ケーキとコーヒーを堪能し、2人でソファーに座りながらボーッとテレビを観る。
これと言って観たい番組がある訳では無かったので、たまたま流れていたニュース番組を2人で見ている。
本当は番組の内容などどうでも良くて、私はお姉ちゃんと2人でこうして肩を寄せ合える時間自体が心地良かった。
「あ、これ……」
「ああ……この事件、もう3年も前なんだ」
その時、お姉ちゃんがテレビ画面を見て声を漏らす。
今から3年程前に起きた殺人事件に関する特集だった。加害者・被害者のどちらも未成年だったので当時もかなり騒がれた事件だった。未成年同士の事件だった為、当事者達の具体的な氏名等は出ていなかったが、その事件自体は私も知っていた。
『当時、高校生の少年Aが同じサッカー部の後輩Bを殺害。その後、後輩Bの妹であるCと、Cの友人と思われるD……計3人を殺害したという凄惨な事件でしたが……あれから既に3年の月日が流れようとしています』
『加害者の少年Aは現在、精神鑑定の結果を受けて医療少年院に収監されています。このような未成年による凄惨な事件が近年では増加傾向にあります』
アナウンサーが無機質な声質で原稿を読み上げ、それを聞いた専門家たちが頷く。
そして、各分野の専門家達が動機や犯罪心理についての説明を始める。
「これね、意外にここから近い場所での事件だったらしいよ。クラスの子の地元で起きた事件だったらしくて、当時は結構な騒ぎになったって言ってた」
「こんな事件が起きたら、それは大変な騒ぎになるだろうね……」
未成年よる未成年に対しての殺人……世間が震撼する衝撃的な事件だろう。3年前、この事件が起きた時はテレビでもこの話題ばかりが放映されていた様な記憶もある。
私は加害者も被害者の事も当然知らないけれど、大して歳も変わらない人達が殺したり、殺されたりしたと考えると、やはり怖いなとは思う。
「今の私達と同じくらいの年齢で、3人も人を殺すなんて……この少年Aって奴、どんな奴なんだろうね」
「これ、動機は何だったんだっけ?」
「恋愛絡み。犯人の少年Aが、被害者の後輩Bと同じ女の子を好きになっちゃったんだって。それで後輩Bが憎くなって殺したんだけど、その後に『死ぬのが1人だと可哀想だから』って理由で後輩Bの妹のCと、Cの友達っぽいDも一緒に殺した……とかだったと思う」
「えぇ~……サイコパスじゃん。そういう人って普段は何考えながら生きてるのかね……」
そんな身勝手な理由で本当に3人を殺したのなら、その加害者は本当に狂っているのだろう。
けれど、それと同時に少し気になる。
他人を殺す程に人を好きになる……それはどんな気持ちなんだろう。
「でも、地元だと普通の人だったらしいよ? サッカー部の部長をやってたくらい陽キャだったらしいし。その殺された後輩Bともずっと昔から仲が良さそうだったんだって」
「そんな仲が良い相手を恋愛を理由に殺すなんて、そんなの有り得るのかな。他に理由があったんじゃない?」
「ん~……でも、本当に好きな人の為だとしたら仲良い相手でも殺す事だって有り得るんじゃない? 分からんけど。でもさ、殺人を犯すくらいにまで人を好きになるなんて……ちょっとロマンチックじゃない?」
「もう、不謹慎だよ。外で絶対そんな事言わないでよね」
私はお姉ちゃんの発言に対し、注意をする。
けれど、お姉ちゃんの言いたい事も分かる。殺人に発展する程、人を好きになる。到底、理解は出来ないけれど……そこまで一途に想える人がいる事自体は、もしかしたら幸せな事なのかもしれない。
それ程までに好きなれる人がいたら、もしかしたら誰であっても罪を犯してしまうのかもしれない。
「それはそうなんだけどさ~、罪を犯してでも守りたいものがこの少年Aにもあったんじゃない? こんな事は言っちゃダメなのかも知れないけど、本当に大切なものを守る為なら……私だって人殺しちゃうかもしれないし」
「もう、物騒な事を言わないでよ……」
大切なものの為に、罪を犯す。
私にとって当てはまるものがあるとすれば、それはお姉ちゃんだけ。
お姉ちゃんを守る為だとしたら、私は罪を犯せるだろうか。
「例えば、葵が誰かに殺されそうになってたりしたらさ、私はその相手を殺すと思う。茜は? 茜は私が殺されそうになったら……その相手を殺してくれる?」
お姉ちゃんは笑顔でそう言った。
そんな場面に出くわす事なんてまず無いのだろうが、お姉ちゃんの言葉は不謹慎ながら少し嬉しかった。
殺人は言うまでもなく罪だ。その罪を背負ってでも、守りたい存在だと思われているのなら、それはとても嬉しい。
「……殺すしかお姉ちゃんを助ける方法が無いのなら、そうするかもね」
「嬉しいな~! 葵にそんな愛されてるなんて!」
「もう、ふざけてないで早く寝るよ! 明日も学校なんだから、この話終わり!」
口ではそんな風に誤魔化したけれど、もしお姉ちゃんの為だというのなら……もしかしたら私だって人を殺してしまうかもしれない。
だって、お姉ちゃんは私の世界の全てなのだから。
私の世界を壊そうとする相手がいたのなら……その時は、きっとその相手を殺すだろう。