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第56話 選択

【8月1日 種明かし:倉田 優姫】


「まず、あんちゃんについて。今回の事件で西崎を廃人にし、峰岸を自殺まで追い込んだのは……他の誰でもない、あんちゃんだ。全てあんちゃんの手で行われた凶行だったんだよ」

「……え?」

 ゆうちゃんはボクの言葉が理解できないのか、何度も瞬きをしている。

 そして、金魚のように口を閉じたり開けたりを繰り返している。

「……は、はぁっ? お、お前な……に……何の、冗談」

 ゆうちゃんは現実を受け入れられないみたい。まぁ、仕方ないか。可愛い妹があんな凄惨な事件の犯人だなんてね、驚くのも無理はない。

「ゆうちゃんも気付かなかった訳じゃないでしょ。あんちゃんの精神は不安定な状態が続いてたって事」

「それは……お、お前がいなくなったショックで!」

「うーん……まぁ、確かにそれもあるかな。でもね、あんちゃんがここまでの罪を犯した本当の理由……知りたい?」

 ボクはそう言ってゆうちゃんの顔を覗き込む。それに対し、ゆうちゃんは小刻みに頭を縦に振る。


「それはね、あんちゃんがゆうちゃんの事を本気で愛していたから。だから、ゆうちゃんのために狂う事も、自らの手を汚す事も躊躇わなかった」

 ゆうちゃんは更に意味が分からないような顔をしている。

 それはそうか。ゆうちゃんのような普通の人間に、ボクやあんちゃんみたいな狂人の思考なんて理解出来るはずがない。


「そして、あんちゃんを狂わせたのは……他の誰でもない、ボクだ」

 でも、理解なんてされなくても良い。

 最終的に、妥協でも、嫌々でも、ボクを選んでくれればそれで良いんだ。

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