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第11話 反抗

「ほーら、朝だよ~。目覚ましの熱々コーヒーだよ~」

「……ぐっ……ぅ」

 眠っているボクの背中に熱湯で作ったコーヒーがバシャバシャと注がれた。この熱さに慣れてしまったのか、それとも皮膚が麻痺しているのか以前ほどの痛覚は感じなかった。

 ボクは声を出さない。男へのせめてもの抵抗だ。

「優姫ちゃんが口からじゃコーヒーが飲めないっていうから、身体で味わってもらいたくて早起きしちゃったよ。どう? 目は覚めたかな」

 ボクの口の中は毎日殴られているせいで傷だらけだ。常に血の味がするし、歯も何本か根元から折れていた。数え切れないくらいの傷を負ったせいか、既に味覚すらも失われつつあった。

「……っ」

「……ふーん、だんまりか。良いよ、まだ目が覚めないみたいだね」

 男はもう一度、ボクの背中に熱湯コーヒーを浴びせる。背中に熱が広がっていく。

「うぅッ……う……」

 慣れているとはいえ、同じ個所に何度も熱湯を注がれるのはやはり厳しい。我慢していても声が少し漏れてしまう。

「どう? ちょっとは目覚めた?」

「……っ」

 ボクは、苦悶の表情を浮かべながらもそっぽを向く。苦しんでいる表情をこの男に見せたくない。

 見せてしまえば、それは男の喜びに繋がる。

「……そうか、そこまでして僕を喜ばせる事を拒むのか……つまらないな。それなら今は好きなだけ眠ると良い」

 すると意外な事に男は悔しそうな表情を浮かべ、そのまま部屋を後にした。ボクを痛ぶる事を諦めたのだ。

 ……勝った。初めて勝った。男を諦めさせた。

 じわじわと安堵が心に広がる。ボクはどんな痛みを受けても屈しなかった。その結果、ボクはあの男に勝った。

 その小さな喜びを胸に感じながら、ボクはそのまま目を閉じた。


 もう、何をされてもあの男には屈しない。そうすればいつか男はボクを痛ぶる事に飽きるはず。

 そうすれば、この地獄が終わる日がいつか来るかもしれない。

 そうしたら、皆の所へ帰るんだ。

 そんな事を夢見ながらボクは眠りに落ちた。


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