「デタームから八角盤をもらって飾りと思ってかけておいた、と言っても、おそらく彼女はあれが何だか知っていて掛けている。じゃあ何故隠す?」
そんな疑問がバルバラの中に湧いた様だ。
「この三人が故郷でどういう関係だったのか、調べさせないとな」
「あああと、マスリーさん!」
俺は厨房担当の彼を呼んだ。
「何だ一体? お嬢お帰りなさい。何かありました?」
「私は無いんだが、私の命令ってことで此奴から言うことがあるみたいだ」
そう言って俺を指す。
俺は第三側妃のお茶の仕入れ先を調べて欲しい、と頼んだ。
「茶ねえ。皆一緒だと思ってたんだが違ったのかい?」
「厨房では皆一緒なんですか?」
「食料は管理するところが決まっていて、まあ茶なんかもよっぽどの要望が無い限りは、一括で仕入れているらしい。でも第三側妃のところだけ違うのかどうか、は調べてみるよ」
「頼みます」
「とりあえず我々も茶にするか」
淹れますよ、とマスリーは厨房へ飛んでいった。
*
さて幾つもの事実が判ると、幾つもの疑問も生じてくる。
その上、新たな要素が付け加えられてくる訳だ。
滞在して一年程経った頃、俺達は王家の殆どの人間達とそれなりに仲良き付き合いをしていた。
バルバラも王女達に多少おもちゃにされつつ、新たなドレスの可能性がどうとか、で試着させられたりもしていた。
「まあこんな感じなら、きつくも無いしいいか」
するとアマイデ妃は拳を握りしめて力説する。
「ですよね! 無理に締めなくとも身体のラインを強調したい時にはそこに飾りを入れたり外したりすることで視線を集めることができますし、正直結構パーティの時期によっては、男性にとっては暑すぎたり女性にとっては寒すぎたりすることも今のドレスではあるのですよ! それに肌を出したくないという女性も実のところ結構おりまして!」
バルバラはこのアマイデ妃の合理性と美的感覚と商業的利益を追求する姿勢は面白いと思ったらしく、思った以上に協力していた。
その傍らでちくちくとゼムリャがユルシュ王女に刺繍の柄を教えたりしている。
俺はこの第二側妃の離れに来た時には本当に何をしていいのか判らなくなることが多い。
「シェイデン! どうだこれは!」
そうバルバラが聞いてくることはあるのだが、「良いではないんですか」ぐらいしか言い様が無い。
そしてその新たなドレスとやらを着て、ユルシュ王女の誕生パーティに参加することになった。
それまで今一つ引きつった笑顔だった貴族達も、アマイデ妃とユルシュ王女の共同で意匠を作り新たに製作したものであるなら、これはもう宮廷では「今後の流行にしますからね」と言われた様なものだった。
「今年の風邪はしつこいと聞きますし、肩を出さないドレスも良いのではないかと思いまして」
そして実際アマイデ妃とユルシュ王女も、その風味を入れたドレスを着て登場したのだ。
それを見たセイン王子は当然の様に不機嫌だった。
彼が何故こうも不機嫌なのか、は俺達も次第に気がつきつつあった。
が、まだ決定的な言動は現れていない。
そしてこのパーティで危険な言動のきっかけとなる女が現れたのだ。