あれから、更に気が遠くなる程の時間が経った。
これで、もう何度目の夏だろう。誘拐されてからもう何年目になるんだろう。この場所での生活は既にボクにとっての日常となっていた。
この場所で受けた傷と苦痛は数えきれない程だ。けれど、傷は時間が経てば大抵は治るし、痛みも慣れてしまえば何とか耐えられる。
毎日、絶え間なく与えられる苦痛。普通であればとっくに狂ってしまっているはずだ。
けれど、皆の元へ帰るという強い意志だけはまだ死んでいなかった。その意思だけは、どんなに苦しくても揺らぐ事は無かった。
この数年、ボクはただ糸田の玩具として弄ばれていた訳ではない。着実に糸田の信用を積み重ねてきた。
痛みに屈し、泣き叫び、糸田を喜ばせる。そして糸田に絶対的な服従をしているかの様に振る舞う。そうして糸田の奴隷を演じる事で確実に信頼を積み重ね続けてきた。
そして、糸田の危機感が少しでも緩んだ時……その瞬間がこの地獄を抜け出す唯一のチャンスだ。