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第26話 配下への指示

 バルバラは「表」要員に対し、この王宮全体の細かい見取り図を作る様に命じた。


「国王から一応公式な図はもらっているが、それはあくまで表向きのものだ。天井裏、抜け道、死角などが無いか皆散って調べて欲しい。その間離れの世話はゲイデンとマスリーに任せる」

「了解」


 ゲイデンというのは、この離れに林で倒した木々で簡単な椅子等をすぐに作った男だ。

 マスリーは野営の際に火起こしをする男だ。

 要するに調理要員である。

 ただしこの場合は、時には狩りにも出る、ということだが。

 食料はこちらの王宮の厨房に取りに行くことにしていた。

 持って行く、と向こうから言われてはいたが、厨房の様子も知りたいので、マスリーにその辺りも観察する様に指示した。

 残りが王宮自体の調査である。

 その際に耳にしたことで気がついたことは記憶しておく様に、とも付け加えられている。

 冬の最中に外でメモを取ることはできない。

 だからここにやって来た者達は俺やお嬢を含め、重要なことを記憶する訓練ができている。証拠も残らない。信頼あってのことだが。


「お嬢の身辺警護は」

「これが居て、誰が手を出す?」


 そう俺を指す。


「違いない」

「確かに」


 そう皆で笑う。

 実際俺とゼムリャもそうだが、バルバラ自身が小柄であっても相当の剣の使い手である。

 何か咄嗟に襲われたとしても、殺気があれば反応できる。

 ただし過信は禁物だ。それは領主様に散々言われている。

 だからこその三人体制なのだ。

 何処に行くにも離れないこと。

 女しか行けないところにはゼムリャが目を光らせる。


 一方、「裏」組は、河口辺りから次第に国内のあちこちに散りだしていた。

 これは後で聞いた話だが、別れた彼等は基本二人一組で行動をしていた。

 そしてそれぞれの側妃の出身の領地を中心に、各地の情報を仕入れていた。

 バルバラへの連絡には鳩が使われていた。元々領内でも広域移動の際には連れて行くことがある。危険な状態に陥った時に、館に知らせるためだった。

 今回はそれぞれの派遣員とバルバラの元との往復だったので、元々チェリに常駐している派遣員が、王宮近くに鳩舎を設置し、訓練を積ませていた。

 それに気付けないチェリ王国もどうだろう、というのが派遣員の感想だが。

 ゲイデンはこれらの鳩がやってきた時に手紙を受け取り、バルバラの手紙を付け、再び飛ばす役目をも持っている。

 手紙の中身は暗号文だ。


「セルーメさんが面白いことを言っていた」


 底本と数字を合わせる暗号をここでは採用した。

 普段の通信だったなら、そこまではしないが、バルバラが国中に少数精鋭を放っているということを「あまり」知られない様にするためだった。

 常識がある者なら、まず辺境伯令嬢がやってきた辺りで、帝国の手が回っていることに気付くはずだ。

 何処かで何かが起こっていると。

 それに気付けないのは、無知か馬鹿か、何処かでつまづいた者だけだ。

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