そして、夜になりお姉ちゃんは家に帰ってきた。
「ただいま……」
「今日、昼間は何してたの?」
私はおかえりと言う事も無く、唐突にお姉ちゃんへと詰め寄る。
「え? いや、学校だよ?」
それに対し、お姉ちゃんはきょとんとした顔で答える。
当たり前の様に嘘をつくお姉ちゃんに、私は更に苛立つ。
「嘘、今日の11時22分……2丁目の公園の近くで歩いてたじゃん、男の人と」
私の言葉に、お姉ちゃんの表情は一気に強張り血の気が引く。まさか、見られているとは思っていなかったのだろう。
「何……もしかして、ずっと見てたの……?」
「病院の帰りにタクシーから見えたの。で、学校サボって何してたの?」
「……別に。何でも良いじゃん」
私の言葉に、お姉ちゃんは目を伏せる。
都合が悪い事があった時にお姉ちゃんがよくやる仕草だ。
「良くない! あんな時間に学校サボって、何してたの!?」
「あー、うっさいなぁ! 途中で気分悪くなって早退したの!」
「じゃあ、あの男の人は?」
「隣のクラスの友達で、玲くんっていう子! 私の事が心配だからって一緒に早退して送ってくれたの!」
お姉ちゃんは長い金髪をぐしゃぐしゃと掻きながら投げやりに答える。
「送ってくれた? こんな時間まで外にいたのに?」
「……帰る途中で体調は治ったから、ファミレスで玲くんと宿題してた」
「どこの店? レシートは? あるなら出して」
「もう、いい加減にしてよ!」
私の言葉に、とうとうお姉ちゃんは癇癪を起こす。
お姉ちゃんに怒鳴られるなんて、何年振りだろうか。
その勢いと圧に私は一瞬、放心状態となってしまう。
そして、徐々に両目から涙がポタポタと溢れ始める。何で私はお姉ちゃんと言い争いなんてしているんだろう。大好きな人なのに。
こんな事を本当は言いたくないし、争いたくなんて無いのに。
「お姉ちゃんはせっかく学校にも自由に行ける身体なのに……何で学校をサボったりするの? 私は、私は学校に行きたくてもいけないのに……」
私はボロボロと涙を流し始める。
お姉ちゃんが羨ましくて、それに嫉妬している自分がいる。けれど、それ以上にお姉ちゃんが私以外の人間と楽しそうにしている姿がショックで嫌だった。
「……ごめん、葵。学校をサボったのは謝る。本当は午後の体育が怠くて……玲くんと一緒にサボったんだよね。けどさ……葵はちょっと過保護過ぎるた思う。私、もう高校生だよ? バイトだってして、自分でお金が稼げる年齢なんだよ? 子供じゃないんだから、もう少し自由にさせて欲しいよ」
「だって……私はお姉ちゃんの事が好きで、お姉ちゃんに何かあったら……」
「私だって葵が好きだよ? けどさ、私には私の人生があって、葵には葵の人生があるじゃん。だからさ……もう少し、私の人生を生きさせて欲しいな」
お姉ちゃんはそう言って、ご飯も食べずに2階の自室へと入っていってしまった。
私は1人、玄関先で1人泣き続ける事しか出来なかった。