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第29話 集まる情報と気付く歪み

 そんな日々が一年程続いた。

 その間に「裏」からは各地の情報が集まってきた。

 麻薬ルートの拠点だろうトアレグの「飛び地」付近が、かつてはセレジュ妃の実家が本家をやっていた辺りであること。

 セレジュ妃とデターム氏とセルーメ氏は同じ一族であったこと。

 集めてみれば、割と簡単につながるものはあった。

 ただそこで、伯爵夫妻が早く亡くなっていることに関しては土地の者も口が固い、とのことだった。

 ので、バルバラはそこの辺りをよく洗う様に、と命じた。

 一方、国境近い領地を持つランサム侯爵の動向も気になるところだった。

 一見何の関係もなさげなところである。ただ、動向が怪しい、という報告だった。この時点では。

 田園生活を好む侯爵が二、三年前に急に隠居して遠縁に跡を継いでもらったという。


「館以外は周辺貴族に売り払ってその後継者は王都近くに家を借りて娘と二人で暮らしている」


 この報告に、バルバラは疑問を持って館の方をもう少し探る様にと命じた。


「何で館だけ残すか、だな」

「と言うと?」


 俺達はこの類いの話は家の中、特に物置としている場所でしていた。

 王宮の誰かがこちらの離れを調べているのは前提だ。

 たださすがにこれだけほこりだらけの物置に三人で密談しているとは思っていないだろう。

 辺境伯の、一応「令嬢」には回避したいところではないか、という頭がこの国の人間ならあるだろう。

 とは言え。


「まあいざとなったらお前といちゃついているところでも見せておけばいいさ」

「まあ!」


 ゼムリャが堪えきれずに笑った。


「それは止めておきましょうよ。一応貴女、ここに婚約者が居ることになっているのですし」

「いやいい加減私、お前の胸毛をわしゃわしゃしてやりたいと思ってるんだ。何かこう、手がうずいて」


 ゼムリャの笑いが止まらない。


「はいはい。どうせ俺の寝床で時々寝てるくせに」

「ちょ、それは……」


 駄目だこりゃ、とばかりにゼムリャは腹を押さえていた。


「まあ実際、俺や貴女の寝床にまで侵入できる訳ではないし、その前に誰か入ったらうちの連中なら捕まえますからね。と言うか、前に何度か捕まえましたよね」

「あー。確かに」


 その時は普通に「こそ泥だと思って」「痛めつけて叩きだした」訳だ。

 こで聞き出したところでろくなことは起こらない。

 下手な情報を持ってこられて攪乱させられても困る。

 現在「手を出してくる奴は居る」「が、捕まえて何やら白状させられることはない」ということが広まれば充分だろう、と考えていた。

 そしてランサム侯爵の館のことだが。


「全部売り払ってしまえばいいじゃないか。館に何かしらの思い入れがあるならともかく、新たに入ってきた遠縁とかいう奴だ。それに、そもそもその元侯爵は何処に行った? 確かに爵位返上の申し出はされていた。受理された。ただ当人は何処に行った? 何でそれをそのままにしておく?」

「つまり管理方面に問題があると」

「そこは後で突いていいと思う。あまりにも甘い」


 了解、と俺達はうなづいた。

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