「じゃあ、行ってきます」
「気を付けてよね。ボーッとしちゃダメだよ。高校の近くは車の通り多いんだから」
「もう、葵は心配し過ぎ! 私、一応は姉なんだけど!」
お姉ちゃんは元々優秀な人だが、天真爛漫で少し危なっかしい所があった。
周りはお姉ちゃんのそんな面を知らないだろうが、妹である私はずっと昔からお姉ちゃんの事を知っている。
だからこそ、私がしっかりしてお姉ちゃんを守らなければならないという感情も芽生えていた。
「なら、もうちょっとお姉ちゃんらしくしなよ……門限は7時だからね、分かった?」
「分かってるって~、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい!」
そして、お姉ちゃんは元気良く玄関を飛び出しいく。
私……雪代 葵はお姉ちゃんを見送り、リビングへ戻る。
また、退屈な1日が始まる。
ただ、この1人きりの家でひたすら時間が流れるのを待つだけの拷問の様な生活が始まる。
私は学校には行っていない、所謂不登校というやつだ。ただ、理由はいじめなどでは無い。
不登校の理由は私の身体にあった。私は幼い頃から身体が弱く、併せて心臓に重い持病を持っている。長時間の外出、人混みは私の脆い身体には負荷が大き過ぎるのだ。
何度も登校にチャレンジした事もあったけれど、途中で倒れたり体調を崩したりして全て失敗した。
だから、私は学校に通う事を諦めた。
お姉ちゃんと2人暮らしの私は、お姉ちゃんを見送れば1人だ。家事を一通り終えても精々昼前の時間帯。そこからは勉強をしたり、テレビを見たりして時間を潰して、ただ1日が終わるのを待つだけの生活。
子供の頃からのこの生活に私は良い加減嫌気がさしていたが、それでもどうしようもない。
私は、この家という牢獄の中で退屈を繰り返す。
「暇……」
外に出ない私にとって、世界の全てがお姉ちゃんの存在だった。お姉ちゃんは幼い頃から私の面倒を献身的に見てくれた。同級生からの遊びを断り、学校から走って帰って来ては今日あった出来事を私に楽しそうに教えてくれる。
お姉ちゃんは何よりも妹の私を想い行動してくれた。
私はお姉ちゃんの事が好きだ。きっとお姉ちゃんも私の事が好きだ。それは単なる姉妹愛ではなく、もっと深く強い愛だと思う。
お姉ちゃんは私の世界の全てであり、私の世界そのものだった。
そして、私にとって憧れの存在だった。
ずっとずっと、お姉ちゃんと一緒にいたかった。
ただ、それだけで良かった。
けれど、その願いは日常と共に音を立てながら着実に壊れ始めていたのだ。