「あの、腕相撲していただけますかっ! 俺達と!」
第五側妃のところへ行ったら、二人の王子から一気に俺はきらきらした目で見られた。
元々パーティの時から気になって仕方がなかったのだという。
「腕の筋肉触っていいですかっ!?」
「凄い…… この腕、お母様の腰くらいある……」
「……バルバラ様」
「好きにさせてやれ」
わーい、と十五のミルト王子と十二のナギス王子に俺は思いっきりこの日はまとわりつかれることになってしまった。
だが考えてみれば、ちょっと子供っぽいとは言え、まあ年少の男子というのはこんなものだったよなあ、と俺は託児所の頃のことを思い出す。
いやまあ、このお嬢もそんなものだったが。
とりあえずマレット妃との話はバルバラとゼムリャに任せて、俺はひたすらこのガキどもにいじられることにした。
「本当すみません、普段こんなに逞しい男性に接することが無いものですから……」
「上のセイン王子とは仲は?」
「悪くは無いとは思いますが、やはりちょっと繊細な方ですから…… いえ、でも、セレジュ様は気にすること無いとおもっしゃるのですよ」
そう言いつつ、マレット妃は手づからお茶を淹れる。
「よかったらミルクもお入れ下さいな。濃いめに出しておりますので」
「もらおう。もしや貴女は草原近い地方の出では?」
「あ、はい。私の実家、おおもとの方ですが、曾祖父の代で、草原の方からこの国へ移ってきましたの。で、当時の内乱とか色々の中で功績を立てたことで爵位をいただいたと聞いておりますの。ですので、未だに祖父も父も茶にはミルクを入れるものが好きで。私もその影響で」
「美味しいです」
ゼムリャは試してみて、率直に感想を言った。
「けど時々、どうしてそんな成り上がり貴族のところの娘を見つけたのだろうな、と不思議に思うのですが。名誉なことですので、それはそれで構わないですが」
「トレス様はセレジュ様の紹介で側妃になったとうかがったが……」
「ええ、私もそうです」
「何故セレジュ様の意見がそれだけ反映されたのだと?」
「それは、国王陛下のご寵愛が最も大きいのがあの方だからでしょう」
「それだけ?」
「この国では有名なことですのよ。陛下がセレジュ様を若い時に見初めたけど、正妃様、第一、第二側妃様を娶ることで、力関係が上手くいって国王としての位が安定したところで、ようやく迎えに行くことができたという……」
「若い頃」
「まだ王太子の頃だと聞いております。正妃様とご結婚なされたのが王太子の頃ですわね。ですが正妃様との新婚の頃は何かとお忙しかったり、御子を授かる時期を逸してしまった様で。それで第一第二と、当時の有力な二つの大貴族の家から嫁いでこられたのがタルカ様とアマイデ様で。ですがお二人がお産みになったのが王女様ばかりで。無論この国は長子相続ですから、女王即位でも構わないのですが、そこで国王陛下はやっぱり王子も必要ということで、第三側妃をお迎えになったのです」
「その時、セレジュ様はそれを望まれたのか?」
「ご本人がどう思うかは関係ないとは思われますが?」
何故? とばかりにマレット妃は心底不思議そうにバルバラに訊ねていた。
ちなみにこの間、俺はこの王子達に、習った寝技がかかるのかどうか判断して欲しい、という相手になっていた。