その日の授業が全て終わり、下校時間となる。
今日はみんな予定がある様で、遊びに行く用事もない。けれど、真っ直ぐ家に帰る気にもならない。
とりあえず駅前で時間でも潰そうかと思った時、廊下で後ろから声を掛けられる。
「茜!」
「お、玲くん」
声の主は玲くん、昨日一緒に学校サボった子だ。
「昨日はありがとね。ファミレス代だけど半分払うよ」
「良いって、あのくらい。代わりに勉強も教えてもらったし」
「いや、でも女の子に払って貰う訳にはいかないからさ」
玲くんはそう言って鞄から財布を取り出し、千円札2枚を私に手渡してくる。
お金の事なんて私は気にしていなかったが、こうしてわざわざ支払ってくれる姿を見ると、その優しさに惹かれてしまう。
「……え、ありがと」
「またさ、テスト近くなったら一緒に勉強しない?」
「……うん、もちろん」
こうして玲くんと話しているだけで嬉しいし、温かい気持ちになる。きっと、これが人を好きになるって事なんだろう。
生まれてから初めての感情に、私は戸惑いつつも喜びを感じていた。