアっ……!」


 それを見てハクトも追いかけようとしたが、……直ぐに取りやめ、その場で棒立ち状態で立ち止まる。


『カグヤ選手、先程の攻め続ける発言とは裏腹に、急に逃げ出したー!! しかしハクト選手も直ぐには動かず追いかけない、一体どうしたことかー!?』

『スタミナ切れだ! HPが残ってても、本人のスタミナ自体の消費は別だ! ここまで二人とも動きすぎだ、息切れくらいしてもおかしくねえ!』


 風雅の言うとおり、ハクト、カグヤ、二人とも共にスタミナ切れだった。


 元々、体力自体は二人とも自信はあった。特にハクトは、後輩とのフルマラソンに付き合った経験もあるのだから。

 しかし、マラソンはあくまで持久走。長い時間を一定ペースで動き続けるのに対して、マテリアルブーツの短時間で激しい飛び跳ねの動きをし続けるのは、疲れかたが違う。

 元々今日だけで、最初の模擬戦、アリス戦、不良戦、キテツ戦、そして今の決勝戦と、ハクトは激しい戦いを繰り広げ続けていた。


 カグヤも同様、ハクトより比較的楽に戦っていたとはいえ、直前に1対3の不良戦もやっている。そして予想を遥かに超えてハクトが粘るため、隠していた新技ラッシュに、それを使用した展開の組み立ての思考と、やるべき作業が多かった。

 ……どちらも体力が尽きるのは当然だった。


「……一応、肺を潰す覚悟で動き続けることも出来るんだ。スタミナが尽きたと言っても、肉体にダメージが行くほど動こうとすれば、HPグローブが逆に反応してくれるようになる。つまり、”HPを削り続ければ、無理やり動き続ける事は可能”なんだ」

「その程度の事、卯月はともかく、ここまで戦った白兎ならなんとなくで分かる筈だろうけどな。けど、二人ともそれをするような気配は無い。……つまり、残り5分の勝負のために、休息に入ったっつー事か。二人とも」


 アリスとキテツが、そのような会話を繰り広げる。

 ハクトもカグヤも、この程度で止まる程、諦めも、体力が無いわけではない。

 しかし、残り5分のCT速度3倍の時間帯。そのときが来れば、今まで以上の激しい戦いになるだろう。


 その時の為に、少しでも息を整える事を優先したのだ。



 ……残り試合時間5分20秒。

 後数十秒間の、沈黙の時間。まるで嵐の前の静けさのような状態になった。


「っはあっはあ……カグヤぁ!!」


 しかし、その沈黙を先に破ったのはハクトだった。

 動き始めたわけではない、ただ声を出して呼び掛けただけ。

 少しでも今は息を整えるべきなのに、何故かハクトは大声を出し始めたのだ。


「なんで、なんで……」

「……」


 喋り始めたのは、疑問の言葉。

 その理由は、カグヤの異常の強さに対してなのか、……はたまた、この状況の自分に対する歯痒さなのか。


 ……もしくは、カグヤとの実力差に絶望したのか。


 カグヤは、ハクトの言葉を緊張した面影のまま、黙った状態で聴き続ける。

 そこからハクトが紡ぎ出そうとした言葉は。




「────”なんでそっちの技名はカッコいいのばっかりなのさ”あああぁぁぁああああっ!!!」



「────は?」


『『は?』』

「「は?」」


 完っっっ全に予想外の言葉が、ハクトから放たれた。

 これには流石のカグヤも、会場中の他のみんなも呆気にとられてしまった。


 それはそうだろう、なんだこの理由。


「紅扇子とか、赫虹とか、月外しとか!! 何そのネーミングセンス!! 全体的にいい感じの技名ばっかりじゃんそっち!! 何、もしかしてそっちの技名は別の人が名付けたの!?」

「え? あ? い、いや、殆ど私が自分で付けた技だけど?」

「ちゃんと自前のセンスなの!? じゃあ、なんでこっちの技は”ラビット・スタンプ”なんて名付けたの!?  絶対他に候補思いついてたのよねそのセンスなら!」

『どうやら、ハクト選手の技名はカグヤ選手に付けてもらっていたようですねー』

『いや、なんかシンプルな技名だなーとは思ってはいたけど。けどそれ今気にすることか?』


 ハクトの叫ぶような問い詰めに、カグヤは試合中と違ってタジタジになっていた。

 それに構わず、ハクトは自分の思ってたことを全部吐き出し続けていた。


 解説の風雅がもっともなツッコミを入れていたが、ハクトは実はちょっと息切れ状態で、思考が明後日の方向に向いていた。

 そのせいで、頭の中で少しだけ引っかかっていた事について、思わず口に出してしまったのだ。


 端的に言うと、少しバカになっていた。


「もう一つの候補は"空から舞い降りる純白の小さき獣”だったよね確か!? なんでその二択!? 何、嫌がらせ!?」

「うえ!? だ、ダメだった!?」

「ダメじゃないけども!! もうこの命名規則で慣れちゃったから、変える気はないけれども!! なんでそれしか候補教えてくれなかったの!!」


「いや、なんだその二択。それならオレだって”ラビット・スタンプ”選ぶぜ」

「いやー、僕は結構好きだよ。ラビット・シリーズの命名」

「つまり中二病っぽい方はお前も選ばねえと」


 観客席にいたキテツとアリスも、その二択を聞いてラビット・シリーズしか選ばないだろうと話していた。

 じゃあ自分で決めれば良かっただろ、と言われる話ではあるのだが、その時は技名をつける発想に至らなかったのと、カグヤに先に言われたので素直にその中から選んでしまった。

 てっきり気に入ってくれたかと思っていたカグヤにしてみれば、寝耳に水の情報で、かなり動揺し始めていた。


「だ、だって! 私が本気で名付けたら、ハクト君のラビットシリーズって、


 ラビットシリーズ → 白足はくそくシリーズ

 “ラビット・スタンプ” → “白足・天来てんらい”

 “クイック・ラビット” → “白足・小太刀こだち”

 “ラビット・バスター” → ”白足・砲撃ほうげき”


 になっちゃってたわよ!! そんなの可愛くなくて気に入らないと思って!!」


「普っっっ通ーに気にいるわそのセンスならああああぁぁぁああああ!! 」

「っ?!!」ガァーン!! 


 頭上に巨石が落ちて来たようなショックが、カグヤを襲った。

 カグヤ本人にとっては、可愛さを優先したつもりだったのだ。


 ハクトも、今まで最大の声量で嘆きの声を上げていた。

 もっとカグヤに詰め寄って掘り下げれば良かったと後悔していた。

 最早頭の中で、ラビットシリーズとして技名のラベルが付けられてしまった為、今更変更しても混乱してしまうだろう。後の祭りだった。


「…………………………………………あ」

「あ?」

「────あっっったま来た!!! 折角人が親切で可愛い名前付けてあげたのに!!! もういい、5分と言わず、もう次で蹴りをつける!! ハクト君このままぶっ倒れて!! 一回燃えて来なさ────い!!!」

『逆ギレ!? カグヤ選手完全にお冠です!!』

『お、俺は好きだぞ! ラビット・シリーズ、シンプルで!!』


 カグヤが開き直り、逆に本気モードに。いや、今までも十二分に本気モードだったが、より殺意の高い組み合わせを実行する事を誓った。

 ちょっとずつ削っていく作戦など、一旦投げ捨てる。次で決める勢いで大技を使おうとする。

 ある意味、頭の冷静さを失ったと言えるだろう、それが隙になるかもしれない。

 自身もそれ相応のリスクを負うが、それでも気にせず使う事をカグヤは今決めた。


 ==============

 残りタイム:5分00秒

 フィーバータイム!! 

 ==============


『さあ来ました!! 残り試合時間5分! フィーバータイムの突入でーす!!』

『ギアのCT完了までの速度が3倍!! つまり10秒でCT1溜まる事になる! で、カグヤ選手は確か5分30秒ぐらいにギア使い切っていたから……』

「残り20秒!! そこからが勝負よ、ハクト君!!」


 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:4分40秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:95

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE 10 → 5/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)


 <自前能力>

 ラビット・シリーズ

 得意技1:ラビット・スタンプ

 得意技2:クイック・ラビット

 得意技3:ラビット・バスター


 VS


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:165

 rank:1

 スロット1:ファイアボール (残りE: 0 → 10/10)

 スロット2:ヒートライン  (残りE: 0 → 2/2)


 <自前能力>

 その他・シリーズ

 得意技1:ファイアボール・ガトリング

 得意技2:アクセル・アクション


 火球・シリーズ

 得意技1:火球・紅扇子

 得意技2:火球・赫虹

 得意技3:火球・紅葉

 得意技4:火球・赤提灯


 卯月流・シリーズ

 得意技1:卯月流・月外し

 得意技2:卯月流・三日月狩り

 得意技3:卯月流・夕月

 得意技4:卯月流・朝月

 ==============


「休み十分!! ここから待ったなしよ!」

「望むところ!! 君の攻撃、全部飛び越えてやる!」


 互いに息を整え、残り5分の行動に全てを掛ける事を宣言する。

 そしてカグヤのギアがフルスペックで戻って来た。

 もうここからは、息切れで立ち止まることなどしない。ここから最後の勝負の時間となる。


「次の機会なんていらない!! もうここで、倒し切る!! ”アクセル・アクション”!! 迸ほとばしれ、【ヒートライン】ッ!!」

『それも威力アップの対象になるのか!?』


 加速して走りながら、カグヤはちょっとだけジャンプをしながら右足を伸ばして振り上げる。

 軌道上に線ラインを引きながら、振り上げた足を振り下ろす! 

 しかも、振り上げた瞬間は走り飛んだ勢いがある為、着火後の火柱のスピードがアップしている!! 


「当たるかあっ!!」


 それをハクトはギアを使わず、簡単に右に避けようとする。無論、これで終わるとは互いに思っていない。


「そうよね、避けるわよねえ!! ”アクセル・スピン”!!」

「っ!? また新技か!! アクセルって事は!?」


 避けた直後で、まだ走り続けたままのハクトに対して、カグヤはそのままその場で回転を始める。

 ハクトは、カグヤの技名にある程度命名規則がある事を既に見抜いていた。

 アクセルという事は、身体の加速を使った攻撃サポートの可能性が高い、と。


 まるでスケートの回転のように、地面に立ったまま綺麗に回転し続ける。

 そして……


「────周まわれ!! “火球・赤道せきどう”!!」


 回転したままカグヤが、そのまま片足を外周に差し向ける。

 そして、そこから火球がカグヤを中心とした螺旋状に、円が広がるように放たれた!! 


『カグヤ選手、新技同士の組み合わせのトンデモ技だぁー!! フィールドのほぼ全域に届く程の、【ファイアボール】が平面螺旋状に飛んでいくー!!』

『うっそだろ!? 元々射程自体は15mと言っても、螺旋状なんかに飛んだら精精自分の周囲までしか届かない……あ!? そのためのスピンか!?』


 風雅は自分で驚きながらも、カグヤのやった事に直ぐに気づいた。

 “アクセル・スピン”。遠心力で単体指定の攻撃の射程をアップする効果があるのだと。

 それを利用して、本来自分の周囲にしか届かない攻撃を、無理やり広範囲に拡張したのだ。


 地面に並行するように、螺旋状の奇跡を描いて火球がハクトに向かって迫っていく! 横方向に逃げ場は無い! 


 ……これは、もうジャンプするしか無いか!? さっきみたいに小ジャンプで躱せば……


 見たところ、”火球・赤道”はパッと見、10発全部撃ってるように見えた。

 仮に1、2発残っていて、その数で”火球・赫虹”で対空技を撃ったとしても、ほぼ当たる確率は低い。

 それなら隙の小さい【インパクト】の小ジャンプで十分……


「────迸ほとばしれ」


 あ、ダメだ。もう【ヒートライン】のモーションに入ってるし。


 ハクトはそう、カグヤの狙いを悟っていた。

 カグヤの狙いは、”火球・赤道”で跳び上がったハクトに対して【ヒートライン】を当てる事は明白。

 そして地面には、既に線ラインが引かれている。

 既にもう足を振り下ろすだけの状態のカグヤは、ハクトの着地までの隙をまた逃さないだろう、今度はトドメをさせる高火力技で。


 これはもう、自分から火球に突っ込んで、一発だけの被弾になるしか無いか。

 それしか道は思い浮かばないように見えるが……


 ……いや、落ち着け! 螺旋状に広範囲で飛んでいるなら、どうしたって間隔は開くはず!! 


 そうハクトは気づき、一瞬で冷静さを取り戻す。

 幾らトンデモ軌道を描いていようが、規則正しい配置で飛んでくるなら、どうしたって隙間は開く。


 焦って飛び上がらず、火球の円が広がってくるギリギリまで待って────


「──そこっ!!」

『か、躱したぁー!!』


 火球の円を、殆ど動かず見切って躱し。


「──【ヒートライン】!!」

『まだだ!! 次がもう来る!?』


 間をおかず、カグヤが振り上げた足を振り下ろそうとしたのを確認し。


「ここだ! 跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 全力で、ハクトはとっておいたエネルギーで最大限高く跳ね上がった。

 横に逃げている時間は無かった。


 ヒートラインは強力と言っても、精精3秒間程度の火柱。

 10m近く、ギリギリのタイミングで跳ね上がったならば、横に逃げなくても十分回避可能。

 これでハクトは逃げ切っ────




「────待って。なんで、火柱、出て無いの?」



 ……空中で地面を確認したハクトは、予想と違う光景が見えた。

 未だ赤い線ラインは、引かれたまま。その線が見えなくなる筈の、炎の柱は見えなかった。


「──掛かったわね」


 カグヤの方を見ると、振り下ろした筈の足を、また再度ゆっくりと上げ始めていた。


【ヒートライン】は、振り上げた足を線ラインに叩きつける事で着火させるモーションが必要な技。


 ────では、線ラインに足を叩きつけなければ? 


「──っ!! “赤提灯”と、同じ────」


『偽動作フェイク・アクションか!?』


 ハクトは、すぐ理由を思いついた。

 ついさっき、似た現象を受けたばかりだった。


 ”火球・赤提灯”のように、発射食前に待機状態でとどませる。それを【ヒートライン】でやられたのだ。

 キテツの【メタルボディ】の発動した振りと同様、しかしあれ以上の上級テクの精度で。


 ……今気づいたとしても、最早どうしようも出来なかった。


 ハクトは既に、自由落下を開始している。後3秒も経たずに地面に着地するだろう。



「【ヒートライン】」


 今度こそ、地面に足を振り下ろしたカグヤによって、線ラインに着火された。


 ゴウッ!! 


 ハクトの着地予定の箇所が、炎に包まれる。

 そこに、ハクトは自分から降りていく事になるだろう。


「────トドメよ。”空を飛べないハクト君じゃ、もう終わりね”」





「────”空を、飛べない”────?」




 ……そのカグヤの呟きを聞いて、ハクトは、世界がスローモーションに見え始めた。


 まるで走馬灯。それほど、今言われた言葉が大ショックに繋がる程の。


 ……ショック、なんで? 


 …………決まっている。



 ”空を飛べないと言われたからだ”



 ──何やってるんだ。


 ──何やってるんだ、俺は!! 



 ハクトは自身に対して、激しい”怒り”が湧いてくるのを感じていた。

 歯軋りをする。握り拳が作られる。


 振り替えろ。思い出せ。


 何故自分はマテリアル・ブーツを始めた。何故カグヤの誘いに乗った。


 決まっている。


 空を飛ぶ為だ!! 


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ────【インパクト】でジャンプは基本的にダメだ。


 ────基本的にギリギリまで、地上をキープして……


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 馬鹿か俺は。


 何が基本的にギリギリまで、地上をキープして、だ。それ以前の問題だ。

 初心すっかり忘れてるじゃないか。


 空を飛びたくて始めたのに、何で地上にいる事固執してるんだ馬鹿。


 馬鹿、馬鹿、馬鹿。バカすぎてさっきまでの自分に怒りしか湧いてこない。


 同一スロットは連続で発動出来ない? 知るか馬鹿。


 ルーティーンで、地上に着地しないと発動出来ない? 知るか馬鹿。


 だってそうでしょう? 



 ────空も地上も一緒だ。だって、”体の感覚バランス”は同じに感じているのだから



 だから、足を伸ばせ。言葉を唱えろ。


 想像イメージは、既に出来てる。



「────跳ばせ。【インパクト】」



 さあ。



 ”夢に向かって、跳んで行け”





 ☆★☆




 ──決まった筈だった。


 カグヤにとって、それは決着を付ける、決め手のコンボだった。

 散々ハクトを牽制で動かした挙句の、【ヒートライン】の”フェイク・アクション”によるタイミングのズラし。


 タイミングは完璧だった。ハクトに何も出来ない状態にさせた筈だった。

【ヒートライン】に自分から落ちて来たハクトが、HP0で出てくる。

 彼女にとって、夢のようなこの時間は、それで終わりを迎える筈だった。


「────あっ、え……?」


 ……しかし、現実はどうだ。いや、これは現実か? 


 ”ハクトはまだ、空中にいる”。


 自由落下で、もう既に地上に落ちてなきゃいけないのに。


 まるで、”再度空で跳んだかのような”────



「────あは」



 空中にいるハクトから、声が聞こえる。

 一言の、途切れた声。それが聞こえた次の瞬間には、再度別の言葉を紡いでいた。


「──【インパクト】!!」


 その言葉が聞こえた瞬間、”空中で弾け飛んだように”ハクトはその場から移動した。


 やはり、見間違いでは無かった。


 ”ハクトは空を跳んでいたのだ”。空中で、ギアを、再発動していたのだ。



 ──そしてよく見ると、ハクトの靴が輝きを放っていた。


 夢中になっているハクトは、その事に気づかない。


『……”ランクアップ”の、光』


 会場のスピーカーから、風雅のその呟きが静かに漏れた。

 その声がよく響く事、会場は一瞬静けさに包まれていたのだ。


 みんな、フィールドの空中の彼に注視していたのだ。



 アリスも、キテツも、風雅もカラーも、……カグヤも。



「──あは、あはは。あははははぁはははッ!!!」


 ハクトの笑い声が、会場中に響く。

 とても、とても楽しいことを満喫しているように。


「────”スカイ・ラビット”!!」


 その宣言とともに、ハクトはまた弾けるように飛ぶ。

 空を跳んで、カグヤの真上にまでやって来て……体を天地上下反転する。


 まるで、”空を蹴る”ような体勢で。


「──っ! あ」


「跳ね落とせ! ”ラビット・スタンプ”ッ!!!!」


 呆けていたカグヤが、ギリギリで正気に戻る。

 その彼女の視界に見えていたのは、ハクトの最後の【インパクト】。

 それを、自身の落下の加速にハクトは使っていたのだ。


 地面も、天井も必要としない。本当の空の自由として、空を蹴った。


「っ!! ぐううううぅ────!!」


 ──ズドオオオオン!! 


 最高速度で落下する白兎対し、カグヤにはその場から逃げる隙は無かった。

 ギリギリで腕を真上に組み、ガードの体勢が間に合ったのが奇跡な程。


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 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:165 → 86

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 防ぎ切れない衝撃が、ダメージとなってカグヤを襲う。

 カグヤを踏みつけたハクトは、衝撃を全部カグヤに伝えた後、反動を利用して跳ね上がり、離れた位置にズザーっと着地した。


 着地後、ハクトはゆっくり立ち上がり、カグヤに向き直った。

 その目は、興奮の色が隠せない程キラキラ輝いていて。


「カグヤ、見た……? 見たよね、見たよね!! 俺、空を飛べた! 空を飛べたよ、カグヤ!!」


 夢中になったままの興奮した口調で、矢継ぎ早に話始める。

 会場中にも、その声は響き渡る。


「”スカイ・ラビット”!! それが俺の新技! 俺の夢! 俺の到達点!! どうだ、カグヤ! 俺は夢を、叶えたよ!!」


「──ええ、ええ!! 見たわ、ハクト君! しっかりとこの目で! あなたが空を跳んだ事を、はっきりと見たよ!!」


 ハクトの興奮が伝染したように、カグヤからその言葉が放たれる。

 カグヤの胸の内に、熱いものが広がっていった。


『……は、ハクト選手が空を飛びましたあああー!! なんたる驚愕! なんたる快挙!! 我々は人類の可能性を飛び越えた場面の、目撃者となりましたああああ!!』

『いや、いや、いや!! マジかお前、マジかハクト選手!? 人類初だぞ!? 暴発で空中で跳んだ奴は、ちょっとはいたかもしれない! けど、あんな”完璧にコントロールした軌道”で跳んだ奴は、間違いなくお前が始めてたぞハクト選手っ!!!』


「有栖!! やりやがった……白兎、とんでもない事やりやがったぜ!! おい!?」

「いや、これ僕も信じられない!! この目で見たのに! 人ってあんな自由に空で跳ねられるの!? イナバ君、凄いなんてもんじゃないよ!!」


 ハクトの新技、”スカイ・ラビット”。

 それを見た会場中は、大いに湧いた。湧き過ぎた。そんな言葉で表せないほど。


 最早、ただのランク1大会だと思う人は誰一人居なかった。


『ところで風雅さん!! 先程、ランクアップの光とかなんとか言っておりましたが!!』

『ああ、言葉通りの意味だ!! ハクト選手、あの瞬間に”ランクアップ”を果たしやがった!! 経験が溜まって、”ランク2”に上がりやがった! きっと空を跳んだという行為が、とんでもない経験になりやがったんだ!!』


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:95

 rank:1 → 2

 スロット1:インパクト (残りE 0 → 10/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット

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『た、確かにハクト選手のランク表示が2に上がっております!! 使用スロットも2つ追加! ハクト選手、ランクアップおめでとうございまーす!!』


 わあー!! っと、会場中から拍手が湧く。

 ハクトの快挙に対し、暖かい雰囲気が会場を包み込んでいた。


「おめでとう、ハクト君!! すごい、本当に凄いよ!! あなたは私の予想以上よ!」

「うん、うん!! ありがとう、カグヤ!! カグヤが誘ってくれたからだよ! カグヤが【インパクト】をくれたから、マテリアルブーツに誘ってくれたから、叶えることが出来たんだ!! 俺からも、本当にありがとう!!」

「いいえ、いいえ!! これはハクト君の実力、ハクト君の努力の結晶よ! 本当に、ハクト君は凄いよ!」



「────だから、ごめん!! 水を刺すかもしれないけど! あなたの喜びを台無しにしちゃうかもしれないけど!! そんなあなたに、私は今、この場で勝ちたい!!」


『へ!? カグヤ選手!?』


 先程まで喜びを分かち合っていたカグヤが、申し訳なさそうに、苦悩な表情を浮かべながら、そう訴え始めていた。

 その言葉に、会場中がどよめいていた。


「──もう、この興奮が抑え切れないの! あなたのアレを見たら、どうしても我慢なんて出来なくなっちゃったの!! この衝動、この胸の奥の熱さ!! どうしようもないくらい煮えたぎって熱くなっちゃったの!! この衝動をぶつけたい、全力であなたにぶつけたいの────ッ!!!」


 その言葉とともに、カグヤの靴も光り始める。

 先程ハクトの靴に、起こった現象と同じだ。


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:86

 rank:1 → 2

 スロット1:ファイアボール (残りE: 0 → 10/10)

 スロット2:ヒートライン  (残りE: 0 → 2/2)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット

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『カグヤ選手も、この場でランクアップだー!? まさかの二人同時だー!!』

『いや、カグヤ選手は元々ランク3経験者! “慣らし運転”さえ出来れば、ランクアップするのはそこまで想定外じゃない。でもこのタイミングでランクアップしたってことは、ハクト選手の熱に当てられたか!!』


「カグヤ……────うん、分かった。分かったよ!! やろう、最後まで! まだまだこの興奮を味わいたい、俺もカグヤにぶつけたい!!」


 カグヤのその訴えに、ハクトは頷きながら答える。

 燃え上がっているのは、ハクトも一緒だ。

 この熱は、互いに止まらないところまで進んでいた。


 試合が再開されると分かって、会場中も再び盛り上がって来た。


『ハクト選手、カグヤ選手ともに試合続行の意思表明ー!! 残り3分ほどの時間になりますが、この熱のまま激しい戦いになりそうです!!』

『ああ、ああ! いいぞお前達、全力でやり合え! そして思う存分楽しめ!』


『……ところでこれ、一応ランク1大会ですがどうしましょう? 二人ともランク2に上がっちゃいましたけど?』

『……あ!? お前ら、ギア途中で付けるなよ!? 空白スロットで、普通の大会なら試合中に付けられるけど、この大会のルール上スロット2個までだからな!? ランクアップは仕方ないけど、それやったら失格だからな!?』


「はい!! 了解です!!」

「分かってるわよ!!」


 風雅の思い出したような注意事項に、ハクトとカグヤは元気よく返事をした。

 その程度の注意事項、気にする程でも無かった。


『ということは。折角ランクアップしたのに、特にギアが増えたわけでもないこれまで通りの試合展開が続くのでしょうか?』

『いや、スロットは空白のままとは言え、間違いなくランク2に上がってはいるんだ。だとしたら、”メモリーカードが装着者に適した効果を成長して身につけてくれる”』


 メモリーカードは付け続けることによって、装着者のデータを収集していく。

 ランクアップしたら、その反映が一気に跳ね上がるという事を、キテツは説明していた。


「ほう! 装着者に適した効果とは?」

「そうだな。例えば【インパクト】や【ファイアボール】。これを使い続けたメモリーカードだと、最大Eが10から”11”になったりする。そのメモリーカードをつけている間だけな」

「ほうほう! つまり、人によって変わらない筈のギアの効果やエネルギーに、差分が生まれてくると!」

「そうだ。ランクアップ記録と、ギアの追加効果付与。これがメモリーカードの最大の特徴と言えるだろう。まあ、二人ともメモリーカード新しいから追加効果までは期待できないだろう。そんな事より、何より……」

「何より?」

「”より装着者のイメージを反映しやすくしてくれる”」

「ほうほうほう! イメージを反映しやすくしてくれると!」



「────え? “今も割と好き勝手に技を増やしてるのに”ですか? ハクト選手とカグヤ選手」

「そう。割と好き勝手に技増やしてるのに、これ以上更に好き勝手に────嘘だろおい」


 自分で言った言葉に、信じられないような反応をする解説の風雅。

 具体的に言うと、【ファイアボール】の軌跡がより変則的に引けるなど。

 そう言うイメージの反映が更にやりやすくなるらしい。


「……聞いたかしら、ハクト君! ここから私は、更に強くなるわ!! 降参するなら今のうちよ!」

「する訳ないし、分かってるでしょ! こっちだって新技、”スカイ・ラビット”を手に入れたんだ! ”ラビット・スタンプ”も連鎖的にパワーアップしてる! 止まる理由なんか無いさ!」

「けどハクト君、分かってるかしら!! その新技、”【インパクト】が直ぐ尽きやすくなってる”ということに!! 一回空を飛ぶだけで、3、4個はギアのエネルギーが持ってかれる! 私の火球シリーズと一緒! そんなんじゃ、すぐに飛べない白兎になっちゃうわよ!」

「そのためのフィーバータイムでしょうが!! CT速度3倍の、すぐギアがリチャージ出来る時間! だからこそ、俺達は最後まで全力で戦い続けられる! 違う!?」

「ええ、そう! その通りよ! だから、全力で踊り切りましょう、最後まで!!」


 その言葉とともに、二人とも構え始める。

 ギアのリチャージは、とっくに先程終わっていた。


 後は心の赴くまま、戦うだけだ。


「──さあ。燃やしてあげる、白兎しろうさぎ!!」

「──踏みつけて上げる! かぐや姫!!」


 互いのその掛け声とともに、最後の3分間の夢の続きが、開始された────


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