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第11話 穢れ

 診察が終わり、私は逃げる様にタクシーへ乗り込み、自宅へと向かう。

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。

 触れられた身体の箇所が腐り落ちてしまいそう。

 今すぐにでも胃液を吐き出してしまいそうだ。


「……うぅ、う……」

「お嬢ちゃん、大丈夫? 1回どこかで止まって休むかい?」

「大丈夫です……そのまま家に向かってください」

 車内で嗚咽が絶えない私を見て、タクシーの運転手が声を掛けてくれる。

 けれど、とにかくすぐに1人になりたかった。そして、すぐにシャワーを浴びて、お風呂に入って自分の身体を清めたい。


 込み上げてくる吐き気を抑え込む為、私はタクシーから外の景色をひたすら網膜に焼き付けていた。

 とにかく、少し前に起きた現実を忘れ、風化させたい一心で外の景色を眺める。


 流れていく風景と人混み。

 するとその時、見覚えのある姿と声が私の脳内へと流れ込んでくる。

 タクシーの窓越しだったけれど、見間違いではなかった。


「……え?」

 私は思わず声を漏らした。流れゆく風景の中に紛れ、道を歩いていたのは私の姉……茜の姿だった。

 そして、その隣には見知らぬ男がいた。

 お姉ちゃんは男と2人、楽しそうに喋りながら道を歩いていた。


『そうそう! それでさ~』

『はは! 茜のその話、この前も聞いたよ』

『マジ!? 玲くんにも話してたっけ!?」


 見えたのは一瞬だったが、それは間違えなくお姉ちゃんの姿、そしてその隣には同じくらいの歳の男が歩いていた。


「……お姉ちゃん? 何で?」

 今は平日の午前11時過ぎ。本来なら学校で授業を受けている筈の時間帯だ。なのに、お姉ちゃんは何故か男と楽しそうに歩いている。

 私にも見せた事のないとびきりの笑顔を浮かべて、お姉ちゃんは男と歩いていた。


 気持ち悪い、気持ち悪い、気待ち悪い。


「……もう、ここで良いです」

 私はタクシーから降りて、その場で堪えきれず腹の中のものを全て吐き出し嘔吐した。


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