「ただいま~」
「随分と遅かったね、お姉ちゃん? 今何時だと思う?」
「……9時」
その日の夜、門限を大幅にオーバーしたお姉ちゃんを私は玄関で出迎える。
高校に入ってからお姉ちゃんの帰りは遅くなった。友達との遊び、バイト……主に理由はそれらだが、最近は特に酷い。
遊びやバイトが楽しいからといって、門限を破って良い訳ではない。お姉ちゃんはまだ高校生で、単純に安全面が心配だし、何より私自身がお姉ちゃんの帰りが遅い事に苛立ちを覚え始めていた。
「門限、過ぎてますけど?」
「……ごめんなさい、時間を忘れてました」
無表情でそう問い詰める私に、お姉ちゃんは深々と頭を下げる。こうすれば私がこれ以上責められない事をお姉ちゃんは知っている。いつもこうやって私の怒りをお姉ちゃんは躱しているのだ。
「いつも電話にも出ないし、心配するよ……遅くなるなら、せめて連絡くらいしてっていつも言って……」
「ごめんって、葵~! お詫びにケーキ買ってきたからさ、これ一緒に食べよ!」
すると、お姉ちゃんはカバンの中から小さなケーキを2つ取り出す。帰り道にコンビニで買ってきたのだろう。お姉ちゃんは私の好物だと知った上でいつもこうやってお土産をの持ち帰ってくる。
そんなお姉ちゃんの巧妙な手口もあってか、私もどうしてもお姉ちゃんに強く怒れていない。そんな愛嬌もお姉ちゃんの良い所ではあるのだが。
「もう……次もそれで許されると思わないでよ!」
「はーい、ごめんなさーい」
そう言いつつも、ようやく帰ってきたお姉ちゃんの手を引き、私達は家の中へと入っていった。