「それでは、流刑地の親から生まれた子供は皆託児所で育てるのですか!?」
次に行った第一側妃のところでは、エルデ王女がこの辺りに非常に強く関心を示した。
「向こうは何しろ冬が長い。しかも厳しい。皆で協力していかないと生きていくのが大変だ。こちらでは子供はどのくらい生まれてどのくらいすぐに死んでしまうかご存じか?」
「詳しくは。でもそうですね、一家で大抵五人くらい作るのが普通ですが、二人くらいは死ぬことを想定していると聞きました
「それは貴女の教師がそう?」
「ええ、私の先生は国中を調べて歩くのが好きな方でしたから」
ここではバルバラもエルデ王女とは会話が弾んだ。
あまりにも話に熱が入りすぎて、とうとう第一側妃とアマニ王女は俺とゼムリャに話を振ってきた。
十三歳のアマニ王女はパーティでも俺をまじまじを見ては、すごい筋肉、とばかりに目をきらきらさせていた。
一方タルカ妃はゼムリャに今日のお茶とお菓子はどうかしら、という内容を振ってきた。
「とても美味しいです」
ゼムリャはそこに関しては素直に答えた。
というか、食の話は無敵だ。
「特にこの、かりっとした食感の菓子は、私どもの方には無いので、ぜひ作り方をお聞きしたい程で。何故この様にかりっと外側は軽く硬くできるのでしょう? 焼いた? とは違いますよね? それにこの甘辛い味が後を引いて」
「まあこの味お気に召した? そうなの、これは私の実家の方でよく作った菓子でね、たっぷりの油で揚げているのよ」
「たっぷりの油! ああ! それはなかなか確かに我々の方では手に入らないのです!」
「油は使わないのかしら?」
「脂は使います。羊や山羊の。ですがそれはたっぶりという訳にはいきませんし」
「これは胡麻の油よ」
「植物からですか!」
「豚の脂で作る菓子もあるけれど、さっぱり揚がるのはやっぱり植物の油ね」
別々の話題に盛り上がる母親と姉に、何となく暇になってしまった子供の王女は気がつくと俺の腕毛を編んでいた。
「……器用ですね」
「そう?」
仕方ないので俺はその場で毛糸の長い輪を取り出し、手遊びをしてみせた。
十三の王女にはあまりに子供っぽいかと思ったが、これ以上俺の毛を編まれても。
だいたい解くのが厄介なのだが。
「え、何これ」
「あやとりです。冬になると皆編み物をします。その時の余ったもので、手遊びをするんですよ」
「編み物。お義姉様もするのかしら?」
「無論。俺もしますよ」
「え、何で? 編み物を男のひとがするの?」
「何でもできないとやっていけませんからね。自分の服は自分で作るのが普通です。それに俺は身体がこれだけでかいので、一度に二枚も三枚も作れませんからしっかりとしたものを一枚きっちり編むんですよ」
「何か凄いなあ」
感心されつつ、手はどんどん中の四角が増やしていく、という形を続けていく。
するとアマデ王女は何それすごい、という風に教えて教えてとせがんできた。
俺はもう一つ持っていたものを渡すと、こうしてこうして、と教えることとなった。
「面白い! 後でトバーシュに教えてやろっと」
「トバーシュ王女様とは仲が良いのですか?」
「同じ歳だしね。話も合うし、あとドレスの取り替えっこもするの」
「ああそうドレス!」
それを聞きつけたのはエルデ王女だった。
「ぜひちょっと私達にも貴女のドレスを仕立てさせていただきたいの!」
「……申し訳ないが……」
「駄目かしら?」
女三人のすがるような視線にバルバラは弱かった。
計測されている間、俺は衝立の向こうに押しやられた。
離れに戻ってから、一番この計測が参った、とバルバラは言った。
「この話絶対アマデ王女からトバーシュ王女に回りますよ」
「覚悟しろってことか……」
はあ、とバルバラはため息をついた。