【8月1日 叶う:倉田 優姫】
「ゆうちゃん……」
「……」
ソファに寄り掛かったまま黙り込むゆうちゃん。さっきから貧乏ゆすりを落ち着きなく繰り返している。
「ゆうちゃん」
「……」
何も答えは返ってこない。
仕方ないので1つ、ゆうちゃんを振り向かせるためのくだらない嘘をついてみる。
こんなくだらない嘘でも、今のゆうちゃんなら信じ込んでしまうかも。
「……この世界で起こり得る全ての不幸は神様の意地悪なの。ボクが誘拐されたのも、西崎さんや峰岸さんが犠牲になったのも……あんちゃんが死んだのも。だから、ゆうちゃんがどうだとか関係ないんだよ、元気出して? ね?」
もちろん、嘘。こんな事をボクは微塵も思っていない。
けど、今の追い詰められたゆうちゃんはどうだろう。そんな嘘にでも縋ってしまうのだろうか。
「なぁ、優姫……」
やっと、ゆうちゃんは反応を示した。
「なに?」
「……なんで俺がこんな目に……俺は悪くないのに、悪くないのに……か、神様、なんで俺だけこんな苦しまなきゃいけないんだよぉ……」
ゆうちゃんはメソメソと泣きながら言う。まるで、泣きじゃくる子供みたい。
「俺が……俺たちがなにをしたって言うんだよ……なんで俺の周りだけ、こんな」
……こういう所も変わってないな。ちょっとでも嫌な事があるとすぐにイジけちゃう癖。
ゆうちゃんの事は好きだけど、こういう所は……昔から嫌い。
「……ゆうちゃん。ボクは今、君を慰めるために嘘をついた。この世で起こり得る全ての不幸は神様の意地悪だと。けど、あれは嘘。実際はこの世で起こり得る全ての不幸は……人間にしか原因は無い。つまり、みんなゆうちゃんのせいだよ?」
「……優姫、何言って……」
「ボクね、ゆうちゃんの事は大好きだけど……ゆうちゃんのメソメソした所はね、昔から大っ嫌いなんだ」
私の冷たい声に、ゆうちゃんは顔を真っ青にする。ゆうちゃんの表情、それは完全に『壊れた』人間の表情だった。
やった。ようやくだ、ようやくゆうちゃんの心を『壊す』事が出来た。ボクの口元は思わず緩む。
もう、良い頃合いだろう。
ゆうちゃんの表情を見て、ボクは計画の最後の仕上げに取り掛かる事を決断する。
「ようやく、良い表情になったね。それじゃあ、そろそろ最後の仕上げに取り掛かるとしようか。ボクの計画も、ようやくゴールが見えてきた」
そう言ってボクはゆうちゃんの目をまっすぐに見つめる。
「は? なんだよ、計画って……、ゴールって」
「今からちゃんと教えてあげるよ。だから、目を逸らさず、耳を塞がず……最後の最後まで聞いてね。ゆうちゃんは辛い事からはすぐに逃げるんだから」
そして、ボクは計画の全貌をゆうちゃんへ話し始めた。