診察が終わり、私は逃げる様にタクシーへ乗り込み、自宅へと向かう。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
触れられた身体の箇所が腐り落ちてしまいそう。
今すぐにでも胃液を吐き出してしまいそうだ。
「……うぅ、う……」
「お嬢ちゃん、大丈夫? 1回どこかで止まって休むかい?」
「大丈夫です……そのまま家に向かってください」
車内で嗚咽が絶えない私を見て、タクシーの運転手が声を掛けてくれる。
けれど、とにかくすぐに1人になりたかった。そして、すぐにシャワーを浴びて、お風呂に入って自分の身体を清めたい。
込み上げてくる吐き気を抑え込む為、私はタクシーから外の景色をひたすら網膜に焼き付けていた。
とにかく、少し前に起きた現実を忘れ、風化させたい一心で外の景色を眺める。
流れていく風景と人混み。
するとその時、見覚えのある姿と声が私の脳内へと流れ込んでくる。
タクシーの窓越しだったけれど、見間違いではなかった。
「……え?」
私は思わず声を漏らした。流れゆく風景の中に紛れ、道を歩いていたのは私の姉……茜の姿だった。
そして、その隣には見知らぬ男がいた。
お姉ちゃんは男と2人、楽しそうに喋りながら道を歩いていた。
『そうそう! それでさ~』
『はは! 茜のその話、この前も聞いたよ』
『マジ!? 玲くんにも話してたっけ!?」
見えたのは一瞬だったが、それは間違えなくお姉ちゃんの姿、そしてその隣には同じくらいの歳の男が歩いていた。
「……お姉ちゃん? 何で?」
今は平日の午前11時過ぎ。本来なら学校で授業を受けている筈の時間帯だ。なのに、お姉ちゃんは何故か男と楽しそうに歩いている。
私にも見せた事のないとびきりの笑顔を浮かべて、お姉ちゃんは男と歩いていた。
気持ち悪い、気持ち悪い、気待ち悪い。
「……もう、ここで良いです」
私はタクシーから降りて、その場で堪えきれず腹の中のものを全て吐き出し嘔吐した。