「やっぱりどう見ても第三側妃のところが奇妙だな」
「よりによって、お嬢様の相手のところだけまああんな冷え冷えとした」
ゼムリャは呆れている。
彼女は俺と同じ託児所育ちだ。
俺と違って、六~七歳くらいで両親を作業中の事故で一度に亡くし、託児所に送られた。
「王家であるからと言って、ああも母子三人が冷ややかな感じを受けるのは何故でしょう?」
「どうだろう? たまたま私達は先入観無しでセレジュ妃のところを訪れたから、そう見えたが。トレス妃もマレット妃もありがたいありがたいと言っていた。……とは言え、皇帝陛下のところの後宮の雰囲気と違って、側妃同士は和気藹々としている。これはどういうことなんだろうな」
そう、帝都で皇宮に行った時、後宮も一応見せてくれた。
というのも、後宮というのは単に皇帝の妻の居場所、というよりは各部族や属国から送られた代表の女が子を成すための場所だからだ。
皇帝陛下はその後宮に居るどの女性もお気に入りにはしないという。
そして最も好きな女は皇后にし、子供は絶対に産ませないことになっていると。
「それを了承できる女でなければ、皇后などやっていられない」
そうだ。
陛下ご自身が、数十という候補の中から知略と武力と人柄を駆使して皇帝の座についただけに、その伴侶はそれなりのものが求められるらしい。
ただ次期皇帝の座の争奪戦は、公平を期して、あくまで子達の間のみで行われるので謀殺以外の仲違いは無いのだという。
「いや、謀殺は充分仲違いだと思いますが」
と言ったバルバラに対し陛下は。
「案外それは少ないぞ。露見した場合、部族全体の取り潰しもあり得るからな。ルールが厳しいのだよ、この争いは」
だからそれぞれの妃は仲が良い訳でもないが、険悪にはなるべるならない様に息を潜めているらしい。
対して、この王家の場合は。
「皆それぞれそれなりに楽しくやっている様に見える」
「そうですね。皆それぞれ与えられた役割に満足している、という印象を受けました。そうよね?」
「ええ。俺にじゃれてきた王子達も、ちゃんと教育を受けた上での素直さでしたね。その意味ではアマニ王女の方が可笑しかったですが」
いくら何でも毛を編むな、とは言いがたかったが。
「まああれは、話について行けなくて暇だったということで仕方ないな。一方で彼女は母親違いの妹ともの凄く仲がよさげだし。立場もさほど気にしていなさそうだ」
「アマイデ様とユルシュ王女にしても、むしろこの立場を楽しんでいる様に思われました。商業の街出身ということもありましょうが、考え方が柔軟でしたね」
「正妃ローゼル様は、常に落ち着いていて、おそらく国王殿下より考えは深いと思う。結構こっちが質問したことに対し、国王が詰まると、さりげなくヒントを出す様なこともあったし」
「となると、王殿下と正妃様の間は良好、と。そして正妃様も他の女性に対しては、少なくとも外には出さない慎みを持っていると」
「それだけにあの第三側妃のところの空気の冷たさが気になる」
全くだ、と我々はうなづいた。