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第2話 ギアショップ


「……着いたわ! ここがギアショップよ!」


 カグヤに連れられて、ハクト達が連れてこられた場所は街中のとあるショップだった。

 店の規模としてはそこまで大きくは無くではあるが、CDショップみたいなテナントの一角を借りているような店舗だった。


「へー、こんな所に……カグヤ、いつもここに通っているの?」

「うん、まあよく行くお店の一つね。結構手頃な場所だから行きやすくて」

「僕も知らなかったなあ、ここ。けど、そこまで大きいお店じゃないんだね。もっとタワー1つ貸し切ったデカいお店とか思ってたけど」

「そんな一つの店で、そんなデカい規模そうそうねえだろ。大抵複合スーパーとかだろうし、ギア自体流行ったのはまだ最近じゃ無かったか?」

「まあ、とにかく入って入って。品揃えは十分だから、満足できる筈よ」


 そう言われて、大人しくお店に入っていくハクト達。

 沢山のギアが展示されており、レア度が高そうなギアは鍵の付いたショーケースに飾られている。

 かと思えば、いくつかの低レアそうなギアは大きめの箱に乱雑に入れられていて、箱の中の値段は一定額で統一されているようだ。

 まるでカードショップのような展示の方法で、様々なギアがここで売られていた。


「イラッシャイマセー! ……オヤ? ウヅキさんじゃないですか、お久しぶりですね!」

「こんにちは〜! 今日はお友達も連れて来ちゃいました、私のチームメイトです!」

「オー、そうですか! いらっしゃいませ、ギアショップ、“ストーリーズ”へようこそ! ぜひ見ていってください!」


 展示ケースの中を整理していたスタッフさんがハクト達に向かって挨拶すると、その中にいたカグヤと親しそうに会話をし始めた。

 よく行くお店と言っていたので、店員さんと顔見知りだったようだ。

 カグヤの友達と知ると、笑みを浮かべてハクト達にも声をかけて行く。


「はい、よろしくお願いします。キテツ、アリスも……」

「へえー……高いギアもいっぱいだね。見なよ、これとか1個20万円もするよ。僕のギアそこまで高いやつじゃないから、差が凄いねえ……」

「有栖、見て見ろよー。ここのボックスの中に、有栖の【ショート・ソード】【ロング・ソード】が入ってるぜ。セール中で1個1000円だと。本当に安いな!」

「うっわ、本当だ! ええー、僕一応2500円でそれ買ったんだけど……え、こっちの店で買った方がめっちゃ得じゃん。なんか損した気分……」

「既にショップを満喫している」


 この一瞬の隙に、既にショップ内を練り歩いている二人がいた。

 スタッフさんには気づかず、もう既に店の中を見ていたようだ。

 あの二人【バランサー】無いのに、こういう時ある意味俺より状況適応力高いな……と、ハクトは思った。


「ナルホド、お友達は既に見てくれているのですね。あなたも好きに見て良いですよ?」

「あ、はい。それじゃあ……」


 そう言われて、ハクトも素直に店の中の展示品を見て回ることにした。

 ……しかし、ギアの展示品と言っても、ギアのメダルがそのままと、横に値札が表示されているだけだ。

 ギアの種類などは、絵柄を見るしか分かりづらいが……

 初見では、どういうギアか効果は判別出来なくて些か不親切な展示になっている。


「んー、……うーん?」

「ハクト君、どうしたの?」

「いや、展示品のギアがどんなものかよく分からなくて……説明文も記載されていないから、ギアの種類も効果も全然分からない。カグヤは分かるの?」

「ああ、そっか。ハクト君初めてだものね。ショーケースのギアにタッチするようにして見て。あ、実際にガラスに触るんじゃ無くて、タッチ寸前くらいまで」

「こう? ……うわ!?」


 カグヤに言われた通りに人差し指を差し出すと、目の前に立体ディスプレイが表示され始めた。

 HPグローブを装備しているわけでもないのに、あの時と似たような表示でギア情報が公開されている。


 ==========================

 ギア名:ホーミングフレア

 GP:2   最大E:3  最大 CT:3

 残りE:3

 ギア種類:マジック

 効果分類:単体攻撃

 系統分類:炎

 効果:射程2マス以内の対象キャラを選択する。対象キャラに対して炎の誘導弾を発射する。炎属性30ダメージ。

 値段:70,000円

 ==========================


「へえー……指近づけるだけで、立体ディスプレイが表示されるんだ。見た目以上に、思ったよりハイテクなお店なんだね」

「うん、私も初めて入った時驚いちゃった」

「ソウデスヨー、最新設備を使っているのです。しかも、セキュリティバッチリなのです、このお店。だからドロボーさんが入ったとしても、返り討ちにしちゃうんですよ」


 なるほど、とハクトは思った。

 安いものでも数1,000円はするのに、ちょっと簡単に取られやすい位置に起きやすいんじゃないかと思っていたが、そこらへんの対策はバッチリのようだ。

 それによく見ると、棚側にマジック、単体攻撃などギア種類と効果分類の記載があった。

 あれを先に見れば、大雑把に目当てのギアがどこにあるか分かりやすくなっているのだろう。


「でも、既に欲しいギアが決まっている場合で、名前しか知らないやつだと探すの大変そう」

「フフフ、心配ご無用です! そんな場合は、あそこの端末で店内検索出来るようにしてあります! 目当てのギアがどの棚にあるか、在庫はどれだけあるか1発で分かるようにしてあるのです!」

「わあ、便利ー」


 思った以上にサービスがしっかりしている。

 これは色々探して見たくなりそうだ。


 早速端末前に移動したハクトとカグヤ。

 スタッフさんも近くにいて、何か分からないことがあっても直ぐに対応してくれそうだ。


「それじゃあ、早速試してみようかな」

「ハクト君、何か欲しいのあるの?」

「とりあえず、【インパクト】二つ目が欲しいかな。同じの積むのは対策されやすいと言っても、E切れになりにくいっていうのは結構メリットだし」

「そうね、良いと思うわ。まあでも、【インパクト】って初級ギアだから、精精高くても8,000円くらいの筈だし。種別も分かってるからわざわざ検索しなくても……」

「まあ、一回練習のつもりだし。置いてある場所知るのにも必要だからー……」


 ==========================

 ギア名:インパクト

 GP:1   最大E:10   最大 CT:3

 ギア種類:マジック

 効果分類:単体攻撃

 系統分類:無

 効果:近接単体に0ダメージを与え、2マスまで衝撃移動させる。

 値段:50,000円

 在庫:無し

 ==========================


 そこに表示されているのは、かつて模擬戦の直前に見た【インパクト】とほぼ同じ情報。

 そこに値段と在庫の欄が追加されており、この店内オリジナルの情報と言える。


 が。


 その値段と、在庫が問題だった。


「……あっれ、名前間違ったかな」

「そうね、どっか打ち間違ったのでしょう、多分」


 そう思って、一回検索を削除して再度入力し直したハクト。

 そして、また情報が表示される。


 =========

 値段:50,000円

 在庫:無し

 =========


「…………カグヤ、【インパクト】ってこんなに値段するの?」

「そんなわけ無いじゃない!? え、店員さん! これ合ってますか!?」

「アハハ……残念ながら、それで合っています」

「嘘おっ?!」


 カグヤが信じられないと店員さんに確認を取ったが、その返事は肯定。

 まさかの予想の5、6倍の値段となっていた事に、カグヤは動揺を隠せない。


「アー、ちなみに【ファイアボール】も値段が吊り上がってしまっております」

「はっ、え!? ちょっとハクト君、端末貸して!」

「うん、どうぞ」

「【ファイアボール】っと……」


 =========

 値段:48,000円

 在庫:無し

 =========


「うっわ、本当!? こっちも同じぐらい値段が吊り上がっちゃってるわ! なんで!?」

「よりによって、俺たちが使うギアがなんで!?」

「ンー、それは最近出回った“動画”が原因でしょう」

「「動画?」」

「とある試合の動画が流行り出して、それを気に一時的にその二つのギアのブームが沸いてしまったのです。えーっと、この動画ですね」


 そう言って、店員さんは懐からタブレット端末を用意して、その動画を見せてくれた。

 どこかの大会の試合動画らしいが……


『“アクセル・アクション”!! 開け! “火球・紅扇子”!! 架けろ! “火球・赫虹”!!』

『飛ばせ! “スカイ・ラビット”!!』


 そこには、赤髪の長髪少女と、白兎パーカーを来た少年が戦っている最中の動画だった。


「トマア、この二人が初心者ギアでアクロバティックな動きをしている動画が出回ってしまったせいで、この二人を真似ようとそのギアが一時的に大人気になってしまったのですが…………心当たり、ありますよね?」


「「……………………」」


 その言葉に、ハクトとカグヤはそっと目を逸らした。

 心当たりというか、心当たりしか無かった。


「いや、だってそんなの予想外じゃないかしら……」

「マア、【ファイアボール】だけで複数の技を使えるのは勿論、【インパクト】で前人未到の空中移動をお披露目したら、こうもなりますよね」

「そもそも、なんでこの試合の動画が回ってるのさ? ……いや、そういえばキテツの試合風景も撮られてたっけ。じゃあ決勝戦も撮られてるよね」


 実際、ハクトはキテツの試合風景の動画を見て対策をした覚えがある。

 あの地味な試合ですら動画を撮られていたのだから、決勝戦の激しい攻防なんて、そりゃあ撮り甲斐しかないだろう。


 奇しくも自分たちの活躍のせいで、自分達が使うギアが軒並み人気が高くなってしまったというわけだ。


「トハイエ、結局の所お二人レベルの技の再現度は出来ていない人が大半らしいですから、その内人気も落ち着いて、元の値段に戻ると思いますけど」

「あ、やっぱあの空中移動真似できる人いないんだ」

「ハクト君、あなたは【バランサー】使ってるから出来るけど、普通の人は暴発した状態でコントロールって出来ないからね? 言っておくけど、ハクト君の【インパクト】の使い方って、私で言う【ファイアボール】を足元で暴発させてるだけだからね?」 


 あー、成る程。とハクトは思った。

 カグヤに改めて指摘されて、なんで自分と同じことやる人今までいなかったんだろうと思っていたが、単純にあの使い方は暴発でしか無かっただけというのが理由だった。

 そりゃあ想定外の使い方でコントロールなど普通出来るわけないし、いざやってみようとしたらあらぬ方向に飛んでいってしまうだけだろうと。

【バランサー】無しだとハクトでも恐らく無理だろう。


 カグヤの方は言うまでもないが、あの【ファイアボール】の使い方は高度な基礎の延長戦上でしかない。

 つまり本人のギアの操作技術任せの為、そもそも実力不足では真似すらできないだろうと。


「アー、一応別のギアであの動きを再現しようとした人たちはいるようですよ? 風使いの人とか、パルクールの集団とか、mootube〈ムーチューブ〉のムーチューバーとか……」

「へー、そうなんですか?」

「ハイ、そりゃあ動きが派手でしたからね。例えば、【エマージェンシー・エスケープ】複数済みで再現しようとしたとか」


【エマージェンシー・エスケープ】。ハクトは聞き覚えがあった。

 確かカグヤに見せてもらった、プロの試合の動画で風雅さんが終盤使ったギアの筈だ。

 確かに、あれはハクトの【インパクト】のように吹っ飛んでいるように見えたが、成る程似た効果があったのか。


「このように動画も出回っており、再現度は中々高いんですよ。けれど……」

「単発な上に、お高いギアじゃない! これなら【インパクト】で出来るようになった方が遥かに効率いいわ!」

「トマア、無理やり再現しても派手さと凄さはあるのですが、実戦としてはスロットの枠潰してしまうので、正直この方法は見せ物かお遊び用としてしか使えないです。なので元ネタ通り、【インパクト】で出来るようになりたいって人が多くて……」


 なるほど、だから【インパクト】の高騰に繋がっていると。

 例え【バランサー】無い状態でかなり難しいとしても、あの目新しさと派手さを求めて遥かに多くの人が挑戦しようとしているのだろう。


 ハクトがキッカケに起こったブームだったが、結果的にハクト本人にとっては損する状態になってしまったわけだ。


「つまり、暫くは【インパクト】1個だけで頑張るしかないって事か……」

「ハクト君。一応私、二つ目持ってるけど……いる?」

「いやー、5万円もするものをホイホイと貰うのはちょっとどうかと……寧ろ、この間貰った方の【インパクト】も実は返した方が良かったりする?」

「あれはもう完全にプレゼントしたやつだし、それは無しでしょう。私だって返されたくないわ、ショックよ。それは素直にハクト君が持っていて」

「ありがとう、じゃあ有り難く使わせてもらうよ」


 とまあ、話は逸れたが、とにかく【インパクト】は今は売っていないという事だ。

 暫くハクトは【インパクト】一つのみで遣り繰りしていくしかない。


「んー……じゃあ、どうしよう。【インパクト】以外だと、正直自分に何のギアが必要かまだ全然思いついてすらいない。え、真面目に何買えば良い?」

「正直、一つくらい攻撃ギアを持って欲しいってのが私の本音なのだけど……出来れば遠距離攻撃で、空中からも撃てるやつ。けどそういうのって、大抵マジック系列だから高くなるのよねー……」

「不良達が使っていた、フォームの“ミサイル”系列は? 確か、【スーパーミサイル】だったかな? あれなら、マジックより安くなる筈じゃない?」

「安いとは言っても、多分あれでも2、3万円はする筈よ。最近出回ったばかりの最新ギアだし。しかも、フォームだからその内安くなるかもしれないギアだから今買うのはちょっと……」

「……ねえ、カグヤちょっと良い?」

「何?」


「ひょっとしてマテリアル・ブーツって、“学生にはお高いスポーツ”なのでは……?」

「……………………」


 一切の否定の言葉も言わず、静かに目を逸らしたカグヤ。


 ちなみに今回のハクトの予算は2万円だ。

 正月のお年玉分を持ってきた訳なのだが、それでも心許ない金額だったとは。


 とんでもねーものに誘ったな、とハクトは一瞬思ったが、それ以上の夢の見返りもあった為、まあ自分にとってはメリットの方がデカかったか、と思い直したのだった。


「じゃあ、しょうがない。とりあえず、適当に【ロングソード】辺りでも買って、暫く攻撃の繋ぎにでもして……」

「えー……でも中途半端な攻撃ギア積むくらいなら、いっそのことハクト君はサポート全振りとかで良いかも。攻撃は私達が担当するから」

「そう? でもだとしても、結局サポートにどのギア買うのが良いのかの話になって、対して話進んでいないんだよね……」


 結局は、どのギアを買うかの話になる。

 正直、今回はハクトは見送りでも良いような気がしてきた。

 ブランク・リピートギアは大量にある為、適当にラビット・シリーズを登録して、それで何とか……


「そうよねー。せめて“汎用ギア”でもあれば良いのだけど……」

「汎用ギアって? 新しい種別?」

「ああ、いや。そういう種別ってわけじゃなくて、一般的に使いやすいってギアがそう呼ばれる事があるわ」


 例えるなら、某カードゲームの“強欲○壺”、“天使○施し”、“灰流う○ら”みたいな汎用性。との事だった。


「主にサポート系が多くて、【クイック・エスケープ】、【エマージェンシー・エスケープ】、【クイック・アトラクト】、【ロックハンド】。私が知ってるやつで代表的なのがこれくらいかしら?」

「へえー。【エマージェンシー・エスケープ】は知ってるけど、他はどういう効果?」

「大体似てるわ。主に自分の回避用とか、相手の強制移動とかの効果持ちね。使いやすくて、大体どのチームも一つは採用してるくらい人気はあるわねー」

「へー」


「でも、人気あるってことは?」

「まあ、お高いわ。20〜30万位」


 ダメじゃん。

 じゃあ余計に無理じゃん、とハクトは思った。

 桁2桁に上がったぞおい、どうすんの。と。


「アノー。先程からお話を聞きましたが、何を買うかそこまで悩むくらいなら、“ガチャ”とかどうでしょうか?」

「ガチャ?」

「ああ、ガシャポンの事ね。確かお店の中の端っこにあったわ」

「ハイ! 100円から、10,000円まで回せるガチャが勢揃いです! 普通に買うより、お高い高レアなギアを手に入れられる可能性もありますよ!」

「金額の幅がデカいなー」


 本当に安いやつから、ブルジョアレベルなガチャまで。

 ガシャポンってそんなにバリエーション豊かだったっけ? とハクトは思った。


「まあ、少し回してみるのも良いんじゃ無い? どうせこのままじゃ決まらないし、ある意味運命的なギアに出会えるかもしれないわね」

「俺、どっちかって言うと運がない方だと思うんだけど……まあいっか。試しにやってみよっか」


 こちらですー。っと、スタッフさんに案内されてハクトとカグヤは付いて行った。

 出た景品はチケット形式になっていて、スタッフさんに渡してから交換するとの事。盗難対策らしい。だからスタッフさんも付いて来てくれているのだ。

 そう会話しながらガチャの所に行くと……


「がああああ────────ッ?!!」

「何で……どうして……っ」


 キテツとアリスがorzの体勢で嘆いていた。


「そっちがどうした!?」

「ちょ!? アリス君、キテツ君どうしたの!?」

「どうしたも、こうしたも!!」

「僕達の、財産が……」


 財産? そう思ってハクトが辺りを見渡すと、空っぽのガシャポンのカプセルが大量に転がりまくっていた。


 ……あー。


「ガチャ、外れまくったんだ?」

「そうだよ! 全部外れだわ!! 1,000円ガチャから、3,000円、果ては5,000円ガチャまでやって! 全部三回ずつ、しかも俺とアリス二人分の、計18回!!」

「なのに、当たりが一切出ていないんだよね……一人2万7千円は使っちゃったのに」

「これなら、普通にギア買った方が良かったじゃねえか……!!」

「あー……ちなみに何が入って……? あ、コレ?」


 そう言いながら、ハクトはキテツ達の近くに紙状の物が落ちているのを見つける。

 きっとそれが、先程教えてくれた交換用のチケットなのだろう。

 ハクトはとりあえず適当に一枚拾い、何が書かれているのか確認すると……



『スカ☆』


「本当に外れじゃん!?」

「だからそう言ってんだろうが、外れだってよお!!」

「いやこういうのって、とりあえず何らかの適当な奴は貰えるんじゃないの!? 何も無いってあり得る!?」


 ハクトは思わず突っ込んでいた。

 え、という事は5,000円の奴すら、何ももらえないなんて事があり得るって事!? それ良いの!? っと……


「ちょっと店員さん!? これ良いの!? 消費者庁的に!?」

「アー……よりによって、外れくじありの、ギャンブル性の高いガチャを回してしまいましたか……」

「そんなヤバげなガチャおいてましたっけ!? 少なくとも、私が前回来た時はそんなの無かった筈よ!」


「ハイ! 私が作りました!」

「あんたが作ったんかい!」


 ハクトは思わず全力で突っ込んだ。

 この店員さん、ちょっと片言だけど普通の人だと思ったら、とんでもねーヤバイ店員さんだった。

 これ、許して良いのか? 


「マア、大丈夫です! スカ☆と言っても、複数枚集めて渡してくれれば、ちゃんと別のギアに交換出来ますから! 本当に何も無いってことはないです」

「ならまあ、良いですけど……」


 いやでも、1,000円と5,000円のハズレクジの景品が同じって良いのかそれ? 

 っとハクトは思ったが、とりあえず深くは考えないことにした。


「サア! では早速あなた達もガチャをどうぞ!」

「あの惨状を見て、まだ引く気が湧いてくると思っていると!?」

「イヤマア、スカ☆が18枚も貯まっているなら、あとそちらのお二人で2回引いて貰って、20枚にした方が交換レート的に良いギア貰えますよ?」

「良い事言ってるようで、外れる事前提で回すの勧めて来てるんですけど!?」

「頼む、白兎!! オレ達の仇を、取ってくれ!」

「僕達の無念の分を……君達に取り戻して欲しい!」

「えー……」


「キテツ君、アリス君。本音は?」

「オレ達だけ損するのは嫌だ」

「君達にも僕達の気持ち少しでも味わって欲しい」


 こいつら、良い性格してやがる。とハクトとカグヤは思った。

 完全に自業自得だろうが、と。


「まあ……ハクト君、引いて上げたら? 安いやつでいいから」

「えー……まあ、しょうがないか。どのガチャがそれなの? ハズレのあるリスク高いって奴」


 そこから左側がそうですね、とスタッフさんに教えられる。

 ハクトはその中で、1,000円の一番安いガチャを見つけた。


 じゃあ、回すよ〜。っと、ガチャガチャとレバーを回す。


 ガチャガチャ、ゴトン。


「出て来た出て来た。えーっと……」

「よし、あとは卯月が一回回せば丁度20枚だな!」

「既にハズレの前提で計算するな。まあそうだろうけ……ん?」


 ハクトもそう思いながらカプセルを開けてみると、何やら様子がおかしい。

 書かれている文字がどう見ても、スカ☆では無く……



「ええーっと……【クイック・アトラクト】?」


「「「嘘おっ?!!」」」

「えっ、はっ?! 1,000円ガチャで!? 私入れ間違えた!? っは!? こ、コホン。確認致します。オ、オメデトウございます! 当選でーす!」


 スタッフさんが動揺で口癖を外しながらも、何とか確認すると本当に当たっていたようだ。

 しかも、このギア名は確かカグヤが先ほど言っていた、汎用ギアの筈。

 つまり、20~30万円はするギアで……


「白兎、お前よく自分運がねえって言ってたじゃねえかよおーッ!! 何だ、イヤミかおい!?」

「俺だって予想外だわこんなん!? 当たるなんて思ってなかったし!」


 ……まあ、自分の運の悪さって、トラブルに巻き込まれるかどうかって面が強いらしいけど。

 っと、昔ケンジに言われたことをハクトは思い出していた。


「……なあ白兎。それオレが引いたって事にならねえ? ほらオレ、9回引いたし、乱数調整したって事で、実質オレのじゃね?」

「いや、何を持ってそうなるの? ならないに決まってるでしょ」

「……くそがあああああ────ー!!」


 さりげなくジャイアニズムを取ろうとしたキテツを拒否すると、キテツは再度崩れ落ちていた。

 その背中をアリスがポンっと触れて慰めていた。


「と、とりあえずおめでとうハクト君! すっごい役に立つギアだから、良かったわね!」

「正直、実感湧かないけどね。効果も分からないから、どれだけ凄いか良く分からないし」

「まあ、詳細な情報は後から調べれば良いわ。じゃあ、とりあえず私も回すわねー」


 そう言って、カグヤも1,000円ガチャを回し始めた。

 キテツ達も、カグヤ自身も今度は外れるだろうと思っていたが……


 ガチャガチャ、ゴトン。


「えーっと……【バンブー・プリズン】。……これ確か、サモンギアだった筈」

「くけええええ──────っ!!」

「キテツが壊れた!?」

「僕達が外れまくった後、立て続けに高額の当たりが連発しちゃったからねえ。僕も後数回引いておけば……」


 ニワトリのような奇声を上げ始めたキテツに対し、アリスも顔を手のひらで覆ったまま、気持ちは分かると呟いていた。


「畜生っ!! じゃあもう一回だ! なけなしの残高で追加の一回! それでオレ達も当てるぞ!」

「まあ、僕も後一回だけ……」


『スカ☆』

『スカ☆』


「アーッ、アアア────!!」

「……まあ、そりゃあ世界で一人の貧乏くじ既に引いてるようなもんだけど。僕はさ」


 追加プッシュしたキテツとアリスは、見事に19枚目、20枚目のハズレを引き、その背中は哀愁が漂っていた。

 哀れ。

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