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第14話 演技

 ボクは糸田を受け入れた。いや、受け入れた様に見せかけた。痛みを受け入れ、糸田を愛しているフリをこの半年間続けてきた。

 しかし、そうする事で拷問や虐待が弱まったり、暴行が減ったりする事も無ければ食事が良くなるという事も無かった。

 けれど、そんな中でもこの半年間でボクが確実に得られたものがある。それは、糸田の信頼だ。

 ボクはあらゆる虐待に対して拒否をせず、喜んでそれらを受け入れ続けた。そのおかげもあり糸田はボクが度重なる暴力に屈服し、完全に従順な存在になったと信じ切っている。

 だが、それは全て演技だ。痛いものは痛いし、糸田の事を好きになる事など死んでもあり得ない。

 今の振る舞いは全て偽物。ボクが『人間』として皆の元に帰るための下準備。


 ボクの心は、まだ死んではいない。

 あと、もう少しだけ耐えよう。

 だから、皆待っていて欲しい。

 皆の元へ帰る為なら、ボクはどんな痛みや苦しみも耐えてみせる。


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