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第26話 夢の終わり そして、かぐや姫の誘い

「──それじゃあ、ハクト君の優勝を祝って」


「「「「かんぱーい!」」」」


 日が殆ど沈んだ頃、とあるファミレスでそんな一幕があった。

 ハクト、カグヤ、アリス、キテツの4人が同じテーブルを囲み、各々オムライスやハンバーグを頼んで、大会の打ち上げを行っていた。


「いやー、それにしてもイナバ君。まさか本当に優勝しちゃうとは」

「いや本当そうだぜ! お前今日がマテリアル・ブーツ自体デビューだったんだろ!? 俺だって数ヶ月は経験積んでるのに、チートだチート!」

「いやまあ、元々ケンジ兄にいざと言うときの喧嘩のやり方は教わっていたから、戦闘自体は慣れていたというか……」

「いやけど、それで土台が出来ていたとは言え、それでもあれだけ動けていたのは大したものよ。私感動しちゃったもの」


 いやいや。いやいやいやいや、と次から次へと言葉が飛び交う。

 卒業したとは言え、この間まで中学生だった年頃の集まりとして、微笑ましい集いであった。


「でも、あれは予想外だったわね。表彰式の時のやつ」

「ああー……カラーさんのあれかい? 実況、というか社長の人の」

「なー。あれちょっと酷くねーか? 何もわりー事してねーのに」

「いや、したって言えばしてると思うけど……」


 話題が表彰式の時の事に移り、4人はその時のことを思い出し始めた──



 ☆★☆



 ──数時間前。


『それでは、表彰式を行いたいと思いまーす!! 選手の皆さんは、フィールドに出て来てください!』


 決勝戦が終わってからその熱が冷める間も無く、実況のカラーのそのアナウンスが会場に鳴り響く。

 準備が整った後、キテツ、カグヤ、ハクトの3人が前に出るよう呼び出される。

 主催者でもあるからか、小型マイクを口元付近に取り付け、カラー自ら選手に授与を行なおうとしていた。


『まずはキテツ選手! 3位入賞おめでとうございます! あとハイ、約束のお米券、どーぞ!』

「あ、ありがとうございます。いやまあ、なんつーか、素直に喜べねーんですけどね……」

『女子にセクハラして手に入れたご飯で、美味しく召し上がって来て下さいね!』

「スッゲー心の傷抉ってくるんですけど、この人!?」

『お前、選手にまでからかうの止めろや!?』


 カラーがいつもの調子でキテツにまで絡んでくる中、一緒にフィールドに出ていた風雅も小型マイク越しに制止を促していた。

 それを受けたカラーは、はーい、と生返事をしながら次の表彰へ移る。


『次に、惜しくも2位になったカグヤ選手! その恵まれた戦闘経験からなる実力で、遠慮無しに低ランク大会に参加して初心者狩りを行なった悪女! 今日デビューの選手に最後は討伐され、見事に因果応報となりました!』

「私すっごい酷いこと言われてる!? これ本当に表彰!?」

『お前さっきのはーい、は何だったの!? 全然変わってねーぞ!』

『からかうのは辞めました。事実を陳列したまでです』

『結果くっそ言葉悪化してんじゃねーか!?』


 あとこれ、2位入賞の副賞として、商品券。と、そこそこぞんざいな言葉と共に、カラーから手渡されるカグヤ。

 カラフル・カンパニーの関連企業だったらどこでも使えるとの事で、そこそこ嬉しい商品であったが、表彰の際の言葉が微妙過ぎて素直に喜べないカグヤだった。


『そして1位! 見事優勝を果たしたハクト選手でーす! まさかの今日がマテリアル・ブーツデビュー!! それからの大会参加でそのまま優勝! その自信は一体どこから湧いていたのか、図太いメンタルを見習いたいですね!』

「微妙に喜べない言葉! あと、大会参加した理由勝手に登録されてただけなんです!」

『あー、”実は友達が勝手にアイドルオーディションに応募しちゃってー”という、よくある理由。……自分から参加したというのが恥ずかしいからって、そんな適当な誤魔化しはしちゃダメですよ?』

「事実100%なのにー!」

『(多分、カグヤ選手あたりが勝手に登録したんだろーなー……)』


 ハクトが恥ずかしがっているとカラーが見当違いな指摘をする中、風雅は心の底で考察して大体の事実を言い当てていた。


 それはそれとして、とカラーが話題を転換する。


『1位の副賞として、ハクト選手には”ギア”を贈呈致します!』

「ギア!?」

『──フォームギア、【インラインスケート】!! 我が社、カラフルカンパニーが開発した最新モデルのギアです!』


 手にギアを掲げながらカラーが会場を見渡すように振り返り、電光掲示板に詳細情報と、イメージ映像が表示される。


 ==========================

 ギア名:インラインスケート

 GP:1   最大E:5   最大 CT:3

 残りE:5

 ギア種類:フォーム

 効果分類:自身持続

 系統分類:靴

 効果:両足適応。ブーツの裏に、縦に4つホイールが作られる。陸上でスケート移動が可能。

 ==========================


『ご覧の通り、このギアを適応致しますとブーツにローラーが生えて来ます! これにより、”あの雪女選手”のように陸上でもスケート移動が可能となります!』

『ヴェッ!? 雪女選手!?』

『そして最大の特徴は、最大Eの多さと、何よりこのギア一つで”両足が変形”することです! カラフルカンパニーの開発成果により、エネルギー効率を極限まで突き詰めた最新ギア!』


「へえ、それは凄い。僕のフォームギアの【ロングソード】とかでも、片足しか変形出来ないのに」


 ライバルの名が出て動揺した風雅を無視し、続けて放たれたギア解説の言葉にアリスが感心する。

 恐らく攻撃性能は無いのだろうが、代わりに最大Eと両足変形機能があるのなら、十分な見返りだ。


 会社の社長でもあるカラーが自慢するのも、納得の性能だった。


『本来一般に出回るのは3ヶ月後ですが、先行実装という形でハクト選手に贈呈致します! ぜひご活用ください!』

「あ、ありがとうございます」


 カラーから渡されたギアをしっかり受け取り、マジマジと眺めるハクト。

 自身の空中移動の戦法とは一見合いそうに無いように見えるが、地上での移動の際にもしかしたら役に立つかもしれない。

 とりあえず貰えるものだし貰っておこうと、受け取ったギアを懐に直ぐしまっておいた。


『それでは、今日の試合を見た風雅解説からコメントお願い致します!』

『え、あ? ご、ゴホン。……素晴らしい戦いだった。初心者大会にしてはどれもレベルが高い試合が続いて見応えがあり、実況と解説のしがいがあったと言えるだろう』


 自分に振られるとは思っていなかったのか、風雅が動揺しながらもバトンを受け取り、言葉を繋げていく。

 流石現役プロなのか、これまで見た漫才のようなふざけた態度から一転、しっかりとした立ち振る舞いでコメントを残していく。


『特にハクト選手。君が戦った試合はほとんどどれも面白い、見てて楽しい試合だった。今日がデビューだったというが、それを感じさせない実力と成長度合いだ。君のような新規プレイヤーが参入してくれたことは、マテリアル・ブーツ界の未来に置いて期待が湧いてくる。これからも、頑張ってくれ』

「あ、はい。これからも……」



 ────これからも? 



 殆ど夢が叶ったのに/やりたい事が終わったのに? 



「…………」

『……ん? どうかしたかハクト選手』

「あ、いえ。なんでも無いです」

『……そうか。まあ、今日の所はゆっくり休んでくれ』


 ハクトの様子を見かねた風雅が声を掛けるが、ハクトは問題無いと答えた。

 それを聞いて、何か感づいたような素振りがあったが、風雅は特に触れずにこれでコメントは終わると締めた。


『はーい、コメントありがとうございまーす。それでは続けて、”カラー・カンパニー”の社長として私からお話がありまーす』


 そう言ってコホン、と喉の調子を整えたカラー実況、いや社長が小型マイクに触れながら言葉を話し始めた。


『今日の試合は、私としても大満足でした! 初心者大会でこれほどの試合が観れるとは思いもしなかった! そして、その上で言います! まずはカグヤ選手!』

「えっ? 私?」

『あとは、アリス選手にキテツ選手。それと、ここには今いないけどヒメノ選手とー、ついでに鮫島長男選手もですね』


 指を折りたたみながら、今回の大会の参加者を何人か名前を呼び上げていくカラー。

 今話していたメンツには、ハクトの知り合いが大半だった。


「あ? オレ達も対象? 大会参加者のメンバー全員じゃ無くて、何でそのメンツだけ?」

「……あ。僕分かったかもしれない、この人選って確か……」

『後は、今回からハクト選手も対象ですねー。決勝戦まではセーフだったんですけど。まあ、今読み上げたメンバーはとりあえずー……』




『────カラー・カンパニー(うち)で主催の初心者大会は、”出禁”という事で♪』



「「「……えええええっ?!」」」

『まあだろうなっ!!』




 ☆★☆



 ──そして、現在へ到る。


「まさか、みんな大会出禁を食らうとは、ねー」

「なー。予想外だったよな、あれ」

「うーん、そこまで目立った覚えは無かったんだけどなあ、僕」


「いや、正直順当では?」


 カグヤ達が声を揃って文句を言ってる中、ハクトは当然の事じゃね、というように軽くツッコミを入れていた。


 こいつら全員、rank2経験者だったし。カグヤに至ってはrank3だし。


「風雅さんの、『初心者大会に上級プレイヤーが混ざっていたら、新規が入ってこないだろうがっ!!』って指摘は、妥当過ぎて何も言えないと思うよ?」

「そんな!? 私はいつだって、初心を忘れていなかったのに! 何故それを否定されなくちゃならないの!」

「ははっ。rank3が何か言ってる」

「何よー、ハクト君。もう」


 隣に座っていたカグヤが、この口かー、この口が悪いのかー、とハクトのほっぺをグニーっと引っ張る。

 大会が終わって、猫被りが終わったのかかなりフレンドリーになっていた。


「……なあ、有栖。何でオレ達、他人のイチャ付きを目の前で見せつけられなくちゃならねえんだろうな?」

「試合負けたからじゃないかい?」

「くそう! そうだったのかあっ……!!」


 キテツのボヤキに対して、くっそ適当な返事をしながらアリスは我関与せずとジュースを飲んでいた。

 キテツはとても悔しそうに机に両腕を叩きつけていたが、カグヤはそれに気付かないでいた。


「そうだ、ハクト君。──改めて、あなたの夢を叶えた事、おめでとう」

「……うん、ありがとうカグヤ」

「夢? あー。確か決勝戦で口走っていた、空を飛ぶってやつだっけ?」

「そうらしいね。確かにあれはすごかった、飛ぶ、というより跳ぶ、だったけど空中であそこまで縦横無尽に動ければ、関係無いね」


 カグヤが夢の話題に触れた事をきっかけに、そちらに話がシフトしていく。

 あの空中移動は凄かった、自分達の戦いの時にやられていたらキツかった、などと話が盛り上がる。


「んじゃあ、白兎はあれで夢を叶えた事になるのか。それとも、飛ぶっていうより跳ぶだったから、もう少し試行錯誤でもすんのか?」

「んー。とりあえず、暫くは【インパクト】を使ったあの飛び方で色々楽しむつもり。その後は……」



 ──その後は、どうしよう。


 夢を終えた後は、どうすればいいのだろう。


 ……それとも、敢えてここがゴールでは無いと言い張ればいいのだろうか? 


 もっと高い到達点がある筈だと。満足してる筈の夢を、無理やり味わい続けるように。



「……どうすればいいんだろうね」


 ハクトは、つい窓の外を見ながらそう呟いていた。

 もう辺りは真っ暗になっており、星明かりもここからじゃ見えない位置だった。


「──ねえ、ハクト君。アリス君も、キテツ君も。食べ終わったら、少し私に付いて来て貰っていいかしら?」

「ん? 何かあるの?」

「ええ。ちょっと場所移動してから話したくて」

「僕はいいけど」

「オレも別にいいぜー」

「そっか、良かった! じゃあ丁度ご飯も来たし、さっさと食べちゃおうっか」


 しんみりしそうだった空気を切り替えて、ハクト達はテーブルの上に並べられた夕食を食べ始めようとする。

 それぞれ好き勝手に頼んだものを選んでおり……


「……ところで、ここの会計って別々か? それとも奢りのジャンケンするか?」

「いや普通別々じゃないかい? 急に何言い出すんだい?」

「後、仮に奢りだとしても優勝したハクト君に対して私たちが奢るのが筋じゃないかしら?」

「俺は別に気にしないけど、どっちでも」

「いやだって、このまま終わるのってなんかつまんなくねえ? ちょっと盛り上げたくならねえ? というか、オレ達負けたしこういう所でリベンジ果たしたくねえ!?」

「だからってジャンケンでいいのかい、君は」

「しょうがないなあ。じゃあ、負け残りでいい? ビリが奢るって事で」

「それじゃあいくわよ、ジャーンケーン……」


「ぐああああっ────!?」←キテツのビリ


「キテツ君の自爆ね」←最初に抜けたカグヤ

「言い出した責任はとりなよ」←二番目に抜けたアリス

「ゴチになります」←最後の最後で勝ったハクト


「よりにもよって、白兎の一対一で負けるのってそんなのねえだろお!? 試合の焼き増しじゃねえかあああ──っ!」

「すみませーん。追加注文で食後のデザート追加で。ええ、このジャンボパフェを一つ」

「あ、私はシンプルにアイスクリームで。これとこれと、これの3種類ほどでお願いします」

「僕はワッフルと、コーヒーお願いします。後、パンケーキも追加で」

「いやお前ら遠慮なっ!? 奢り確定したからって追加注文すんな!? え、これ財布の中足りる!?」

「あははははっ」


 キテツの嘆きの叫びをbgmに、ハクト達は食後のデザートを楽しんでいった……


 ☆★☆


「いやー、お腹いっぱいね」

「たくさん食べたからねー」

「そりゃああんだけ食えばそうだろうよぉ」

「浦島君、どうどう」


 ファミレスでご飯を食べ終えたハクト達は、カグヤに連れられて歩いている。

 向かう先は……


「あれ? ここって、カグヤとこの間出会った時の公園?」

「そう。話すなら、ここがいいと思って」

「けど、ここ結構暗いね。街灯が少なくて、少し危なくないかい?」

「灯りが少ない方が、今は丁度いいのよ」


 ここらへんでいいわね、と歩いていたカグヤが立ち止まる。

 とは言っても、ハクト達があたりを見渡しても、特に変わった様子のあるものも見えない。特に用がある場所には見えないのだが……


「みんな、空を見上げて!」


 空? っと、ハクト達は疑問に思いながらも指示通りに見上げる。


 ──そこには、見事と言える程綺麗に輝いて見える”満月”が浮かんでいた。


「そっか、今日満月だったのか。さっきのファミレスだと見えなかった」

「スッゲーな、丁度雲も無くてよく見える」

「そうだね。卯月さん、これを見せたかったのかい?」

「それもそうだけど、本題はそこじゃ無いわね」


 そう言って、改めてカグヤはハクト達に振り返る。

 その顔は隠していたサプライズを公開するようなワクワク顔で。


「とっても綺麗でしょ。月って、すっごくイイと思わない?」

「……そうだね。あれだけ綺麗な月を見せられたら、そういうのも納得」

「じゃあ……」



「────あの月に実際に行けたとしたら、とても楽しいと思わない?」


「──え」


 カグヤのその言葉に、ハクトは一瞬思考が止まる。

 何かとても、スケールが違うような話が出たような。


「おいおい卯月、本気か? そんな事出来るわけ……」

「……いや、ちょっと待って。確か最近、ニュースで」

「あ、アリス君もしかして心当たりある? 多分私が考えている事に関係してると思うわ」


 え、まじで? っとキテツが表情を変えてアリスとカグヤを見る。

 先にアリスは知っている事を話し始めた。


「確か……とある企業が、月面開発に着手し始めたって話があった。既に資材もある程度運び終えて、実際に月に人が何人か行ってるって」

「ええ。正確には、”エンジェル・カンパニー”ってところね。今この瞬間にも、多分月面に既にその人達が作業している筈よ」

「マジか! え、ここからじゃそんなの見えねえぞ!? 昔から変わらない、普通の月だ!」

「そりゃあ、開発といってもほんの一部だろうし。肉眼じゃそこまで見えないわよ」


 望遠鏡かなんかだと少しは見えるかもしれないけど、とカグヤは付け足した。

 ……ここまでの話を聞いていて、ハクトは一言も喋れていなかった。

 カグヤの話を嘘だと断ずる事も無く、ただただ話のスケールに圧倒されていた。


 ようやく立ち直したハクトが、質問を出す。


「……それじゃあ、カグヤが実際に月に行けたらって、そのカンパニーの仕事に混ざるって事?」

「それもありではあるけど、そこまで開発の実力が付くとは限らないし、もっと別の道があるの」


 ねえ知ってる? ってカグヤは問いかける。


「そのエンジェル・カンパニーが開発している月面施設の中に、”マテリアル・ブーツの競技施設”も含まれているって」

「っ!? それって……」

「ええ、今から大体3年後完成予定らしいわ。と言っても、今日行った施設みたいな気楽なものじゃ無く、とても大きい大会とか式典とか、それ用の施設らしいけど」


 けれど、それが今回のカグヤの話に、深く関わってくるらしい。


「その施設が完成した暁には、オープニングセレモニーがわりにある大会を実施するらしいの」

「大会……?」

「ええ」



 ──その名も、”ムーン・カップ”


 文字通り、月で行われる大会。



「……世界大会レベルの、最大規模の大会の一つになるらしいわ。エンジェル・カンパニー主催の、いくつかの大会で実績を残した”チーム”だけが、その月面での大会に参加する事が出来るって。詳細はまだ非公開らしいわ、けれど実力さえあれば、一般人にも十分チャンスはあるって」

「と言うことは、カグヤの言いたい事って」


「ええ。”ムーン・カップの参加権を使って月に行く”。これが私の目的よ」


 カグヤは、自身の目的をはっきりと告げた。

 月へ行く。最初聞いた時は到底信じられないような目的だったが、こう聞くと割と現実味のあるような話に聞こえてくる。


 エンジェル・カンパニーが実際に月面に行って作業しているとニュースになっている以上、月へ行く手段自体は確立されているのだろう。

 それを一般人の自分達が、利用出来るかもしれないチャンスが、そのムーン・カップの大会に参加すると言うことなのだろう。


「けどよう、そのなんたらカンパニーが実際は嘘ついてた場合はどーすんだ? 本当は月で開発なんて一切出来てないとか」

「ニュースになっている以上、そんな嘘は付かないとは思うけど……うーん、そうね。その時は、また別の方法を考えるわね」

「別の方法って、月に行く手段の事かい?」

「うん。大会は正直、手段でしか無いから。……まあ、別の方法に心当たりがあるわけでも無いけど」


 まあ、その時はその時よ。多分凄くショックだろうけど、とカグヤは呟く。


「……ちょっと待って、さっき”チーム”って言った?」

「そうそう、その大会って”チーム戦”メインの大会なのよね。同じ形式の大会は他にも沢山あるわよ、基本は4人制ね」

「と言うことは、カグヤが俺達をここに連れて来た本当の理由って……」


 カグヤは一旦、ハクト達から背を向けて月を見上げ始める。

 その表情はハクト達からは見えなかったが、とても眩しそうなものを見るような顔をしていた。


「……ハクト君。あなたの夢は、空を飛ぶ事だったじゃない? 私にとっての夢は、”月へ行くこと”なの。だから……」




「────私と一緒に、月まで行きませんか?」




 ……再び振り返ったカグヤは、手を差し伸べながらそう言った。

 満月の月光に照らされた彼女は、とても綺麗に見えて──


 ──今思えば、ここでハクトは本当の意味で、彼女に夢中になったんだと思う。


 ……空を飛ぶという夢は一旦終わった。


 そして、空の先には月があった。


 夢が終わったら、また別の夢が待っていたのだ。


 ……気づいたら、ハクトは彼女のその手を握っていた。


「──ありがとう、ハクト君。これから、よろしくね」

「……ああ、こちらこそ」


 ハクトは目を瞑りながら、その手の熱を実感するようにそう言った。

 その手から、新たな夢への熱を、確かに感じ始めたように思えた。


「……おい、オレ達もいるぜ! その為に呼んだんだろ!」

「けれど、僕達で本当にいいのかい? その大会、世界レベルなんだろう? もっと高ランクのプレイヤー達に声を掛けた方が、確実なんじゃ無いかい?」


 アリスの指摘は尤もだった。

 自分達は、多少ランクはあると言ってもrank2でしかない。

 rank3であるカグヤなら、もっと強いプレイヤーに声を掛けてもいい筈だった。


 所詮自分達は、初心者大会に参加していたメンバーでしかない。

 空中を跳ねるという、とんでも技術を取得したハクトはともかく、アリスとキテツまで声を掛ける必要は無いと思うが……


「別に今、ランクが低くても気にしないわ。3年後、というか実績に必要な大会までにランクを上げていればいい話だし」

「簡単に言ってくれるねえ。世界大会というからには、rank4は最低必要だろうに、本当にそこまでこのメンバーで行けると思ってるのかい?」


「いけるわ」


「っ、それはまた、大層な自信だね」

「あなた達が不良兄弟と戦っていた所を見た時、ビビッと来たの。このメンバーなら絶対行けるって。丁度メンバー探しをしていた所だったし、これは運命って思えるくらいの衝撃だったわ」

「ああ、そういえばあの時、最後らへんカグヤ見てたんだっけ?」

「運命、ねえ……そこまで思われる程の実力を出していたつもりはないんだけどね」

「なんだ有栖、さっきからビビってるのか? 今日あっただけの付き合いだが、なんかお前らしくない物言いだな」

「……別に。こんな僕を、必要としている人がいるんだなって思っただけさ」


 その言葉とともに、さらにらしくも無く頭をガシガシと掻き出したアリスだった。

 ……もしかしたら、普段の紳士的な態度とは裏腹に、こっちの方が彼らしいと言えるのかもしれないと、ハクトはなんとなく思った。


「オレは当然、その話に参加させてもらうぜ! 思う存分、活用してくれよな!」

「ありがとうー! そこまで素直に頷いてくれると、こっちとしても助かるわー!」

「まあオレも、特にやりたい事が決まってた訳じゃねーし。それに、白兎コイツと戦って個人的に気に入ってるからな、同じチームでも異存はねーよ」

「わぷっ」


 ハクトの頭にガシッと手を置きながら、もう片方の手をハクトとカグヤの握手の上に置いた。

 誓いの証として、彼女の夢に賛同したように。


「……はあ、まあいっか。乗り掛かった船だし、僕も頑張らせてもらうよ」


 様子が多少おかしかったアリスも、その様子を見て自分も手を重ね出した。

 これでハクト、キテツ、アリスがカグヤのチームに参加する事が決まった。


「よっし! それじゃあ、チーム名決めましょっか!」

「チーム名? 必要なの、それ」

「勿論。エンジェル・カンパニー主催に限らず、マテリアル・ブーツって公式大会といえるものがいくつもあるから、登録したチームにポイント制で実績が加算されていくんだから。チーム名は必須よ」

「考えていなかったのかよ、それ」

「ところで、一旦手を離していいかい? こう囲ったままの状態だと、ちょっと話しづらいし」

「チーム名決まるまではダメ」

「えー……」


 そういうことで、チーム名をこの場で決める事になった。

 と言っても、急に言われてもそんないい案が直ぐに浮かんでくるわけでも無く。


「超陸亀大戦隊じゃダメか?」

「却下」

「ソード・サークルズはどうだい?」

「うーん、もうちょっとシンプルか、共通要素が欲しい。ハクト君は?」

「えー。うーん……ラビット・チームとか?」

「後もう一捻り欲しい感じ」

「……というか、素直にカグヤが考えればいいんじゃない? ネーミングセンス結構いいし」


「それだと、”月まで舞い上がる白き獣とその同士達”って事に──」

「うん、そっちのネーミングセンスじゃないね。火球シリーズの方にしようねえ! 後それだと俺がそのチームのリーダーっぽくなるから絶対やだ!」


 えー、とカグヤは呟くが、ふとハクトは満月を見上げて見た。

 そういえば、月の模様で……


「……そういえば、月ってウサギがいるって言うよね」

「月のウサギ? ああ、そういえば満月の模様がウサギのように見えるって話が……月、ウサギ、月兎……うん、じゃあこう言うのはどうかしら? 


 ……ここにいるメンバーは、全員ハクト君と戦って、ここに集まってる。ウサギに導かれて、ここにいる。そのメンバーが、月に向かおうとしてる」



「──”ムーン・ラビット”。それが私たちのチーム名よ」


「俺のラビット・チームと大差ないけどいいの? 後、やっぱり俺がリーダーっぽい感じが……」

「うん、こっちの方が由来があってしっくり来たし。リーダー自体は私がちゃんとやるから安心して」

「それじゃあ、決まりだな」

「僕もそれでいいよ」


 よし、それじゃあ。っとカグヤが音頭を取る。

 チーム結成の、最初の一歩として。


「それじゃあ、チーム、ムーン・ラビット!! 月に向かって、頑張るわよ!!」

「「「おーっ!!」」」


 ──ここに、満月の夜の下で。

 白ウサギはかぐや姫に誘われて、一緒に月を目指す事になったのだ。

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