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第10話 共同生活

それから、男との地獄の共同生活は続いた。

 朝、昼、晩の食事は全て男の食い残した腐りかけのコンビニ弁当。もし吐いたら吐しゃ物を無理やり食わされるので、ボクはなるべく味を感じないよう食事を流し込んむようにして済ませた。

 入浴は男の気まぐれで、身体は常に痒かった。けれど、もう皮膚を掻く為の爪は全てボクの指からは失われていた。全てあの男にペンチとトンカチで破壊されたからである。

 そして、日常の中では突如として男の気まぐれで殴る、蹴るなどの暴行が始まる。それは3分で終わるときもあれば、3時間ずっと殴られ続けた日もあった。

 男は基本的に家におり、働いている様子も無い。つまり一時も気が休まることが無いのだ。

 そんな毎日が、どれほど続いただろうか。1ヶ月? 2ヶ月? それすら判別出来ないくらいに長い時間が過ぎた。



「優姫ちゃんちょっと太ったかな、顔が大きくなったみたい!」

 男が気を失いかけているボクの首を掴み上げて言う。男の裏拳が思い切り顔面に命中し、その勢いで後頭部から倒れ込んでボクは脳震盪のような状態になっていた。 

 慢性的に殴られ続けたボクの顔は腫れ上がり、もはや顔の原型を留めてすらいなかった。

「あーあ、暇だなぁ」

 次は肋骨に容赦無く拳が打ち込まれる。

 痛みは感じるが声は出ない。もうボクは叫ぶ事にすら疲れたのだ。

「……っ」

「もう悲鳴も出なくなっちゃったかな? 慣れるって怖いね。最初の頃はあんなに泣き叫んでたのに」

 身体はもう殆ど動かなかった。火傷のせいか、それとも骨折のせいか。一番の原因は精神的な疲労のせいだろう。頭も全く働かない。

「……つまんないなぁ。泣いたり叫んだりしてくれないと面白くないよ。我慢しているのかな?」

 男はボクが苦しみ、泣き叫ぶ事を喜びとしている。

 だから、せめてもの抵抗としてボクは弱音を吐いたり、泣き叫ばないようにしようと決心したのだ。

 男は自分の気が済むまで監禁は続くと言っていたが、信用出来ない。だが、逆にボクを痛ぶる事を『つまらない』と認識させれば、飽きてボクを解放する事もあり得るのではないかと考えたのだ。

「ふーん、反抗的だね。まぁ、良いよ。僕との生活に慣れてきてくれた証拠だもんね。じゃあ明日からは少し遊びにアレンジを加えるとしよう。優姫ちゃんの痩せ我慢はいつまで続くかな?」


 こんな男には負けない。絶対に皆の元へ帰るんだ。

 そう決心したはずなのに、その決意はすぐに悲鳴で破られる事になる。

 ボクは明日、この男に左目を奪われるのだ。


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