目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第25話 かぐや姫と、空を飛んだ白ウサギ

 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:3分10秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:95

 rank:2

 スロット1:インパクト (残りE 10 → 0/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット


 <自前能力>

 ラビット・シリーズ

 得意技1:ラビット・スタンプ

 得意技2:クイック・ラビット

 得意技3:ラビット・バスター

 得意技4:スカイ・ラビット


 VS


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:86

 rank:2

 スロット1:ファイアボール (残りE: 10 → 0/10)

 スロット2:ヒートライン  (残りE: 2 → 0/2)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット


 <自前能力>

 その他・シリーズ

 得意技1:ファイアボール・ガトリング

 得意技2:フェイク・アクション


 アクセル・シリーズ

 得意技1:アクセル・アクション

 得意技2:アクセル・スピン


 火球・シリーズ

 得意技1:火球・紅扇子

 得意技2:火球・赫虹

 得意技3:火球・紅葉

 得意技4:火球・赤提灯

 得意技5:火球・赤道


 卯月流・シリーズ

 得意技1:卯月流・月外し

 得意技2:卯月流・三日月狩り

 得意技3:卯月流・夕月

 得意技4:卯月流・朝月

 ==============


「アクセル・アクション!! 開け! ”火球・紅扇子”!! 架けろ! “火球・赫虹”!!」

「飛ばせ! ”スカイ・ラビット”!!」


 残り3分での、ランク2同士になったハクトとカグヤの攻防。

 開幕から遠慮無しとばかりに、カグヤの得意技3種混合が襲い掛かる。

 平面方向、縦方向。2種の範囲を逆さT字のように埋めた火球の列が、ハクトに襲い掛かる。


「くうっ! やっぱり当たらないわね!」

「アッハッハ!! はーっはっは!!」


 しかし、その範囲だけでは、到底足りない。

 ハクトは手に入れた念願の空を飛ぶ新技、”スカイ・ラビット”で簡単に火球を躱していく。

 カグヤの範囲は工夫しても、二次元平面をせいぜい縦化する程度。

 本当の3次元の動きが出来るようになったハクトには、簡単に避けられるような攻撃と化していた。


「どうしたのカグヤ!! あんな啖呵切っておいて、特に戦いが進化した様子も無いけど! もしかして新技、品切れかなあ!!」

「うっさいわね!! すっごい調子乗ってるわねハクト君!」

「そりゃあ乗るでしょ! こんな楽しい事、夢中にならない方がおかしいって!!」


 ハクトの軽快な質問に、半ばキレながら返事をカグヤがした。

 そんな彼女に対し、ジグザグな動きで空中を縦横無尽に動きながら、カグヤの真上に再度辿り着くハクト。


「跳ね落とせ! 【インパクト】!!」

「スタンプね! そうはさせないわ!!」


 ハクトのギア宣言の瞬間、カグヤはその場からステップで横に回避する。

 先ほどはハクトに見惚れていたせいでヒットしたが、タイミングさえ分かれば例え真上からの攻撃でも回避出来る。

 後は着地したハクトに対して、【ヒートライン】でも撃とうと計画していた。


 そして、ボウンッと【インパクト】が炸裂する音がする。

 直後には、カグヤの目の前にハクトが降ってきて────こない!? 


「落ちて、こな──?」

「【インパクト】! ”クイック・ラビット”ッ!!」

「あっぶなあ!? 後ろ!?」


 咄嗟にカグヤはその場にしゃがみ込み、背後からのハクトの蹴りを躱した。

 ハクトはスタンプを撃つのではなく、カグヤの背後に行く様に飛んでから、2発目で着地。そこから”クイック・ラビット”を放ったのだ。


「スタンプを囮に使ったわね! “火球・赤提灯”!!」

「やっぱ残してるよね、エネルギー! 跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 近接してきたハクトを迎撃する様に、火球を足裏にセットするカグヤ。

 しかしそれを見て、ハクトはすかさず再度空に跳んで逃げた。


「っく! 発射ファイア!!」

「”スカイ・ラビット”!! からの、”ラビット・スタンプ”ッ!!」

「キャアっ!! ま、まだ当たらないわ!」


 空に跳んだハクトに追撃する様に、赤提灯をすかさず解除して発射するカグヤだが、ハクトには簡単に躱される。

 そしてそのまま、今度こそスタンプを放たれて攻撃されるが、咄嗟にステップが間に合ってカグヤは回避した。


 ハクトの新技、”スカイ・ラビット”はとても強力だ。

 先程の様に、攻撃をするフリをして、別の場所に飛んでから接近。

 また、いつでも空中に逃げ込んで、追撃されたとしても、再度空中で回避してから攻撃。

 などなど、後出しでいくらでも対応出来る、まさに空の自由を体現した様な技だ。


「っち!! 【インパクト】!!」

「あ! 逃げた! エネルギー使い切ったわね!」


 しかし、その”スカイ・ラビット”も無敵というわけでは無い。

 カグヤに攻撃が全て躱されたと見るや、ハクトは自身に【インパクト】を切ってその場から撤退した。


 カグヤの言う通り、ハクトは今の攻防で既に【インパクト】を使い切っていた。

 空中を自由に移動でき、浮かんだまま回避も移動も出来る技だが、その分ギアのエネルギー消費も激しい技。

 特に、新技習得直後で興奮しているせいで、余計にギアを使いたくなっていたのだろう。

 10秒もしない内に、【インパクト】のエネルギーが完全に尽きる様になってしまっていた。


 一時的にハクトの”スカイ・ラビット”は封じられた。

 だから、今がカグヤにとって攻撃チャンスになるのだが……


「どうしたのさ、カグヤ! 攻撃してこないの? ほら、【インパクト】のエネルギー尽きてるのにさあ!!」

「うっさい! 分かってて言ってるでしょ!! もう単発の【ヒートライン】じゃ当たるつもりも無いくせに!! それだけ距離取られたら、簡単に横に回避出来るでしょう!」

「そりゃあ、あれだけ攻撃されまくればね! もうギア無しでも、ある程度は回避出来る自信はあるよ!」


 そう、カグヤは【ヒートライン】のギアのエネルギーは残っているにも関わらず、それを切る事が出来ないでいた。

【ファイアボール】は既に先程の攻防で使い切っている。

 火球シリーズと組み合わせるならまだしも、【ヒートライン】単発では、最早ハクトにはヒットしないだろう。例え”アクセル・アクション”で加速しても同様、軌跡が分かりや過ぎる。


 接近して放てば多少は話は変わるだろうが、もはやハクトは自分の攻撃時以外、カグヤには近づかないだろう。

 カグヤから接近しても、直ぐ走って逃げられる。その為卯月流シリーズもほぼ無意味。

 完全に流れがハクトに向いていた。


「まさか、ここにきて【ヒートライン】を装備してきた事を後悔するなんて……! そんな事思いもしなかったわ!」

「あっはは!! 本気を出したつもりが、逆に相性悪くなっちゃったね! このまま押し切って上げるよ!」


「白兎、めっちゃ卯月を煽ってるんだけど!! あいつあんな性格だったっけ!?」

「めっちゃ調子乗ってるね、彼! いやまあ、あれだけ空中を自由自在に飛べたら、そりゃあ僕だって興奮するよ!」


『ハクト選手、この10数秒だけでエネルギーを使い切るほどの激しい動きをしております! しかしそのエネルギー消費に見合った激しい技が繰り広げられているー!!』

『そりゃあんだけ動ければな!! まさしく縦横無尽を体現した様なもんだ! “スカイ・ラビット”、まさしく空を飛ぶウサギだ! もう調子乗りまくってるなあの少年!!』


 会場中が、ハクトの動きを見て大いに盛り上がっている。

【ファイアボール】、【インパクト】共にエネルギーが尽きたが、今はフィーバータイム。

 後20秒もしない間に、どちらのギアも直ぐ復活するだろう。

 互いに接近する様子も無し、束の間の休息が発生した────



 ☆★☆



「(──あ、これダメね。今のままじゃ本当に押し切られる)」


 ギアのリチャージまでの、僅かな時間の間。カグヤは脳内をフルで回転させていた。

 カグヤは、先程までの攻防と、今の自身の手持ちで取れる戦術を考慮して、軽く脳内シミュレーションをすると……

 結果、自身の敗北が出力される結果となってしまっていた。


「(空中の多重ジャンプが厄介ね……ルーティーンまでの回数制限が実質無くなった以上、今までの戦術の組み立ては全部使えなくなっちゃったわね)」


 この試合でのカグヤの戦術は、ハクトが空中ジャンプを使えない事前提で組み立てていたもの。

 自由落下の隙を付けば、少しずつでもダメージを与えられるだろうと。

 その前提が崩れ去った今、今までの詰め方では簡単に避けられて終わってしまうだろう。先程の攻防の様に。


「(後、ハクト君”更に高く飛んでない”? 明らかに【インパクト】の飛距離が上がってるわよね、あれ)」


 ランク2に上がった影響か、ハクトの1回での飛距離が上がっていた。

 あれは多分、下手したら15mは移動しているだろう。飛距離が全体的に1.3〜1.5倍になっている。

 メモリーカードの効果でギアの効果が強化したのかもしれないが、それにしては解説の風雅が言っていたように早すぎる。

 恐らくイメージの反映で、【インパクト】のコントロール効率が良くなったのが理由だろうと、当たりをつける。


 さらに言うと……


「(品切れ、ですって? その通りよコンチクショウ! いったい幾つ技使ったと思ってるのよ!)」


 カグヤは”既に隠していた技の殆どを使用”していた。

 流石に火球、卯月流、その他シリーズ含めて、手持ちの技のレパートリーがほぼ尽きていた。

 当然だろう、ハクト一人にいったい幾つ技使った。10個なんて既に超えてるわ、もう無いわよストック。そんな愚痴が浮かび上がる。


 新しいギアを使えばまだあるにはあるが、試合のルール上それは出来ない。

 つまり、初見殺しによる戦術がほぼ期待出来ない。


「(全く。とんでもない成長の仕方してくれちゃって……


 ──でも、だからこそ戦い甲斐があるわね……ッ!!)」


 カグヤの中で、ハクトに対する評価が爆上がりしていた。

【インパクト】による空中を含んだ縦横無尽の機動力。それをハクトは手に入れた状態だ。

 生半可な攻撃ではヒットすら望めない。

 次にあの機動力で一気に接近でもされれば、あっという間にHPが削られてしまうだろう。


「(弱点は、あるにはある。けれど……)」


 弱点は、ギアのエネルギーが尽きるのが早い事、攻撃力が比較的低い事と、遠距離攻撃を持っていないこと、この3点だろうか? 


 冷静に考えれば、無敵に思えるハクトの戦術も、弱点だらけとも言えるのだが……しかしどれも、今の状況ではカグヤに有利とは言い切れない。


 まず、【インパクト】のエネルギー切れに関しては、ハクトがまさにやってる様に、【ファイアボール】が尽きてる状態だと特に致命的では無い。

 直線的な【ヒートライン】単体では、彼の反射神経ならよっぽどじゃ無い限り横に走って回避出来るからだ。


 攻撃力が低い点も、それほど問題じゃない。カグヤ自身のHPも100を切っているからだ。

 後、2、3回技を喰らったら、流石のカグヤも終わるのは変わらない。

 しかもこの残りHPだと、ガードの上から無理やり削って来られることも考えられる。

 この様に、攻撃力の低さという弱点も、現時点では特に目立った状態では無い……


 唯一の救いは、遠距離攻撃が無いこと、これだけは今のカグヤにとって明確にメリットだった。

 空中から、永遠と距離を取って攻撃された日には、最早カグヤに勝ち目は無かったからだ。

 だから、カグヤの勝ち筋としては、ハクトからの攻撃がカグヤに当てる瞬間の際の、カウンターくらいなのだが……


「(……とは言っても、それくらいハクト君は想定してるでしょうしねえ)」


 攻撃時が一番の弱点。その事をハクトが想定していないとは到底考えられない。

 現に、カグヤにスタンプを当てるチャンスの際にも、フェイントで背後に回ってから攻撃してくる程だ。

 あの様に、攻撃のタイミングがはっきり分からない状態が続くと、360度どこからでも攻撃出来る事も合わせると、いつか押し切られるのは目に見えている。


 最早カグヤのほとんどの既存技ではダメージを期待出来ないだろう。


 このままではカグヤの負けは確定する────




「(────なら、この場で”新技”を考案するまでね)」



 カグヤはそう、結論付ける。

 ハクトが今日だけで、ここまでに新技をいくつも作ってきたのだ。

 ならば、私自身も今この場で、彼を倒す技を思いつくべきだ、と。


「(必要なのは、とにかくヒットする可能性の高い攻撃。この際攻撃力自体は考えないわ。どうせ今のHPじゃ、どれも当たったら致命的よ)」


 つまり、空を飛べるハクトにとって予想外の一撃となる攻撃。

 体勢を崩せるだけでも、それで【ヒートライン】がまた決め手に使えるようになるなら、それだけでも良い。

 更に言うと、出来ればネタが割れたとしても、ある程度通用し続けそうな戦法が良い。


 そんなワガママなような案が、今この場で思いつくのかと言うと────



「(……なるほど。私一人じゃ無理ね)」




「(────“なら、私が複数人分になれば問題ないわね”)」



 ……そのように、とんでもない結論を出す。

 ランク1のメモリーカードなら不可能だっただろう、けれどランク2ならいけるはず。そう考えていた。

 既に新技の案は思いつき、あとは実行するだけ。イメージは出来ている。


 そして、残り2分30秒からの最初の攻防も、既に脳内で詰め手を思いついた。

 うまくいけば、最初の衝突で決着を付けられる。

 それでダメなら……あとはまあ、アドリブになるだろう。出たとこ勝負だ。


「(……ハクト君。あなたは私が出会った中で、間違い無く最高の選手よ。だから……本当の意味で、私の全身全霊をぶつけに行くわ!)」



 そう心の中で改めて誓い、カグヤは再度走り出して行った────



 ☆★☆



『さあ、ハクト選手、カグヤ選手共に走り出したー!! 残り2分30秒、勝負はまだまだ分からないー!!』

『もう互いにHPは100切ってる! 下手をすれば、次の瞬間には決着付くぞ!!』

『ちなみに風雅選手は、どっちが勝つと思います?』

『多分、ハクト選手が有利!! 機動力の差がデカすぎて、カグヤ選手から見てほぼ360度どこからでも攻撃してくる! それだけで決着が付きそうだ!』


「白兎、頑張れよぉー!!」

「油断は出来ない一瞬、どちらも目を離せないね!! 卯月さん、どう出る!?」


「迸ほとばしれ、【ヒートライン】!!」

「跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 ゴウッ!! 


 まずは初手、カグヤの【ヒートライン】が発動される。

 一回でもヒットしたら、問答無用でゲームセットの攻撃、しかし最早牽制の役割しか果たせていないそれを、ハクトは当然のようにギアで避ける。

 今までは横方向への回避が当然だった、けれど今回は火柱の上を飛び越えるように、上方向へ跳んで逃げている。


「そうよね! せっかくなら、上に逃げたいわよねえ! 架けろ! “火球・赫虹あかにじ”!!」

「そうだね! じゃあ、これも分かってるでしょ! 飛ばせ!  “スカイ・ラビット”!!」」


 それを互いに読んでいたとばかりに、カグヤの対空技に適している赫虹が発動される。

 計5発分の火球が、地面と平行に直線で飛ぶ1発を基準として、段々アーチ状になるように縦に重なって放たれる。


 今まではそのアーチに、最低1発は被弾していただろうその攻撃。

 それをハクトは更に空中で新技を発動して、より高く、更に空に向かって飛ぶように避ける。


 これこそが、ハクトの手に入れた”スカイ・ラビット”の真の強み。

 今まで空中に飛んだらそこで終わっていた行動に、”次”が生まれる事になった。

 それこそが、本当にハクトが叶えた、空を飛ぶという夢の力だ。


 空中で更に飛んだハクトは、その勢いでカグヤの上空に更に接近。

 そして、彼女の真上に来た時点で【バランサー】により体勢を整え、体を上下反転、自由に使えるようになったもう一つの得意技を放つ。


「跳ね落とせ! ”ラビット・スタンプ”ッ!!」

「さっきと同じね、でも今度は背後を取らせない!!」


 ズドンッ!!! 


 ハクトの空中からの強襲を、ギリギリのタイミングでバックステップで躱す輝夜。

 今度は、ハクトに注目をし続けて、背後に飛ばれていたとしても、対処出来る様意識しておく。

 その注目もあって、今度はハクトは素直にスタンプで地面に降り立った。


 ここまでの展開自体は互いに読み切っていた。ここからが両者の差がはっきりと現れることとなる。



「迸ほとばしれ────」


 バックステップで距離を取ったカグヤが、再度【ヒートライン】を発動しようとする。

 地上に降りてきたハクトに対し、当てるならこの瞬間しか無い。

 そして、それはハクトも既に読んでいる。背後を取れなかったとしても、十分ここから対処は可能! 


「させるか! ”クイック・ラビット”!!」

「くうっ!!」


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:86 → 78

 ==============


 彼女のギアの発動の瞬間、ハクトは本来の使い方の”クイック・ラビット”を放っていた。

 ギリギリカグヤの腕の差し込みが間に合ったせいで、ダメージはそれほどでも無い。

 しかし、ガード越しに頭を揺らした為、ギアが不発扱い、エネルギーを一つ無駄に消費させることが出来た、筈だ。


「このまま! ”クイック・ラビット”連打で……」

「……っふふ!」

「ん、何を?」


 このまま押し切ろうとしたハクトに対して、思わずと言った形でカグヤが笑みをこぼす。

 その笑顔に、嫌な予感がしたハクトだったが、とにかく今は攻めるべきと考え直し、次の攻撃モーションに移ろうと────


 ドゴウッ!! 


「がアッ?!!」


 ……突如、背後から衝突した衝撃。

 “目の前にカグヤがいるにも関わらず”、ハクトは背中から攻撃されていた。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:95 → 63

 ==============


「(なんだ、何が起きた!?)」


 突然の視界外からの攻撃に、ハクトは大混乱する。

 想定外の衝撃に、体勢が崩れ、次の動作に遅れが生じてしまう。

 そしてその隙を、カグヤは見逃すつもりは無かった。


「“卯月流・朝月あさづき”っ!!」」

「ぐあっ!?」


 動揺したハクトに間をおかせないように、顔面に攻撃を叩き込んで追撃するカグヤ。

 その勢いで、完全にハクトは背中からドサっと倒れた状態になった。

 ハクトにとっては、背中、顔と順に攻撃され、何があったかまだ整理出来ていない! 


「迸ほとばしれ────」

「(っ!? 3回目……いや、さっきのはフェイク!?)」


 カグヤが再度、切り札の前口上を唱え始めた瞬間、ハクトは先程”クイック・ラビット”で防いだつもりだったのは、ただのフェイントだったと直ぐに悟った。

 先程の詠唱は、撃つつもりの無い空撃ち。だから脳を揺らしたとしても、発動失敗も何も無く、エネルギーのロスもしていないと。


 今更気付いたとしても、もうカグヤの足は振り下ろされる直前で──


「おおお!! 【インパクト】ォッ!!」

「【ヒートライン】!!」


 ハクトは咄嗟に寝転がった状態のまま、ギアを発動する。

 先に発動出来たのはハクトだったが、咄嗟に移動方向の設定までは出来なかった。

 自身が吹っ飛んだ方向はカグヤから離れては行く……しかしまだ【ヒートライン】の直線上だ! 


 吹っ飛んだハクトを追うように、火柱が迫ってくる……!! 


「もう一度! 打ち上げろ【インパクト】ォッ!!」


 吹っ飛びながらも、後転をするように体勢を入れ替え、体を起き上がらせたハクト。

【ヒートライン】が当たるギリギリのタイミングで、なんとか真上に再度逃げる事ができた。


「ちいっ!! 今ので倒せなかったのは痛いわね! もう一度、”火球・赫虹”ィ!!」


 カグヤがそのように愚痴を溢しながら、追撃の為にもう一度同じ得意技を放つ。

 最初の攻防と全く同じ組み立て……しかし、ハクトにとっては先程の背後からの攻撃の正体が掴めていない! 


 このまま先程のように攻めに行って良いのか、一瞬迷った結果……


「……跳ね落とせ! 【インパクト】!」

「着地!? 近づいて来ないの!」


 ハクトが選んだのは、その場で地面に戻る事だった。

 既に【ヒートライン】の火柱は切れている。地面に戻っても問題は無い。

 一見弱気の様な選択肢に見えるが……今回は正解だった。


 カグヤにとって、ハクトのその選択は予想外のものとなっていた。

 カグヤが組み立てられたのは、フェイントからの【ヒートライン】2発目まで。それ以降の動きは読み切れていなかった。


 なので、折角の”新技”のネタが、直ぐバレてしまう結果となった。


 地上に着地したハクトは、落下の衝撃を殺す様にバク転をして後ろに飛び、”赫虹”の範囲外から逃げる様にする。

 そして、飛んできた残りの火球5発がハクトの目の前に収束する様に集まっていき、地面に続々とぶつかっていく……


「……ん?」


 ──しかし、直線上に飛んでいた火球だけ様子が違う。

 ハクトの目の前まで跳んでいた内1発の火球が、段々減速をして、ハクトの目の前でピタリと止まる。そして……


 ────”その火球は、カグヤに向かって戻って行った”。


「っは?!」

「もう! 気づかれちゃったわ!!」


 カグヤに向かって戻って行った火球は、発動者に襲い掛かる様にスピードを上げて戻っていく。まるで、ゴムに繋がれたボールの様に。

 その火球を、カグヤは最小限の動作で躱す。

 その後丁度その火球は維持限界だったのか、何にも当たらないまま自然消滅した。


「今のは、まさか……!?」

「バレちゃったら仕方ないわね! そう、これこそ私の新技! ”火球・赤林檎あかりんご”よ!!」


 開き直る様に、カグヤは先程の軌道の正体を自信満々に宣言する。

 彼女にとって、また新しい技を使っただけだったと。


『なんとなんと!! ここに来てカグヤ選手の新技が、沢山の火球の中の一つに、既に発動されていた! 発動者に戻っていく、まるで引力に導かれる様な軌道をする新技だー!!』

『ハクト選手の背中に当てたのはそれか!? 空中にいるハクト選手に当てられないからって、背後から奇襲になる様に仕向けてやがった!?』


「卯月のやつ、ここに来てまだ新技のレパートリーあるのかよ!? しかも宣言せず、こっそり撃ってやがった!?」

「彼女、どれだけ技のストックあるんだろうね……いや、けどこれ、イナバ君にとって少し不味いかも」


 既存の技を宣言しておきながら、こっそり1発だけ特殊な技を混ぜていた。

 初見では対処し切れないだろう、現にハクトも引っかかってしまった戦略だった。


「カグヤ、お前まだこんな隠し球を用意してたんだね!?」

「ふっふっふ、驚きなさい。──今さっき思いついたばっかりよ!」

「出来立てホヤホヤの技か!? そんなノリで新技ポンポンと出して来ないでよ!」

「ハクト君にだけは言われたく無いわよ全技今日だけで作ったアドリブ少年があ!!」


 ハクトの言葉に対し、お前が言うなとガチ切れするカグヤ。

 これこそ、カグヤにとって本当にとっておきの戦術だった。


 ネタバレしてしまい、ここからは通用しなくなる様に思えるが……


『いや、この新技かなりキツイぞハクト選手にとっては!? ハクト選手が有利だったのは、機動力の差で360度どこからでもカグヤ選手を狙えるからだ! この状態がそのままカグヤ選手にも使える様になっちまってる!』

『あれ、要はカグヤ選手以外の人に撃って貰ってる様なもんですからね。ハクト選手からしてみれば、複数人に囲まれて撃たれている様な状況でしょう』

『まさしくそれだ! ハクト選手、実質1体複数人に囲まれている様な状況になる! あれ、彼チーム戦経験あるか!? このまま一方的にやられるぞ下手したら!』


 風雅がマイク越しにその懸念を発している。

 一応、彼の懸念とは裏腹に、不良兄弟戦でチーム戦自体は、ハクトは経験出来ている。

 しかし、1体複数はほんのちょっとの時間だけで、キテツ、アリスが参戦してくれたため、殆ど相手の人数が多かった経験は少ない。


 不良兄弟もほとんど真正面から見据えて戦っていたため、背後から攻撃がくる経験は殆ど出来ていなかった。


 ここに来てカグヤは、”マテリアル・ブーツ”の試合経験の差……”フィールドの視野”の違いをメインに組み立てて来たのだ。


「これで、一度躱した火球もハクト君は注目し続ける必要が出来たわ! そんな注意散漫な状態で、私に攻撃を当てられるかしら!」

「でも、だからって全弾戻すことは出来るとは限らないんじゃ無いの! さっきも別のわざと組み合わせれたのは、1発だけだった!」

「そうね、確かにそれは難しいわ! 単純な動きならまだしも、赫虹みたいな差だとちょっとキツかった! けどハクト君、その判別があなたにつくのかしら、どれが赤林檎になってるのかなんて!」

「っく!!」

「これで状況は、五分に戻せたわ!! 今度は私のターンよ!!」


 ここに来て、カグヤの新技。

 しかもネタが分かったとしても、相手の思考処理に負担をかけるタイプの技だ。

 情報処理の差による攻め方は、ケンジ兄によってその重要性は教えられてはいるが、今この場で対応し切れるわけではなかった。


 ……そして、このカグヤの話を聞いてハクトは思った。



「(────これ、付き合う必要ある?)」 と……



 いや、勝負を捨てるわけでは無い。単純に……



 ☆★☆



「(──よし、まだ何とかなるわ! 赤林檎、これを使えばまだまだ戦える!)」


 カグヤはそう、心の中で一安心していた。

 とっておきのトドメまでのコンボは防がれてしまったが、それでも十分状況は持ち直せた。

 後は赤林檎で、ハクトを挟む様に攻撃し続けていけば、攻撃の処理能力の差で押し切れる可能性も高い。


「(まだまだ簡単には終わらせない! このままタイムアップギリギリまで、全力で粘らせて貰うわ!)」


 そうして、カグヤは再度走り出す。

 既に次のギアのリチャージは完了済み。残り2分。先ずは出し徳の”アクセル・アクション”で加速した、牽制の”ヒートライン”でも撃とうとして、そこから赤林檎含めた火球シリーズでも……


「”アクセル・アクション”!! 迸ほとばしれ、【ヒートラ──ッッ?!!」


 ──次の瞬間、カグヤは攻撃を中断。

 全力で、上半身に両腕でガードを固めていた。ガードは強く、しかし下半身に力は入れず堪えない状態で。

 咄嗟の判断、ほぼ感で動いた結果だった。カグヤ自身何故そうしたか分からなかったが──


 ────“何故か目の前に、既にハクトがいた”。


「ブチかませ!! “クイック・ラビット”ッ!!」


「ふぐうううッッ?!!!」


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:78 → 35

 ==============


 ズゴシャッ! っと生々しい音が響き渡る。

 カグヤのガードの上から、ハクトの超強力な重い蹴りが放たれ、めり込む様に攻撃が当たった! 

 勢いが強すぎて、カグヤはガードしたにも関わらず少しダメージを受けた上、その場から背後に吹っ飛ばされた! 


「何!? 何なの!?」


 今後は、カグヤが動揺する番だった。

 吹っ飛んだ後、【バランサー】無しにも関わらず、その戦闘経験で空中で体勢を整えて、上手く着地をする。

 状況は分からないが、敢えて堪えるような事をせずに、自分から吹っ飛んだお陰でダメージがこの程度で済んだと言える。


 次はハクトから目を離さず、何をやったか判断する為に、カグヤはすぐ視線を上にあげていた。


『ハクト選手、カグヤ選手にダメージをいれるー! カグヤ選手、風前の灯だ、一体何をやったー!?』

『いや、何をやったって言うか、アレ──』



「────”アクセル・ラビット”」



 解説の言葉を遮ら無い程度に、ハクトが小さくそう唱えたのがカグヤには分かった。

 カグヤは再度、自身の直感に従って、起き上がった体をまた前のめりに倒していた。


 次の瞬間には、ビュゴウッ! っとハクトが目の前まで来ており、再度カグヤの上半身があった場所に放たれていた! 


「”クイック・ラビット”!! っちい! 2発目は避けられたか!!」


 蹴りを放ったハクトはその場で止まらず、カグヤを通り過ぎるようにして吹っ飛んでいく。

 そして地面にズザーッと擦れ、カグヤに向き直るように体勢を立て直していた。


「ちょっとハクト君、今のそれ!?」

「ああ、そうだよ。お察しの通り。……カグヤ、君”参考例”を見せすぎたね」


「【インパクト】を完全に真横に向けての、加速蹴りか!? 白兎のやつ、突進しながら技放ってやがったぞ!」

「完全に、卯月さんの”アクセル・アクション”を参考にしてたね。ガードの上からでも、十分ダメージが入るほどの強化になってる!」


 観客席から見ていたキテツ、アリスにはハクトが何をしていたのか直ぐ分かった。

 カグヤが今までやっていた加速してからのギア発動を、ハクトは【インパクト】で再現していた、と。


「ハクト君、私の技パクったわね──ッ!?」

「あれだけ散々、おんなじ事繰り返されたらそりゃあやるよ! 簡単に真似出来る上、単純に威力アップしやすいんだから!」

「ちょっと、それ卑怯じゃ無い!!? 今まで1試合につき、一つの新技でやってきたじゃないこのトーメント戦! 私の時だけ二つ新技っておかしいわよ!? ここは”スカイ・ラビット”メインで頑張るところじゃ無いの!? お約束的に!!」

「知らないよそんなことっ!! あと、散々新技十数個使ってきたカグヤに言われたく無いし!!」

「「それはそう」」


 今度はハクトの言葉に、アリスとキテツがうんうんと頷き始めていた。

 明らかに技のストックに差があり過ぎた。自分たちも技そこまで持ってるわけじゃ無いのに、カグヤだけ明らかに多過ぎると。


「と言うわけで、”アクセル・ラビット”!! からの、”クイック……」

「させるかあッ!! “卯月流・朝月”ィ!!」

「カウンター!? 緊急回避、【インパクト】!!」

「ちぃっ!! ギリギリで避けたわね!」


『カグヤ選手、ハクト選手のパク、もとい新技を、既存の朝月だけで対策ー!! 突進してくるハクト選手に対して、手で壁を立てたようなものですね!』

『あれって要は退歩だな、どっかの漫画で見た。突進からの攻撃って、要は自動車の衝突と同じようなもんだからな。加速すればするほど威力は上がるが、自分から壁にぶつかればそりゃあ車の方にダメージいくしなー。慌ててるようで、やっぱ冷静に対策してるな彼女』


 ハクトの遠慮の無いトドメの攻撃を、叫びながらも冷静にカウンターで対処するカグヤ。

 ギリギリで気づいたハクトが攻撃を中断し、カグヤの上を乗り越えるように吹っ飛んで回避していた。

 ハクトが勝利かと思えば、逆にカグヤの勝利になるギリギリの攻防。


 それを見て、比較的のんびり感想を述べるカラーと風雅。

 HPはもはや互いにギリギリだが、実力が拮抗し過ぎて逆に止めが互いにさせていない状態。

 またある意味膠着状態が続くんだろうなーと、実況席の二人は思っていた。



「(──やばいやばいやばい!! ハクト君、遠慮なくトドメ刺しに来ちゃってる!?)」


 しかし、実際の所カグヤの内心はとても焦っていた。

 ハクトがまさか搦手ではなく、ある意味正面突破を選択してくるとは思っていなかったのだ。

 いや、キテツ戦を考慮すれば十分可能性はあったといえる……それに気づけていなかった。

 彼は最早、カグヤに火球シリーズも一切出させず、何もさせないつもりだったのだろう。


「(ここに来て、”スカイ・ラビット”を捨ててパワー全振りのダメージ狙い!? 彼の夢が叶った直後だって言うのに、それを躊躇無く捨てて戦術を切り替えれる!? 思いっきりが良すぎるでしょう!?)」


 ガードの上からのダメージ狙いは、想定はしていた。

 しかし、”アクセル・アクション”を参考に独自の威力アップ技を組み合わせて、それを使ってくる事までは読み切れていなかった。


 本来、”スカイ・ラビット”中心で襲いかかってくるハクトに対して、”火球・赤林檎”で駆け引きを発生させて、それで戦術を組み立てていこうと思っていた。

 そんなおりに、まさかのこれだ。

 ハクトは、もう駆け引きに付き合う気も無いとばかりに、速攻で勝負を決めに来ていた。

 これでは駆け引きも何もあったものじゃ無い。


「(もう出し惜しみなんて言ってられない!! 思いついた”アレ”、もう今使うしか無い!! あと、パクリ技が敗因になるのだけは絶対イヤ!!)」


 今の攻撃はなんとかカウンターが決まりかけたが、何度も出来るとは思えない。

 ハクトにも一撃で勝負が決まる火力が手に入った以上、ここからの長期戦はカグヤにとってもリスクだった。


 ハクトのインパクトは、今の攻防で6発使用で、残り4発。

 不幸中の幸か、カグヤに何もさせまいとして攻撃してきたお陰で、カグヤのギアのエネルギーはフルで残っている。

 しかし、ハクトもその残りのエネルギーだけで、カグヤの攻撃を躱し切ろうと思えば十分躱してくるだろう。


 HPがハクトの方が多い以上、彼の方からリスクをとってくる事はしない筈。多分。

 だから、カグヤからの攻撃が今は仕掛ける事が出来る。次の攻撃で勝負を決めに行くしかない! 



 ☆★☆



「くそう、トドメを刺し切れなかったか!!」


 カグヤが色々決心をしている中、ハクトも先程の攻撃で決着が付けられ無かったことを悔しがっていた。

 散々空中からの攻撃を意識させておいてからの、最短距離での高威力の蹴り。

 カグヤの不意を付くには十分だった筈なのに、もう2発目以降は対処された。

 しかも3発目にはカウンター狙いまでされて、危うく逆に終わる所だった。


「ここは一度、カグヤの攻撃を躱すのに意識を変えるしかないか……」


 この残りギアのエネルギーだと、攻撃に全振りするには、先程のカグヤの動きを考えると対処される恐れがある。そしたら逆に、今度こそハクトの隙になり、本当の終わりだ。


「さて、次は何がくるか……赤林檎1、2発混ざっている事は警戒しないと」


 最早カグヤの火球シリーズは、一回避けただけでは安心出来なくなる攻撃となった。

 だからこそ、先程の攻撃で終わらせたかったのだが……終わった話を蒸し返してもしょうがない。

 次のカグヤの攻撃を、今度は何が来るのかちょっとワクワクしながら待っていた。


「これで、決めるわ!! ”アクセル・スピン”!! ────激しく周まわれ!! “火球・赤道せきどう”!!」

「赤道か!! けど、さっきより密度が高い!?」


 カグヤが選択したのは、既存技だった。

 しかし、その螺旋の密度が先程より高く、先程より火球の旋回速度が高かった。

 これでは、先程のように隙間を縫って回避する事は難しいだろう。

 明らかに、ジャンプを誘われているが……


「乗ってやる! 跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 敢えて、その狙いに乗ってみることにしたハクト。

 火球の輪が迫ってきたところで、自信を跳ね上げて回避する。


「そんで持って、”スカイ・ラビット”!!」

「来なさい!!」


 空中で【インパクト】を発動して、斜め下に飛んでカグヤの目の前に着地する。

【インパクト】の残りエネルギーが少ない上、カグヤの【ヒートライン】がまだ切られていない。

 赤林檎も飛んでくる可能性を考えると、すぐに着地して対応出来るようにしたかったのだ。


「”アクセル・ラビッ──」

「させない! “卯月流・朝月”!!」

「残念、嘘だよ!! 普通のキック!!」

「あっぶな!? ハクト君ちょっとッ!」


 ”アクセル・ラビット”を囮にして、カグヤの技を誘発。その隙をついて、普通に蹴りを放っていたが、ギリギリで躱された。

 しかし、今はこれでいい。少なくとも、赤道で飛んだ火球の内、どれが赤林檎なのか判断してから攻撃に移りたかった。


 ハクトは自身の背後にも意識を向けながら、カグヤと向き合い続ける。

【ヒートライン】や、近づいて卯月流が来てもすぐ逃げられるように、かつ背後からの攻撃も気にし続け……


 ……すると、カグヤの背後に、赤道の火球が戻ってきている様子が見えた。

 つまり、カグヤの背中から来る! そう思って対処しようと──




 ──ちょっと待って。自分の背中からも来ている気配がする。

 と言うか、横からも来てない? あれ? 


「喰らいなさい! ”火球・赤道────収穫”!!」


 そうカグヤが唱えると……




 ──飛んでいた”火球10発、全部が戻ってきていた”。



 嘘だろ、おい。




「なあああああッ!?」

『これはハクト選手、360度全てから【ファイアボール】が飛んでくる!! 逃げ場がなあーい!!』

『あっっははははは。もう笑うっきゃねえー、何あの技術。ははははは』

『ちょっとお!! 解説放棄しないでくださいよおー!!』


 カグヤが赤道で使った弾、全部赤林檎状態にしていたのを見て、解説の風雅が壊れ始める。

 それくらい、笑えるほどの狂った技術の結晶だった。


「嘘だろおい!? 卯月のやつ、自分も攻撃の中心にいるよな!? 二人とも終わるぞ!?」

「相打ち覚悟かい!? いや、ここまで見た彼女の性格でそれはないと思うけど! でもなんて度胸なんだ!?」


 観客席のキテツとアリスも驚くなか、火球の”輪”の収束速度が上がっていく。

 しかも微妙に弾道がバラバラで、恐らくランダムにハクト達にぶつかっていくだろう。


「くう! これ、一旦逃げるしか……」

「逃さない! “卯月流・朝月”!!」

「うぐう!?」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:63 → 54

 ==============


「そして、”卯月流・月外し”!! ──さあ、燃え上がりましょうか!」

「カグヤ、お前ええっ!?」


 一瞬迷ったハクトに対し、顔面への攻撃で行動をスタン。

 そして、”月外し”でハクトにしがみ付いた状態になった。

 このまま力を入れ続ける選択もカグヤにはあったが……まずは最低限、逃げられない程度の力だけ入れる。


 そして、迫りくる火球に対してハクトをぶつけようと画策していた。


 ハクトはこの時点で、【インパクト】で微妙に逃げられないでいた。

 2発だけでは、カグヤを持ち上げながら移動は少しキツイ。

 火球が段階的に迫ってくる以上、攻撃の瞬間だけ空中に避けようとするのは不可能、すぐ次のが来る。

 輪の外に逃げようとしても、中心を通り過ぎた火球がまた広がるように軌道を描く可能性も、とか思ってる間に火球が来た────ッ!? 


「っく!! おおおッ!! あああ!?」

「あっはは!? あはははは!!」


 ハクトは掴まれたまま、なんとかカグヤを振り払おうと動き続けながら、火球を避けていく。そしてあわよくば、カグヤの方に火球を当てようとしながら体を振り回す。


 そして掴んだままのカグヤは、ハクトになんとかしがみ続け、ハクトの力を入れた方向とは逆に、はたまた敢えて同じ方向に力を入れて体勢を崩させ、迫りくる火球に当てようとする。


 1発、2発、3発──どんどん二人の近くを火球が通り過ぎていく。


 途中でカグヤは、締め付けの攻撃を強める。ハクトに少しでもダメージを与えるため。

 けれど、自分の動きを阻害しない程度に。


 4発、5発、6発──動き続けている二人は、まるでダンスを踊っているよう。


 極まった締め付けで、ハクトに少しダメージが。

【ファイアボール】1発でトドメになるように調整される。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:54 → 28

 ==============


 7発、8発、9発──もう直ぐ、火球が尽きる。


 あと少し。それが少しの油断となり、カグヤに振り回されて動きを操作される。


 10発目、とうとうハクトの動きが間に合わず、彼に向かって火球がヒット────



「跳ね上げろ! 【インパクト】ぉ!!」

「うきゃう!?」


 ──する前に、ハクトはカグヤごと自身を打ち上げた。

 彼らの真下を、最後の火球が通り過ぎる。躱し切った! 


「空中なら、回避も何も無いよねえ!!」

「っ!!」


 跳ね上がった衝撃で、カグヤの掴みが甘くなり、ハクトと離れていた。

 そしてその状態で、ハクトは彼女の上で体勢を上下反転させている。トドメを放つ気だった。


「”ラビット・スタ──」

「させない!!」

「うわあ!?」


 ハクトが技を繰り出そうとした瞬間に、カグヤは咄嗟にハクトの逆さになった上半身を掴んで、自分より下に振り下ろした。

 カグヤよりしたの位置になってしまったハクトは、そのまま真下にスタンプを放つ形に。

 最後の【インパクト】の攻撃が外れてしまった。


「”卯月流・三日月狩り”──!!」

「おわあ!!」


 そしてお返しとばかりに、空中から踵を振り上げたカグヤが地上のハクトに対して落下しながら攻撃。

 ハクトは真上を見る暇もなく、咄嗟に横っ飛びでギリギリ回避していた。


「っく!!」

「逃さない!! 【ヒートライン】!! さらに、【ヒートライン】!!」

「二列!? あああああっ!!」


 背中を見せながら急いで離れていくハクトに対し、カグヤは追い討ちで取っておいた【ヒートライン】を放つ。

 1発目は横っ飛びで回避された、その方向にすかさず2発目。


 ゴウッゴウッ!! 


 二列になった【ヒートライン】に、ハクトはギリギリ────回避しきった。


「っはあっはあ!? あっぶな、危なかったあー!?」

「くあああ!? あれで止め刺せないの?! 逃げられたー!!」


 ハクトは危機を切り抜けたことに一安心し、カグヤはとっておきすら逃げられた事に頭を抱えて悔しがっていた。

 残り時間が少ないが、ハクトはまだ楽しめるという事実に、知らずにニッと笑みを浮かべ始めていた。



 ☆★☆



『ハクト選手、あの猛攻を凌ぎ切ったぁーっ!!? あの360度攻撃されたような状態から、よくぞ生き残りました!!』

『一緒に耐えたカグヤ選手も凄え!? よく耐えたなあれ!! お互いあと一撃でも食らったら終わりのHP!! もう試合時間1分もねえぞ!?』


 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:0分40秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:28

 rank:2

 スロット1:インパクト (残りE 0 → 10/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット


 <自前能力>

 ラビット・シリーズ

 得意技1:ラビット・スタンプ

 得意技2:クイック・ラビット

 得意技3:ラビット・バスター

 得意技4:スカイ・ラビット

 得意技5:アクセル・ラビット


 VS


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:35

 rank:2

 スロット1:ファイアボール (残りE: 0 → 10/10)

 スロット2:ヒートライン  (残りE: 0 → 2/2)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット


 <自前能力>

 その他・シリーズ

 得意技1:ファイアボール・ガトリング

 得意技2:フェイク・アクション


 アクセル・シリーズ

 得意技1:アクセル・アクション

 得意技2:アクセル・スピン


 火球・シリーズ

 得意技1:火球・紅扇子

 得意技2:火球・赫虹

 得意技3:火球・紅葉

 得意技4:火球・赤提灯

 得意技5:火球・赤道

 得意技6:火球・赤林檎

 得意技7:火球・赤道・収穫


 卯月流・シリーズ

 得意技1:卯月流・月外し

 得意技2:卯月流・三日月狩り

 得意技3:卯月流・夕月

 得意技4:卯月流・朝月

 ==============


「もう残り40秒!? 実質、次のリチャージはほぼ無理と見ていいわね、つまりこれが最後の攻撃!!」

「どうするカグヤ! HPはそっちが勝ってるけど、そのまま逃げ切るつもりかな!」

「まっさかあ!! ここまで来て、逃げ切りで勝つなんてつまんない決着の仕方、するわけないでしょう!」

「だよねえ!」


 ハクトの挑発を込めた問いかけに対し、最後まで責め続けることを答えるカグヤ。

 まんまと挑発に乗ってしまったといえるが、そんな決着は会場中の誰もが求めていないだろう、やるなら思いっきりだ。

 ……とは言ったものの、本気で技のレパートリーがネタ切れだ。

 さっきの”収穫”の取っておきも破られた以上、あと出来ることは……


「赤林檎と……初めてだけど、【ヒートライン】の”改造”にかけるしかないわね!!」


 カグヤは、これまでやった事のない事に挑戦しようとしていた。

 ここまで、頑なに【ヒートライン】を仕様通りの使い方のみしていたカグヤ。

 風雅が言っていた、強力なギアほど発動者のイメージ反映がしづらい、と言う言葉は身をもって既に知っていた。以前にも何度か試していたから。


 しかし、絶対出来ない、と言う訳でもない筈。

 曲げるのは無理でも、別の方面でイメージの反映は出来るかもしれない……

 土壇場で、それに挑戦することをカグヤは選んでいた。


「さあ! これが最後のギア!! 乗り越えられるかしら、ハクト君!」

「やってやる!! こい、カグヤ!!」

「その意気や良し!! 行くわよ!」


 互いに準備万端。最後の気合を入れて、準備が完了した。


「”アクセル・スピン”!! ────降り注げ! ”火球・赤林檎・雨あめ”ぇ!!」

「まだ技あったの!? というか、うええ!?」


 カグヤが射程アップの回転をした後、カグヤとハクトの間を埋めるように火球を真上に放り投げまくる。

 空中に浮かんだ火球は、やがて地面に落ちるように曲がり、文字通り雨のように降り注ぐ。

 しかも落下の軌道が、自由落下という訳でもなく、微妙に曲がったり渦巻いたりと軌道がランダムで読みづらい。


 とかハクトが考えている間に、彼の真上に火球が一つ降ってくる!? 


「っくう! “アクセル・ラビット”!」


 咄嗟にハクトは、加速衝撃を利用して攻撃を避けながら、カグヤに向かって真っ直ぐ跳ぶ。

 以下に複雑な軌道でも、その前に最短距離で接近すれば問題ないと考えたからだ。


 ──ここで、遠回りでも【インパクト】大量使用で、空を大きく上回りながら近づけば、話は変わっていたのだろうか。

 カグヤにとって、最適な展開となった。


「”アクセル・アクション”!!」

「【ヒートライン】か! それも避ければ、俺の勝ちだ!!」

「────全力全開!! 【ヒートライン】ッ!!」

「跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 カグヤが、走りながら空中で前転し、”両足”でヒートラインを放つ。

 そのカグヤの攻撃に合わせて、タイミングバッチリで自身を打ち上げたハクト。

 最小限の動きで、【ヒートライン】を躱す高さの筈だった。

 ここから、空中で最短距離で接近すれば──


 ゴゴウッ!! 


 ────いや、【ヒートライン】の火柱が高い!? 


「なあ!?」

「最後の最後で、空に拘っちゃったわねえ!!」

『ヒートラインが、更に高く!?』

『ちょっと風雅さんあなたあれイメージ反映出来ないって言ってましたよねえ!?』

『俺だって予想外だわあんなん!?』

「イナバ君!?」「白兎ぃ!?」


 それは、今までの”2倍”の高さ。

 ハクトは特に気にしていなかったが、カグヤは”両足”を振り下ろして【ヒートライン】を発動していた。

 同じ線ライン上に、2発分の火柱。それがどんな結果になるか、カグヤにははっきりと分からなかったが、イメージはしていた。


 すなわち、火柱の勢いが強まって、より高い所も攻撃出来るようになってくれると。


 解説の風雅の言っていた、強力なギアへのイメージ反映を土壇場で成功したのだ。

 もしハクトが、最初から横に飛んで逃げていたなら意味のない攻撃。

 しかしカグヤは、彼が【ヒートライン】に対しては、せっかくだからと真上に逃げようとしてくれる事に賭けていたのだ。

 カグヤは賭けにかった。


「緊急回避!! ”スカイ・ラビット”ォッ!!」

「「よ、避けたあ!?」」


 が、しかしそれでやられるほどハクトも既に甘くは無い。

 ギリギリ、本当にギリギリのタイミングで【インパクト】が間に合い、より高く飛び上がって回避した。

 もはや最初の火球より、遥か高く上に飛んで、カグヤの攻撃範囲から完全に逃げ伸びた。

 攻撃を完全に避け切り、あとは空中からカグヤに接近するだけ──


「──まだよ!! 赤林檎は、まだ止まっていないわ!!」

「ん!? んなあ!?」

『さっき地面に降ってきた【ファイアボール】が、再度上空に向かって飛んで行ったあっ!?』

『あの子、最初からそうイメージして発射してやがったな!? 初めから”2段回”の軌道反転含めてやがった!?』


 カグヤの攻撃は、終わっていなかった。

【ヒートライン】を躱される事承知で、再度火球がハクトに向かって飛ぶように、風雅のいうとおり赤林檎の二重掛けを行っていた。


 驚いている空中のハクトに対して、再び火球が襲い掛かる──


「”ラビット・スタンプ”ぅ!!」


 ──前に、地上に向かって急速落下。ハクトのいた位置に対して、火球が通り過ぎていく。

 ハクトは火球を回避出来たが、微妙に地上にいるカグヤの位置とはズレている。

 これではスタンプは当たらない! 


「さあ、来なさい!!」


 地上にいるカグヤは、片足をハクトの着地予定地点に対して向けていた。

 当然、【ファイアボール】のエネルギーは2発も残していた。

 後1発、当てればカグヤの逆転勝利だ! 


「おおおあっ!!」


 ハクトは急速落下しながら、カグヤに目をやり、地上に着地──


「っ【インパクト】!! 【インパクト】ォ!!」

「【ファイアボー、んな!?」


 ──する瞬間に1発、更に飛んだ先で1発。

 計2発の連続使用。2発目を発動した先にいたのは──カグヤだった。

 カグヤの【ファイアボール】より先に、【インパクト】が発動される。


 ボォンッ!! 


「キャアあああ!?」


 カグヤ自身が高く打ち上げられる。

 発動しようとした【ファイアボール】は、発動失敗扱いになり、不発となった。


「っく! まだ……っ!!」


 高く打ち上げられても、カグヤは諦めずに自力で空中で体勢を整えようとする。

 間違い無く、追い討ちで飛んでくるはずのハクトを、最後の【ファイアボール】で迎え撃とうとする為に。


「跳ね上げろ! 【インパクト】!!」

「っ!!」


 だが、体勢を整える前にハクトが地上から既に接近していた。

 カグヤは体が真上にまだ向いている為、下から飛んでくるハクトを良く見えない。

【ファイアボール】じゃ狙えない、ならば。


「このまま、”卯月流・三日月狩り”!!」


 カグヤは背面のまま、ハクトの接近タイミングを予想して踵落としをする。

 カウンターでダメージを与えれば良し、ダメでも勢いで体勢を真下に向けられる筈。

 そう思って、最後まで諦めず選んだ選択だった。


 その攻撃を……ハクトはガシっと”手”で受け止める。


「くっ! 防がれて──」


「カグヤ、詰みだよ」

「っ!?」


「このまま!! ”スカイラビット”、二連打ぁ!!」

「キャアァッ!!?」


 カグヤの攻撃を止めたハクトは、そのまま彼女を抱き抱えて、空中で【インパクト】を連打。

 ギアのイメージの効率アップで、二人分の体重でも高く跳ね上がるようになっていた為、更に高く跳ね上がる。


 そのまま高く、より高く……



 ────フィールドの地面から、30mは超えた位置までハクトとカグヤは飛んでいた。



「うわ、あ……──」


 抱き抱えられたままのカグヤは、そこから見えるその光景に一瞬呆ける。

 試合中と言う事も一瞬忘れる程の、衝撃だった。

 建物の高い階から見下ろすような光景を、何も持たず人の身だけで上から見ることは、流石のカグヤも初めての経験だった。


 会場中の観客が、少し小さく見える。

 360度、全面に遮るものが殆どない、周囲の光景が見える状況だった。


 唯一遮るものと言えば────



「────どう、カグヤ。凄いでしょ?」



 そう言って彼女を抱えたまま、ニッと笑いかけたハクトが視界に入ってくるくらいだろうか。

 その彼の純粋な、楽しそうな笑顔に──カグヤはつい見惚れていたのだと思う。

 それくらい、カグヤにとってハクトのその表情は忘れられないものとなった。


「──うん」

「……そっか」




「────”じゃあ、落ちよっか”!」


「……えっ」



 ──が。その直後に、今のいい感じのムードを台無しにするような言葉が発生する。

 カグヤから手を離し、勢いがまだついていたハクトはそのままカグヤの真上5m位まで飛んでいく。

 そして彼の体が上下反転。空を蹴るような体勢に。


 その動作に、カグヤはまさか、とすかさず青ざめる。


 このウサギ、なんて事やるつもりだ。


「ファ、【ファイアボー」


 カグヤは焦りながらも、最後のエネルギーを切った。

 体勢を無理やり整え、真上に浮かんだままのハクトに対して、最後の「ファイアボール」を放とうとした。

 咄嗟の判断から出た、最後の足掻きだった。


 が、完全に遅かった。


「跳ね落とせ! 【インパクト】ッ!!」

「ぐぎゅ?!」


 カグヤがギアを発動し切る前に、ハクトが先に空を”蹴る”。

 そして、蹴った後に直ぐに体勢を反転。空中からライダーキックするようにカグヤに蹴りが刺さる。


 そしてそれだけで終わらず、加速した状態で降ってきたハクトは、カグヤをも巻き込んだ状態で地上まで落下していく!! 


「フル・スペック!! ”ラビット・スタンプ”ゥ────ッ!!!」

「キャアあああああっ────ぁぁぁああああ!!!??」


 ハクトとカグヤは、高さ30m以上から一緒に急速落下。


 そして、地上にカグヤが下敷きになるように落ちていき──



 ドゴオオオオおおオオオオオンッ!!!! 



 っと、轟音を鳴り響かせ、地上に衝突した。


『…………は、ハクト選手の得意技、”ラビット・スタンプ”が炸裂うううう!! カグヤ選手、一緒に落ちる形で巻き込まれましたああああ!!』

『いやエグ?! これエッグウ!!? 高さ30m以上から一緒に落ちてきた状態で踏みつけ!? 今までと違って、喰らった方地面に立ってたわけじゃ無いから、一緒に落ちてきた分ダメージ2倍……いや、”それ以上のダメージ”あるだろ絶対!? どんなオーバーキル!?』


「は、白兎ぉ?! 卯月ぃ?! 大丈夫、あれ大丈夫なのかあれ!?」

「ただでさえ一緒に落ちてくるスタンプの上、今日一、最高の高さからの落下だしねえ……うわあ、砂煙凄いね……」


 観客席がざわつく中、すぐには砂煙は晴れず……

 30秒ほどして、やっとフィールド全体が見えるようになってくる。


「──ふう。スッキリ」

「キュ、きゅう……っ」


 その中心には……立ち上がった状態のハクトと。

 そして、踏みつけられたお腹を抑えた状態で……寝転がったままのカグヤがいた。


「カグヤ」

「……な、何かしら」


 ハクトは、寝転がった状態のままのカグヤに対して、手を差し伸べながら声を掛ける。

 とても嬉しそうな表情で……



「──俺の勝ち♪」


「────ええ、そうね……負けちゃった」



 そう言った彼の宣言を、カグヤはちょっぴり悔しそうな、でもしっかり納得したような表情で受け止めて、彼女は手を握り返した。


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:35 → 0

 ==============


 ==========

 バトル・フィニッシュ! 

 ==========


 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:0分5秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:28

 rank:2

 スロット1:インパクト (残りE 0 → 10/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット


 <自前能力>

 ラビット・シリーズ

 得意技1:ラビット・スタンプ

 得意技2:クイック・ラビット

 得意技3:ラビット・バスター

 得意技4:スカイ・ラビット

 得意技5:アクセル・ラビット


 VS


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:0

 rank:2

 スロット1:ファイアボール (残りE: 0 → 10/10)

 スロット2:ヒートライン  (残りE: 0 → 2/2)

 スロット3:空白スロット

 スロット4:空白スロット


 <自前能力>

 その他・シリーズ

 得意技1:ファイアボール・ガトリング

 得意技2:フェイク・アクション


 アクセル・シリーズ

 得意技1:アクセル・アクション

 得意技2:アクセル・スピン


 火球・シリーズ

 得意技1:火球・紅扇子

 得意技2:火球・赫虹

 得意技3:火球・紅葉

 得意技4:火球・赤提灯

 得意技5:火球・赤道

 得意技6:火球・赤林檎

 得意技7:火球・赤道・収穫

 得意技8:火球・赤林檎・雨


 卯月流・シリーズ

 得意技1:卯月流・月外し

 得意技2:卯月流・三日月狩り

 得意技3:卯月流・夕月

 得意技4:卯月流・朝月

 ==============


 ==============

 カグヤの残HP0


 よって勝者 ハクト! 

 ==============


 こうして、ハクトにとって初めてのマテリアル・ブーツ。

 そして、自分の夢を叶えた舞台。

 その大会が、今、幕を閉めた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?